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神経眼科

先天性外眼筋線維化症(CFEOM)

先天性外眼筋線維化症(congenital fibrosis of the extraocular muscles: CFEOM)は、先天性で両側性の非進行性外眼筋麻痺による斜視と眼瞼下垂を主症状とする疾患である。かつてはgeneral fibrosis症候群と呼ばれていた。先天性頭蓋神経異常支配疾患(congenital cranial dysinnervation disorders: CCDDs)の一つに位置づけられる。

有病率は約1/230,000〜1/250,000と極めてまれである。CFEOM1は多様な民族集団で報告されており、米国および西洋諸国で最も頻度が高い。CFEOM2はトルコ、サウジアラビア、イラン系の家系で多く報告されている。

CFEOMは臨床像と遺伝子型に基づきCFEOM1〜5の亜型に分類される。いずれの亜型も外眼筋の線維化に起因する眼球運動制限を共通の特徴とする。

Q CFEOMはどのくらい珍しい病気ですか?
A

有病率は約1/230,000〜1/250,000と推定されている。眼球運動障害を引き起こす先天性疾患の中でもまれな疾患である。

CFEOMの主な自覚症状は以下のとおりである。

  • 眼瞼下垂:片眼性または両眼性にまぶたが下がる。視野の上方が遮られる。
  • 代償性頭位:眼瞼下垂と上転制限を補うために顎を上げた姿勢をとる。頸部痛の原因となることがある。
  • 視力低下:形態覚遮断弱視や屈折異常性弱視により、全般的な視力不良を呈することがある。

乳幼児では自覚症状の訴えが困難であるため、保護者が顎上げの姿勢や眼位の異常に気づいて受診することが多い。

CFEOMの臨床所見は亜型により異なる。3つの主要亜型の比較を以下に示す。

CFEOM1

眼瞼下垂:両眼性。常に認められる。

眼球運動:水平中央線以上に上転不可。下転位に固定されることが多い。水平運動は正常〜中等度制限。

眼位:正位・内斜視外斜視と多様。

瞳孔:瞳孔径・対光反射ともに正常。

牽引試験:陽性。

CFEOM2

眼瞼下垂:両眼性。CFEOM1と同様に認められる。

眼球運動:垂直・水平ともにCFEOM1より強い制限。下転位固定も重篤。

眼位:外斜視を伴うことが多い。

瞳孔:瞳孔径が小さく、対光反射が遅延する。CFEOM1との重要な鑑別点である。

牽引試験:強陽性。

CFEOM3

眼瞼下垂:両眼性または片眼性。合併しない例もある。

眼球運動:垂直制限はあるが水平中央線を超えて上転可能。水平制限は認めないことが多い。

眼位:正位または外斜視。

瞳孔:瞳孔径・対光反射ともに正常。

牽引試験:上方方向のみ陽性。

CFEOM1・CFEOM2では眼球運動制限が強いため、異常輻湊運動や、まれにMarcus Gunn下顎瞬目現象を伴うことがある。強度の屈折異常(特に乱視)も高頻度に認められ、屈折異常性弱視の合併に注意が必要である。

その他の眼所見として、視神経形成不全や神経節細胞層・視細胞層の菲薄化が報告されている。

Q CFEOM1とCFEOM2はどう見分けますか?
A

最大の鑑別点は瞳孔所見である。CFEOM1では瞳孔径・対光反射ともに正常であるのに対し、CFEOM2では瞳孔径が小さく対光反射が遅延する。また、CFEOM2は眼球運動制限がより強く、外斜視を伴いやすい。

CFEOMは外眼筋の支配神経である動眼神経核や滑車神経核の発達異常によって、外眼筋が線維化して発症する。原因遺伝子と遺伝形式は亜型ごとに異なる。

各亜型と関連遺伝子の対応を以下に示す。

亜型遺伝形式主な原因遺伝子
CFEOM1常染色体優性KIF21A(12q12)
CFEOM2常染色体劣性PHOX2A(11q13)
CFEOM3常染色体優性TUBB3(16q24)
CFEOM4常染色体劣性不明(21番染色体)
CFEOM5常染色体劣性COL25A1

CFEOM3では稀にTUBA1A、TUBB2B、KIF21Aの変異も報告されている。また、家族歴のない孤発例も存在する。

CFEOM3は眼運動障害のみを呈する孤立型と、多彩な神経学的異常を伴う症候群型がある。症候群型では変異の種類に応じて、知的障害、顔面神経麻痺、末梢神経障害、Kallmann症候群、脳梁低形成、基底核形成異常などを合併する。CFEOM4(Tukel症候群)では軸後性乏指症や乏合指症などの四肢異常を伴う。

Q CFEOMは遺伝しますか?
A

多くの場合、常染色体優性または常染色体劣性の形式で遺伝する。ただし家族歴のない孤発例も報告されており、遺伝歴がなくても発症する可能性がある。

CFEOMの診断は主に臨床所見に基づいて行われる。確定診断と亜型の同定には遺伝子検査が有用である。

  • 出生前・周産期の発達歴:在胎週数、分娩時の異常の有無を確認する。
  • 発達歴:発達遅滞はCFEOM3を示唆する重要な手がかりである。
  • 家族歴:遺伝形式の推定に寄与する。
  • 視力検査:年齢に応じた方法で評価する。
  • 異常頭位の評価:顎上げの有無と角度を記録する。
  • 上眼瞼挙筋機能:LPS機能の評価を行う。
  • 眼位検査:第一眼位での正位・斜視の有無を確認する。
  • 眼球運動検査:単眼運動および両眼同向運動を評価する。
  • 調節麻痺下屈折検査:強度の乱視やその他の屈折異常を検出する。
  • 散瞳眼底検査:視神経形成不全の有無を確認する。

MRIまたはCTにより外眼筋の萎縮を確認する。MRIでは動眼神経・滑車神経の形成不全や誤走行を描出できることがある。

以下の2つの方法がある。

  • マルチジーンパネル:KIF21A、PHOX2A、TUBB3、TUBB2B、TUBA1A、COL25A1を含むパネルで標的解析を行う。
  • エクソーム解析・ゲノム解析:原因遺伝子が不明な場合の網羅的解析として用いる。

CFEOMの鑑別診断として以下の疾患を考慮する。

  • Brown症候群:上斜筋腱鞘の異常による上転制限。
  • Duane症候群:外転神経の発達異常による内転・外転制限。
  • Mobius症候群:顔面神経と外転神経の先天性麻痺。
  • 先天性動眼神経麻痺:片眼性のことが多い。
  • 進行性外眼筋麻痺(CPEO):進行性である点がCFEOMと異なる。
  • 先天性筋無力症候群:神経筋接合部の異常による易疲労性を伴う。

CFEOMに対する根治的治療は存在しない。治療の目標は、代償性頭位の改善、弱視の予防・治療、および整容面の改善である。

  • 屈折矯正:強度の乱視を含む屈折異常の綿密なモニタリングと眼鏡処方を行う。斜視手術や眼瞼下垂手術後に屈折異常が大きく変化する可能性がある。
  • 弱視治療:形態覚遮断弱視や屈折異常性弱視を合併することが多く、早期介入が重要である。

手術適応は以下のとおりである。

  • 許容できない程度の代償性異常頭位
  • 弱視の原因となる、または日常生活に支障をきたす斜視
  • 整容的に許容できない眼位異常

手術上の注意点を以下に示す。

  • 下直筋後転術:下転位固定に対する主要術式である。通常の後転量では眼位改善が得にくく、調節糸法を併用した12mmまでの大幅な後転が有効とされる。
  • 下眼瞼後退のリスク:下直筋の5mmを超える後転では下眼瞼後退を合併する。
  • 内直筋後転術:内斜視に対しては患側眼の内直筋後転術を行う。
  • 牽引試験:手術開始時および術中に繰り返し実施する。筋肉を眼球から切り離した後でも制限が残ることがある。
  • ハングバック縫合:拮抗筋の対抗力が欠如している場合は有効でない。
  • 結膜後転・眼窩壁牽引縫合:大幅な後転後も制限が残る場合に考慮する。

斜視手術を先行させ、段階的に矯正を行う。上眼瞼挙筋の形成不全のため、挙筋短縮術では十分な効果が得られないことが多く、前頭筋吊り上げ術が必要となる場合がある。

Q 手術で眼球運動は完全に回復しますか?
A

外眼筋の完全な機能回復は得られない。手術の目的は代償性頭位の軽減と整容面の改善であり、通常の手術量決定チャートが適用できないため、個々の症例に応じた術式の工夫が必要となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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CFEOMの病態理解は歴史的に二つの仮説を経て発展してきた。

初期の研究では、CFEOMは外眼筋の一次性ミオパチーに起因すると考えられていた。外眼筋の線維化が原発性の変化であるとする立場である。

現在は、外眼筋の線維化は脳神経の先天的な異常に続発する二次的変化であると広く認められている。剖検および高解像度MRI研究により、罹患患者において眼窩運動神経(第III・IV・VI脳神経)の先天的欠損、形成不全、および対応する外眼筋への誤走行が証明された。

各遺伝子変異による病態機序は以下のとおりである。

  • KIF21A(CFEOM1):キネシン-4ファミリーに属するモータータンパク質をコードする。正常ではKIF21Aは自己抑制機構を有するが、変異によりこの自己抑制が解除される。その結果、タンパク質の過活性が生じ、動眼神経上枝の軸索誘導が障害される。MRIでは上直筋と上眼瞼挙筋の著明な低形成、および眼窩内の全運動神経の低形成と誤走行が認められる。マウスモデルでは、遠位動眼神経の菲薄化と軸索停滞部位での成長円錐の肥大が観察されている。
  • PHOX2A(CFEOM2):ホメオドメイン転写因子をコードする。中脳-後脳境界部における運動ニューロンの特定に必要であり、機能喪失変異により第III・IV脳神経とその運動核が先天的に欠損する。
  • TUBB3/TUBB2B(CFEOM3):微小管を構成するβチューブリンモノマーをコードする。変異により微小管の動態が変化し、キネシンの結合が低下する。その結果、軸索誘導シグナルへの応答が障害され、動眼神経の低形成と誤走行が生じる。変異部位により表現型が大きく異なり、遺伝子型-表現型の精緻な相関が存在する。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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CFEOMの分子メカニズムの解明に向けた基礎研究が進行中である。

酵母モデルを用いた研究では、CFEOM原因変異をβチューブリンに導入すると微小管機能が障害され、脱重合に対する耐性が生じることが示されている。変異の種類により微小管動態への影響は異なり、安定化(A302T、R62Q、R380Cなど)と脱安定化の両方のパターンが報告されている。

キネシン-微小管界面の工学的改変により、CFEOM原因変異による軸索成長障害を回復させる試みも報告されている。また、TUBB3は正常な神経機能には必須ではないが、軸索再生には不可欠であることが明らかとなっており、将来的な神経再生療法への応用が期待される。


  • Whitman MC. Axon Abnormalities Underlying Congenital Cranial Dysinnervation Disorders. Annu Rev Vis Sci.

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