この疾患の要点
ADOAは最も頻度の高い遺伝性視神経 症であり、有病率は1:12,000〜1:50,000と推定される。
原因の60%以上はOPA1遺伝子変異(染色体3q28-q29)であり、500以上の病原性変異が同定されている。
小児期〜20代に発症することが多いが、緩徐進行のため自覚が遅れやすい。
典型所見は耳側を中心とした楔状視神経乳頭蒼白と、blue-on-yellow視野検査 での感度低下である。
確立された有効な治療法はなく、ロービジョンケア と遺伝カウンセリング が治療の主体となる。
浸透率は家系により43〜100%と幅があり、中年期まで良好な視機能を維持する症例もある。
遺伝子治療 ・アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)療法が前臨床研究段階にある。
常染色体優性視神経萎縮症(Autosomal Dominant Optic Atrophy; ADOA)は、両眼性の進行性視神経萎縮 を特徴とする遺伝性視神経症である。OMIM番号は165500。最も頻度の高い遺伝性視神経症であり、有病率は1:12,000〜1:50,000と推定される2) 。
遺伝性視神経症は大きく、核遺伝子・メンデル遺伝形式のADOAと、ミトコンドリアDNA変異・母系遺伝のLeber遺伝性視神経症(LHON )に分けられる。常染色体劣性遺伝 形式の視神経萎縮にはWolfram症候群がある。ADOAとLHONはともにミトコンドリア機能障害による網膜神経節細胞 (RGC)変性を共通の病態とするが、臨床像と遺伝的原因は異なる7) 。
Q 常染色体優性視神経萎縮症はどのくらいの頻度でみられるか?
A 有病率は1:12,000〜1:50,000と推定され、遺伝性視神経症の中で最も頻度が高い2) 。英国における遺伝性視神経症全体の有病率は約1:25,000と報告されている7) 。
典型的発症は人生の第1〜第2デケイドである。進行が緩徐なため、多くの患者は正確な発症時期を特定できない。
視力 低下 :両側性・対称性で緩徐・潜行性の経過をとる。
発見の契機 :学童期に両眼視力発達障害として発見されることが多い。自覚症状に乏しく、検診で偶然発見される場合もある。
視力の程度 :80%以上の患者が20/200(0.1)以上の視力を維持するが、矯正視力0.1以下となる症例もある。
浸透率 :家系により43〜100%と幅がある2) 。中年期まで比較的良好な視機能(最高矯正視力〈BCVA〉0.6〜1.0)を維持する症例もある2) 。
性差なし :発症に性差は認めない。
Q 視力が良好でもADOAの可能性はあるか?
A ある。Tachibanaら(2025)の報告では、56歳時点で最高矯正視力 0.8/0.6を維持した症例でOPA1の新規変異が同定された2) 。浸透率は43〜100%と幅があり、無症状保因者でもOCT のみで異常が検出されることがある。
視神経乳頭 ・色覚 ・視野 の三つが主要な所見である。
視神経乳頭 :耳側を中心とした楔状蒼白(temporal pallor)が典型。びまん性萎縮も見られる。
色覚異常 :後天性第三色覚異常(tritanopia)を呈することがある。
視野欠損 :中心暗点 ・乳頭中心暗点・傍中心暗点が最も一般的。ほとんど異常のない症例もある。
blue-on-yellow視野 :通常の白色刺激の自動視野よりも感度低下を検出しやすい2) 。
光干渉断層計(OCT) :乳頭黄斑 線維束を主体とした網膜 内層の菲薄化。網膜神経線維層 (RNFL)耳側菲薄化が特徴的。microcystic macular edema(MME)を認めることがある。
電気生理学 :VEP は振幅低下・潜時延長。パターン網膜電図 (pERG)ではN95成分の低下を認める。
ADOAには視神経萎縮以外の全身異常を伴うDOAプラス(DOA plus)表現型がある。患者の20〜30%が難聴・末梢神経障害・ミオパチー・運動失調・慢性進行性外眼筋麻痺 (CPEO)などを合併する3) 。
典型型(DOA)
症状 :両眼性緩徐進行性視力低下。
乳頭所見 :耳側楔状蒼白が中心的所見。
全身症状 :視神経萎縮のみ。
視力 :80%以上が0.1以上を維持。
DOAプラス
頻度 :患者の20〜30%に出現3) 。
合併症 :難聴・末梢神経障害・ミオパチー・運動失調・CPEOなど。
重症型 :biallelic OPA1変異ではBehr症候群(早期発症・重度視力障害・運動失調・痙攣)を呈する3) 。
ADOAの60%以上はOPA1遺伝子変異が原因である7) 。OPA1は染色体3q28-q29に位置し、500以上の病原性変異が同定されている7) 。日本ではc.2708_2711 delTTAGが高頻度変異として知られる。
ハプロ不全 :大部分のOPA1変異は翻訳の早期終結を引き起こし、OPA1タンパク質量が不足する7) 。
不完全浸透 :診断・予後予測・遺伝カウンセリングを複雑にする7) 。
de novo変異 :高率で生じるため、家族歴がなくても診断を除外できない1) 。
OPA1陰性例では他の遺伝子変異を検索する必要がある。主な原因遺伝子を以下に示す。
遺伝子 関連疾患 備考 OPA1 ADOA(典型型・DOAプラス) 全体の60%超7) AFG3L2 視神経萎縮12型(OAT12)、SCA28 遺伝性視神経症の約3%1) OPA3 優性視神経萎縮+白内障 ・難聴(Costeff症候群) OMIM #258501 WFS1 Wolfram症候群様 OMIM #222370, #614296 DNM1L 視神経萎縮5型(OPA5) ミトコンドリア分裂制御
Brodsky ら(2023)は、東アフリカ(ソマリ)系の父娘にAFG3L2遺伝子 c.1064C>T(p.Thr355Met)変異による視神経萎縮12型を同定した1) 。2186例のコホート研究では、遺伝性視神経症の原因遺伝子top 10にAFG3L2が含まれ、451例中14例(3%)を占めた。
Q OPA1遺伝子以外にも原因遺伝子はあるか?
A ある。AFG3L2、OPA3、WFS1、DNM1L(OPA5)など複数の遺伝子が同定されている。特にAFG3L2は遺伝性視神経症の約3%を占め1) 、OPA1が陰性の場合にはエクソーム/ゲノムシーケンシングによる網羅的検索が重要である。
学童期に発見される両眼性の原因不明の視力発達障害をみたら本症を疑う。同様の症状の家族歴が重要な手がかりだが、不完全浸透のため家族歴がない場合もある。
Farnsworth-Munsell 100 hue テスト :第三色覚異常(tritanopia)軸を示す。
blue-on-yellow自動視野検査 :白色刺激の通常視野より感度低下を検出しやすい2) 。
OCT :耳側・下側象限優位なRNFL菲薄化を評価する。無症状保因者でもOCTのみで異常が検出されることがある。
Tachibanaら(2025)の56歳男性症例では、HFA 24-2白色刺激視野は正常だったがblue-on-yellow視野で感度低下を検出した2) 。OCTで耳側RNFL菲薄化、CF Fは30/31 Hz(正常>39 Hz)と低下を示した。
OPA1遺伝子検査 :確定診断に必要。外注検査はまだ普及しておらず基幹施設への委託が必要。
エクソーム/ゲノムシーケンシング :OPA1陰性例ではAFG3L2を含む他の遺伝子の検索が重要。再解析により新たな診断が得られる場合がある1) 。
電気生理学的検査 :VEP(振幅低下・潜時延長)、pERG(N95低下)、CFF低下を認める。
OCTA :黄斑および乳頭周囲の神経血管変化の評価に有用。
疾患 発症様式 遺伝形式 鑑別ポイント LHON 急性〜亜急性 母系遺伝 若年男性好発、重篤 ADOA 緩徐・潜行性 常染色体優性 小児期、両眼対称性 緑内障 緩徐 多因子 眼圧 上昇、乳頭陥凹拡大圧迫性視神経症 緩徐〜亜急性 非遺伝性 MRIで視交叉 部病変
その他の鑑別:中毒性視神経症(タバコ・エタンブトール等)、栄養欠乏性弱視 、脱髄疾患 、黄斑ジストロフィー、錐体ジストロフィー、心因性視覚障害。
確立された有効な治療法はない。ロービジョンケアと患者カウンセリングが治療の主体となる。
定期モニタリング :年1回を推奨。視力・視野・色覚・外眼筋 ・聴覚を評価する。
屈折 矯正 :屈折異常の最適な矯正と眼鏡コンプライアンス管理。
視覚リハビリテーション :拡大鏡・text-to-speech等のアシスティブデバイスを活用する3) 。
酸化ストレス 軽減を目的として以下が提案されているが、いずれも標準治療として確立されていない。
イデベノン :コエンザイムQ10(CoQ10)の合成類似体。電子伝達鎖の複合体Iをバイパスしてミトコンドリア呼吸を改善する7) 。OPA1変異ADOA患者での視力安定化・回復の可能性を高めるとの報告がある4) 5) 。
CoQ10・ビタミンB12・C・ルテイン :抗酸化サプリメントとして提案されている。
常染色体優性遺伝であることの説明と、biallelic変異による重症化(Behr症候群)リスクの情報提供が重要である3) 。
Q ADOAに有効な治療法はあるか?
A 現時点で確立された有効な治療法はない。ロービジョンケアが治療の主体となる。イデベノンは視力安定化・回復の可能性を示す報告があるが4) 5) 、標準治療として確立されてはいない。研究段階の治療アプローチについては「最新の研究と今後の展望」の項 を参照。
OPA1はミトコンドリア内膜に存在するダイナミン関連GTPaseである。核内で合成後ミトコンドリアに輸送され、以下の機能を担う7) 。
内膜融合 :ミトコンドリアネットワークの維持
クリステ構造の維持 :呼吸鎖複合体の安定化
電子伝達複合体の構成 :酸化的リン酸化の効率化
Ca²⁺恒常性の制御
アポトーシス 抑制
主要な病態メカニズムはハプロ不全である。OPA1変異の大部分は翻訳の早期終結を引き起こし、OPA1タンパク質量が不足する7) 。
OPA1タンパク質減少 → ミトコンドリア断片化増加・リサイクリング亢進3) → ミトコンドリア代謝異常・酸化リン酸化障害 → 活性酸素種(ROS)上昇 → RGCのアポトーシス。
主に乳頭黄斑線維束のRGCが変性し、耳側視神経萎縮として現れる。
AFG3L2はミトコンドリアマトリックスAAAメタロプロテアーゼ(m-AAA)のサブユニットをコードする1) 。SPG7(paraplegin)と複合体を形成し、ミトコンドリアタンパク質の加工・成熟・品質管理をATP依存的に行う。変異によりOPA1と同様にRGC変性を引き起こす1) 。
ASO療法
標的 :OPA1 pre-mRNAのNMD(ナンセンス依存分解)誘導エクソン。
機序 :NMDを誘導するエクソンの取り込みを阻害し、野生型OPA1翻訳を増強する変異非依存的アプローチ7) 。
現状 :3つのADOA患者由来細胞株でOPA1タンパク質増産とミトコンドリアバイオエネルギクス改善を確認7) 。硝子体内注射 による定期的反復投与が必要で、眼内炎 ・慢性ぶどう膜炎 リスクが課題。
遺伝子治療
マウスモデル :OPA1遺伝子治療がDOAマウスモデルでRGC喪失を予防8) 。
アイソフォーム最適化 :最適化OPA1アイソフォーム1・7がミトコンドリア機能障害モデルで治療効果を示す9) 。
現状 :前臨床段階。
遺伝子編集
CRISPR-Cas9 :OPA1 c.1334G>A: p.R445H変異のiPSCでの補正がミトコンドリア恒常性を回復10) 。
トランススプライシング :mRNAレベルでの病原性変異修正アプローチも研究中7) 。
幹細胞 :iPSC由来RGCによる視神経再生が前臨床研究で検討中7) 。
エクソームシーケンシングの反復的再解析も診断上重要な進歩である。遺伝学的知識の拡大に伴い、以前の検査では陰性だったデータから新たな診断が得られる場合がある1) 。
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