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神経眼科

急性特発性盲点拡大(AIBSE)症候群

1. 急性特発性盲点拡大(AIBSE)症候群とは

Section titled “1. 急性特発性盲点拡大(AIBSE)症候群とは”

急性特発性盲点拡大(Acute Idiopathic Blind Spot Enlargement: AIBSE)症候群は、1988年にFletcherらが初めて報告した潜在性の乳頭周囲網膜症である。最初の報告では、光視症を伴い、眼底検査が正常であるにもかかわらず、盲点を中心とした急峻な境界を持つ暗点を呈する7症例が紹介された。

AIBSEはAZOOR(急性帯状潜在性外層網膜症)スペクトラムの一疾患に分類される。このスペクトラムには、MEWDS(多発消失性白点症候群)、AMN(急性黄斑神経網膜症)、PIC(点状内層脈絡膜症)、POHS(推定眼ヒストプラズマ症症候群)、MCP(多巣性脈絡膜炎と汎ぶどう膜炎)も含まれる。また、原発性炎症性脈絡膜毛細血管板症(PICCP)の一つとしても位置づけられる。

AZOORについて眼科学第3版では「若年女性の近視眼に好発し、片眼あるいは両眼に光視症を伴う急性の視力低下や視野欠損を主症状とする原因不明の網膜外層障害」と記述されており、AIBSEはこのスペクトラムの一部に相当する。

  • 発症年齢:10〜57歳(平均20代)
  • 性差:女性に多い(男性も罹患する)
  • 人種:白人に多い傾向がある
  • 屈折:中等度〜強度近視の患者で発生率が高い

AIBSEはMEWDSとの関係が議論されており、MEWDSの後期症状である可能性も指摘されている。しかし、乳頭周囲網膜に限局する傾向がMEWDSや他のPICCPとの区別点と考えられている1)

Q AIBSEはMEWDSやAZOORとどう違うのか?
A

AIBSEはAZOORスペクトラムの一つであり、MEWDSと重複する概念とも捉えられる。ただし、乳頭周囲網膜の機能不全に限局する傾向が強く、白点を呈しない点や、AZOORのような進行性の視野悪化・網膜電図悪化を示さない点が区別の手掛かりとなる。診断は依然として議論が続いている1)2)

  • 急性発症の暗点:盲点を中心とした急峻な境界を持つ暗点が片眼性に出現する。
  • 光視症:最も一般的な陽性視覚現象。暗点内での渦巻き状の動き、色のついた光、「フラッシュの残像」のような感覚が報告される。
  • 羞明:光過敏(photophobia)を訴える症例が多い。
  • 視力低下:かすみ、暗い部分や欠損した視界の自覚、「膜を通して見ているような」感覚として現れる。
  • 両眼性への進展:初期は片眼性だが、対側眼に盲点拡大・光視症が後発することがある2)

眼底所見やフルオレセイン蛍光眼底造影では異常を示さないことが多く、視神経炎などと誤診されやすい。眼科学第3版でも「視神経炎など誤って診断されることが多い」と記述されている。

主な所見を以下に示す。

  • 視野検査:盲点の拡大(急峻な境界)。片側性または両側性に認められる。
  • 眼底検査:多くは正常。軽度の乳頭浮腫・乳頭充血を呈することがある。
  • RAPD(相対的瞳孔不同:変動あり。乳頭周囲網膜の障害を反映する。
  • 色覚異常:dyschromatopsia(色覚の質的異常)が認められることがある。
  • 眼内所見:一部の症例では眼内炎症、非特異的なRPE変化、乳頭周囲の網膜下灰白色変化、乳頭周囲血管変化が観察される。

Ishiharaら(2023)の39歳女性症例では、左眼に1+硝子体細胞・0.5+硝子体混濁・軽度乳頭浮腫・血管周囲鞘形成が確認された。蛍光眼底造影では中等度のびまん性血管炎と乳頭漏出が明らかとなり、retinal vasculitisを合併したAIBSEとして初報告された2)

AIBSE症候群の病因は依然として不明である。

  • 免疫学的トリガー:ウイルス性疾患(インフルエンザなど)やワクチン接種(MMRワクチンなど)が誘因となる可能性が指摘されている。
  • 先行感染:Gunasagaranら(2022)の症例では、発症3週間前に軽度呼吸器疾患が先行していた1)。MEWDSでも感冒様症状の先行が知られている。

リスク因子は以下の通りである。

  • 若年女性
  • 白人
  • 中等度〜強度近視

眼科学第3版では、AZOORについて「しばしば自己免疫性疾患を合併することが知られており、橋本病や多発性硬化症などが報告されている」と記述されており、AIBSEを含むAZOORスペクトラムではこれらの合併に留意する必要がある。

Q 風邪をひいた後にAIBSEを発症することはあるのか?
A

ウイルス性疾患がAIBSEの免疫学的トリガーとなる可能性が指摘されており、症例報告でも発症前の呼吸器疾患の先行が記録されている1)。ただし、先行感染のない症例も多く、因果関係は確立されていない。

診断は複数の検査モダリティを組み合わせて行う。視野異常のある眼底正常症例では、視神経炎との鑑別が特に重要である。

機能的検査

自動視野検査(HVF):診断の柱。盲点の拡大(急峻な境界を持つ暗点)を確認する。

多局所網膜電図(mERG):盲点拡大に対応した中心窩周囲の波形低下が診断に有用。眼科学第3版でも「多局所網膜電図での視野異常に一致した振幅低下が診断に有用」と記載されている。視野の障害部位に一致したmERGの減弱は診断の決め手となる。

全視野網膜電図(ff-ERG):振幅が低下することがある。Ishiharaら(2023)の症例では、ff-網膜電図で両眼のa波振幅低下が確認された2)

画像検査

OCT:急性期にエリプソイドゾーン(EZ)・インターディジテーションゾーン(IZ)の規則性消失、外境界膜(ELM)の一時的不連続性が認められる。軽症例や回復期ではIZのみが異常になることもある。

OCTA(光干渉断層血管撮影):脈絡膜毛細血管板の粗大化(coarsening)が報告されており、診断補助として有用1)

FAF(眼底自発蛍光):乳頭周囲の自発蛍光増強が観察される。

FFA:通常正常。乳頭周囲の点状深層蛍光漏出がみられることがある。

ICGA視神経乳頭・血管弓周囲に複数の低蛍光斑が認められることがある。

以下の疾患との鑑別が必要である。

  • MEWDS・AZOOR・AMN・MCP・PIC・POHS・急性後部多発性斑状色素上皮症:AZOORスペクトラムの疾患群。
  • 視神経炎:眼底正常で視野異常を呈するため最も誤診しやすい。MRIが陰性であること、mERG所見が視神経炎と異なることが鑑別に役立つ。
  • 感染症・全身性血管炎:除外検査として、梅毒・ライム病・結核・サルコイドーシス(ACE・リゾチーム)・SLE・ANCA関連血管炎のスクリーニングが推奨される1)2)
Q 視神経炎との鑑別はどうすればよいのか?
A

AIBSEでは眼底所見が正常であることが多く、MRI所見も陰性のため視神経炎との鑑別が困難な場合がある。mERGで視野異常に対応した乳頭周囲の振幅低下が確認されれば、視神経炎よりも外層網膜障害を示唆し、AIBSEの診断根拠となる。眼科学第3版でも「眼底所見では説明できない視野異常のときは、鑑別診断にAZOORの可能性を考え、必要なら精査を行うことが重要」と記述されている。

確立された治療法はない。眼科学第3版でも「確立された治療法はない」と明記されている。

AIBSE症候群は自然寛解する疾患であり、回復には数ヶ月を要する。視野異常は自然回復することもあるが、視力予後が不良な症例も存在する。

重症例には副腎皮質ステロイドが用いられることがあるが、回復が自然回復によるものかステロイドの効果によるものかは不明である。

  • Gunasagaranら(2022)の症例:経口プレドニゾロン60 mg/日で開始したが、2週間で副作用のため自己中止。その後、自然に視力が回復した(5ヶ月後に視力 6/6)1)
  • Ishiharaら(2023)の症例:経口ステロイド60 mg/日を開始し改善したが、自己中止後に再燃。その後、高用量IV pulseステロイド療法3サイクルで再度改善した2)
  • 遮光眼鏡・フィルター:羞明に対して有用。
  • 近視矯正:近視眼への適切な矯正を行う。
  • 4週間後:陽性視覚症状や乳頭周囲暗点の大部分が消失。
  • 3〜4ヶ月後:ELM・EZの連続性改善とともに視野が顕著に改善。
  • 盲点拡大は通常、正常には戻らず、乳頭周囲瘢痕が残ることがある。
  • 一部の患者で光視症や視覚欠損が残存。稀に再発する。
  • 長期経過でびまん性または区域性の網脈絡膜萎縮をきたす症例も報告されている。
Q ステロイドはAIBSEに効果があるのか?
A

確立されたエビデンスはなく、自然回復との区別が困難である。ただし、Ishiharaら(2023)の網膜血管炎合併症例ではステロイドへの反応性が確認されており、炎症が強い症例では検討の余地がある2)。一般的には無治療で経過観察されることが多い。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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AIBSEを含む炎症性脈絡膜毛細血管板炎(choriocapillaritis)の病態については、2つの仮説が提唱されている。

仮説1:一次性脈絡膜毛細血管板炎

一次性脈絡膜毛細血管板炎が原発病変であり、二次的に視細胞(光受容体)が障害される機序。

OCTA所見(脈絡膜毛細血管板の低灌流・粗大化)がこの仮説を支持する。急性後部多発性斑状色素上皮症や関連疾患でも、活動性病変において脈絡膜毛細血管板の著明な低灌流が確認されている1)

仮説2:一次性光受容体炎

**一次性光受容体炎(photoreceptoritis)**によって視細胞外節の萎縮が起こる機序。

この仮説では脈絡膜毛細血管板の変化は二次的なものと位置づけられる1)

  1. 急性炎症期:乳頭周囲の脈絡膜毛細血管板の炎症が生じ、2週間以内に軽微な眼底変化が出現する。
  2. 炎症退行期:急性の脈絡膜毛細血管板炎が徐々に減衰する。
  3. 慢性期:病変が形成されることがある。
  4. 回復期:3〜4ヶ月後にOCTで確認された変化が消失し、視力が改善する。

AZOORスペクトラムについて眼科学第3版では、「しばしば自己免疫性疾患を合併することが知られており、橋本病や多発性硬化症などが報告されている」と記述されており、自己免疫機序の関与が示唆されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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OCTAによる脈絡膜毛細血管板評価

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Gunasagaranら(2022)は、AIBSE疑いの31歳女性において、en-face OCTAで患眼の脈絡膜毛細血管板に「粗大化(coarsening)」を初めて客観的に記述した1)。健眼との非対称性として確認されたこの所見は、脈絡膜毛細血管板炎の仮説を支持するものである。スペインのMoll-Udinaら(2020)もOCTA上で脈絡膜毛細血管板層に明瞭な低灌流巣を報告している。

電気生理検査へのアクセスが制限されるCOVID-19パンデミック下において、OCTAが診断の代替ツールとして有用であった経験も報告されている1)

Ishiharaら(2023)は、網膜血管炎を合併したAIBSE症例を初報告した2)。39歳女性で、右眼への初発から約1年後に左眼に盲点拡大・光視症が新たに出現した。ステロイドへの反応性(盲点縮小・血管炎改善)と、中止後の再燃→IV pulseステロイド療法再開後の再改善という経過は、AIBSEとして異例であった。著者らは定期的なモニタリングの重要性を強調している。

Q OCTAはAIBSEの診断にどのように役立つのか?
A

OCTAはen-face画像で脈絡膜毛細血管板の粗大化・低灌流を可視化できる。多局所網膜電図など電気生理検査が施行困難な状況でも、脈絡膜毛細血管板炎の根拠として診断を補助できる可能性がある1)。ただし、現時点では診断基準には含まれていない。


  1. Gunasagaran HL, Waldie A, Xiao W, Moore P. Coarsening of choriocapillaris on optical coherence tomography angiography as a sign of acute idiopathic blind spot enlargement. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;26:101558.

  2. Ishihara R, Khan Y, Halim MS, Akhavanrezayat A, Onghanseng N, Levin MH, Nguyen QD. Acute idiopathic blind spot enlargement syndrome (AIBSES) with retinal vasculitis. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023;29:101760.

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