コンテンツにスキップ
緑内障

ぶどう膜炎続発緑内障

ぶどう膜炎続発緑内障(Uveitic Glaucoma; UG)は、ぶどう膜炎に伴う持続性・反復性の眼圧上昇により緑内障性視神経症および視野欠損を生じる疾患である。

1813年にJoseph Beerが「arthritic iritis」としてぶどう膜炎と緑内障の関連を初めて報告した1)。1891年にはPriestley Smithが最初の近代的分類を発表した1)

ぶどう膜炎の発生率は人口10万人あたり17〜52.4例である2)。ぶどう膜炎患者における続発緑内障の発生率は10〜20%、慢性ぶどう膜炎では46%に達する1)2)非感染性ぶどう膜炎成人における眼圧21mmHg以上(OHT)の年間発生率は14.4%、眼圧30mmHg以上は5.1%/年である2)。前部ぶどう膜炎における永続的視力喪失の最多原因は緑内障であり、30.1%を占める2)

以下の疾患ではUGの発症リスクが特に高い。

  • Posner-Schlossman症候群(PSS):急性眼圧上昇が典型。患眼の隅角色素が少ない特徴がある。
  • ヘルペス性ぶどう膜炎(HSV角膜ぶどう膜炎):28%に眼圧上昇、10%に緑内障性損傷が生じ、眼圧上昇は平均2ヶ月持続する1)
  • Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎(FHIC):20〜40歳に好発し、典型的には片側性(13%は両側性)である1)。慢性眼圧上昇が特徴。
  • 若年性特発性関節炎(JIA):慢性炎症による慢性眼圧上昇が典型。
  • その他の慢性眼圧上昇を呈する疾患:Behçet病、pars planitis、交感性眼炎サルコイドーシス、梅毒。
  • 急性眼圧上昇を呈する疾患:PSS、HSV、VZV、CMV前部ぶどう膜炎。
Q ぶどう膜炎があると必ず緑内障になるのか?
A

ぶどう膜炎患者全員が緑内障になるわけではない。全体では10〜20%に続発緑内障が発生する。ただし慢性ぶどう膜炎では46%に達するため1)、定期的な眼圧測定と経過観察が不可欠である。

UGの自覚症状はぶどう膜炎と眼圧上昇の両方に起因する。

  • 霧視:炎症による前房混濁や角膜浮腫、眼圧上昇が原因となる1)
  • 眼痛・頭痛:急性眼圧上昇時に顕著。
  • 羞明(まぶしさ):ぶどう膜炎の炎症による光過敏1)
  • 虹視症:角膜浮腫により光の周囲に虹状の輪が見える。
  • 結膜充血:毛様充血を伴う。
  • 視野欠損:進行した視神経損傷で出現する。
  • 視力低下:視神経損傷や嚢胞様黄斑浮腫(CME)が原因1)2)
  • 角膜:角膜後面沈着物(KP。細かい/羊脂状)、帯状角膜変性(慢性例)、樹枝状病変(ヘルペス性)1)
  • 前房:フレア・細胞。強い炎症時にフィブリン・前房蓄膿
  • 虹彩:実質萎縮、虹彩結節(Koeppe結節/Busacca結節)、後癒着、周辺虹彩前癒着(PAS)、虹彩新生血管(NVI)1)。FHICではびまん性虹彩萎縮により虹彩異色を呈する。後癒着が全周に及ぶと瞳孔ブロックを生じ膨隆虹彩となる。
  • 隅角:PAS(テント状閉塞)、隅角結節、線維柱帯充血、新生血管。PSSでは患眼の隅角色素が少ない。
  • 水晶体:前嚢色素沈着、後嚢下白内障1)
  • 視神経:緑内障性陥凹拡大、網膜神経線維層(RNFL)欠損1)2)
  • 黄斑:嚢胞様黄斑浮腫(CME)。
  • 血管:血管鞘1)2)

眼圧は炎症の程度と機序により変動する。毛様体機能低下時は眼圧が低下し、房水流出障害時は上昇する。

UGでの眼圧上昇には、開放隅角・閉塞隅角いずれの機序も関与し、混合型もある1)2)隅角鏡検査による隅角観察が機序の推定に不可欠である(「診断と検査方法」の項参照)。

眼圧上昇の主な機序は以下の7つに分類される。

機序原因代表疾患
線維柱帯の目詰まり炎症細胞・タンパク急性前部ぶどう膜炎
線維柱帯炎炎症・線維化FHIC、HSV
隅角結節肉芽腫形成サルコイドーシス
周辺虹彩前癒着(PAS)慢性炎症・瘢痕若年性特発性関節炎、Behçet
ステロイド薬薬剤性眼圧上昇全原因
血管新生新生血管による閉塞重症慢性ぶどう膜炎
瞳孔ブロック虹彩後癒着全周重症前部ぶどう膜炎

ステロイドがUGの原因となりうる割合は最大42%である2)。ステロイド誘発性眼圧上昇のリスク因子には原発開放隅角緑内障(POAG)の既往、緑内障の家族歴、関節リウマチ(RA)、小児・高齢者、糖尿病が含まれる2)

フルオシノロンインプラントと全身療法の比較では、6.9年間の観察で緑内障発生率が40% vs 8%であり、インプラントで著しく高い2)。ステロイド緑内障との鑑別が治療方針決定に重要である1)

Q ステロイド点眼が緑内障の原因になることはあるか?
A

ある。UGの最大42%がステロイドに起因するとされる2)。特にフルオシノロンインプラントでは6.9年間の観察で40%が緑内障を発症した(全身療法では8%)2)。ステロイド使用中は定期的な眼圧測定が必須である。

UGの診断にはぶどう膜炎の診断と眼圧上昇の機序の解明が必要である。ステロイド緑内障との鑑別が特に重要な点である。

  • 細隙灯顕微鏡検査:KP・前房フレア/細胞・虹彩所見を評価する。活動性炎症の程度を把握する。
  • 隅角鏡検査:必須。PAS・隅角結節・新生血管を検出する1)2)。前房内の炎症が鎮静化していても、過去の炎症の痕跡(KP・PAS)を確認できる。
  • 眼底検査:視神経陥凹拡大・RNFL変化を評価する1)2)
  • OCT(光干渉断層計):RNFL・神経節細胞層(GCL)厚の経時測定。活動性ぶどう膜炎ではRNFL肥厚→偽陰性のリスクがあるため、炎症沈静期の測定が推奨される2)
  • OCTアンギオグラフィ:視神経乳頭・黄斑の血管密度低下の評価が可能(現在パイロット研究段階)2)
  • 前眼部OCT(AS-OCT):角膜厚・虹彩・毛様体・隅角の評価に使用する2)
  • 超音波生体顕微鏡(UBM):角膜混濁で前眼部の観察が困難な場合に有用である2)
  • HLA-B27:強直性脊椎炎を疑う場合。
  • RPR/VDRL:梅毒の除外。
  • QFT/PPD・胸部X線:結核の除外。
  • ACE・胸部CT:サルコイドーシスを疑う場合。

ステロイド投与歴があり、開放隅角、隅角異常なし、他に眼圧上昇の原因がない場合はステロイド緑内障を疑う1)。ステロイドを中止・減量して眼圧の変化を観察することが鑑別に有効である。

UGの治療では炎症制御が最優先事項であり、眼圧下降と並行して行う。

ぶどう膜炎の消炎治療が眼圧管理の根本となる。

  • ステロイド点眼:ベタメタゾン(リンデロン)点眼液0.1%などを炎症の程度に応じて使用する。
  • 散瞳点眼:後癒着の予防・解除のためトロピカミド・フェニレフリン合剤(ミドリンP)などを使用する。
  • 全身ステロイド:重症例ではプレドニゾロン内服を使用する。結膜下注射(デキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド)も選択肢となる。
  • フルオシノロンインプラント:全身療法と比較して緑内障発生率が著しく高い(40% vs 8%)ため、緑内障リスクの高い症例では慎重に適応を検討する2)
  • CMV陽性PSS:バルガンシクロビル/ガンシクロビルによる抗ウイルス治療でコントロールが改善する。早期(700日以内)の抗ウイルス治療開始で、後の緑内障手術の必要性が減少する2)

縮瞳薬(ピロカルピン)は後癒着促進・血液房水関門(BAB)破壊・炎症悪化のリスクがあり禁忌である1)。オミデネバグも炎症眼では慎重投与とされる。

薬剤分類代表薬注意点
β遮断薬チモロール、カルテオロール第一選択。全身副作用に注意
炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)ブリンゾラミド点眼、アセタゾラミド内服点眼・内服の選択
プロスタグランジン関連薬(PGA)ビマトプロスト、ラタノプロスト炎症悪化・CMEのリスクあり。安静眼では有用2)
Rho-kinase阻害薬リパスジル抗炎症作用も示唆2)
高浸透圧薬D-マンニトール(点滴)急性期の一時的な眼圧下降

PGAのうちビマトプロストはラタノプロストより炎症リスクが低いとされる2)。眼圧下降薬の順序は、β遮断薬・PGA・CAI点眼→CAI内服→D-マンニトール点滴の順に追加検討する。

  • Nd:YAGレーザー虹彩切開術(LPI):瞳孔ブロックに使用する。UGでは85日後に62%が機能不全となるため、2箇所以上の施行が推奨される2)
  • 選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT):炎症沈静期のステロイド誘発性緑内障に有望。高エネルギーSLTで65%の成功率が報告されている2)
  • レーザー線維柱帯形成術(ALT):UGには推奨されない。

UG患者の約30%が手術を要し、最大1/3が再手術となる2)。手術は原則として炎症沈静期に施行する。

線維柱帯切除術(TLE)

適応:薬物治療で眼圧コントロール不十分な症例。

特徴:マイトマイシンC(MMC)を併用する濾過手術(MMC-TLE)が標準。

成績:炎症沈静期のMMC-TLEは原発開放隅角緑内障と同等1)。成功率は12ヶ月91.7%、36ヶ月82.2%、120ヶ月66.5%2)

注意:術後の炎症再発が手術不成功の主因となる。

チューブシャント手術

種類:Ahmed緑内障弁(AGV)、Baerveldt緑内障インプラント(BGI)、Moltenoインプラント3)

AGV:眼圧11〜25.2mmHg減少。低眼圧リスクがTLEより少ない1)2)

BGI:5年74%のqualified success。角膜変性9%、低眼圧黄斑症11%2)

チューブ露出:7〜14.3%に発生4)。結膜修復が必要となる。

MIGS(低侵襲緑内障手術)

種類:GATT、Trabectome、KDB、XEN、PreserFlo2)

小児UG:隅角切開術(Goniotomy)が選択肢。1年100%、5年80%の成功率2)

XEN-45:12ヶ月79.2%の成功率2)

深層強膜切除術(Deep sclerectomy):overall 93.9%の成功率2)

  • 毛様体光凝固:他の手術が奏功しない最終手段。低眼圧19%、眼球癆のリスクがある2)
Q ぶどう膜炎続発緑内障に目薬のピロカルピンは使えるか?
A

使えない。ピロカルピン(縮瞳薬)はぶどう膜炎続発緑内障では禁忌である1)。後癒着を促進し、血液房水関門を破壊し、炎症をさらに悪化させるリスクがある。眼圧下降にはβ遮断薬やCAIが第一選択となる。

Q ぶどう膜炎続発緑内障の手術は何回必要になることがあるか?
A

UG患者の最大1/3が再手術を要する2)。術後の炎症再発が手術不成功の主因であり、炎症沈静期に手術を計画することが重要である。再手術ではチューブシャント手術が選択されることが多い。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

UGにおける眼圧上昇機序は、開放隅角型と閉塞隅角型に大別される。両者が混在する混合型も多い1)2)

開放隅角機序

線維柱帯の物理的閉塞:血液房水関門(BAB)破綻により炎症細胞・タンパクが前房に流入し、線維柱帯を閉塞する1)

線維柱帯炎(Trabeculitis):線維柱帯薄板・内皮細胞の腫脹により孔が狭小化する。慢性化すると不可逆的な瘢痕化を生じる1)。FHICで顕著に認められる。

Schlemm管崩壊:単核球浸潤によるtrabeculitisがSchlemm管を崩壊させ眼圧上昇を引き起こす1)

ステロイド誘発:線維柱帯細胞の細胞外マトリックス産生亢進・細胞骨格変化が流出抵抗を高める。

房水分泌亢進:PGE1・PGE2介在の房水分泌亢進とBAB破綻による房水粘稠度上昇も関与する1)

閉塞隅角機序

瞳孔ブロック:虹彩後癒着が全周に及ぶと瞳孔ブロックが生じ、膨隆虹彩を形成し、PASを生じて閉塞隅角となる1)

毛様体腫脹:炎症による毛様体の腫脹・前方回旋が隅角を閉塞する2)

慢性PAS形成:慢性炎症により進行性のPASが形成され、慢性閉塞隅角を来す。Vogt-小柳-原田病(VKH)患者の80%が閉塞隅角となる2)

隅角新生血管:慢性炎症により生じた隅角新生血管が線維血管性膜を形成し、隅角を閉塞する1)

  • 急性(通常可逆的):炎症物質の線維柱帯間隙への蓄積、線維柱帯薄板浮腫、毛様体腫脹が主体1)。炎症消退とともに眼圧が正常化することがある。
  • 慢性(不可逆的):瘢痕形成、前房隅角の膜過成長が生じる1)。炎症が沈静化しても眼圧下降薬や手術が必要な状態が続く。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

MIGS(低侵襲緑内障手術)の進展

Section titled “MIGS(低侵襲緑内障手術)の進展”

Halkiadakisら(2024)のレビューでは、XEN63ゲルステントはXEN45より大きな内腔(63μm vs 45μm)を持ち、難治性UGで1年後の眼圧が16mmHgに達したことが報告された2)

XEN63ゲルステントの閉塞時には10-0ナイロンプローブによるab-externo revisionによって開通を回復する手技が報告されている5)

チューブ露出は術後合併症として7〜14.3%に生じる4)。角膜融解・虹彩脱出を伴うAhmed弁露出に対して、多層閉鎖法(心膜パッチ+カプセル自家移植+テノン嚢転位+結膜前進)による修復と、角強膜同種移植片を用いた輪部再建が報告されている4)6)

Armstrongら(2024)は、チューブ再露出を繰り返す症例に対して同一象限でのチューブ交換と多層閉鎖を組み合わせた手術手技を報告し、予備的な成績として有望な結果を示した6)

リパスジル(Rho-kinase阻害薬)はUGにおいてステロイド使用眼での有効性が示唆されており、抗炎症作用の可能性も報告されている2)

マイクロパルス毛様体光凝固は従来型の毛様体光凝固と比較して低侵襲であり、UGにおける安全性が報告されている2)。標準的な毛様体光凝固の合併症(低眼圧・眼球癆)のリスクを軽減する可能性がある。

OCTアンギオグラフィによるUGの視神経乳頭・黄斑血管密度評価が、緑内障診断への応用を目指したパイロット研究段階にある2)。また、メンデリアンランダム化研究によりぶどう膜炎と緑内障の遺伝的な因果関連の可能性が報告されている2)


  1. Bodh SA, Kumar V, Raina UK, et al. Inflammatory glaucoma. Oman J Ophthalmol. 2011;4(1):3-9.
  2. Halkiadakis I, Konstantopoulou K, Tzimis V, et al. Update on Diagnosis and Treatment of Uveitic Glaucoma. J Clin Med. 2024;13(5):1185.
  3. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022.
  4. Kandarakis SA, Doumazos L, Timpilis M, et al. Limbal reconstruction in uveitic glaucoma patient with exposed Ahmed valve coincident with corneal melting and iris prolapse using multiple corneoscleral allografts. Rom J Ophthalmol. 2024;68(1):60-64.
  5. Marchese V, Randazzo V, Badalamenti R, et al. Reviving XEN63 Gel Stent Patency in Uveitic Glaucoma: A Novel Approach Using 10-0 Nylon Probe. J Curr Glaucoma Pract. 2024;18(2):74-78.
  6. Armstrong M, Wang J, Gorla M, et al. Same-quadrant tube exchange and multiple-layer closure for recurrent tube erosion: Surgical technique description and preliminary results. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;36:102138.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます