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緑内障

開発途上国における緑内障

1. 開発途上国における緑内障とは

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緑内障は世界における不可逆的失明の最大の原因である1)。2020年時点で世界の緑内障患者数は約7,600万人と推定され、2040年には1億1,100万人に増加すると予測されている3)。この増加はアフリカとアジアの国々に不均衡に影響する3)

開発途上国の患者は先進国と比較して、発症率が高く、受診時にすでに進行していることが多く、失明に至るリスクも高い。緑内障が無症状で進行する特性は、スクリーニング体制が不十分な地域では診断の大幅な遅れを招く。

ヨーロッパの人口ベース研究でも緑内障の少なくとも50%が未診断であり、アジアとアフリカではさらに高い未診断率が報告されている2)。人口の高齢化が進む国々では緑内障患者数が大幅に増加する見込みであり、効率的な資源活用、医療アクセスの改善、疾患認知の向上が不可欠である1)

Q なぜ開発途上国で緑内障の問題が深刻なのか?
A

開発途上国では眼科医が都市部に集中し、農村部の住民が定期的な眼科検診を受けられない。緑内障は無症状で進行するため、診断の遅れが深刻であり、ガーナの研究では初回診断時に34%が両眼失明の状態であった。加えて薬剤コストが高く、フォローアップ体制も不十分であるため、治療の継続が困難である。

分類地域有病率
原発開放隅角緑内障アフリカ4.20%
原発開放隅角緑内障ラテンアメリカ3.65%
原発開放隅角緑内障アジア2.31%

原発開放隅角緑内障は世界で最も一般的な病型であり、アフリカ系集団で最も有病率が高い。アフリカ系アメリカ人では非ヒスパニック系白人の約3倍の有病率が報告されており、失明の主要原因でもある3)。アフロ・カリビアンではさらに高い有病率が認められる3)

原発開放隅角緑内障(POAG)

世界最多の病型:40〜80歳における推定有病率は開放隅角緑内障全体で3.5%、ACGで0.50%である2)

アフリカ系集団:有病率が最も高く、西アフリカでは80歳以上で15%に近い報告がある。

遺伝的背景:多遺伝子性・多因子性の遺伝であり、特定の遺伝子との関連は大部分で未特定である。

原発閉塞隅角緑内障(PACG)

緑内障関連失明の約半数:原発開放隅角緑内障より少ないが、世界の緑内障関連失明の約半数を占める。

アジアに集中:ミャンマーでは有病率2.5%に達する。女性に多く、アジアでは男女比1:1.5である。

家族歴のリスク:イランの研究では患者の兄弟姉妹の58%にある程度の隅角閉塞が認められた。

世界の失明した子供の約4分の3がアフリカとアジアの貧困地域に集中している。原発先天緑内障は出生10,000〜18,000人に1人の頻度である。近親婚が一般的な集団では原発先天緑内障の有病率が有意に高い。

エチオピアの研究では原発先天緑内障診断時の平均年齢は3.3歳であり、先進国(生後1年以内)と比較して大幅に遅い。白内障術後緑内障も開発途上国では重要な小児緑内障の一つであり、術後3年時点でのリスクは6.5%と報告されている。

水晶体起因緑内障は資源の限られた国々で最も一般的な二次性緑内障であり、進行した白内障の未治療症例の蓄積を反映している。偽落屑緑内障はエチオピアのあるクリニックでは緑内障患者の35%に認められている。

診断の障壁

診断の遅れ:ガーナの研究では初回診断時に34%が両眼失明、50%が片眼失明であった。サハラ以南のアフリカでは片眼失明率が最大56%に達する。

機器の不足:ナイジェリアでは15〜20%のクリニックで基本的診断機器が利用不可能である。視野検査OCTは多くの施設で実施できない。

人材不足:眼科医は都市部に集中し、農村部では隅角検査すら実施困難である。van Herick法や斜照法で代用されることが多い。

治療の障壁

薬剤コスト:インドの研究では、抗緑内障薬の月額費用が最低所得層の月収の13〜123%に相当した。通院費はさらに上回ることが多い。

アドヒアランス:サハラ以南のアフリカでは服薬コンプライアンスが32.5〜65.4%と低い。

手術の受入:疾患理解の不足により、緑内障手術の受入率は低い。白内障手術と異なり視力回復が期待できないことが障壁となる。

フォローアップ:経済的・地理的障壁により長期的な経過観察が困難である。

心理社会的影響も深刻である。インドの研究では緑内障患者のQOL効用値は平均0.64であり、米国の緑内障患者より大幅に低い。失明した患者の介護者にもうつ病の有病率増加が報告されており、光覚なしの患者の介護者では48%に達する。失明は本人と介護者の二人の労働力を失わせ、地域経済にも影響を及ぼす。

Q 開発途上国で緑内障の薬物治療が困難な理由は?
A

薬剤の高コスト(最低所得層の月収の13〜123%)、薬局へのアクセスの制限、ジェネリック医薬品の品質のばらつき、フォローアップの困難さが主な理由である。そのため薬物療法は早期緑内障でアドヒアランスが確実な患者、または手術を拒否する患者に限定されることが多い。

開発途上国では線維柱帯切除術(代謝拮抗剤併用)が緑内障の第一選択治療として位置づけられている。最小限の機器で実施可能であり、高価なデバイスの植え込みを必要とせず、長期的な薬物療法を不要にできるため、最も費用対効果の高い緑内障手術である。

薬物療法は通常、以下の場合に限定される。

  • フォローアップとアドヒアランスがほぼ確実な早期緑内障
  • 手術を拒否する患者

開発途上国の郊外・農村部では受診の遅れや高い眼圧のために従来の薬物療法への反応が不良なことがある4)。アジア太平洋緑内障学会(APGS)およびAAPPOの専門家パネルは、低資源地域における急速な眼圧コントロールのための代替治療としてアルゴンレーザー周辺虹彩形成術(ALPI)、前房穿刺(ACP)、レーザー周辺虹彩切開術(LPP)を推奨している4)

Q なぜ開発途上国では手術が第一選択なのか?
A

薬物療法はコストが高く(月収の13〜123%)、定期的な薬剤入手とフォローアップが困難であり、服薬アドヒアランスも低い。線維柱帯切除術は最小限の機器で実施でき、高価なデバイスを必要とせず、長期的な薬物療法を不要にできるため、費用対効果が最も高い。また、受診時に進行した症例が多く、早期の手術介入が視機能保持に不可欠である。


低・中所得国では時間・交通・費用の制約により大規模スクリーニングの実施が困難であるが、AIの発展が眼科疾患スクリーニングの新たなツールとなりつつある。AI技術は医療資源の不均等な分配を解消し、患者の移動負担を軽減する可能性を持つ5)

遠隔診察やモニタリングを可能にする技術は、眼科専門医の不足を緩和する可能性がある。モバイルアプリケーションを用いた在宅での視力・視野評価がさらに精緻化されれば、在宅モニタリングの大幅な実現が期待される1)

眼および全身のリスク因子に関する研究の進展により、将来的に個人のリスク層別化が大幅に改善される可能性がある1)。医療資源を最もリスクの高い集団に効率的に配分するスクリーニングプログラムの開発も期待されている1)


  1. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  2. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Kugler Publications. 2020.
  3. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. 2024.
  4. Chan PP, Pang JC, Tham CC. Acute primary angle closure-treatment strategies, evidences and economical considerations. Eye. 2019;33:110-119.
  5. Liu Y, et al. Applications of deep learning to ophthalmology. Surv Ophthalmol. 2024.

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