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緑内障

EyeWatchインプラント

緑内障は世界における不可逆的失明の最大の原因である1)。眼圧(IOP)上昇は発症・進行の最も重要なリスク因子であり、IOPが篩状板を介して網膜神経節細胞(RGC)軸索に機械的歪みを生じさせ、軸索輸送障害からアポトーシスに至る5)

薬物療法やレーザー治療で十分な眼圧下降が得られない場合、外科的治療が選択される。緑内障ドレナージデバイス(GDD)は、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)が不成功に終わった症例や、内眼手術の既往がある難治性緑内障眼に対して有効な術式である2)。現在、主に使用される緑内障ドレナージデバイスはBaerveldt緑内障インプラント(BGI)とAhmed緑内障バルブ(AGV)の2種である。

しかし従来型緑内障ドレナージデバイスには術後の眼圧管理に課題がある。非弁型のBGIでは術後早期の低眼圧リスクがあり、弁型のAGVでは高眼圧症期(hypertensive phase)が53〜83.5%に発生する。いずれのデバイスも、一度植え込まれると流量の微調整が困難である。

EyeWatch(eW)は、Rheon Medical社(スイス)が開発した世界初の調整可能な緑内障ドレナージデバイスである。外部磁気制御ユニットを介して、術後の房水流出量を非侵襲的に調整できる点が最大の特徴である。

eWは以下の構成要素からなる。

  • 内部回転磁石ディスク:外部磁石に反応し回転する
  • 変形可能シリコンチューブ:磁石の回転に連動して開閉する
  • ベアリングシステム:磁石の回転をスムーズにする
  • ノズルおよび出口:房水の流出口を形成する

デバイスの寸法は以下の通りである。

項目仕様
外形6.5×5.8 mm
厚さ0.8 mm
前房挿入サイズ25ゲージ

eWはeyePlateシリコンドレナージプレートのほか、BGIなどのバルブなしシャントとも互換性がある。

eWPは外部制御ユニットとして機能する。

構造

コンパス:一端に搭載。eWの位置を測定する。

磁石:もう一端に搭載。チューブの開閉を調整する。

設定範囲

0(全開):房水流出量が最大となる。

6(全閉):房水流出を遮断する。

7段階:臨床状況に応じた微調整が可能である。

術中には滅菌済みeWPを用いてeWを5〜6に設定し、術後早期の低眼圧を予防する。外来用eWPを用いて術後の眼圧に応じた調整を行う。

従来型緑内障ドレナージデバイスとの比較

Section titled “従来型緑内障ドレナージデバイスとの比較”

既存の主要緑内障ドレナージデバイスの特徴は以下の通りである。

  • BGI(Baerveldt緑内障インプラント):プレート面積350 mm²(前房挿入型)または250 mm²(小児用)。調圧弁を持たない非弁型であり、術後早期の過剰濾過を防ぐためチューブの結紮やステントが必要である1)
  • AGV(Ahmed緑内障バルブ):プレート面積184 mm²または96 mm²(小児用)。プレート内に調圧弁を内蔵し、低眼圧を防ぐ設計であるが、術後高眼圧症期の発生率が高い
  • eW:BGIやeyePlateに接続して使用する。外部から7段階の流量調整が可能であり、低眼圧・高眼圧の両方に対応できる
Q eyeWatch Pen(eWP)による眼圧調整はどのように行うのですか?
A

eWPの一端にあるコンパスでeWの位置を確認し、もう一端の磁石をeW上に当てて回転させることで、内部チューブの開閉度を0(全開)〜6(全閉)の範囲で調整する。低眼圧時は閉じる方向に、高眼圧時は開ける方向に設定を変更する。調整は外来で非侵襲的に実施できる。

eWの適応は以下の通りである1)

  • 濾過手術が不成功に終わった難治性緑内障
  • 内眼手術の既往がある緑内障眼
  • 続発緑内障を含む多くの病型
  • 既存BGI術後の難治性低眼圧(rescue手術)

緑内障ドレナージデバイス手術の基本手技は以下の通りである。

  1. プレート設置領域の結膜を1象限以上2象限未満切開する
  2. Tenon囊下に麻酔薬を注入する
  3. 外眼筋2本に牽引糸をかけ術野を確保する
  4. プレートを筋付着部から1 mm後方に設置し、ナイロン糸で結紮固定する
  5. 前房に粘弾性物質を注入し深くする
  6. 角膜輪部から1.5〜2 mm後方より23G針で穿刺する
  7. チューブを前房に約2 mm挿入し、強膜にナイロン糸で固定する

eWはBGIまたはeyePlateのチューブラインに接続して設置する。術中に滅菌eWPで設定を5〜6(ほぼ全閉)とし、過剰濾過を予防する。

Roy前向き研究(多施設共同試験)

Section titled “Roy前向き研究(多施設共同試験)”

複数の緑内障手術が失敗した難治性緑内障15眼を対象とした。BGIと併用してeWを植え込み、平均15.6±3.5ヶ月間追跡した。完全成功率(薬剤なし)は40%、全体成功率は93%であった。平均IOPは術前26.2±6.8 mmHgから術後12ヶ月時点で11.9±2.8 mmHgへ有意に低下した(P<0.001)。平均薬剤数は3.0±0.7剤から0.8±0.9剤に減少した。合併症はデバイス機能に関連しない不完全創閉鎖のみであった。

Roy後方視的比較研究(eW-B vs AGV)

Section titled “Roy後方視的比較研究(eW-B vs AGV)”

eW-BGIとAGVを比較した研究の主要結果を以下に示す。

項目eW-B群AGV群
完全成功率67%50%
全体成功率89%58%
合併症発生率0%25%

21眼を対象とし、平均13.2±3.4ヶ月間追跡した。平均IOPはeW-B群で27.3±7.0から12.8±2.4 mmHgへ、AGV群で24.8±9.0から13.8±3.6 mmHgへ、いずれも有意に低下した(P<0.05)。平均薬剤数はeW-B群で2.9±0.8から0.2±0.4へ、AGV群で3.0±0.7から0.3±0.7へ減少した。失敗率はeW群11%に対しAGV群42%であった。

Detorakis(穿孔チューブ使用研究)

Section titled “Detorakis(穿孔チューブ使用研究)”

プレート付きバルブの代わりに穿孔シリコンチューブ(4 cm)をeWに接続し、3つの失明疼痛眼に植え込んだ。2眼は成功し、それぞれ12ヶ月・6ヶ月間にわたりIOP 15 mmHg未満を維持した。1眼は瘢痕組織による困難な手術を要し、術後6ヶ月時点でIOP 40 mmHgと不成功であった。

BGI術後の難治性低眼圧(3ヶ月間持続)に対し、既存BGIにeWを接続した。術後1日目にIOP 22 mmHgとなりeWPで5/6に開放。4日目にIOP 3 mmHgまで低下したためeWを6/6(全閉)に設定。その後IOPは1週間で6 mmHg、4週間で11 mmHg、6週間で12 mmHgと上昇し、10週目に13 mmHgとなった時点で5/6に再開放。以後6ヶ月間にわたりIOP 8〜12 mmHgで安定した。

従来型緑内障ドレナージデバイスの長期成績(参考)

Section titled “従来型緑内障ドレナージデバイスの長期成績(参考)”

TVT study(チューブ vs トラベクレクトミー)の5年成績では、累積失敗率はチューブ群29.8%、線維柱帯切除術群46.9%であり、線維柱帯切除術群で有意に高かった2)。一方、緑内障ドレナージデバイスのシステマティックレビューでは、術後12ヶ月の平均IOPはAhmed群とBaerveldt群で有意差を認めなかった3)。術後緑内障薬剤数は12ヶ月で平均1.22剤、24ヶ月で1.23剤であった3)

Q EyeWatchは従来型緑内障ドレナージデバイスと比較してどのような利点がありますか?
A

eWの最大の利点は、術後に外部から非侵襲的に房水流出量を調整できる点にある。従来型緑内障ドレナージデバイスでは流量の微調整ができず、低眼圧(BGIに多い)や高眼圧症期(AGVに多い)への対応が限られていた。eWは7段階の流量調整により両方の合併症を回避でき、初期研究では合併症発生率0%と報告されている。

6. 病態生理学・流量調整の意義

Section titled “6. 病態生理学・流量調整の意義”

IOPは単一の値に集約できるものではなく、時間経過、眼内の位置、測定法によって変動する5)。IOP上昇は篩状板レベルで機械的歪みを生じ、RGC軸索の障害を引き起こす。実験的緑内障では、篩状板での軸索損傷が確認されている5)

RGC死のメカニズムとして、軸索輸送障害による神経栄養因子の枯渇が関与する。軸索輸送が遮断されると、標的ニューロンからの神経栄養因子供給が途絶え、アポトーシスが再活性化される5)

従来型緑内障ドレナージデバイスにおける眼圧管理の課題

Section titled “従来型緑内障ドレナージデバイスにおける眼圧管理の課題”

緑内障ドレナージデバイスは眼内に挿入するシリコンチューブと房水を貯留するプレートで構成される。房水流出抵抗は主にプレート周囲の結合組織被膜によって決まるが、この被膜形成は個体差が大きく予測困難である。

  • BGI(非弁型):術後早期に過剰濾過のリスクがある。チューブ結紮で一時的に流出を遮断するが、結紮糸が溶けるまでの約1ヶ月間は高眼圧期となり、緑内障点眼や内服が必要となる。BGIの低眼圧発生率は4.5%であり、AGVの0.4%と比較して有意に高い2)
  • AGV(弁型):調圧弁により過剰濾過を防ぐ設計であるが、プレート周囲組織が炎症に曝露されることで高眼圧症期が発生する。その発生率は53〜83.5%と高率である

eWは流量を外部から7段階で調整できるため、以下の対応が可能となる。

  • 術後早期:設定5〜6(ほぼ全閉)で過剰濾過を防止
  • 高眼圧時:設定を開放方向へ変更し流出量を増加
  • 低眼圧時:設定を閉鎖方向へ変更し流出量を制限
  • 長期管理:被膜形成の進行や経年変化に応じて随時調整

この調整は非侵襲的に外来で実施でき、追加手術を要しない点が大きな利点である。Elahiの症例では、BGI術後の難治性低眼圧に対してeWを接続し、eWPの設定変更のみでIOPを安定化させることに成功している。

RoyとMermoudは、緑内障手術の既往がある患者においてeWが2年間にわたり効果的にIOPを低下させることを確認している。

しかし現時点では以下の課題が残されている。

  • エビデンスの蓄積:既存の研究は少数例の前向き・後方視的研究にとどまる。大規模ランダム化比較試験(RCT)が必要である
  • 長期成績:最長でも2年の追跡であり、5年以上の長期安全性・有効性のデータが不足している
  • 植え込み技術の標準化:Detorakisの報告にみられるように、瘢痕組織が高度な症例では植え込みが困難となる場合がある
  • 適応の拡大:小児緑内障、続発緑内障、rescue手術など、さまざまな病型への適用可能性の検討が求められる
  • 日本での使用:現時点ではeWは日本国内で薬事承認を受けておらず、国内での使用は困難である

緑内障ドレナージデバイスの重大なリスクとして、低眼圧、インプラント露出、眼内炎、長期的な角膜内皮障害が知られている1)。eWがこれらの合併症を長期的にどの程度軽減できるかは、今後の研究に委ねられる。

Q EyeWatchインプラントは日本で使用できますか?
A

現時点では、eWは日本国内で薬事承認を受けていない。日本で使用可能な緑内障ドレナージデバイスはBaerveldt緑内障インプラントとAhmed緑内障バルブの2種類である。eWの日本導入には今後の臨床試験と承認手続きが必要となる。


  1. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-230.
  2. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.
  3. Ong SS, Nti AA, Engel LM, et al. Outcomes and complications of glaucoma drainage devices: a systematic review and meta-analysis. Surv Ophthalmol. 2023;68(4):578-590.
  4. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. San Francisco: AAO; 2020.
  5. Pitha I, Du L, Nguyen TD, Quigley HA. IOP and glaucoma damage: The essential role of optic nerve head and retinal mechanosensors. Prog Retin Eye Res. 2023;97:101232.

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