線維柱帯手術
インプラント/ステント:iStent(Glaukos)、Hydrus(Alcon)
線維柱帯粘弾切開:ABIC(iTrack)、OMNI
線維柱帯破壊手術:GATT、KDB、マイクロフック、Trabectome
線維柱帯レーザー:ELT

低侵襲緑内障手術(minimally invasive glaucoma surgery: MIGS)は、ab interno(眼内から)のアプローチにより眼組織への侵襲を最小限に抑え、房水流出を促進する手術群の総称である1)4)。正常解剖の破壊を最小限にし、良好な安全性プロファイル・早い回復・少ない術後介入を目指して設計されている1)。
2010年代初頭に臨床導入されて以来、MIGSは緑内障管理における重要な選択肢に成長した2)。従来の緑内障手術(線維柱帯切除術・チューブシャント)は房水を結膜下腔にドレナージする手術であり、長期の回復期間と重篤な合併症(ブレブ関連感染症・脈絡膜上出血など)のリスクを伴う4)。MIGSはこの安全性と有効性のトレードオフにおいて、より安全側に位置する手術として開発された。
MIGSは標的とする房水流出路により以下のように分類される1)。
線維柱帯手術
インプラント/ステント:iStent(Glaukos)、Hydrus(Alcon)
線維柱帯粘弾切開:ABIC(iTrack)、OMNI
線維柱帯破壊手術:GATT、KDB、マイクロフック、Trabectome
線維柱帯レーザー:ELT
脈絡膜上腔手術
MiniJect(iSTAR Medical):脈絡膜上腔への房水ドレナージを目的とするデバイス
結膜下手術(MIBS)
PreserFlo MicroShunt(Santen):SIBS素材の結膜下ドレナージデバイス
XEN Gel Stent(AbbVie):ゼラチン製の結膜下ドレナージデバイス
注意:ブレブ形成を要するためMIGSではなくMIBS(中等度侵襲ブレブ手術)に分類される1)
MIGSの主な適応は、早期〜中等度の開放隅角緑内障(OAG)または高眼圧症(OHT)の患者である1)5)。白内障手術と同時に施行されることが多く、一部のデバイスは白内障手術との併用でのみ承認されている5)。進行した緑内障や低い目標眼圧を必要とする症例には、従来の線維柱帯切除術やチューブシャントが推奨される4)。
日本ではマイクロフックトラベクロトミーが広く普及しており、初期〜中期の開放隅角緑内障、落屑緑内障、ステロイド緑内障が主な適応となる。iStentは国内では白内障手術との併用のみが認可されている。
MIGSは眼内からのアプローチで組織損傷が少なく、回復が早い一方、眼圧下降効果は穏やかで眼圧が中〜高ティーン台にとどまることが多い1)。従来の線維柱帯切除術は長期的な眼圧下降効果に最も優れるが、低眼圧やブレブ関連合併症のリスクが高く、術後管理も集約的である4)。どちらの手術が適切かは、緑内障の進行度・目標眼圧・患者の意向を総合的に判断して決定する。
iStentは開放隅角緑内障で最も使用頻度の高いMIGSデバイスであり、全体の43.7%を占める3)。チタン製の微小ステントをシュレム管内に留置し、線維柱帯の流出抵抗をバイパスする。1本挿入で21%の眼圧下降と1.4剤の薬剤減少、2本挿入で27%の眼圧下降と1.1剤の薬剤減少が報告されている。白内障手術との併用でのみ行うことが国内の基準とされている。
有害事象は239眼中55眼(23.0%)に認められ、一過性自然消退性前房出血(13例)、iStent閉塞(17例)、後嚢混濁(7例)、眼圧スパイク(4例)などが報告されている3)。
Hydrusはニチノール(ニッケル-チタン合金)製の8mm三日月型インプラントである。角膜切開後に手動インジェクターでシュレム管内に留置し、約90度にわたってシュレム管を拡張する。ab internoの線維柱帯バイパスとして機能し、白内障手術との併用が可能である。
日本で広く普及しているMIGSである。谷戸氏マイクロフックを用いて、隅角鏡下に線維柱帯・シュレム管内壁を直接視認しながら切開する。従来の眼外法トラベクロトミーと短期成績が同等で、惹起乱視が少ない利点がある。結膜切開や強膜弁作成が不要で手技が簡便であることから、多くの施設で採用されている。
PreserFlo MicroShunt(旧称InnFocus MicroShunt、Santen)は、SIBS(ポリスチレン-ブロック-イソブチレン-ブロック-スチレン)と呼ばれる生体不活性素材で作られた結膜下ドレナージデバイスである6)。全長8.5mm、外径350μm、内腔70μm(一部報告では75μm)を有する。
ab externo(眼外から)のアプローチで行う6)11)。
Bhayaniら(2023)は欧州4施設の100眼を対象とした多施設後方視的研究を報告した6)。術前中央値21.5mmHgの眼圧は12ヵ月後に13mmHgへ低下し、薬剤数は中央値3剤から0剤に減少した。
PreserFloの12ヵ月時点における成功率を以下に示す6)。
| 基準 | 適格成功率 | 完全成功率 |
|---|---|---|
| IOP≦21+20%↓ | 74% | 58% |
| IOP≦15+25%↓ | 52% | 47% |
非コーカサス人種が全基準で不成功の唯一の独立リスク因子であった6)。厳格な眼圧基準(IOP≦12mmHg+30%低下)での成功率は29%にとどまり、低い目標眼圧が必要な症例には最適な選択とならない可能性が示された6)。
前方視的RCTの1年中間結果では、PreserFlo群の平均眼圧14.3mmHgに対し線維柱帯切除術群は11.1mmHgと、線維柱帯切除術がより優れた眼圧下降を示した6)。ただしPreserFlo群では術後介入が有意に少なく、低眼圧の発生率も低かった。
PreserFloの主な合併症は以下の通りである。
Bunodら(2021)は2例のPreserFlo露出を報告した11)。両例とも重度の眼瞼炎とテノン嚢欠損を共有しており、結膜修復後も再発したためデバイス除去を要した。眼表面の炎症の事前治療とテノン嚢フラップによる被覆の重要性が強調された。
Fahyら(2022)はニードリング後8週で結膜びらんが発生した1例を報告した13)。ニードリング時のMicroShunt先端部周囲の操作と10-0ナイロン縫合糸の弛みが関与した可能性を指摘し、ニードリングはデバイス先端の後方に方向付けるべきと推奨した。
Chamardら(2022)は5年後の角膜内皮細胞減少を2例報告した12)。症例1ではデバイスの後方移動による角膜接触が原因で549 cells/mm²まで減少した。症例2ではデバイス周囲の炎症反応が疑われ1139 cells/mm²であった。両例ともデバイス除去が行われた。
Paikら(2025)は23研究875眼のメタアナリシスで、MIGS(phaco併用含む)の1年時点における加重平均IOP低下が7.71mmHg(95%CI: 5.16-10.26)、薬剤減少が1.57剤(95%CI: 1.17-1.96)であることを示した3)。サブグループ解析では、AIT(角度切開術)がendoCPGおよびiStentに対して眼圧低下(p<0.02)と薬剤減少(p<0.01)の両面で優位であった。
自然消退性前房出血を除いた合併症率は141/875(16%)であった3)。最も多い合併症は前房出血(24.9%)、眼圧スパイク(4.9%)、術後炎症(3.31%)であった3)。低眼圧・複視・感染症の報告はなく、全タイプのMIGSが従来手術より良好な安全性プロファイルを示した。
PreserFloの利点
簡便な手技:強膜弁作成・虹彩切除が不要。標準化されたデバイスにより学習曲線が短い6)
少ない術後介入:RCTで線維柱帯切除術群に比べ術後処置が有意に少ない6)
良好な安全性:多施設研究で低眼圧関連合併症の報告なし6)
PreserFloの注意点
線維柱帯切除術に劣る眼圧下降:RCTで平均眼圧が約3mmHg高い6)
結膜操作が必要:ブレブ形成手術であり、将来の緑内障手術への影響を考慮する必要がある1)
長期データの不足:5年超のエビデンスは限定的である12)
MIGSは白内障手術(phaco)との併用で行われることが多い1)5)。単独phaco手術もある程度の眼圧下降を示すため、MIGS追加の純粋な効果を評価することは困難である1)。
Singhら(2025)の40研究レビューでは、MIGS-phaco併用が単独MIGSに比べ、追加で2〜2.8mmHgの眼圧低下を達成し、2年時点の再手術率も3%対24%と低かった2)。薬剤使用量は0.4〜1.8剤減少し、一部では22.6〜80%の患者が薬剤フリーとなった。
Paikら(2025)のメタアナリシスでは、MIGS-phaco群は単独phaco群に対し薬剤負担の減少(WMD 0.59)と、限定的ながら眼圧低下(WMD 1.22、95%CI: -0.96〜3.39)の優位性を示した3)。
多くのMIGSは白内障手術(水晶体乳化吸引術)と同時に施行できる5)。iStentは国内では白内障手術との併用でのみ認可されている。併用手術は単独白内障手術に比べ眼圧低下と薬剤減少の面で追加的な効果が期待される2)3)。ただし、MIGSの効果とphaco単独の効果を厳密に分離することは難しい1)。
Rupareliaら(2023)は、虹彩角膜内皮(ICE)症候群に続発した閉塞隅角緑内障に対し、白内障手術併用PreserFlo MicroShunt挿入を報告した7)。術後5ヵ月時点で眼圧12mmHg(1剤使用下)と良好な結果を得た。ICE症候群では薬物療法が効果不十分であることが多く、初回線維柱帯切除術の5年成功率は55%にとどまるとされる7)。PreserFloはab externo挿入のため周辺虹彩前癒着(PAS)の位置を慎重に評価する必要がある。
Tanakaら(2025)は、線維柱帯切開術後も難治性の小児緑内障5例にPreserFlo MicroShunt手術を施行した10)。平均年齢10±4歳、術前平均眼圧37.6±4.7mmHgは術後1年時点で10.5±6.5mmHgに有意に低下した。5例中4例が1年以上の眼圧正常化を維持し、3例は無投薬であった。術後合併症は認めなかった。小児では術後介入を局所麻酔で行うことが困難なため、術後処置の少ないPreserFloの利点が大きい10)。
術翌日の眼圧は5〜10mmHg程度に低下することが多い6)7)。術後1ヵ月頃に眼圧がやや上昇し、6ヵ月頃に安定する傾向がある6)。術後はステロイド点眼と抗菌薬点眼を約2ヵ月かけて漸減する。12%の眼ではブレブ被包化に対するニードリングが必要となる6)。
緑内障における眼圧上昇は、房水の産生と流出のバランス異常に起因する。房水流出には主に2つの経路が存在する。
MIGSは各デバイスの設計に応じ、以下の経路をバイパスまたは増強する4)。
PreserFlo MicroShuntの内腔径70μmは、Hagen-Poiseuille則に基づき、正常の房水産生量において5mmHg以上の眼圧を維持するよう設計されている9)。管内の流量は内径の4乗に比例し、長さに反比例するため、この微小内腔が理論的な過濾過防止機構として機能する。しかし実臨床では術後低眼圧が11〜39%に発生しており9)、強膜トンネルからの漏出や術後炎症による房水産生抑制など、管外要因の関与が示唆される9)。
SIBS(ポリスチレン-ブロック-イソブチレン-ブロック-スチレン)は熱可塑性生体材料であり、生分解に対して高い抵抗性を持つ11)。動物実験で優れた生体適合性が確認されており、従来のシリコンチューブと比較して異物反応が少ない。この生体不活性が、術後の線維化反応を軽減し、長期的な濾過機能の維持に寄与すると考えられている。
MIGSを含むすべての緑内障手術において、眼圧下降効果は経時的に減弱する傾向がある4)。インプラント型デバイス(iStent、Hydrus)では周辺虹彩前癒着による閉塞が起こりうる。線維柱帯切開術(KDB等)では炎症反応に起因する線維血管膜や瘢痕化が生じうる3)。緑内障は生涯にわたる疾患であり、再手術が必要となることが多い4)。MIGSは結膜切開を伴わないため、将来の緑内障手術の成功を損なわない利点がある4)。
Murakamiら(2023)は、ニードリング後にPreserFlo MicroShuntが脱臼した症例を報告した8)。術後21日目に眼圧上昇とブレブ縮小のためニードリングを施行したところ、デバイスが結膜下に脱臼し、眼圧が60mmHgに上昇した。新しい強膜トンネルに新規デバイスを再挿入することで改善した。ニードリング時の針先の移動方向を穹窿部側から角膜縁側に変更することが脱臼予防に推奨された。
Miuraら(2024)は、PreserFlo術後の遷延性低眼圧に対するab interno管腔内ステント挿入術を報告した9)。79歳男性の右眼(原発開放隅角緑内障〔POAG〕)で、PreserFlo術後の過濾過による遷延性低眼圧(浅前房・脈絡膜剥離・低眼圧黄斑症)が粘弾性物質注入では改善しなかった。角膜切開から10-0ナイロン糸をPreserFlo管腔内にステントとして挿入し、房水流出量を制限した。術後4ヵ月時点で眼圧10mmHgに安定した。結膜切開が不要で低侵襲な方法である。
Malickら(2022)は、Baerveldt tube(BVT)の遅発性低眼圧に対し、PreserFlo MicroShuntの切断片をBVT管腔内に挿入する新技術を報告した14)。BVTの内腔径300μmに対しPreserFloの外径350μmを利用し、約2mmずつ内外に留置した。術後6週で眼圧12mmHg(2剤使用下)に改善し、低眼圧黄斑症と脈絡膜剥離が消失した。
角膜内皮細胞への長期的影響は、MIGSデバイスに共通する懸念事項である。CyPass Micro-Stentは5年後の角膜内皮細胞減少が判明し市場撤退となった先例がある12)。PreserFloについても5年後の角膜内皮細胞減少が報告されており12)、デバイス位置と角膜との距離、管腔周囲の炎症反応が関与因子として挙げられている。術前後の角膜内皮細胞計測とAS-OCTによるデバイス位置評価を含む長期前向き研究が必要とされている12)。
MIGSの領域は急速に発展しており、各術式の長期有効性も今後評価され変遷が起こると考えられている。標準化された患者報告アウトカム指標の開発2)、多様な人種集団を対象とした研究、最適なマイトマイシンC用量の確立が今後の課題である6)。MIGSのエンドポイント報告に関するAAOの指針では、眼圧低下と薬剤減少の両面を評価する複合エンドポイントの採用が推奨されている4)。
MIGS後に点眼薬が不要になる患者もいるが、全員ではない。多施設研究では12ヵ月時点で薬剤数の中央値が3剤から0剤に減少したが6)、経時的にやや増加する傾向がある。レビューでは22.6〜80%の患者が薬剤フリーとなったと報告されている2)。定期的な経過観察のもとで個々に判断する。