虚血性

後天性ぶどう膜外反
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 後天性ぶどう膜外反とは
Section titled “1. 後天性ぶどう膜外反とは”後天性ぶどう膜外反(acquired ectropion uveae:AEU)は、虹彩色素上皮が虹彩の前表面へ脱出または突出する病態である。後天性虹彩外反(acquired iris ectropion)とも呼ばれる。瞳孔付近に好発するが、虹彩の他の部位にも生じうる。
ぶどう膜外反には先天性と後天性がある。先天性ぶどう膜外反(congenital ectropion uveae:CEU)は神経堤細胞の発達遅延に起因し、一般に非進行性である。一方、AEUは虚血・炎症・腫瘍など多様な基礎疾患に続発し、進行性の経過をたどる1)。
AEUは先天性よりはるかに高頻度に遭遇する。有病率は基礎疾患によって大きく異なる。
- 新生血管緑内障:隅角閉塞期・絶対緑内障で最多
- 虹彩メラノーマ:全体の7.6%(317例中24例)。びまん性メラノーマでは84%(25例中21例)
- 虚血型CRVO:最大60%がNVI・AEUを合併
- ICE症候群:24.6%が発症。Cogan-Reese症候群では54.2%
先天性は神経堤細胞の発達遅延が原因で、虹彩実質・括約筋は正常に保たれ、通常は非進行性である。後天性は線維血管膜や角膜内皮細胞増殖により虹彩実質・括約筋ごと前面に牽引され、周辺虹彩前癒着を伴い進行する1)。詳細は「病態生理学」の項を参照。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
軽症例では自覚症状を欠くことがある。眼圧上昇を伴う場合は以下の症状が出現する。
- 霧視:眼圧上昇や角膜浮腫に伴う視力低下
- 眼痛:急性の眼圧上昇時に強い
- 充血:毛様充血を呈する
- 羞明:虹彩変形や炎症に伴う
臨床所見(医師が診察で確認する所見)
Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”細隙灯顕微鏡所見
Section titled “細隙灯顕微鏡所見”- 瞳孔縁の色素変化:分節状の色素沈着から、瞳孔周囲を完全に取り囲む平坦な色素環まで多様
- 瞳孔変形(瞳孔偏位):牽引による形状・大きさの歪み
- 虹彩前面の線維血管膜:NVI合併例で観察
- 角膜浮腫:眼圧上昇やICE症候群に関連
隅角鏡検査所見
Section titled “隅角鏡検査所見”- 隅角新生血管(NVA):線維柱帯上の異常血管
- 周辺虹彩前癒着(PAS):隅角閉塞の進行を示す
- NF-1では虹彩の前方・扁平な付着、豊富な虹彩突起、隅角の色素沈着増加がみられる1)
基礎疾患に応じた所見を認める。網膜静脈閉塞、増殖糖尿病網膜症、慢性網膜剥離、動脈閉塞など、新生血管形成の原因となった病態が確認される。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”AEUの原因は多岐にわたる。
非虚血性
ICE症候群:角膜内皮細胞の異常増殖
NF-1:角膜内皮増殖+神経線維腫浸潤1)
外傷:鈍的眼外傷後の線維膜形成
炎症:重度の虹彩炎・ぶどう膜炎
腫瘍:虹彩メラノーマ、転移性腫瘍
ぶどう膜炎は緑内障を高率に合併する疾患であり、ぶどう膜炎患者の約20%に緑内障がみられる3)。虹彩毛様体炎による房水流出障害は、急性型(炎症細胞の線維柱帯蓄積、線維柱帯浮腫、毛様体腫脹による隅角閉塞)と慢性型(瘢痕形成、膜状組織の隅角被覆)に分類される2)3)。
慢性炎症による隅角のルベオーシス(血管新生)はBehçet病や若年性慢性虹彩毛様体炎でもみられ、AEUの原因となりうる。
糖尿病網膜症が進行すると網膜虚血により虹彩新生血管(NVI)が発生し、これがAEUの原因となる。ただし、全ての糖尿病患者に生じるわけではなく、血糖・血圧の管理と定期的な眼底検査で予防可能である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”AEUの診断は主に細隙灯顕微鏡検査と隅角鏡検査で行う。
- 細隙灯顕微鏡検査:虹彩前面の色素上皮脱出、瞳孔変形、虹彩前面の膜状組織を確認
- 隅角鏡検査(ゴニオスコピー):隅角新生血管(NVA)、周辺虹彩前癒着、隅角閉塞の範囲を評価
- 眼圧測定:続発緑内障の評価
- スペキュラーマイクロスコピー:ICE症候群やNF-1が疑われる場合に施行。NF-1では角膜内皮密度の低下、polymegathism(細胞面積の不均一)、pleomorphism(細胞形態の不均一)を認めることがある1)
- 眼底検査:基礎疾患(網膜虚血、腫瘍など)の同定
- 蛍光眼底造影:網膜毛細血管非灌流領域の評価
AEUと鑑別すべき疾患を以下に示す。
| 疾患 | 鑑別のポイント | 特徴 |
|---|---|---|
| 先天性ぶどう膜外反 | 非進行性、周辺虹彩前癒着なし | 実質・括約筋は正常 |
| Axenfeld-Rieger症候群 | 両眼性、全身異常合併 | 後方胎生環が特徴的 |
| ICE症候群 | 片眼性、女性に多い | 角膜内皮細胞の異常増殖 |
先天性ぶどう膜外反では虹彩実質と括約筋が正常に保たれるのに対し、AEUではこれらの構造も反転する点が重要な鑑別点である。Axenfeld-Rieger症候群は両眼性で、シュワルベ線が角膜輪部より前方に位置する後方胎生環を特徴とし、感音難聴や心臓・頭蓋顔面の異常を伴うことがある。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”AEUの治療は基礎疾患への対応が原則である。最も高頻度の原因であるNVI・NVGに対する治療体系を以下に示す。
新生血管緑内障の治療
Section titled “新生血管緑内障の治療”EGSガイドライン(第5版)では、NVGの治療を基礎疾患・網膜虚血への治療と眼圧管理に分けて推奨している2)。
| 治療段階 | 内容 |
|---|---|
| 基礎疾患への治療 | 抗VEGF硝子体内注射、網膜光凝固/冷凍凝固 |
| 眼圧管理 | 降圧薬(点眼・全身)、濾過手術(代謝拮抗薬併用)、チューブシャント、毛様体破壊術 |
- 抗VEGF硝子体内注射:NVIの退縮を促す。短期間の効果であり、根本的治療と併用する
- 汎網膜光凝固術(PRP):周辺網膜毛細血管非灌流領域を処理し、NVI・NVAの長期退縮を図る
- 眼圧降下薬:β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬(点眼・内服)、プロスタグランジン関連薬を使用
- 縮瞳薬(ミオティクス):NVGでは禁忌である2)
- 濾過手術:代謝拮抗薬(マイトマイシンC、5-FU)を併用したトラベクレクトミー。NV活動が鎮静化していれば比較的良好な予後が期待できる2)
- チューブシャント手術:薬物療法抵抗例に推奨。NVGではlong-tubeデバイス(Baerveldtなど)が一般的に選択される2)
- 毛様体破壊術:他の手術が困難な症例で検討
ぶどう膜炎性緑内障の治療
Section titled “ぶどう膜炎性緑内障の治療”ぶどう膜炎に伴うAEUでは、炎症と眼圧の同時治療が目標となる2)。ステロイド薬(点眼・全身投与)による抗炎症治療と、降圧薬による眼圧管理を並行して行う。ステロイド薬自体が眼圧上昇を招くことがあるため、注意深い経過観察が必要である3)。
降圧点眼薬はβ遮断薬、プロスタグランジン関連薬、炭酸脱水酵素阻害薬の順に使用する。眼圧上昇が高度な場合は炭酸脱水酵素阻害薬の内服、D-マンニトール点滴を追加する。
その他の基礎疾患への対応
Section titled “その他の基礎疾患への対応”- 眼虚血症候群:頸動脈プラーク除去術やステント留置術による頸動脈閉塞疾患の管理
- 黄斑浮腫合併例:ステロイド点眼、NSAIDs、硝子体内ステロイド/抗VEGF投与
- 虹彩メラノーマ:腫瘍に対する適切な治療(切除、放射線療法など)
薬物療法(降圧点眼薬・抗VEGF療法)で眼圧が十分に制御できない場合に手術を検討する。NVGではチューブシャント手術が一般的に選択される。NF-1のように隅角が広範に閉塞した症例でも、チューブシャント手術で良好な眼圧コントロールが得られた報告がある1)。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”AEUは多様な基礎疾患で発生するが、共通の病態メカニズムを有する。
線維血管膜形成による牽引機序
Section titled “線維血管膜形成による牽引機序”虹彩の前表面に**収縮性の線維血管膜(fibrovascular membrane)**が形成されることが中心的な機序である。この膜が瞳孔縁周囲の後方色素上皮・虹彩括約筋・虹彩実質を前面へ牽引し、巻き込ませる(tractional curling)。同時に線維柱帯を被覆・閉塞させ、眼圧上昇を引き起こす。
NVGにおいては、網膜虚血に伴いVEGFなどの血管新生促進因子が産生され、虹彩前面に異常血管が新生する(虹彩ルベオーシス)2)。初期には開放隅角型の眼圧上昇を呈するが、線維血管膜の収縮に伴い癒着性の隅角閉塞へと進行する2)。
ぶどう膜炎性緑内障の機序
Section titled “ぶどう膜炎性緑内障の機序”ぶどう膜炎による房水流出障害は急性型と慢性型に分類される3)。
- 急性型(通常可逆性):炎症細胞の線維柱帯間隙への蓄積、線維柱帯の浮腫、毛様体腫脹による隅角閉塞
- 慢性型:隅角における瘢痕形成、膜状組織による隅角被覆
虹彩後癒着が全周に及ぶと瞳孔ブロックによる膨隆虹彩が生じ、さらなる眼圧上昇を招く。ステロイド治療自体も一部の患者で眼圧上昇に寄与する2)。
NF-1における特殊な機序
Section titled “NF-1における特殊な機序”NF-1では、ICE症候群に類似した角膜内皮細胞の増殖がぶどう膜外反の原因と考えられている1)。Edward らの組織学的研究では、NF-1の5眼すべてで角膜内皮細胞の過成長が確認され、遺伝子発現解析でneurofibromin(NF1遺伝子産物)の喪失とMAPK(分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ)発現の亢進が示された1)。角膜内皮細胞がシュワルベ線を越えて線維柱帯に侵入し、隅角のDescemet化(Descemetization)、虹彩萎縮、瞳孔偏位、ぶどう膜外反を引き起こす。
両者とも角膜内皮細胞の異常増殖が隅角に侵入し、ぶどう膜外反を引き起こすという共通の機序を持つ1)。ただし、NF-1ではneurofibromin喪失に起因する内皮細胞増殖であり、ICE症候群とは分子レベルの原因が異なる。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”NF-1における進行性ぶどう膜外反の長期経過
Section titled “NF-1における進行性ぶどう膜外反の長期経過”Esfandiariら(2022)は、NF-1に伴う進行性AEUと続発閉塞隅角緑内障の1例を報告した1)。3歳時に軽度の瞳孔不整とぶどう膜外反が認められた11歳ヒスパニック系男児で、AEUは8時から4時方向に拡大し、上方隅角は完全に閉塞した。6歳時にIOP 28 mmHgを記録、9歳時には最大薬物療法下でIOP 35 mmHgに達した。下鼻側にBaerveldt緑内障インプラント(BGI 101-350)を留置し、術後29ヶ月にわたりIOP 11-18 mmHgの良好なコントロールが得られた。
同報告では術後のスペキュラーマイクロスコピーで罹患眼上方角膜に内皮密度低下・polymegathism・pleomorphismが確認され、NF-1における角膜内皮細胞増殖の仮説を支持する所見と考えられた1)。
NF-1の緑内障メカニズムに関する病理学的知見
Section titled “NF-1の緑内障メカニズムに関する病理学的知見”Edward ら(2012)は、NF-1と片眼性緑内障を有する5眼の病理組織学的検討で、全例にぶどう膜外反と角膜内皮過成長を確認した1)。1例の遺伝子発現解析では、角膜内皮細胞におけるneurofibromin喪失とMAPK発現亢進が示された。著者らはAEUが角膜内皮細胞増殖と隅角侵入の結果として生じるとする仮説を提唱した。
NF-1におけるAEUの進行性は小児期から長期にわたって観察されており、定期的な前眼部評価と眼圧モニタリングの重要性が示唆されている1)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Esfandiari H, Lasky Zeid J, Tanna AP. Progressive ectropion uveae and secondary angle-closure glaucoma in type 1 neurofibromatosis. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;25:101345.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
- Siddique SS, Suelves AM, Baheti U, Foster CS. Glaucoma and uveitis. Surv Ophthalmol. 2013;58(1):1-10.