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角膜・外眼部疾患

眼乾燥症(ビタミンA欠乏性眼疾患)

1. 眼乾燥症(ビタミンA欠乏性眼疾患)とは

Section titled “1. 眼乾燥症(ビタミンA欠乏性眼疾患)とは”

眼乾燥症(Xerophthalmia)は、重度のビタミンA欠乏症(VAD)によって引き起こされる一連の眼疾患の総称である。ビタミンAは角結膜上皮の正常な分化に必須の脂溶性ビタミンであり、その欠乏は結膜、角膜、および網膜に段階的な障害をもたらす。

WHO推定によれば、世界で約2億2,800万人の子供がVADに罹患しており、毎年25万〜50万人の小児が眼乾燥症により失明している3)。先進国では稀であり、米国における有病率は0.3%(2013年CDC調査)にとどまる1)

ただし、特定の基礎疾患を有する患者ではVAD有病率が高い1)

  • 炎症性腸疾患(IBD)小児:16%(クローン病で潰瘍性大腸炎より高頻度)
  • 肝硬変(移植待機例):70%
  • 慢性膵外分泌不全:35%(酵素補充療法中にもかかわらず)

日本ではビタミンA欠乏をみることはほぼないが、摂食障害やアルコール依存症に伴って稀に発症することが知られている。

Q 日本でも眼乾燥症は発症することがありますか?
A

日本では栄養不足によるVADは極めて稀であるが、摂食障害、アルコール依存症による腸管吸収不良、あるいは胃切除後の脂溶性ビタミン吸収障害に伴い発症することがある。近年では自閉スペクトラム症の極端な偏食が原因となる報告もみられる。

XerophthalmiaのBitot斑を示す細隙灯写真
XerophthalmiaのBitot斑を示す細隙灯写真
Shoeibi N, et al. Xerophthalmia and Nyctalopia as Presenting Signs of Vitamin A Deficiency in a Patient With Rapid Intentional Weight Loss: A Case Report and Literature Review. Clinical Case Reports. 2025;13(9):e70896. Figure 1. PMCID: PMC12441006. License: CC BY.
A・Bともに球結膜表面に泡沫状で白色のBitot斑を認める。ビタミンA欠乏でみられる乾燥した角結膜表面変化を示している。

VADの進行度に応じて症状が異なる。

  • 夜盲:最も早期に出現する症状。暗所での視力低下として自覚される
  • 眼刺激症状:眼乾燥感、異物感、羞明
  • 視力低下:角膜混濁の進行に伴い増悪する
  • 眼痛角膜潰瘍を伴う場合に出現する

小児ではVADの初期徴候なしに、麻疹や下痢のあとに突然角膜潰瘍を発症することがある。暗い場所で消極的になる・怖がるなどの行動変化がVADのサインとなりうる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

WHOは眼乾燥症を以下の病期に分類している(1982年)。

WHO分類病態失明リスク
XN夜盲なし
X1A / X1B結膜乾燥症 / Bitot斑なし
X2角膜乾燥症あり
X3A / X3B角膜潰瘍 / 角膜軟化症高い
XS / XF角膜瘢痕 / 眼底変化瘢痕に依存

初期(XN〜X1B)

夜盲(XN):桿体細胞のロドプシン形成不全による。血清レチノール1.0 μmol/L未満で出現し始める3)

結膜乾燥症(X1A):結膜の光沢消失と乾燥。杯細胞の消失・ムチン分泌低下による。

Bitot斑(X1B):角質化した上皮細胞とCorynebacterium xerosisの混合堆積物。耳側球結膜に三角形の泡状白色沈着物として出現。

進行期〜重症期(X2〜X3B)

角膜乾燥症(X2):角膜が光沢を失い混濁する。点状表層角膜症を呈し、急速に角膜潰瘍へ進行しうる。

角膜軟化症(X3A/B):液化壊死による角膜実質の融解。数日で角膜穿孔に至りうる最重症型。

角膜瘢痕(XS):角膜潰瘍後の瘢痕。しばしば対称性・両眼性。

進行例では不可逆的な合併症を生じる。自閉症児3例の報告では、重症VAD(血清ビタミンA ≤0.12 μmol/L)により角膜穿孔から眼球摘出に至った例や、視神経萎縮による恒久的な視力障害(最良でも手動弁〜0.01)を呈した例が報告されている2)

Khanら(2021)は腸管切除術後24歳女性の結膜生検で、扁平上皮化生とケラチン真珠形成を確認した5)。これはVADによる眼表面変化の組織学的裏付けとなる所見である。

Q Bitot斑は治療すれば消えますか?
A

Bitot斑はビタミンA補充療法により約2週間以内に改善する1)。ただし夜盲の回復には4週間以上かかることがある。角膜乾燥症の段階までに治療を開始すれば視力の完全回復が期待できるが、角膜軟化症まで進行すると瘢痕が残る可能性がある。

発展途上国では日常的な栄養不足が最大の原因である。先進国では以下が問題となる。

  • 極端な偏食:自閉スペクトラム症の子供に多い。麺のみ・フライドポテトのみなど限られた食品しか摂取しない場合に発症する2)3)
  • 慢性アルコール中毒:肝貯蔵の枯渇と腸管吸収不良を同時に招く
  • 摂食障害:神経性やせ症など

膵臓・肝臓・腸管疾患によるビタミンA吸収障害が先進国の主因である。

  • 炎症性腸疾患(IBD):特にクローン病で高頻度1)
  • 膵切除後:Frey手術後の膵外分泌不全がVADを引き起こしうる4)
  • 胃バイパス術後:Roux-en-Y胃バイパス後、6週時点で35%、1年後に18%にVADが報告されている7)
  • 短腸症候群・腸管切除後5)
  • 亜鉛欠乏:肝臓でのレチノール結合タンパク質(RBP)合成を抑制し、ビタミンAの輸送を障害する1)
  • 麻疹:血清レチノールを30%以上低下させる。RBP合成の抑制が機序とされる1)
  • 夜盲とBitot斑が共存する小児の死亡率は不顕性VADの子供の9倍に達する3)
Q 偏食のある子供にビタミンA欠乏のリスクはありますか?
A

自閉スペクトラム症やダウン症に伴う極端な偏食(特定の食品のみ摂取)はVADの重要なリスク因子である2)3)。偏食のある子供では血清ビタミンA値の定期的な確認が推奨される。

散瞳下の細隙灯顕微鏡検査が基本である。結膜の光沢消失・Bitot斑・角膜混濁の有無を評価する。食事歴、吸収不良の既往、アルコール摂取歴の聴取が重要である。

  • 血清ビタミンA(レチノール):基準値20〜60 mcg/dL。10 mcg/dL未満で眼症状が出現する。ただし肝貯蔵量により血中濃度が維持されるため、正常値でもVADを除外できない
  • 血清レチノール結合タンパク質(RBP):基準値30〜75 μg/mL
  • 血清亜鉛:基準値75〜120 mcg/dL。亜鉛欠乏の合併を確認
  • 圧痕細胞診:結膜検体で杯細胞数を評価。減少はVADの有効な指標
  • 結膜生検:扁平上皮化生・ケラチン真珠を組織学的に確認しうる5)
  • 網膜電図(ERG):VADによる網膜症では振幅低下を認める
  • 暗順応計:夜間視力閾値の客観的評価に用いる

角膜軟化症は非常に重度のVADを示す所見であり、内科的緊急事態として扱う。

ビタミンA内服が基本である。

  • ビタミンA経口投与:チョコラA 20万単位/日から開始し漸減する
  • 抗菌薬点眼を併用し感染を予防する
  • X1〜X2の段階では、全身的・局所的なビタミンA補給により角結膜上皮障害は著明に改善する

WHOは眼乾燥症(重度栄養不良・麻疹合併例を含む)に対し、高用量ビタミンAの経口投与を推奨している1)

対象1回投与量(IU)
0〜5か月50,000
6〜11か月100,000
12か月以上200,000

投与スケジュールは1日目、2日目、14日目の計3回である1)。吸収不良を伴う場合は筋肉内注射が推奨される1)4)。亜鉛欠乏を合併する場合は亜鉛の同時補充が必要である。

人工涙液・ヒアルロン酸点眼による眼表面の潤滑を行う。角膜穿孔例では全層角膜移植術が適応となる場合がある。無虹彩など輪部幹細胞不全を合併する複雑例では、高用量ビタミンA(200,000 IU)投与に加え抗緑内障薬・局所抗菌薬を併用する6)

Sharmaら(2021)はFrey手術後の12歳女児で、ビタミンA筋注+経口投与により2週間以内に角結膜所見が完全消失し、視力が20/20に回復したと報告した4)。血清レチノールは12週で正常化した。

Bitot斑は治療開始後約2週間で改善するが、夜盲の回復には少なくとも4週間を要する1)。角膜軟化症が生じた場合は回復が困難であり、瘢痕や恒久的視力障害が残る。角膜軟化症を発症した小児の約2/3は数か月以内に死亡するとされる。

Q 治療を開始すればどのくらいで改善しますか?
A

角膜乾燥症(X2)までの段階であれば、ビタミンA補充により2週間以内に眼所見が改善し、視力の完全回復が期待できる4)。Bitot斑も約2週間で改善するが、夜盲は4週間以上かかることがある1)。角膜軟化症に至った場合は不可逆的な瘢痕が残りうる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ビタミンAはレチノール・レチナール・レチノイン酸などの総称であり、食事から既成ビタミンA(動物性食品)またはプロビタミンAカロテノイド(緑黄色野菜)として摂取される。十二指腸で吸収されたのち、肝星細胞に体内総量の80〜90%が貯蔵される。血中へはプレアルブミン(トランスサイレチン)およびレチノール結合タンパク質(RBP)と結合して放出される。

眼におけるビタミンAの主要な機能は以下の2つである。

  • 眼表面上皮の維持:結膜・角膜上皮の正常な分化を制御する。ビタミンAはムチン4(MUC4)の合成を刺激し、結膜上皮のムチン分泌を促進する7)
  • 網膜の視覚サイクル:レチノールは桿体細胞のロドプシン形成に必須の補因子である。VADにより桿体機能が障害され、夜盲を生じる

VADが生じると、角結膜上皮でケラチノサイトトランスグルタミナーゼの過剰発現が起こり、異常な角化が進行する7)。この過程で杯細胞が消失し、ムチン分泌が低下する。

病態は以下の順序で段階的に進行する。

  1. 桿体細胞機能障害:ロドプシン形成不全→夜盲(XN)
  2. 結膜上皮の角化:杯細胞消失→結膜乾燥症(X1A)→Bitot斑形成(X1B)
  3. 角膜上皮の角化:角膜混濁→角膜乾燥症(X2)
  4. 角膜実質の壊死:液化壊死→角膜軟化症(X3A/B)
  5. 組織修復と瘢痕化:角膜瘢痕(XS)

角膜軟化症の段階ではコラゲナーゼ活性の亢進により角膜実質が急速に融解し、わずか数日で穿孔に至ることがある。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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TFOS DEWS IIIの報告では、経口ビタミンA補充がドライアイ患者の涙液の質を改善する一方、涙液量には影響しなかったとされる8)。局所ビタミンA点眼はより安定した涙膜安定性と眼表面の改善を示しており、シクロスポリンAとの併用療法も検討されている8)

Azmiら(2023)は自閉症児3例のVADによる重篤な眼乾燥症を報告し、視神経萎縮に至った不可逆的症例の存在を強調した2)。自閉スペクトラム症やダウン症など偏食リスクの高い小児に対する定期的な血清ビタミンA値スクリーニングの重要性が提唱されている。

肥満手術後の眼科的モニタリング

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Roux-en-Y胃バイパスなどの肥満手術後はVADリスクが高く、術後の眼表面変化に関するモニタリングの必要性が指摘されている7)。術後6週で35%にVADが認められたという報告もあり、早期発見・早期介入の体制構築が求められている。


  1. Khan Z, Cox V, Creagmile J, Oboh-Weilke A. Nyctalopia and Xerophthalmia in a Patient With Crohn’s Induced Vitamin A Deficiency. Cureus. 2023;15(8):e42961.
  2. Azmi AZ, Patrick S, Isa MIB, Ab. Ghani S. A Multifaceted Presentation of Xerophthalmia in Autistic Patients. Cureus. 2023;15(11):e49172.
  3. Ifwat A, Liew OH, Abdul Hamid H, Patrick S, Ab.Ghani S. Xerophthalmia in Picky Eater Children. Cureus. 2022;14(3):e22846.
  4. Sharma S, Murthy SI, Bhate M, Rathi V. Xerophthalmia due to vitamin A deficiency following Frey’s procedure for chronic calcific pancreatitis. BMJ Case Rep. 2021;14:e242710.
  5. Khan SI, Kumar A, Panda PK, Gupta N. Xerophthalmia with secondary malabsorption syndrome in a young lady. J Family Med Prim Care. 2021;10:3515-8.
  6. Magdum R, Rao RK, Ganesh A, Chaudhary N, Vatkar V. Unravelling the Enigma of Ocular Complexity: Delving into Aniridia, Xerophthalmia, Corneal Ulcer, Keratomalacia, and Beyond. Cureus. 2024;16(7):e64631.
  7. Markoulli M, Ahmad S, Engel L, Golebiowski B, Gomes JAP, Nichols K, et al. TFOS Lifestyle: Impact of nutrition on the ocular surface. Ocul Surf. 2023;29:226-271.
  8. Stapleton F, Abad JC, Engel L, Gomes JAP, Nichols KK, Schaumberg DA, et al. TFOS DEWS III Management and Therapy Report. Am J Ophthalmol. 2025;262:1-55.

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