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角膜・外眼部疾患

VZV実質性角膜炎・内皮炎

1. VZV実質性角膜炎・内皮炎とは

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水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)は、初感染で水痘を生じた後、三叉神経節を含む感覚神経節に潜伏感染する。この潜伏VZVが三叉神経第1枝(眼神経)領域で再活性化すると、眼部帯状疱疹(herpes zoster ophthalmicus: HZO)を発症する。HZOの角膜合併症として、実質性角膜炎(VZV-SK)と内皮炎(VZV-E)がある。

米国では成人の95〜99%がVZVに対して血清陽性である。帯状疱疹の罹患率は若年者で年間1,000人あたり1.2〜3.4人であるが、65歳以上では10〜14人に増加する。生涯のうち3人に1人が帯状疱疹を発症する。

帯状疱疹の10〜20%は三叉神経V1枝の関与によりHZOに分類される。眼症状を伴うHZO患者のうち、VZV-SKは6〜16%、VZV-Eは1〜7%に認められる。

鼻背・鼻尖部の皮疹はHutchinson徴候と呼ばれる。これは鼻毛様体神経の関与を示唆し、角膜炎を含む眼合併症の頻度が有意に高くなる。ただし、Hutchinson徴候がない場合でも眼合併症は生じうる。

Q VZV-SKとVZV-Eの違いは何か?
A

VZV実質性角膜炎(VZV-SK)は角膜実質の炎症を主体とし、貨幣状浸潤、角膜混濁、新生血管形成、瘢痕化を生じる。一方、VZV内皮炎(VZV-E)は角膜内皮を標的とした炎症であり、角膜後面沈着物(KP)と直上の角膜浮腫を特徴とする。VZV-Eは角膜内皮細胞の著しい減少を招き、不可逆的な角膜内皮不全に至る可能性がある。臨床的には両者が合併する場合があり、明確な区別が困難なこともある。VZV-SKの方が頻度が高く(HZOの6〜16%)、VZV-Eは比較的まれである(1〜7%)。

  • 視力低下:角膜混濁や浮腫により生じる。
  • 眼痛:炎症やぶどう膜炎合併に伴い生じる。
  • 羞明前房炎症を伴う場合に顕著となる。
  • 霧視:角膜浮腫による。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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VZV-SKおよびVZV-Eは、皮膚炎の発症から1ヶ月以内に現れることが多い。通常、10日以内に点状表層角膜症や偽樹枝状病変が先行する1)

VZV実質性角膜炎(VZV-SK)

前部実質性角膜炎:疾患の第2週目に最初に観察されることが多い。上皮直下の実質に貨幣状浸潤を認める。HSVによるものより小さく多発し、アデノウイルスによるものより大きく少ない。

深層実質性角膜炎:まれであるが、数ヶ月後に出現することがある。

慢性化:適切な治療がなされない場合、新生血管形成・角膜瘢痕化・脂肪沈着・免疫輪が出現する1)

VZV内皮炎(VZV-E)

角膜後面沈着物(KP):角膜浮腫に先行する場合がある。

角膜浮腫:KPの直上に一致して認められる。

前房炎症:軽度の前房内炎症を伴い、多くの場合ぶどう膜炎を合併する。

角膜内皮細胞の減少:著しい減少を招き、不可逆的な内皮不全に至る可能性がある。

形態特徴
線状KPが線状に配列
扇状角膜周辺部から扇形に浮腫
円板状角膜中央に円板状の浮腫
びまん性角膜全体の浮腫

VZV角膜炎には多彩な眼合併症が伴うことがある。濾胞性結膜炎虹彩炎(豚脂様KPを伴う肉芽腫性)、虹彩萎縮、強膜炎動眼神経麻痺網膜ぶどう膜炎、視神経炎続発緑内障などがある。特に虹彩萎縮は帯状ヘルペス角膜炎にかなり特徴的である。

帯状ヘルペスに伴う偽樹枝状角膜炎は、HSVによる樹枝状角膜炎との鑑別が重要である1)。VZVの偽樹枝状病変は小さく細く、1つの中心から四方に足を広げた形(caput Medusae)をとることが多い。HSVの樹枝状病変に特徴的なterminal bulbは認められず、フルオレセイン染色性が弱い。

Q HSV角膜炎とVZV角膜炎の偽樹枝状病変の鑑別点は?
A

HSVによる樹枝状病変はterminal bulb(先端の膨大部)を有し、フルオレセインに強く染色される。一方、VZVによる偽樹枝状病変はterminal bulbがなく、細くて小さい星芒状の形態を示す。また、VZVの偽樹枝状病変は角膜表層の隆起した病巣であり、中央に溝状陥凹がない点もHSVと異なる1)。VZVの偽樹枝状病変は通常4〜6日で消退するが、その後実質炎へ進行する可能性がある。臨床的に鑑別が困難な場合は、PCRによるウイルスDNAの検出が有用である1)

VZVの初感染は水痘の形で生じる。VZVは上気道に感染後、ウイルス血症を経て全身に水疱を形成する。終息後、HSVと同様に各神経節に潜伏感染が成立する。VZVはHSVと異なり、神経節の外套細胞(satellite cell)に潜伏感染しているとされる。そのため再活性化時には他の神経細胞にも感染が広がり、HSVに比べて病変範囲が広い。

  • 加齢:65歳以上で帯状疱疹の罹患率が著明に増加する。
  • 免疫抑制:HIV感染、担癌者、ステロイド・免疫抑制薬の長期使用。
  • 発熱・手術・外傷:さまざまなストレスが再活性化の契機となる。
  • 水痘ワクチン接種者:自然感染と比較して生涯免疫が弱い可能性がある。
  • Hutchinson徴候:鼻毛様体神経の関与を示し、眼合併症のリスクが有意に高い。
  • 皮疹の重症度:皮疹の重症度と眼合併症出現リスクには必ずしも相関がない。皮疹を伴わない無疱疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)でも眼合併症が生じうる。

三叉神経V1枝領域(額・眼瞼・鼻)に沿った片側性の痛みを伴う水疱性発疹というHZO特有の臨床像は、通常、診断に十分である。前駆症状として患側の眼・額・頭頂部の片側性の痛みや知覚過敏が現れることがある。

  • PCR:前房水や涙液からVZV-DNAを検出する。VZVではHSVと異なりspontaneous sheddingがないと考えられるため、DNAが検出されれば病因である可能性が高い1)。ただし、眼部帯状疱疹後数ヶ月間は涙液からVZV-DNAが検出されることがある。
  • 血清抗体価CF抗体価32倍以上が最近の感染を示唆する。HSVと異なり、VZVの血清抗体価は帯状疱疹に伴って上昇するため診断に有用である。
  • ツァンク試験:角膜擦過物で多核巨細胞を確認できるが、HSVとVZVの区別は不可能である。
  • 免疫蛍光測定法:VZV特異的IgMの検出に使用可能である。
鑑別疾患鑑別のポイント
HSV角膜炎terminal bulbあり、再発頻度高い
サイトメガロウイルス角膜内皮炎coin lesion、アシクロビル抵抗性1)
細菌性角膜炎膿性浸潤、急速進行2)
アカントアメーバ角膜炎放射状角膜神経炎、激痛2)
Zosteriform simplex神経痛なし、瘢痕を残さない1)

VZVを含むヘルペスウイルスは、免疫介在性の角膜浸潤を生じ、細菌性・真菌性・アカントアメーバ角膜炎に類似した所見を呈しうる2)

Q 皮疹のない帯状疱疹(zoster sine herpete)はどう診断するか?
A

Zoster sine herpete(ZSH)は皮疹を伴わず、神経痛や眼症状のみで発症する帯状疱疹の亜型である。臨床的に皮疹がないため診断が困難となる。片側性の神経痛の存在が重要な手がかりとなる。確定診断には前房水のPCRによるVZV-DNAの検出が不可欠である1)。HSVによるzosteriform simplex(帯状疱疹様の形をとる単純疱疹)との鑑別も必要であるが、zosteriform simplexでは神経痛を伴わず、皮疹が瘢痕を残さずに治癒する点が異なる1)

帯状疱疹の急性期には、VZVの複製を制限するために経口抗ウイルス薬を使用する。症状発現から72時間以内の開始が推奨される1)

  • バラシクロビル:1回1,000 mg、1日3回、7日間。アシクロビルと比較して投与回数が少なく、痛みや神経炎の消失を加速させる。
  • アメナメビル:1日1回400 mg。日本で使用可能な新規抗ウイルス薬である。
  • アシクロビル:1回800 mg、1日5回、7日間。免疫不全者では10 mg/kgの点滴静注を考慮する。

ステロイド点眼

実質性角膜炎:重症度に応じたステロイド点眼を使用する1)。HSVによる実質型角膜ヘルペスに比べ、高濃度のステロイド点眼が必要になる場合が多い1)

内皮炎:実質型に準じて治療する1)

漸減の重要性:急な中止は再燃を招く。月単位でゆっくりと投与量を減らし、低用量のステロイドが半永久的に必要となる可能性がある。

抗ウイルス薬の併用

アシクロビル眼軟膏:1日5回点入。ステロイド点眼とともに必ず併用する1)

バラシクロビル内服:ウイルスの再活性化予防目的で併用する。

ZEDS研究:12ヶ月間の抑制的低用量バラシクロビルは角膜炎の新規発症を遅延させなかったが、18ヶ月時点では治療の優位性が示された。

実質性角膜炎に対する処方例(併用)1):

  • ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液 0.1% 1日5回点眼(重症例。軽症例ではフルオロメトロン0.1%から開始)
  • アシクロビル眼軟膏 3% 1日5回点入
  • 上皮欠損を伴う場合は、ステロイド点眼の代わりにステロイド内服を使用する

薬物療法で改善しない角膜瘢痕に対しては角膜移植術を検討する。深層前層角膜移植術(DALK)または全層角膜移植術PKP)が選択肢となる。より長い静止期間(平均85〜112ヶ月)が移植片の成功率と透明性維持に関連する。重度のドライアイや神経麻痺性角膜症を伴う症例では側方眼瞼縫合術の併用を検討する。

Q 帯状ヘルペス角膜炎でステロイド点眼はなぜ積極的に使用してよいのか?
A

帯状ヘルペス角膜炎は、ウイルス増殖よりも免疫反応が主な病態である。加えて、HSV角膜炎と異なりVZV角膜炎の再発はまれである。そのため、HSV角膜炎よりもステロイド点眼を積極的に使用してよいとされる。ただし、帯状ヘルペス角膜炎は遷延・再燃することが多く、短期間でステロイドを中止すると再燃する。漸減しつつ比較的長期に使用する必要がある。アシクロビル眼軟膏の回数は少なくてよいが必ず併用する1)。偽樹枝状角膜炎がある場合でも、VZVによるものであればステロイド点眼薬の使用は問題ない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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VZV-SKにおける角膜実質の損傷は、ウイルスの直接的な細胞溶解活性よりも、免疫介在性の炎症反応に起因すると長年考えられてきた。前部実質性角膜炎に認められる貨幣状浸潤は、ウイルス抗原に対する免疫介在性反応と考えられている。

近年の研究により、角膜におけるVZVの直接感染の可能性が示唆されている。角膜実質内でのVZV-DNAの存在や角膜実質細胞(keratocyte)内でのウイルスキャプシドの存在が証明されている。HZO発症から10年後まで角膜実質からVZV-DNAが検出された報告もあり、角膜がウイルスの長期的な貯蔵庫として機能している可能性がある。

Comoらの研究では、ヒト角膜実質細胞へのVZV感染が広範な細胞死と炎症経路のダウンレギュレーションを引き起こすことが実証された。

VZV-Eにおける内皮細胞への直接的なウイルス侵入については証拠が限られている。ある症例報告では内皮細胞内にウイルスキャプシドが発見されており、感染から10年後まで近傍の血管周囲領域でVZV-DNAが検出されている。前房フレアやKP形成の前に内皮損傷が生じたように見えた症例もあり、直接的な内皮へのウイルス侵入の可能性が示唆されている。

HSVは神経細胞自体に潜伏感染し、再活性化は脳神経節や仙骨神経節に限局することが多い。一方、VZVは神経節外套細胞に潜伏し、神経軸全体に沿って潜伏を確立しうる。VZVは細胞外に出るとすぐに不活化されるため、再発時の皮疹は神経末端に直接到達したものであり、皮膚表面での拡大は少ない。

組換え帯状疱疹ワクチン(Shingrix)は、50歳以上の免疫能が正常な成人に2回接種で推奨される。60歳以上を対象とした生ワクチンの観察研究では、眼病変のリスクがほぼ2/3減少した。

ただし、細胞性免疫の増強は、角膜内に持続するウイルス抗原に反応して実質性角膜炎の再発を誘発する可能性がある。VZV角膜炎の既往がある患者では、ワクチン接種前に少なくとも1年間の静止期間を置くことが推奨される。

帯状疱疹眼疾患研究(Zoster Eye Disease Study: ZEDS)は、HZO後の角膜炎・虹彩炎の予防における低用量バラシクロビルの有効性を検討した。12ヶ月の治療期間では新規または悪化する角膜炎の遅延は証明されなかったが、18ヶ月時点では治療の優位性が示され、角膜炎・虹彩炎の複数回エピソードの減少が認められた。

VZV-DNAがHZO発症から10年後まで角膜実質から検出される報告があり、角膜が将来の再発のための貯蔵庫として機能している可能性が示唆されている。再発性角膜炎においてウイルスが角膜から再活性化するのか、あるいは感覚神経節に近い部位から再活性化するのかは、今後の研究課題である。

  1. 日本眼感染症学会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 日眼会誌. 2023;127(6):467-520.
  2. American Academy of Ophthalmology Cornea/External Disease PPP Panel. Bacterial Keratitis Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024;131(1):P1-P47.

本記事は上記のガイドラインおよび日本の標準的な眼疾患教科書に基づいて作成されています。


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