臨床診断
WHOグレーディング:流行地域ではTF〜COの5段階で臨床的に病期を分類する。特に上眼瞼の翻転所見が重要である。
MacCallan分類:初期・確立期・瘢痕期・治癒期の4段階で臨床経過を評価する。
特異的所見:Herbert窩(輪部濾胞の吸収後陥凹)はトラコーマに特異的である。Arlt線(瞼結膜の水平線状瘢痕)も診断の手がかりとなる。

トラコーマ(trachoma)は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)による反復的な眼表面感染症である。世界で最も一般的な感染性の失明原因であり、予防可能な失明の主要原因の一つである1)。
C. trachomatisは偏性細胞内寄生のグラム陰性菌である1)。感染性の基本小体(elementary body)と非感染性の網様体(reticulate body)を交互にとる二相性発育サイクルを有する1)。眼型セロタイプA、B、Ba、Cがトラコーマの原因となる。性器感染型セロタイプD〜Kは封入体結膜炎や新生児結膜炎を引き起こすが、通常は失明に至らない。
臨床症状の違いから、C. trachomatisによる結膜炎はトラコーマと封入体結膜炎に大別される。本邦ではトラコーマは現在ほとんどみられない。一方、衛生環境の整備が不良な国々では風土病として残存しており、WHOのVision 2020の対象疾患でもある。
1956年に湯飛凡(Feifan Tang)教授と張暁楼(Xiaolou Zhang)教授がトラコーマの病原体としてC. trachomatisを初めて同定した。
WHOの報告では、トラコーマは38カ国以上で流行しており、失明症例の多くはアフリカに集中している。推定2,100万人が活動性トラコーマを有し、190万人が視覚障害または失明に至っている。730万人が睫毛乱生に罹患し、失明リスクにさらされている。トラコーマによる視覚障害者数は1990年の440万人から2019年には250万人へと大幅に減少した。
活動性トラコーマは幼児に最も多い。加齢とともに有病率は低下する。瘢痕化や睫毛乱生は女性に多く、幼児の世話を通じた曝露時間の長さが関与する。
トラコーマと封入体結膜炎はいずれもC. trachomatisが原因であるが、関与するセロタイプが異なる。トラコーマは眼型セロタイプA〜Cによる反復感染で生じ、結膜瘢痕化から失明に至りうる。一方、封入体結膜炎は性器感染型セロタイプD〜Kが原因であり1)、性行為感染症として成人に発症し、一般に失明には至らない。ompA遺伝子型解析により両者の鑑別が可能である1)。本邦ではトラコーマはほぼ消失しているが、封入体結膜炎(クラミジア結膜炎)は現在も性感染症として問題となっている。
多くの患者は無症状または軽度の症状にとどまる。
トラコーマの臨床所見は、活動性疾患と瘢痕期に大別される。
活動性疾患の所見
瘢痕期の所見
| 分類 | 所見 |
|---|---|
| TF(濾胞性炎症) | 上瞼結膜に5個以上の濾胞(>0.5 mm) |
| TI(強度炎症) | 瞼結膜肥厚、深層血管の半分以上不可視 |
| TS(瘢痕) | 瞼結膜に瘢痕を認める |
| TT(睫毛乱生) | 1本以上の睫毛が眼球に接触 |
| CO(角膜混濁) | 瞳孔領上に角膜混濁を認める |
従来の臨床経過分類として以下の4期がある。(1)初期トラコーマ、(2)確立されたトラコーマ(濾胞増殖型・乳頭増殖型)、(3)瘢痕性トラコーマ、(4)瘢痕治癒トラコーマ。トラコーマは約1週間の潜伏期をおいて急性に発症する。
C. trachomatisの眼型セロタイプA、B、Ba、Cがトラコーマの原因である。外膜タンパク質A(ompA)遺伝子の塩基配列の多様性に基づき、菌株の分類が可能である1)。ompA遺伝子型A〜Cはトラコーマを引き起こし、D〜Kは泌尿生殖器感染を引き起こす1)。
感染は眼脂との直接接触やハエの媒介により伝播する。
ompA遺伝子はC. trachomatisの外膜主要タンパク質をコードする遺伝子であり、4つの可変領域(VS I〜IV)に広範な塩基配列の多様性を有する1)。この多様性に基づく遺伝子型分類により菌株の鑑別が可能である。遺伝子型A〜Cはトラコーマ原因株、D〜Kは泌尿生殖器感染株に対応する1)。小児のクラミジア結膜炎においてompA遺伝子型解析を行うことで、トラコーマ由来か性的虐待由来かの鑑別に有用であることが報告されている1)。
臨床診断
WHOグレーディング:流行地域ではTF〜COの5段階で臨床的に病期を分類する。特に上眼瞼の翻転所見が重要である。
MacCallan分類:初期・確立期・瘢痕期・治癒期の4段階で臨床経過を評価する。
特異的所見:Herbert窩(輪部濾胞の吸収後陥凹)はトラコーマに特異的である。Arlt線(瞼結膜の水平線状瘢痕)も診断の手がかりとなる。
検査法
細胞診:結膜擦過物のギムザ染色またはDiff-Quick染色で上皮細胞質内の封入体(Prowazek小体)を確認する。単核球より多核白血球が優位であり、Leber細胞や形質細胞も認める。
核酸増幅検査(NAAT):感度・特異度とも優れる。臨床研究で使用されるが、国家的排除プログラムでの使用はまだ十分な根拠がない。
ompA遺伝子型解析:PCR法によりC. trachomatis株のompA遺伝子型を同定し、トラコーマ株(A〜C)と泌尿生殖器株(D〜K)を鑑別する1)。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 封入体結膜炎 | セロタイプD〜K、性感染症関連 |
| アデノウイルス結膜炎 | 急性発症、流行性、初期鑑別が困難 |
| 薬物中毒性結膜炎 | 点眼薬長期使用歴、薬剤中止で改善 |
WHOグレーディングシステムは流行地域での疫学調査と治療方針決定に用いる。上眼瞼を翻転し結膜を観察する。TF(濾胞5個以上、>0.5 mm)とTI(深層血管の半分以上不可視)は活動性感染を示し、抗菌薬治療の対象となる。TS(結膜瘢痕)は瘢痕期への移行を示す。TT(睫毛乱生)は手術適応を判断する指標となる。CO(瞳孔領の角膜混濁)は視力障害の程度を評価する。各グレードは重複しうる。
内科的治療
アジスロマイシン単回経口投与:活動性トラコーマに対する第一選択である。簡便で服薬遵守率が高い。アジスロマイシン点眼薬(1日2回、3日間)も同等の効果が報告されている。
テトラサイクリン系眼軟膏:歴史的に使用されてきた局所治療であり、長期投与を要する。
集団抗菌薬療法:流行地域では集団投与が実施されている。大きな成果が得られているが、抗菌薬耐性も認識されつつある。
外科的治療
睫毛乱生手術:睫毛や眼瞼縁を角膜から遠ざける処置である。瞼板骨折術(tarsal fracture technique)が代表的である。
後層増量術:再発症例に対する追加的外科的介入として検討される。
抜毛・電気脱毛:侵襲的手術の代替として、特定の患者で眼表面障害を軽減する簡便な方法である。
眼瞼・眼表面の清潔維持、人工涙液の積極的使用、二次感染に対する抗菌薬投与を行う。角膜混濁が高度な場合は角膜移植術の適応となるが、流行地域でのアクセスは限られる。
SAFE戦略はWHOが1997年に策定したトラコーマ撲滅のための包括的アプローチである。Sは睫毛乱生に対する手術(Surgery)、Aは感染に対する抗菌薬(Antibiotics)、Fは顔面の清潔(Facial cleanliness)、Eは環境改善(Environmental change)を指す。抗菌薬と手術による治療的介入と、衛生・環境改善による予防的介入を統合した戦略であり、GET2020(現GET2030)として世界的に推進されている。
トラコーマによる失明は、数か月から数年にわたる活動性感染の反復により生じる。初期感染は結膜上皮に限局し、免疫反応を誘発して結膜濾胞として現れる。反復感染に伴う炎症反応が組織破壊と線維化を引き起こす。線維組織の収縮により瘢痕性眼瞼内反が生じ、睫毛が角膜に接触する。角膜びらん・潰瘍・瘢痕化・血管新生が進行し、最終的に角膜混濁と失明に至る。
活動性炎症期には結膜のびまん性混合炎症細胞浸潤と間質内リンパ濾胞を認める。リンパ濾胞はトラコーマの組織学的特徴である。軽度から中等度の上皮増殖も認める。
瘢痕期には結膜固有層にリンパ球主体の慢性炎症浸潤を認める。結膜上皮は扁平上皮化生や萎縮を示す。間質は厚く緻密な無血管の瘢痕組織に置換される。
角膜上方からの血管侵入(パンヌス)が特徴的である。輪部濾胞の吸収後にHerbert窩が形成される。瘢痕性睫毛乱生による持続的な角膜刺激が角膜びらん・潰瘍・混濁を進行させる。
WHOが推進するSAFE戦略と国際的な協調努力により、ベナン、ガンビア、ガーナ、カンボジア、中国、イランなどの多数の国がトラコーマの公衆衛生上の排除を達成した。トラコーマによる視覚障害者数は1990年の440万人から2019年の250万人へと減少している。
流行地域での年1回アジスロマイシン集団投与に加え、高リスク地域での年2回投与が検討されている。抗菌薬耐性の監視も課題である。
ompA遺伝子型解析は菌株の疫学的追跡に有用であるが、現在は研究目的での使用にとどまる1)。流行地域からの移住者におけるトラコーマ診断や、小児結膜炎の原因鑑別への応用が報告されている1)。
- Mitchell A, Patel M, Manning C, Abbott J. Reducing suspicion of sexual abuse in paediatric chlamydial conjunctivitis using ompA genotyping. BMJ Case Rep. 2021;14:e238871.
本記事は上記論文に加え、日本の眼科診療ガイドラインおよび標準的な眼疾患教科書に基づいて作成されています。