臨床診断
病歴聴取:点眼麻酔薬の使用歴を慎重に聴取する。患者がしばしば使用を隠すため、高い疑いを持つことが重要である。
細隙灯顕微鏡検査:上皮欠損、輪状実質浸潤、実質浮腫、デスメ膜皺襞、前房蓄膿の有無を確認する。
角膜掻爬・培養:浸潤と眼内炎症を呈するため、感染性角膜炎を除外する目的で角膜掻爬と培養を行う。

点眼麻酔薬乱用角膜症(topical anesthetic abuse keratopathy)は、テトラカイン、プロパラカイン、オキシブプロカイン、リドカインなどの点眼麻酔薬を繰り返し自己使用することにより生じる角膜障害である。自己誘発性眼損傷の中で最も破壊的な形態の一つであり、角膜穿孔や視力喪失に至ることがある。
1884年にCarl Kollerがコカイン水溶液を用いた点眼麻酔を開発した。Sigmund Freudの論文「Ueber Coca」からの着想に基づき、まず動物の角膜で、次いで自身と友人でテストを行ったことが端緒となった。
依存行動を有する患者、薬剤へのアクセスが容易な医療従事者、精神疾患の併発がリスク因子である。屈折矯正手術後に疼痛管理目的で処方された点眼麻酔薬の乱用も報告されている。市販薬として入手可能な地域では、さらにリスクが高まる。
屈折矯正手術(LASIK等)後には角膜神経が切断されるため一時的な疼痛が生じる。術後の疼痛管理目的で点眼麻酔薬が処方されることがあり、即効性の鎮痛効果から依存が生じうる。痛みの軽減を求めて使用頻度が増加し、角膜上皮障害がさらなる疼痛を惹起するという悪循環に陥る。プライマリケア医や救急医による安易な処方も医原性の要因となる。
点眼麻酔薬はアミド型またはエステル型に分類される。いずれも神経細胞内のナトリウムチャネルを遮断し、活動電位の発生を阻止することで神経伝導を停止させる。
角膜表面への毒性機序として、カルモジュリンを介した経路でビンキュリンおよびアクチンフィラメントが損傷され、角膜上皮細胞の移動および分裂能が阻害される。
電子顕微鏡では微絨毛の消失、細胞膜への麻酔薬の沈着、および脱落(desquamation)の増加が観察される。デスモソームの数が減少し、細胞破裂の傾向が増加する。角膜実質および内皮にも同様の形態学的変化が生じるとの報告がある。
点眼麻酔薬に含まれる塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤も眼表面の毒性に寄与する可能性がある。
臨床診断
病歴聴取:点眼麻酔薬の使用歴を慎重に聴取する。患者がしばしば使用を隠すため、高い疑いを持つことが重要である。
細隙灯顕微鏡検査:上皮欠損、輪状実質浸潤、実質浮腫、デスメ膜皺襞、前房蓄膿の有無を確認する。
角膜掻爬・培養:浸潤と眼内炎症を呈するため、感染性角膜炎を除外する目的で角膜掻爬と培養を行う。
鑑別診断のポイント
アカントアメーバ角膜炎との類似性:両疾患とも所見に不釣り合いな強い疼痛を訴え、輪状浸潤を呈し、抗菌薬に反応しない。点眼麻酔薬乱用角膜症はアカントアメーバ角膜炎と誤診されることが多い。
感染性角膜炎の除外:細菌性、真菌性、ヘルペス性角膜炎を鑑別する。培養陰性であり抗菌薬に反応しないことが診断の手がかりとなる。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| アカントアメーバ角膜炎 | 培養・PCRで鑑別、使用歴聴取 |
| 細菌性角膜炎 | 培養陽性、抗菌薬に反応 |
| ヘルペス性角膜炎 | 樹枝状潰瘍、片眼性が多い |
両疾患は臨床像が類似するため鑑別が困難である。いずれも所見に不釣り合いな強い疼痛、輪状浸潤、抗菌薬への非反応性を示す。鑑別には点眼麻酔薬の使用歴の詳細な聴取が最も重要である。角膜掻爬・培養でアカントアメーバが検出されなければ麻酔薬乱用を強く疑う。医療従事者であること、屈折矯正手術歴、精神疾患の併存もリスク因子として確認する。点眼麻酔薬の中止により改善が得られることが診断的治療となる。
点眼麻酔薬の即時中止が最も重要である。他の点眼薬も可能な限り中止し、眼表面への毒性を除去する。
点眼麻酔薬中止後の疼痛には、経口鎮痛薬を用いる。疼痛が強い場合には球周麻酔、球後麻酔、またはテノン嚢下注射による局所麻酔を検討する。
薬剤使用の中断を確実にするため、入院管理を検討する。依存行動や精神疾患が背景にある場合は精神科受診を手配する。
併発している感染性角膜炎を除外する。上皮欠損に対しては人工涙液や眼軟膏による上皮保護を行う。ステロイド点眼は角膜菲薄化を助長する可能性があるため、通常は回避する。
角膜損傷が高度で不可逆的な場合には角膜移植術の適応となるが、視力予後は不良な場合がある。
点眼麻酔薬はカルモジュリンを介した機序でビンキュリンおよびアクチンフィラメントを損傷する。これにより角膜上皮細胞の移動能と分裂能が阻害され、上皮の修復機構が破綻する。正常な角膜上皮のターンオーバーが維持できなくなり、遷延性上皮欠損が生じる。
デスモソームの数が減少し、細胞間の接着が弱まる。微絨毛が消失することで涙液層との相互作用が障害され、眼表面の恒常性が破綻する。
角膜実質にも形態学的変化が生じ、実質浮腫や輪状浸潤の原因となる。内皮への障害はデスメ膜皺襞として臨床的に観察される。
薬剤毒性による角膜障害は点状表層角膜症から始まり、渦巻き角膜症(ハリケーン角膜症)、epithelial crack line、遷延性角膜上皮欠損へと段階的に重症化する。輪部機能不全に至った場合は角膜上皮幹細胞の疲弊により予後不良となる。
点眼麻酔薬は角膜上皮細胞の移動・分裂を直接阻害するため、繰り返し使用すると角膜上皮の修復機構が破綻する。即効性の鎮痛効果があるため依存が生じやすく、疼痛→使用→上皮障害→さらなる疼痛という悪循環に陥る。重症化すると輪状浸潤、実質浮腫、前房蓄膿を呈し、角膜移植が必要になることもある。角膜上皮障害をかえって悪化させるため、疼痛管理には経口鎮痛薬を用いるべきである。
本記事は日本の眼科診療ガイドラインおよび標準的な眼疾患教科書に基づいて作成されています。