眼科検査
細隙灯顕微鏡検査:上方球結膜のひだ・充血・弛緩・糸状物形成を確認する。上眼瞼の翻転が不可欠である。
生体染色検査:フルオレセイン(ブルーフリーフィルター併用推奨)、ローズベンガル、リサミングリーンで上方球結膜・輪部・角膜上方の点状染色を評価する。
インプレッションサイトロジー:結膜上皮の角化を証明する。蛇行した核クロマチン濃縮像(snake-like appearance)が診断上有用である。

上輪部角結膜炎(superior limbic keratoconjunctivitis: SLK)は、上方の球結膜および輪部を主座とする限局性の慢性炎症性眼表面疾患である。1963年にFrederick Theodoreにより初めて報告された。
50歳以上に好発し、男女比は1:3で女性に多い。SLKの20〜50%に甲状腺疾患が合併する。ただし甲状腺眼症からみたSLKの合併率は約3%と低い。甲状腺眼症では本症の約8%にSLKがみられるとの報告もある。涙液減少型ドライアイは25%に認められる。
コンタクトレンズ(CL)装用者で同様の所見を呈する場合はcontact lens related SLK(CL-SLK)として区別される。フィッティング不良や上眼瞼圧の上昇が原因となる。
甲状腺機能亢進症に伴う眼球突出では、上眼瞼の圧が相対的に高くなる。この結果、上眼瞼裏面と上方角結膜の摩擦が亢進し、SLKが惹起される。SLK患者の20〜50%に甲状腺疾患が合併するため、SLKと診断した場合は甲状腺機能検査を行うことが推奨される。
病因は不明である。最も支持されている仮説は、Wrightが提唱した摩擦説である。上方球結膜の弛緩により、瞬目時に上眼瞼結膜と上方球結膜の間に絶え間ない摩擦が生じる。この摩擦が初期要因となりSLKが発症すると考えられている。
摩擦亢進の上流には以下の因子が関与する。
| 要因 | 機序 |
|---|---|
| 上方球結膜の弛緩 | 瞬目時の摩擦面積が増大 |
| 甲状腺機能亢進症 | 眼球突出による相対的眼瞼圧上昇 |
| 涙液減少 | 潤滑不足による摩擦亢進 |
| 高い眼瞼圧 | 眼瞼下垂手術後にも生じうる |
病変部では上皮の分化障害が扁平上皮化生を招き、杯細胞が減少する。これがさらなる摩擦亢進を生じ、炎症が遷延する悪循環が形成される。
眼科検査
細隙灯顕微鏡検査:上方球結膜のひだ・充血・弛緩・糸状物形成を確認する。上眼瞼の翻転が不可欠である。
生体染色検査:フルオレセイン(ブルーフリーフィルター併用推奨)、ローズベンガル、リサミングリーンで上方球結膜・輪部・角膜上方の点状染色を評価する。
インプレッションサイトロジー:結膜上皮の角化を証明する。蛇行した核クロマチン濃縮像(snake-like appearance)が診断上有用である。
全身検査
甲状腺機能検査:T₃・T₄・TSHに加え、甲状腺刺激抗体・抗ペルオキシダーゼ抗体・TSHレセプター抗体を検査する。
シルマー試験:ドライアイ合併の評価に有用である。
自己免疫検査:Sjögren症候群や関節リウマチが疑われる場合に抗SS-A・抗SS-B抗体等を検討する。
Sjögren症候群では強い球結膜上皮障害を認めるが、SLKと異なり輪部の肥厚や充血を伴わないことが多い。CL-SLKはCL装用者に生じるSLK類似病変である。その他、アレルギー性結膜炎、甲状腺眼症、フロッピーアイリッド症候群、トラコーマなどとの鑑別が必要である。
上眼瞼を十分に翻転させて上方球結膜を観察することが最も重要である。SLKの病変は上方に限局するため、翻転なしでは見逃しやすい。フルオレセイン染色(ブルーフリーフィルター使用)またはリサミングリーン・ローズベンガル染色で上方球結膜の上皮障害を確認する。
SLKの治療にゴールドスタンダードはない。段階的に治療を組み合わせる。
軽症例:防腐剤無添加人工涙液、ヒアルロン酸ナトリウムの単独または併用に、低力価ステロイド(0.1%フルオロメトロン)を加える。
軽〜中等症:レバミピド(ムコスタ®)点眼またはジクアホソルナトリウム(ジクアス®)点眼を主軸とする。レバミピドによる摩擦軽減が有効である。ただし糸状角膜炎を伴う例ではジクアホソルにより角膜糸状物が増加することがあるため注意が必要である。
重症例:レバミピドとステロイド点眼を併用する。
涙液減少型ドライアイの合併例では上・下涙点プラグ挿入術が有効である。涙液減少がなければ流涙を訴えることがあるため上方のプラグ挿入にとどめる。
治療用ソフトコンタクトレンズは摩擦防止に有用である。自己血清点眼(50%濃度)はビタミンA・EGF・TGF-β等の栄養因子を供給し、眼表面の増殖・分化を維持する。BCL(バンデージコンタクトレンズ)と自己血清点眼の併用により、ドライアイとマイボーム腺機能不全を合併した難治性SLKで2年間の寛解が得られた報告がある1)。
上記の保存的治療で改善が得られない場合、上方球結膜弛緩を伴っていれば上方の結膜弛緩症手術(結膜切除術)の適応がある。病変部の結膜下テノン嚢の除去と弛緩結膜の切除を行い、球結膜と強膜の炎症性癒着を図る。術後の再発がなく長期予後は良好である。
若年者や将来濾過手術を必要とする可能性がある緑内障合併例では、手術の適応を慎重に決定する。高齢者で上方結膜弛緩があり緑内障がない例は良い適応である。
SLKは寛解と増悪を繰り返す慢性疾患であるが、加齢とともに頻度は減少する傾向がある。病期は1〜10年とされる。強い結膜炎症を伴うため、長期的には炎症性の瘢痕形成により自然寛解に向かうことがある。上方結膜弛緩症手術は結膜と強膜のタイトな接着が得られるため、術後再発がなく長期予後が良好である。
上方球結膜の弛緩により、瞬目時に上眼瞼裏面と上方球結膜・輪部の間に機械的摩擦が生じる。この摩擦が炎症を惹起し、上皮の過増殖と分化障害を招く。分化障害により扁平上皮化生が生じ、杯細胞が減少する。杯細胞の減少は眼表面のムチン層を薄くし、さらに摩擦を亢進させる。このようにして悪循環が形成される。
SLK罹患結膜では以下の分子変化が報告されている。
上皮角化:サイトケラチン10・13・14の発現増加と増殖細胞核抗原(PCNA)の発現増加が認められ、結膜上皮の異常分化と過剰増殖が示されている。
TGF-β2・テネイシンの発現上昇:いずれも機械的外傷により誘導される因子であり、SLKの起源としての微小外傷説を支持する。
ムチン様糖タンパク質の減少:角化した上方球結膜上皮ではムチン様糖タンパク質のレベルが低下している。ビタミンA点眼やバンデージコンタクトレンズによる治療後にこれらのレベルが正常化する。
上皮細胞の角化、角化不全(dyskeratosis)、棘細胞増殖(acanthosis)、核のバルーン様変性が認められる。実質には多核白血球、形質細胞、肥満細胞、リンパ球の浸潤がみられる。
上眼瞼は下眼瞼より眼球への圧迫力が強い。さらに上方球結膜に弛緩があると、瞬目のたびに上眼瞼裏面と弛緩結膜の間に顕著な摩擦が生じる。甲状腺機能亢進症による眼球突出がある場合はこの摩擦がさらに増強する。これにより上方に限局した慢性炎症が惹起される。