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角膜・外眼部疾患

結膜下出血

結膜下出血(subconjunctival hemorrhage: SCH)は、結膜血管からの出血が結膜下に貯留した状態である。表層の結膜とテノン嚢の間に位置する結膜下腔の血管が破綻し、しばしば平坦な出血領域として出現する。重症例では水疱状に膨隆することもある。

眼科的な懸念で受診する全患者の約3%を占める。65歳以上では10.1%に達する。日本の充血患者8,726人を対象とした研究では2.9%に結膜下出血が認められた。年齢や性別による有意な偏りは報告されていない。

Q 結膜下出血は危険な病気か?
A

単独の結膜下出血は良性であり、視力に影響しない。通常1〜4週間で自然吸収する。ただし再発する場合や長期間消退しない場合は、高血圧・糖尿病・血液凝固異常・腫瘍など重篤な全身疾患が隠れている可能性がある。カポジ肉腫が結膜下出血に偽装して発見された報告もある1)

結膜下出血の細隙灯写真
結膜下出血の細隙灯写真
Celebi ARC, Aygun EG. A rare cause of recurrent subconjunctival hemorrhage: ocular vicarious menstruation. GMS Ophthalmology Cases. 2023 Jan 30; 13:Doc05. Figure 1. PMCID: PMC9979076. License: CC BY.
細隙灯写真で球結膜下に鮮紅色の出血が広範に広がっている。境界明瞭な結膜下出血が角膜を避けて分布する典型的な外観である。
  • 多くは無症状:結膜下出血単独では痛みや視力低下を伴わない。
  • 異物感ドライアイ関連症状を訴える場合がある。
  • 充血の自覚:鏡を見て気づく、あるいは他者から指摘されて受診することが多い。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 出血斑:球結膜下に鮮血色あるいは暗赤色の出血斑が透見される。点状・しみ状の限局したものから球結膜全体に広がるものまでさまざまである。吸収過程でピンク・オレンジ・黄色に変色する。
  • 出血の局在:上結膜より下結膜に多い。外傷や糖尿病では鼻側より耳側が多い。
  • 水疱状隆起:重症例では水疱状(bullous)に膨隆し、閉瞼困難となることがある。重症血友病A患者の硝子体内注射後に360度の水疱状結膜下出血を生じ、閉瞼不能となった報告がある2)
  • 合併所見:充血・眼脂・結膜裂傷・前房出血虹彩炎を伴う場合は、外傷・打撲・感染性結膜炎など原疾患の精査が必要である。

結膜血管の損傷によりテノン嚢と結膜の間に出血が生じる。高齢者ではテノン嚢と結膜の間の弾性組織・結合組織が脆弱であるため出血が広がりやすい。

リスク因子機序
特発性(約40%)原因不明
外傷結膜血管への直接的損傷
全身性高血圧50歳以上の主要原因
糖尿病微小血管損傷による脆弱化8)
抗凝固薬ワルファリン服用者のSCH発生率3.7%、非服用者1.7%7)
バルサルバ手技静脈圧上昇による血管破綻
結膜弛緩症摩擦亢進による結膜血管損傷

外傷性窒息:胸腹部の突然の圧迫により右心房から弁のない無名静脈・頸静脈へ血液が逆流し、頭頸部に点状出血と結膜下出血を生じる。「masque ecchymotique(エキモーゼ仮面)」と呼ばれる。小児では非常にまれであるが、トラクター転落後に両側結膜下出血と顔面浮腫を呈した症例が報告されている6)

腫瘍:結膜下出血に偽装したカポジ肉腫が報告されている。34歳男性がHIV未診断のまま3か月間の自然発症左眼充血で受診し、下耳側円蓋部にカポジ肉腫が発見された1)。再発性結膜下出血は海綿状血管腫・リンパ腫などの腫瘍の初発症状となりうる。

全身性エリテマトーデス(SLE):結膜下出血を契機にSLEおよび抗リン脂質抗体症候群が診断された症例が報告されている。高血圧(140/110mmHg)、腹部静脈怒張、蝶形紅斑を伴い、下大静脈血栓症・Budd-Chiari症候群と診断された3)

眼性代償性月経(ocular vicarious menstruation):月経に伴い毎月再発する結膜下出血のきわめてまれな原因である。子宮外のエストロゲン・プロゲステロン受容体を持つ血管の充血と二次出血が機序と考えられている。経口避妊薬(レボノルゲストレル/エチニルエストラジオール)で再発が著明に改善する5)

血友病:重症血友病A(第VIII因子<1%)患者の硝子体内抗VEGF注射後に重度の結膜下出血を生じた報告がある。静脈内第VIII因子投与により止血され、以後は注射前の予防的第VIII因子投与で再発なく経過した2)

Q 抗凝固薬を服用中に結膜下出血が起きたらどうすべきか?
A

ワルファリン服用中に結膜下出血を生じた場合、INR(国際標準比)が治療域を超えていないか血液検査で確認する。白内障手術のメタ解析では、ワルファリン継続群で非服用群の約3倍の出血イベントが認められたが、大半は自然消退する結膜下出血であり術後視力には影響しなかった7)。自己判断で抗凝固薬を中止せず、主治医に相談する。

臨床診断

病歴聴取:外傷の有無、抗凝固薬の使用、バルサルバ手技(咳・嘔吐・便秘・重量挙げ)、月経との関連を確認する。

細隙灯顕微鏡検査:結膜下出血の範囲・深さ・色調を評価する。結膜裂傷の有無を注意深く観察する。出血に隠れた結膜裂傷は見逃しやすい。

360度の結膜下出血:潜在性眼球破裂のサインとなりうる。ゾーンII・IIIの損傷を排除できないため眼窩CT・眼球探査を検討する。

全身検査

血圧測定:高血圧のスクリーニングとして必須である。

血液検査:再発例・抗凝固薬服用者ではINR・PT・APTT・血小板数を確認する。

全身精査:頻繁に繰り返す例では血液凝固異常・自己免疫疾患・悪性腫瘍の精査を追加する3)

鑑別疾患鑑別のポイント
結膜炎充血・眼脂・濾胞を伴う
カポジ肉腫暗赤色結節、HIV関連1)
眼球破裂外傷歴、360度出血

結膜下出血は自己限定的な疾患であり、1〜4週間で自然吸収する。原因がある場合は原疾患の治療を行う。結膜下出血そのものは自然経過に任せる。

涙液層の乱れによる不快症状に対して人工涙液の頻回点眼による支持療法を行う。ドライアイなどの眼表面疾患がある場合はドライアイ治療薬の点眼を行う。カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(アドナ®)などの内服薬を使用する場合もある。

血友病A患者では硝子体内注射後に重度の結膜下出血を生じうる。予防的第VIII因子投与(注射4時間前に静脈内投与)により出血合併症を予防できた報告がある2)。血液内科との緊密な連携が重要である。

結膜下出血に対する直接的な外科的適応はない。結膜弛緩症の関与が疑われ再発を繰り返す場合は結膜弛緩症手術(切除法)で再発を減少できる。

Q 結膜下出血を早く治す方法はあるか?
A

現時点では結膜下出血の吸収を促進する確立された治療法はない。通常1〜4週間で自然に消退する。血液が吸収される過程でピンク・オレンジ・黄色に変色するが、これは正常な経過である。温罨法が吸収を促すとする経験的な報告もあるが、エビデンスは限られている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

結膜血管の損傷により、テノン嚢と結膜の間に出血が生じる。若年者では出血が結膜全体に広がることはまれであるが、高齢者ではテノン嚢と結膜の間の弾性組織・結合組織が脆弱であるため広範囲に広がりやすい。

胸腹部への鈍的外傷により縦隔内に陽圧が発生する。この陽圧が右心房から弁のない無名静脈・頸静脈に血液を逆流させ、頭頸部の静脈床に急激な圧上昇を生じる。これにより点状出血が発生する6)。下半身に点状出血が生じないのは、下肢静脈の弁が圧上昇を制御するためと考えられている6)

結膜リンパ管によるドレナージ

Section titled “結膜リンパ管によるドレナージ”

結膜下出血の吸収に結膜リンパ管が関与する可能性が報告されている。白内障手術時の結膜下麻酔後に生じたSCHの症例で、術中OCTにより出血部位に隣接して嚢状の血液充満構造が観察された。弁様構造を有することからリンパ管と同定された4)。術後1日目から2日目にかけて著明なSCH消退が認められ、リンパ管が結膜下腔からの血液クリアランスを促進している可能性が示された4)

糖尿病による結膜微小血管障害

Section titled “糖尿病による結膜微小血管障害”

2型糖尿病では結膜微小血管に拡張・不均一分布・蛇行増加・血流速度変化が報告されている8)。これらの微小血管異常が結膜血管の脆弱性を高め、結膜下出血のリスクを上昇させる。

Q 結膜下出血はどのように吸収されるか?
A

従来は結膜下腔の血液が自然に分解・吸収されると考えられていた。近年の研究で、結膜リンパ管が血液のドレナージに関与している可能性が示された4)。術中OCTで弁様構造を持つリンパ管内に血液が確認され、結膜下腔からのマクロ分子クリアランスにリンパ管が寄与することが報告されている。

結膜リンパ管による結膜下出血のドレナージ機序が術中OCTを用いて初めて実証された4)。この知見は緑内障濾過手術における濾過胞の予後予測にも応用される可能性がある。健全な結膜リンパ管が房水や炎症メディエーターの排出を助け、濾過手術の成績を向上させうるとの仮説が提唱されている4)

また、抗VEGF薬の抗接着効果と局所線溶刺激作用が出血リスクに影響する可能性が指摘されているが、硝子体内注射後の全身抗VEGF濃度はきわめて低く、実臨床での影響は不明確である2)。血液凝固障害を有する患者における眼科処置の安全性に関するさらなるデータの蓄積が求められている。

  1. Redzuwan NS, Ahmad Tarmizi NA, Mohd Khialdin S. From Simple to Sinister: Kaposi Sarcoma Masquerading as a Subconjunctival Hemorrhage. Cureus. 2023;15(9):e45296.
  2. Kesav N, Mehra AA, Schmaier AH, Sobol W. Severe Subconjunctival Hemorrhage After Intravitreal Injection in a Patient With Hemophilia A. J VitreoRetinal Dis. 2023;7(4):333-336.
  3. Sharma M, Viswanath S, Singh R. Eyes are a window to the body: A journey from subconjunctival hemorrhage to SLE and inferior vena cava stenting. Indian J Ophthalmol. 2024;72:1390.
  4. Lau AZB, Tang GYF, Morgan WH, Chan GZP. Drainage of subconjunctival hemorrhage through conjunctival lymphatic pathways. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;39:102368.
  5. Celebi ARC, Aygun EG. A rare cause of recurrent subconjunctival hemorrhage: ocular vicarious menstruation. GMS Ophthalmol Cases. 2023;13:Doc05.
  6. Çik N, Başerdem O, Duman M, Yilmaz D. Traumatic asphyxia with a “masque ecchymotique” in a 14-year-old adolescent. Ulus Travma Acil Cerrahi Derg. 2023;29(4):543-545.
  7. American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2021.
  8. Bron AJ, de Paiva CS, Chauhan SK, et al. TFOS DEWS II pathophysiology report. Ocul Surf. 2017;15(3):438-510.

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