臨床診断
病歴聴取:外傷の有無、抗凝固薬の使用、バルサルバ手技(咳・嘔吐・便秘・重量挙げ)、月経との関連を確認する。
細隙灯顕微鏡検査:結膜下出血の範囲・深さ・色調を評価する。結膜裂傷の有無を注意深く観察する。出血に隠れた結膜裂傷は見逃しやすい。
360度の結膜下出血:潜在性眼球破裂のサインとなりうる。ゾーンII・IIIの損傷を排除できないため眼窩CT・眼球探査を検討する。

結膜下出血(subconjunctival hemorrhage: SCH)は、結膜血管からの出血が結膜下に貯留した状態である。表層の結膜とテノン嚢の間に位置する結膜下腔の血管が破綻し、しばしば平坦な出血領域として出現する。重症例では水疱状に膨隆することもある。
眼科的な懸念で受診する全患者の約3%を占める。65歳以上では10.1%に達する。日本の充血患者8,726人を対象とした研究では2.9%に結膜下出血が認められた。年齢や性別による有意な偏りは報告されていない。
単独の結膜下出血は良性であり、視力に影響しない。通常1〜4週間で自然吸収する。ただし再発する場合や長期間消退しない場合は、高血圧・糖尿病・血液凝固異常・腫瘍など重篤な全身疾患が隠れている可能性がある。カポジ肉腫が結膜下出血に偽装して発見された報告もある1)。

結膜血管の損傷によりテノン嚢と結膜の間に出血が生じる。高齢者ではテノン嚢と結膜の間の弾性組織・結合組織が脆弱であるため出血が広がりやすい。
| リスク因子 | 機序 |
|---|---|
| 特発性(約40%) | 原因不明 |
| 外傷 | 結膜血管への直接的損傷 |
| 全身性高血圧 | 50歳以上の主要原因 |
| 糖尿病 | 微小血管損傷による脆弱化8) |
| 抗凝固薬 | ワルファリン服用者のSCH発生率3.7%、非服用者1.7%7) |
| バルサルバ手技 | 静脈圧上昇による血管破綻 |
| 結膜弛緩症 | 摩擦亢進による結膜血管損傷 |
外傷性窒息:胸腹部の突然の圧迫により右心房から弁のない無名静脈・頸静脈へ血液が逆流し、頭頸部に点状出血と結膜下出血を生じる。「masque ecchymotique(エキモーゼ仮面)」と呼ばれる。小児では非常にまれであるが、トラクター転落後に両側結膜下出血と顔面浮腫を呈した症例が報告されている6)。
腫瘍:結膜下出血に偽装したカポジ肉腫が報告されている。34歳男性がHIV未診断のまま3か月間の自然発症左眼充血で受診し、下耳側円蓋部にカポジ肉腫が発見された1)。再発性結膜下出血は海綿状血管腫・リンパ腫などの腫瘍の初発症状となりうる。
全身性エリテマトーデス(SLE):結膜下出血を契機にSLEおよび抗リン脂質抗体症候群が診断された症例が報告されている。高血圧(140/110mmHg)、腹部静脈怒張、蝶形紅斑を伴い、下大静脈血栓症・Budd-Chiari症候群と診断された3)。
眼性代償性月経(ocular vicarious menstruation):月経に伴い毎月再発する結膜下出血のきわめてまれな原因である。子宮外のエストロゲン・プロゲステロン受容体を持つ血管の充血と二次出血が機序と考えられている。経口避妊薬(レボノルゲストレル/エチニルエストラジオール)で再発が著明に改善する5)。
血友病:重症血友病A(第VIII因子<1%)患者の硝子体内抗VEGF注射後に重度の結膜下出血を生じた報告がある。静脈内第VIII因子投与により止血され、以後は注射前の予防的第VIII因子投与で再発なく経過した2)。
ワルファリン服用中に結膜下出血を生じた場合、INR(国際標準比)が治療域を超えていないか血液検査で確認する。白内障手術のメタ解析では、ワルファリン継続群で非服用群の約3倍の出血イベントが認められたが、大半は自然消退する結膜下出血であり術後視力には影響しなかった7)。自己判断で抗凝固薬を中止せず、主治医に相談する。
臨床診断
病歴聴取:外傷の有無、抗凝固薬の使用、バルサルバ手技(咳・嘔吐・便秘・重量挙げ)、月経との関連を確認する。
細隙灯顕微鏡検査:結膜下出血の範囲・深さ・色調を評価する。結膜裂傷の有無を注意深く観察する。出血に隠れた結膜裂傷は見逃しやすい。
360度の結膜下出血:潜在性眼球破裂のサインとなりうる。ゾーンII・IIIの損傷を排除できないため眼窩CT・眼球探査を検討する。
全身検査
血圧測定:高血圧のスクリーニングとして必須である。
血液検査:再発例・抗凝固薬服用者ではINR・PT・APTT・血小板数を確認する。
全身精査:頻繁に繰り返す例では血液凝固異常・自己免疫疾患・悪性腫瘍の精査を追加する3)。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 結膜炎 | 充血・眼脂・濾胞を伴う |
| カポジ肉腫 | 暗赤色結節、HIV関連1) |
| 眼球破裂 | 外傷歴、360度出血 |
結膜下出血は自己限定的な疾患であり、1〜4週間で自然吸収する。原因がある場合は原疾患の治療を行う。結膜下出血そのものは自然経過に任せる。
涙液層の乱れによる不快症状に対して人工涙液の頻回点眼による支持療法を行う。ドライアイなどの眼表面疾患がある場合はドライアイ治療薬の点眼を行う。カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(アドナ®)などの内服薬を使用する場合もある。
血友病A患者では硝子体内注射後に重度の結膜下出血を生じうる。予防的第VIII因子投与(注射4時間前に静脈内投与)により出血合併症を予防できた報告がある2)。血液内科との緊密な連携が重要である。
結膜下出血に対する直接的な外科的適応はない。結膜弛緩症の関与が疑われ再発を繰り返す場合は結膜弛緩症手術(切除法)で再発を減少できる。
現時点では結膜下出血の吸収を促進する確立された治療法はない。通常1〜4週間で自然に消退する。血液が吸収される過程でピンク・オレンジ・黄色に変色するが、これは正常な経過である。温罨法が吸収を促すとする経験的な報告もあるが、エビデンスは限られている。
結膜血管の損傷により、テノン嚢と結膜の間に出血が生じる。若年者では出血が結膜全体に広がることはまれであるが、高齢者ではテノン嚢と結膜の間の弾性組織・結合組織が脆弱であるため広範囲に広がりやすい。
胸腹部への鈍的外傷により縦隔内に陽圧が発生する。この陽圧が右心房から弁のない無名静脈・頸静脈に血液を逆流させ、頭頸部の静脈床に急激な圧上昇を生じる。これにより点状出血が発生する6)。下半身に点状出血が生じないのは、下肢静脈の弁が圧上昇を制御するためと考えられている6)。
結膜下出血の吸収に結膜リンパ管が関与する可能性が報告されている。白内障手術時の結膜下麻酔後に生じたSCHの症例で、術中OCTにより出血部位に隣接して嚢状の血液充満構造が観察された。弁様構造を有することからリンパ管と同定された4)。術後1日目から2日目にかけて著明なSCH消退が認められ、リンパ管が結膜下腔からの血液クリアランスを促進している可能性が示された4)。
2型糖尿病では結膜微小血管に拡張・不均一分布・蛇行増加・血流速度変化が報告されている8)。これらの微小血管異常が結膜血管の脆弱性を高め、結膜下出血のリスクを上昇させる。
従来は結膜下腔の血液が自然に分解・吸収されると考えられていた。近年の研究で、結膜リンパ管が血液のドレナージに関与している可能性が示された4)。術中OCTで弁様構造を持つリンパ管内に血液が確認され、結膜下腔からのマクロ分子クリアランスにリンパ管が寄与することが報告されている。
結膜リンパ管による結膜下出血のドレナージ機序が術中OCTを用いて初めて実証された4)。この知見は緑内障濾過手術における濾過胞の予後予測にも応用される可能性がある。健全な結膜リンパ管が房水や炎症メディエーターの排出を助け、濾過手術の成績を向上させうるとの仮説が提唱されている4)。
また、抗VEGF薬の抗接着効果と局所線溶刺激作用が出血リスクに影響する可能性が指摘されているが、硝子体内注射後の全身抗VEGF濃度はきわめて低く、実臨床での影響は不明確である2)。血液凝固障害を有する患者における眼科処置の安全性に関するさらなるデータの蓄積が求められている。