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角膜・外眼部疾患

老人性強膜斑

老人性強膜斑(senile scleral plaque; SSP)は、角膜縁の後方かつ水平直筋の停止部前方に出現する、境界明瞭でスレートグレー(石板色)の長楕円形をした強膜領域である。強膜の硝子様変性(hyaline degeneration)により下層のぶどう膜が透けて見えることが特徴的なグレーの色調の原因である。

70歳以上の高齢者に好発し、加齢とともに発生率が増加する。石灰化した老人性強膜斑の全体的な有病率は3〜6.2%であるが、70歳以上では22.6%に達する。女性に多い。石灰化は症例の半数未満で観察される。

通常無症状で臨床的に意義はないが、まれに石灰化斑の脱落(expulsion)により老人性強膜軟化症を引き起こす。石灰化病変の約11%がCTスキャンでビーム硬化アーチファクトを伴い、眼内異物と誤認される可能性がある2)

Q 老人性強膜斑は治療が必要か?
A

通常は無症状の偶発所見であり治療は不要である。ただし、まれに石灰化斑の脱落により老人性強膜軟化症を生じ強膜欠損が形成されることがある。自然穿孔のリスクが高い場合には強膜移植による外科的治療が必要となる。

老人性強膜斑は通常完全に無症状であり、眼科検査時の偶発的所見として発見される。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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  • 肉眼的所見:境界明瞭でスレートグレーの長楕円形領域として観察される。垂直方向に長い角ばった楕円形で、平均幅約2mm、高さ約5〜6mmである。
  • 位置:角膜縁後方かつ水平直筋(内直筋・外直筋)の停止部前方に位置する。瞼裂部に一致した分布を示す。
  • 両眼性:通常は両眼性であるが、まれに片眼性の報告もある2)
  • 石灰化:症例の半数未満に認められ、半透明の病変の中央部に生じることが多い。
  • CTスキャン:石灰化した老人性強膜斑は高輝度領域として描出される。角膜縁後方・直筋停止部前方という特徴的な位置により同定できるが、外傷症例では眼内異物と誤認されることがある2)
  • 前眼部OCT(AS-OCT):老人性強膜斑は低反射構造として、石灰化部分は高反射構造として観察される1)。術後の経過観察にも有用であり、石灰化斑の亀裂が結合組織で閉鎖される過程を描出できる1)
Q CTで眼内異物と間違われることはあるか?
A

ある。石灰化した老人性強膜斑はCTで高輝度の卵形陰影として描出され、眼内異物と誤認される可能性がある2)。特に片眼性の場合や外傷を伴う場合に鑑別が困難となる。角膜縁後方・直筋停止部前方という特徴的な位置と無症状であるという臨床的特徴から鑑別する。

老人性強膜斑の病因は不明であるが、複数のメカニズムが提唱されている。

提唱されている病因

動脈硬化による虚血:動脈硬化に続発する前眼部強膜の虚血が提唱されている。

機械的ストレス:水平直筋による強膜への反復的な機械的ストレスと歪みが斑の形成に関与する可能性がある。斑が水平直筋の直前に位置することはこの仮説を支持する。

紫外線ダメージ:太陽放射への長期曝露による光線過敏性損傷(actinic damage)の蓄積が構造的変性を引き起こす。斑が瞼裂部に分布することがこの仮説を裏付ける。

リスク要因

加齢:最も重要なリスク要因である。70歳以上で有病率が急増する。80歳以上では20%に認められるとの報告がある2)

女性:女性に多いことが指摘されている。

複合的要因:機械的ストレスと紫外線ダメージの組み合わせなど複数の要因が協調して斑を形成している可能性がある。

臨床診断

細隙灯顕微鏡検査:スレートグレーの長楕円形領域を角膜縁後方・水平直筋停止部前方に確認する。

ペンライト検査:簡便な観察でも斑の存在を確認できる。

画像検査

CTスキャン:石灰化した斑の検出に有用であるが、眼内異物との鑑別を要する2)

前眼部OCT:enhanced depth OCTで低反射の斑と高反射の石灰化を描出する1)。術後の創閉鎖の経過観察にも活用できる1)

  • 眼内異物(IOFB):外傷症例でCT上の高輝度像が類似する。臨床所見(位置、無症状)で鑑別する2)
  • 視神経乳頭ドルーゼン:CTで石灰化像を示すが、視神経乳頭部に位置する点で鑑別される。
  • 脈絡膜骨腫:CT上の石灰化像が類似するが、脈絡膜に位置する。
  • 滑車石灰化:上内側の滑車部位に限局する点で鑑別される。

まれに石灰化した老人性強膜斑が分離・脱落し、強膜欠損が形成される。これを老人性強膜軟化症(senile scleromalacia)と呼ぶ。穿孔性強膜軟化症との鑑別が重要である。

特徴老人性強膜軟化症穿孔性強膜軟化症
発症年齢高齢より若年
位置水平直筋前方のみ前眼部強膜の任意の部位
病因SSP脱落壊死性強膜炎
組織学的特徴壊死なし、炎症最小限壊死性肉芽腫性炎症
境界滑らかで鋭い不明瞭
ぶどう膜薄い結膜層で被覆露出

石灰化した老人性強膜斑は強膜の切開に対する抵抗性を高め、他の眼疾患の外科的治療を困難にする可能性がある。眼球破裂が石灰化SSPを横断した症例では、石灰化した斑が硬すぎて縫合針を通すことができず、石灰化SSPの外側の正常強膜にlong biteで縫合する特殊な技法が必要であった1)

94歳男性の農作業中の鈍的外傷による眼球破裂例では、18mmの全層強膜創が石灰化SSPを横断していた。石灰化SSPへの直接の縫合が不可能であったため、石灰化部分の外側の正常強膜に8-0シルクでlong bite縫合を行い創閉鎖に成功した。術後AS-OCTで石灰化斑の亀裂が結合組織により閉鎖されていることが確認された1)

Q 老人性強膜軟化症とはどのような状態か?
A

石灰化した老人性強膜斑が分離・脱落して強膜に欠損が形成された状態である。水平直筋前方のみに位置し、薄い結膜層で被覆された垂直で不規則な楕円形の欠損として現れる。炎症は最小限で壊死を伴わない点が穿孔性強膜軟化症と異なる。自然穿孔のリスクが高い場合は強膜移植が必要となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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光学顕微鏡のH&E染色では、斑の領域にヘマトキシリン密度の増加と強膜の細胞密度低下を認める。斑部分の強膜の厚さは正常強膜と同等である。病変を覆う上強膜にはコルク抜き状(corkscrew appearance)の外観を持つ線維が含まれる。

石灰化は多くの場合、半透明の病変の中央部で発生する。大きな病変で石灰化が最も高頻度に認められることから、石灰化は強膜の細胞密度低下に続発するものと推定される。石灰成分としてリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムが報告されている。コッサ染色(von Kossa)およびアリザリンレッド染色でリン酸カルシウムまたは炭酸カルシウムの沈着が確認される。

正常強膜は膠原線維や弾性線維などの細胞外マトリックスが大部分を構成し、不規則な組織配列を持つ。老人性強膜斑では加齢に伴うコラーゲンの変性と細胞密度の低下が進行し、最終的に硝子様変性と石灰化に至る。

Q 老人性強膜斑の石灰化はどの程度の頻度で起こるか?
A

石灰化は症例の半数未満で観察される。大きな病変ほど石灰化の頻度が高い。石灰化した老人性強膜斑の全体的な有病率は3〜6.2%であるが、70歳以上では22.6%に達する。石灰化した斑の約3分の1は単一の斑のみである。

  1. Gozawa M, Orii Y, Takamura Y, Inatani M. A case of globe rupture crossing calcified senile scleral plaque. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;36:102163.
  2. Muhammad H, Chan WS, Jaafar J, Wan Hitam WH. Senile Scleral Plaque Mimicking an Intraocular Foreign Body. Cureus. 2025;17(2):e78410.

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