結膜弁移植
有茎結膜弁移植:切除部に隣接する結膜を移動させて被覆する。血流を維持したまま再建が可能で、安全性が高い。
遊離結膜弁移植:別部位(多くは上耳側球結膜)から結膜弁を採取して移植する。任意の部位に縫着できる利点がある。
輪部結膜自家移植(LCAG):輪部組織を含めた結膜自家移植。輪部機能の回復により再発率がさらに低い1)。

翼状片(pterygium)は、結膜下組織の線維血管性増殖により生じる角膜上への三角形の結膜組織の侵入である。鼻側に生じることが圧倒的に多いが、耳側やときには両側に生じることもある。鼻側と耳側の両側発生は2〜3%、耳側単独は1〜2%とされる。片眼性であることが多いが、約10%は両眼性である。
翼状片の先端部は角膜と接着して灰白色を呈する。体部はやや隆起し、上皮下に類弾性線維変性(elastoid degeneration)やスフェロイド変性がみられる。構成成分であるコラーゲンは増殖変性し、豊富な新生血管が増殖したコラーゲンの間を走行する。
翼状片は世界的に広く認められる眼表面疾患であり、特に赤道付近の紫外線曝露量の多い地域で有病率が高い1)。男性は女性の約2倍の頻度で発症する。高齢者ほど有病率は高いが、治療を求めて来院するのは50〜70歳代が多い。翼状片手術は最も頻繁に行われる眼科手術のひとつである1)。
米国のIRIS Registryを用いたOkeらの大規模研究(102,138件の翼状片手術)では、組織移植が83.0%、bare sclera法が15.3%に施行されていた。角膜専門医は組織移植を使用する割合が高かった2)。
翼状片は結膜の線維血管組織が角膜上に侵入するのに対し、瞼裂斑は輪部に接する結膜上の黄白色の小隆起にとどまり角膜には侵入しない。瞼裂斑が進行すると翼状片に移行することがある。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。

翼状片患者の主訴は大きく3つに分類される。
翼状片頭部の隆起が高度な場合、涙液の分布異常を引き起こし、隣接する角膜周辺部に上皮障害や凹窩(dellen)を形成することがある。
細隙灯顕微鏡検査により、涙丘付近から発生し角膜中央へ向かう放射状血管を伴う三角形状の増殖組織が観察される。
翼状片は先端部・頭部・体部に分類される。先端部では角膜と接着し灰白色調を呈する。Stocker’s line(鉄沈着線)が先端部前方にみられることがある。
進展度による分類を以下に示す。
| Grade | 進展範囲 |
|---|---|
| Grade 1 | 角膜輪部付近にとどまる |
| Grade 2 | 輪部を超えて増殖 |
| Grade 3 | 瞳孔に及ぶ |
| Grade 4 | 瞳孔を超える |
肉厚か否か、患者の年齢も手術適応・再発リスクの評価に重要な情報である。若年者、肉厚の症例、母斑や色素沈着を伴う症例では再発率が高い1)。
翼状片の発症原因として最も有力なのは紫外線(UV-B)曝露である1)。慢性の紫外線刺激により角膜輪部幹細胞が障害され、結膜下組織の増殖が加速し、Bowman膜のバリアを乗り越えて角膜上皮基底細胞層とBowman膜の間に侵入する。先端部付近ではBowman膜を破壊して実質浅層組織と癒着を形成する。
鼻側に好発する理由として「albedo仮説」がある。顔面の鼻側から入射した紫外線が角膜を透過して鼻側輪部に集中的に照射されるため、鼻側の輪部幹細胞がより多く障害を受けると考えられている。
再発のリスク因子として、若年、肉厚で非透明な翼状片、炎症の強いものが挙げられる1)。
翼状片は片眼性であることが多いが、約10%は両眼性に発症する。鼻側と耳側の両側に生じるケースは2〜3%にみられる。紫外線曝露が両眼に等しく作用するため、片眼に発症した場合は他眼の経過観察も重要である。
翼状片の診断は細隙灯顕微鏡検査により容易に行うことができる。典型的な鼻側の三角形状の線維血管性増殖組織の形態から、数例の診察経験で診断が可能になる。
翼状片の併存疾患や鑑別疾患の把握は手術計画において重要である。偽翼状片では角膜が高度に菲薄化している場合があり、術中・術後に角膜穿孔をきたす可能性がある。前眼部OCTで角膜菲薄化が確認された場合は保存角膜による表層角膜移植の同時手術も検討する。
無症状の翼状片は経過観察で差し支えない。充血や異物感に対しては以下の対症療法を行う。
ただし薬物療法では病変の進行を食い止めることはできず、進行例には手術が必要である。
以下の場合に手術を検討する。
手術のメリットと術後再発のリスクを十分に説明し、患者と相談の上で適応を決める。患者の年齢が低いほど再発しやすいことを念頭に置く必要がある。
翼状片の手術は増殖組織の切除と眼表面の再建から成る。
結膜弁移植
有茎結膜弁移植:切除部に隣接する結膜を移動させて被覆する。血流を維持したまま再建が可能で、安全性が高い。
遊離結膜弁移植:別部位(多くは上耳側球結膜)から結膜弁を採取して移植する。任意の部位に縫着できる利点がある。
輪部結膜自家移植(LCAG):輪部組織を含めた結膜自家移植。輪部機能の回復により再発率がさらに低い1)。
その他の再建法
羊膜移植:広範囲の結膜欠損を被覆可能。消炎作用・新生血管抑制作用・線維芽細胞増殖抑制作用を有する。再発翼状片に有用。
頭部転位法:角膜から切り離した翼状片頭部を異なる方向に縫着する方法。
フィブリン糊:縫合に代わる移植片固定法として使用される。
翼状片手術の各術式における再発率を以下に示す。
| 術式 | 再発率 |
|---|---|
| 強膜露出法(bare sclera) | 30〜89%1) |
| 結膜自家移植 | 1.9〜8%1) |
| LCAG | 0〜17%1) |
強膜露出法は再発率が極めて高く、現在は推奨されない。結膜自家移植が現在のゴールドスタンダードであり、中でもLCAGが最も低い再発率を示す1)。
米国IRIS Registryの102,138件を解析したOkeらの報告では、組織移植群の5年再手術率は7.7%、bare sclera群は11.0%であった。bare sclera法は依然として米国の翼状片手術の約15%を占めていた2)。
羊膜移植の再発率は3.7〜40.9%と結膜自家移植(2.6〜17.7%)より高いが、広範な結膜瘢痕を有する患者や将来的に緑内障手術が必要な患者では有用な選択肢となる1)。
遊離結膜弁の移植時には移植片の裏表の判別が問題となることがある。移植片の正しい方向を維持するダブルフリップ法も報告されている。
Öztürkらは結膜自家移植において、移植片の3辺を切断後に未切断辺で反転させ2針固定し、その後4辺目を切断して再反転させるダブルフリップ法を報告した。この手技により移植片の上皮面と輪部−円蓋部の方向を確実に維持できる3)。
再発率をさらに低減するため、以下の補助療法が併用される。
術後は以下の処方を行い、消炎と再増殖抑制を図る。
適切な初回手術を行うことにより再発率は1.5〜5%に抑えられる。再発した場合はすぐに再手術せず、ステロイド点眼とトラニラスト点眼を半年程度継続し、再増殖の進行を経過観察してから再手術の要否を判断する。
結膜弁移植(有茎または遊離)を行うことが最も重要である。MMC塗布や術後のステロイド・トラニラスト点眼を半年間継続することで再発率を低減できる。適切な初回手術により再発率は1.5〜5%程度に抑えられる。紫外線対策も長期的な再発予防に有効である。
翼状片の発症には、紫外線による角膜輪部幹細胞の障害が中心的な役割を果たす1)。正常な輪部組織は結膜下組織の角膜への侵入を防ぐバリアとして機能しているが、慢性のUV-B曝露によりこの機能が破綻すると翼状片が発生する。
結膜下の結合組織の増生と膠原線維の変性(類弾性変性)が特徴的である。リンパ球を主体とした慢性炎症細胞浸潤がみられる。翼状片組織は角膜輪部のBowman膜のバリアを乗り越え、角膜上皮基底細胞層とBowman膜の間に侵入し、先端部付近でBowman膜を破壊して実質浅層組織と癒着を形成する。
Okeらは米国IRIS Registryの102,138件の翼状片手術を解析し、bare sclera法が依然として15.3%で施行されていることを報告した。組織移植群と比較してbare sclera群の5年再手術率は有意に高く(11.0% vs 7.7%)、エビデンスに基づく術式選択の普及が課題であると指摘した2)。
翼状片手術後に単純ヘルペス角膜炎(HSK)が発症しうることが報告されている。
Cuiらは翼状片手術後約30日で発症したHSKの5症例を報告した。全例が男性で、5例中4例が実質型HSKであった。涙液中のHSV-sIgA、PCR、メタゲノム次世代シーケンシング(mNGS)が診断に有用であった4)。
翼状片切除後の強膜炎は稀だが重篤な合併症であり、感染性と自己免疫性の鑑別が困難な場合がある。
Mabroukiらは翼状片切除7日後に重度の強膜炎を発症した70歳男性の症例を報告した。培養は陰性であったが、抗菌薬への反応が乏しく、抗真菌薬(ボリコナゾール)投与により劇的に改善した。感染が自己免疫反応を惹起した可能性が考察された5)。
翼状片は徐々に角膜中央へ向かって進行する。角膜への侵入が2 mmを超えると不正乱視が生じ始め、視軸にかかると顕著な視力低下を引き起こす。進行例では眼球運動制限や複視をきたすこともある。ただし進行速度は個人差が大きく、長期間変化しない例もある。