角膜所見
リング膿瘍(環状浸潤):緑膿菌角膜炎に特徴的な所見で、角膜周辺部に環状の浸潤が形成される3)
すりガラス状混濁:びまん性の角膜実質混濁を呈し、浸潤辺縁がぼやけて見える3)
ブラシ状浸潤:初期の浸潤辺縁が放射状に広がるパターン3)
角膜上皮欠損:広範な上皮欠損を伴い、周囲上皮は浮腫状となる
角膜菲薄化・穿孔:プロテアーゼによる実質融解が進行すると穿孔に至る

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は細菌性角膜炎の主要起因菌の一つである。グラム陰性桿菌による角膜感染症のなかで最も頻度が高い2)。プロテアーゼや外毒素による液化壊死を特徴とし、急速に進行して角膜穿孔に至る危険がある。
細菌性角膜炎全体に占める割合は報告により6.8〜55%と幅がある。地域・集団によって異なるが、CL装用者を対象とした調査では最多の起因菌として報告されている2)。特にソフトCL装用者での発症リスクが高く、CL関連角膜感染症の約55%を緑膿菌が占めるとの報告もある2)。
他の細菌性角膜炎と比較して進行が速く、治療開始の遅れが予後に直結する。本記事では緑膿菌角膜炎の臨床像、診断法、治療法、病態生理を解説する。
急性発症の眼痛が最も多い。痛みは高度で、充血・流涙・粘液膿性の眼脂を伴う。視力低下は浸潤が瞳孔領に及ぶほど顕著となる。眼瞼腫脹や羞明もしばしば認められる。
角膜所見
リング膿瘍(環状浸潤):緑膿菌角膜炎に特徴的な所見で、角膜周辺部に環状の浸潤が形成される3)
すりガラス状混濁:びまん性の角膜実質混濁を呈し、浸潤辺縁がぼやけて見える3)
ブラシ状浸潤:初期の浸潤辺縁が放射状に広がるパターン3)
角膜上皮欠損:広範な上皮欠損を伴い、周囲上皮は浮腫状となる
角膜菲薄化・穿孔:プロテアーゼによる実質融解が進行すると穿孔に至る
前眼部所見
前房蓄膿:高頻度に認められ、膿瘍の重症度と相関する
前房出血(前房内出血):まれな合併症として報告されている1)
毛様充血:輪部周囲の深層血管拡張により著明な充血を呈する
結膜浮腫:高度の炎症に伴い球結膜が浮腫状に腫脹する
Chan らは45歳のCL装用者に発症した緑膿菌角膜炎で前房出血を合併した症例を報告している。薬剤感受性検査では汎感受性であったにもかかわらず臨床的に治療抵抗性を示し、最終的にピペラシリン/タゾバクタム点滴で改善した1)。
緑膿菌は土壌・水中に広く分布する環境菌である。健常な角膜表面は上皮バリアによって感染が防御されているが、上皮障害やCL装用による微小外傷が感染の契機となる2)。
| リスク因子 | 詳細 |
|---|---|
| CL装用 | 最大のリスク因子2) |
| 角膜外傷 | 植物外傷・異物など |
| 眼表面疾患 | ドライアイ・眼瞼異常 |
CL装用が最大のリスク因子であり、特にソフトCLの連続装用・不適切なケアが危険因子となる2)。CLケースの汚染が感染源となることが多い。
角膜外傷や角膜手術後の上皮欠損も発症契機となる。ステロイド点眼の長期使用は局所免疫を低下させ、感染リスクを高める。
注目すべき点として、緑膿菌は正常な角膜上皮にも侵入する能力をもつことが報告されている2)。これは他の多くの細菌性角膜炎起因菌とは異なる特徴である。
CL装用者のすべてが感染するわけではありません。適切なレンズケアと衛生管理を行えばリスクは大幅に低減できます。ただし、装用したまま就寝する・ケース洗浄を怠る・水道水でレンズを洗うなどの不適切な使用は感染リスクを著しく高めます。少しでも異常を感じたらCLを外して早めに受診してください。
臨床所見から緑膿菌角膜炎を疑った場合、微生物学的検査による起因菌の同定が不可欠である3)。
| 検査法 | 目的 |
|---|---|
| グラム染色 | グラム陰性桿菌の確認3) |
| 培養検査 | 起因菌同定・薬剤感受性3) |
| 薬剤感受性検査 | 治療薬選択の指標3) |
角膜擦過が検体採取の基本手技であり、浸潤辺縁部から擦過することで検出率が向上する3)。グラム染色でグラム陰性桿菌を確認できれば、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌感染を強く疑う。
培養検査は血液寒天培地・チョコレート寒天培地に加え、ドリガルスキー培地(BTB培地)などのグラム陰性桿菌選択培地を用いる3)。緑膿菌はブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌であり、特有の緑色色素(ピオシアニン)産生や甘い臭気が同定の手がかりとなる。
薬剤感受性検査は治療方針の決定に必須である3)。ただし、感受性検査で感受性と判定されても臨床的に治療抵抗性を示す場合があり注意を要する1)。
感染性角膜炎診療ガイドラインに基づき、起因菌の推定と薬剤感受性を考慮して抗菌薬を選択する3)。治療開始は緊急を要し、培養結果を待たずに経験的治療を開始する。
軽症〜中等症
第一選択:フルオロキノロン(FQ)点眼の頻回投与3)
推奨薬剤:レボフロキサシン(LVFX)1.5%またはモキシフロキサシン(MFLX)0.5%3)
投与法:起床時は1時間ごと、就寝前は2時間ごとに点眼し、改善に応じて漸減する
重症例
FQ + アミノグリコシド併用:セフメノキシム点眼とアミノグリコシド(トブラマイシンまたはゲンタマイシン)点眼の併用3)
点滴療法:角膜穿孔切迫例ではセフタジジムなどの全身投与を考慮する
難治例への対応:ピペラシリン/タゾバクタム(タゾシン®)の全身投与が奏効した報告がある1)
細菌性角膜炎に対するステロイド併用療法については議論がある。SCUT試験(Steroids for Corneal Ulcers Trial)のサブグループ解析では、緑膿菌角膜炎に対するステロイド併用は視力予後の改善に寄与せず、むしろ有害な傾向が示された2)。特に高齢者や重症例では慎重な判断が求められる。
治療期間は重症度によって異なりますが、一般的に数週間から1か月以上を要します。軽症例でも最低2〜3週間の点眼治療が必要です。重症例や治療抵抗性の場合はさらに長期化し、角膜瘢痕が残った場合は視力回復のために角膜移植が検討されることもあります。自己判断で点眼を中止せず、主治医の指示に従ってください。
緑膿菌角膜炎の病態は、菌体側の毒性因子と宿主側の防御機構の破綻により説明される。
接着段階:緑膿菌は線毛(pili)を用いて角膜上皮細胞表面のガングリオシド受容体に接着する。CL装用による上皮微小外傷は受容体を露出させ、菌の接着を促進する。
バイオフィルム形成:接着後、glycocalyx(多糖体被膜)を産生してバイオフィルムを形成する。バイオフィルムは抗菌薬の浸透を阻害し、治療抵抗性の一因となる。
緑膿菌はIII型分泌システム(T3SS)を介して宿主細胞に直接毒素を注入する。
ExoU:ホスホリパーゼ活性をもつ強力な細胞毒素。角膜上皮細胞を急速に壊死させる。ExoU陽性株(cytotoxic株)は角膜穿孔のリスクが高い。
ExoS:ADPリボシルトランスフェラーゼ活性とGTPase活性化活性をもち、細胞骨格を破壊して細胞を円形化させる。ExoS陽性株(invasive株)は細胞内侵入に優れる。
ExoT:ExoSと類似の機能をもつが作用は弱い。
ExoY:アデニル酸シクラーゼ活性をもち、cAMP濃度を上昇させて細胞間結合を破壊する。
緑膿菌が産生するプロテアーゼは角膜実質の液化壊死を引き起こす中核的な因子である。
エラスターゼ(LasB):コラーゲンやプロテオグリカンを分解し、角膜実質を融解させる。
アルカリプロテアーゼ(AprA):宿主の免疫グロブリンや補体成分を分解して免疫回避に寄与する。
これらの毒素・プロテアーゼが複合的に作用することで、角膜実質が急速に融解し、重症例ではデスメ膜瘤形成や角膜穿孔に至る。リング膿瘍は好中球の環状集積と免疫複合体の沈着により形成される。
緑膿菌はエラスターゼやアルカリプロテアーゼなどの強力な分解酵素を大量に分泌します。これらの酵素が角膜の主成分であるコラーゲン線維やプロテオグリカンを分解するため、角膜実質が「溶ける」ように壊死します(液化壊死)。さらにIII型分泌システムという注射器のような装置で毒素を細胞に直接注入し、角膜上皮細胞を破壊します。この多段階の攻撃が緑膿菌角膜炎の急速な進行と重症化の原因です。
Chanらは、薬剤感受性検査で汎感受性でありながら通常の抗菌薬治療(セファゾリン・ゲンタマイシン・モキシフロキサシン・シプロフロキサシン)に反応しなかった緑膿菌角膜炎に対し、ピペラシリン/タゾバクタム(タゾシン®)の全身投与が奏効した症例を報告している1)。
この症例では、CL装用歴15年の45歳男性が急速進行性の角膜浸潤と前房出血を呈した。前房出血はアスピリン内服が誘因と推察された。タゾシン®投与開始後に炎症は沈静化し、最終視力は矯正0.63(ピンホール0.83)まで改善した1)。
この報告は、in vitroの感受性とin vivoの治療反応性が乖離しうることを示しており、臨床的な治療抵抗性に対する代替薬の選択肢としてピペラシリン/タゾバクタムの有用性を示唆する。
フルオロキノロン耐性緑膿菌の増加は世界的な問題となっている2)。耐性メカニズムにはDNAジャイレースやトポイソメラーゼIVの標的変異、排出ポンプの過剰発現が関与する。新規抗菌薬の開発や、既存薬の新たな投与経路(角膜内注射など)が検討されている。