BAKの利点
広範な殺菌作用:グラム陽性・陰性菌、真菌、アカントアメーバに有効。
薬物浸透促進:角膜上皮の疎水性バリアを破壊し、主薬の眼内移行を高める。
高い安定性:水溶性が高く、製剤化が容易である。

防腐剤(preservatives)は、多回投与型(multi-dose)の眼科用点眼薬に添加される抗微生物物質である。開封後の無菌性を維持し、保存期間を延長する役割を担う。1970年代以降、米国FDA・米国薬局方(USP)・欧州薬局方(EP)を含む規制当局が多回投与型点眼薬への防腐剤添加を義務付けてきた。
防腐剤は大きく2つのカテゴリーに分類される。
すべての眼科用防腐剤のなかで、BAKが最も広く使用されており、点眼薬の約70%に含まれる。しかし、特に慢性的・長期的使用において眼表面への毒性作用が問題となる2)。
BAKは広範な殺菌スペクトル(グラム陽性菌・グラム陰性菌・真菌・アカントアメーバ)を有し、水溶性が高く、安定性に優れるため製剤化が容易である。さらに角膜上皮の疎水性バリアを破壊して薬物の経角膜浸透を促進する作用があり、主薬の眼内移行を高める利点がある。このような多面的な有用性が、70%以上の点眼薬に採用される理由となっている。
BAK含有点眼薬の長期使用により生じる眼表面障害の自覚症状は、潜在的なものから重度のものまで多岐にわたる。
BAKは角膜上皮細胞・結膜上皮細胞・マイボーム腺上皮細胞に対して濃度依存的な細胞毒性を示す2)。臨床的には以下の所見を呈する。
BAK曝露の累積負荷(使用薬剤数・BAK濃度・1日点眼回数・治療期間)は、眼表面疾患の有病率・重症度・QOL低下と相関する。複数の緑内障治療薬を長期使用する患者では特に注意が必要である4)。
BAKの利点
広範な殺菌作用:グラム陽性・陰性菌、真菌、アカントアメーバに有効。
薬物浸透促進:角膜上皮の疎水性バリアを破壊し、主薬の眼内移行を高める。
高い安定性:水溶性が高く、製剤化が容易である。
BAKの害
眼表面毒性:角膜上皮・結膜上皮・マイボーム腺上皮に細胞毒性を示す2)。
涙液層の不安定化:杯細胞減少と脂質層破壊によりドライアイを増悪させる。
濾過手術への影響:長期使用が緑内障手術の成功率を低下させる可能性がある4)。
| 防腐剤 | 濃度 | 分類 |
|---|---|---|
| BAK | 0.003〜0.02% | 界面活性剤型 |
| ポリクォード(PQ-1) | 0.001% | 界面活性剤型 |
| ピュライト(SOC) | — | 酸化型 |
| ソフジア | — | イオン緩衝型 |
| 過ホウ酸ナトリウム | — | 酸化型 |
ポリクォード(polyquaternium-1)はBAKと同様の第四級アンモニウム化合物であるが、BAKの約27倍の分子量を持ち、主に親水性である3)。大きな分子サイズと疎水性領域の欠如により哺乳類細胞への侵入が困難であり、BAKと比較して細胞毒性が低いとされる。コンタクトレンズケア用品や一部の人工涙液に使用される。
安定化オキシクロロ複合物(stabilized oxychloro complex: SOC)は亜塩素酸塩・塩素酸塩・二酸化塩素の混合物を含む酸化型防腐剤である3)。眼表面に投与されるとナトリウムイオン・塩化物イオン・酸素・水などの涙液成分に変換される。哺乳類細胞には抗酸化物質やカタラーゼが備わっているため、ピュライトの毒性は低い。
ホウ酸・ソルビトール・プロピレングリコール・亜鉛を含むイオン緩衝型防腐剤である。眼表面の陽イオンと接触して速やかに分解されるため、BAKと比較して細胞毒性が低い。トラバタンZ(トラボプロスト0.004%)に採用されている。
水と結合して過酸化水素を形成することで殺菌作用を発揮する酸化型防腐剤である3)。眼表面でカタラーゼにより速やかに酸素と水に分解される。BAKと比較して角膜・結膜細胞への毒性が有意に低い。
in vitroおよび動物実験では、ポリクォード・ピュライト・ソフジア・過ホウ酸ナトリウムのいずれもBAKより細胞毒性が低いことが示されている。しかし、ポリクォードについてはBAKとの比較でランダム化比較試験(RCT)がなく、in vitro研究では細胞生存率低下やNF-kB活性化などの潜在的毒性も報告されている。エビデンスレベルには限界があり、さらなる検証が必要である。
| BAK障害 | ドライアイ |
|---|---|
| 角膜のみの染色が特徴 | 結膜のみ/角結膜双方の染色 |
| 点眼歴に関連 | 環境因子・加齢に関連 |
| 原因点眼中止で改善 | 涙液補充・環境調整で改善 |
防腐剤による障害が疑われた場合は、BAKを含まない点眼薬への変更を試みる。変更後2週間程度で点状表層角膜炎が消失すれば、BAKが原因であった可能性が高い。
BAK曝露の累積負荷を軽減するために、以下の戦略が有用である。
BAK含有製剤から代替防腐剤(ポリクォード・ピュライト・ソフジア)を用いた製剤への変更により、OSDIスコアの改善・TBUTの改善・角膜染色の減少が報告されている。日本ではBAKフリー点眼薬としてホウ酸併用型・フィルター使用型・ユニットドーズ(UD)型がある。
ホウ酸併用型
特徴:ホウ酸は静菌作用のみのため他の添加剤を併用する。
製品例:複数のBAKフリー緑内障点眼薬に採用されている。
フィルター型・UD型
フィルター型:PF容器やNP容器で細菌侵入を防止する。握力が弱い患者では使いにくい場合がある。
ユニットドーズ型:1回使い切りで無菌性を確保する。コスト面の課題がある。
無防腐剤製品は眼表面毒性を防ぎ、忍容性を向上させる。重度のドライアイ・神経栄養性角膜炎・輪部幹細胞欠損症では、防腐剤含有点眼薬の使用を最小限に抑えるべきである。
多回投与用無防腐剤ボトルとして、ABAK(抗微生物膜内蔵、開封後3か月維持)やCOMOD(逆止弁内蔵、開封後6か月維持)が開発されている。
欧州緑内障学会(EGS)ガイドラインでは、防腐剤に不耐の患者や長期治療を要する患者において防腐剤の使用を回避し、最小限の濃度に抑えることを推奨している4)。OSD軽減のための選択肢として、BAKフリー製剤の使用・配合剤による点眼回数削減・無防腐剤人工涙液の併用・早期のレーザーまたは手術介入が挙げられている4)。
必ずしもそうではない。323人を対象としたシステマティックレビューでは、無防腐剤と防腐剤含有の人工涙液の間でアウトカムに統計的有意差はなかったと報告されている。しかし自覚症状については無防腐剤製剤を支持する傾向がある。また無防腐剤製剤にはコスト・使用の困難さ・汚染リスクといった限界があり、すべての患者に適しているわけではない。
BAKは第四級アンモニウム化合物であり、親水性と疎水性の両方の特性を持つ。微生物の細胞壁脂質を破壊して殺菌する作用と同じメカニズムが、ヒト眼表面細胞にも障害を及ぼす2)。
BAKの毒性閾値は0.005%と推定されているが、これは市販されている多くの点眼薬の配合濃度(0.003〜0.02%)よりはるかに低い。EU規制で化粧品に許可された最大濃度(0.1%)の数百倍希釈した濃度であっても、ヒト角膜・結膜・マイボーム腺上皮細胞はin vitroで18時間以内に死滅する2)。
BAKは以下の複数の機序を介して眼表面障害を引き起こす2)。
BAKは眼組織への残留性が高い。ウサギを用いた実験では、0.01% BAKの単回点眼後168時間(7日間)にわたり眼組織にBAKが検出されている2)。この長い半減期が累積毒性の一因となる。
BAK以外にも、化粧品やアイケア製品に含まれるホルムアルデヒド放出性化合物(DMDM-ヒダントイン、クオタニウム-15、イミダゾリジニルウレアなど)が眼表面に毒性を示す2)。EU規制の許容上限(0.2%)やCIR推奨上限(0.074%)の740〜2000倍低い濃度でも、ヒト角膜・結膜・マイボーム腺上皮細胞に毒性を示すことが報告されている2)。
Mariniらは97例のアレルギー性結膜炎患者を対象に、無防腐剤ベポタスチン1.5%(BB-PF)とBAK保存オロパタジン0.2%(OL-BAK)を比較する前向き多施設RCTを実施した1)。
60日間の治療後、印象細胞診(Nelson分類)において、BB-PF群はOL-BAK群と比較して正常な結膜上皮を有する確率が2.0倍高かった(OR=2.00; 95% CI 1.19〜3.34; p=0.010)1)。OL-BAK群では正常結膜が27.4%減少したのに対し、BB-PF群では20.5%の改善が認められた1)。
この研究は、わずか60日間のBAK曝露でも結膜上皮の組織学的変化が生じることを示し、短期使用においても防腐剤毒性への注意が必要であることを裏づけている1)。
結膜印象細胞診(conjunctival impression cytology: CIC)が有用である。Nelson分類により杯細胞の有無と上皮の化生を4段階(0〜III)で評価する。Grade 0-Iは正常、Grade II-IIIは杯細胞消失と扁平上皮化生を示し異常と判定される1)。BAK保存点眼薬による結膜障害の検出に用いられている。