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角膜・外眼部疾患

ペルフルオロヘキシルオクタン眼科用溶液

1. ペルフルオロヘキシルオクタンとは

Section titled “1. ペルフルオロヘキシルオクタンとは”

ペルフルオロヘキシルオクタン(perfluorohexyloctane: PFHO)眼科用溶液(商品名:Miebo®、Bausch+Lomb社)は、ドライアイ(dry eye disease: DED)の徴候および症状の治療薬として2023年5月にFDAで承認された。涙液の蒸発を標的としたFDA承認初の処方点眼薬である2)

PFHOは両親媒性のセミフルオロアルカン(化学式C₁₄H₁₇F₁₃、F6H8)であり、親油性の炭化水素セグメントと疎油性のフルオロカーボンセグメントを有する3)。本製剤は100%有効成分からなる単一成分・水フリー・防腐剤フリーの製剤である4)。米国では処方薬として販売されているが、欧州・オーストラリア・ニュージーランドではEvoTears®/NovaTears®の名称で数年前から使用されている4)

ドライアイは米国で1,600万人以上が罹患する多因子疾患であり、涙液蒸発の亢進が最大90%の症例に関与する3)。マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction: MGD)が蒸発亢進型ドライアイの最大の原因である1)

Q PFHOは他のドライアイ治療薬とどう違いますか?
A

既存のFDA承認DED処方薬であるシクロスポリン(Restasis®・Cequa®)やリフィテグラスト(Xiidra®)は抗炎症作用を介して涙液産生を改善する。バレニクリン(Tyrvaya®)は副交感神経経路を標的として涙液分泌を刺激する。これらに対しPFHOは涙液表面に蒸発防止層を形成するという全く異なる作用機序を有し、蒸発亢進型ドライアイに特化した初めての処方点眼薬である。

Perfluorohexyloctane image
Perfluorohexyloctane image
Cureus. 2025; 17(2):e78554. Figure 2. PMCID: PMC11887804. License: CC BY.
フルオレセイン下の細隙灯写真で、角膜表面の染色像と涙液層の変化を左右で比較できる。角膜上皮障害と治療前後の変化を視覚的に示す。

蒸発亢進型ドライアイを含むDED全般の自覚症状は以下の通りである2)

  • 眼乾燥感:最も一般的な主訴である
  • 灼熱感・刺痛感:炎症反応に関連する
  • 異物感:眼表面の障害に伴う
  • 羞明:角膜上皮障害に伴い出現する
  • 霧視:涙液層の不安定化により一過性の視力変動が生じる
  • 眼疲労:VDT作業時に増悪する
  • 涙液層破壊時間(BUT)の短縮:日本の診断基準ではBUT 5秒以下が確定診断の要件である
  • 角膜フルオレセイン染色陽性:角膜上皮障害の程度を反映する。tCFS(全角膜フルオレセイン染色スコア)は臨床試験の主要評価項目に用いられる
  • マイボーム腺機能不全:腺開口部の閉塞、マイバム性状の変化を認める
  • 涙液メニスカスの減少:涙液量の低下を反映する
  • 結膜上皮障害:充血、点状表層角膜炎を認める

蒸発亢進型ドライアイ

マイボーム腺機能不全(MGD):蒸発亢進型ドライアイの最大の原因である。マイボーム腺終末管の閉塞や腺分泌の質的変化により涙液脂質層が機能不全に陥る1)

不適切な瞬目反射:瞬目回数の低下(VDT作業など)により涙液蒸発が亢進する

外因性要因:コンタクトレンズ装用、環境の低湿度、点眼薬中の防腐剤がリスクとなる

**DED症例の最大90%**に蒸発亢進が関与するとされ、PFHOはこの病型を標的とした治療薬である3)

涙液減少型ドライアイ

シェーグレン症候群:涙腺の炎症により涙液分泌が低下する自己免疫疾患である

非シェーグレン型:加齢性涙腺機能低下、涙管閉塞、薬剤性(抗ヒスタミン薬・抗コリン薬など)が原因となる

**全DED症例の約14%**が純粋な涙液減少型であり、約30%が蒸発亢進型との混合型である3)

シクロスポリン点眼:涙液産生の増加を目的とした免疫調節薬であり、涙液減少型に適する3)

  • 年齢・性別:加齢に伴い有病率が上昇する。女性に多く、50歳未満の5.7%から75歳以上の9.8%に増加する2)
  • 閉経後エストロゲン療法:ホルモン変動がドライアイのリスクとなる
  • VDT作業:瞬目回数の低下により涙液蒸発が亢進する
  • コンタクトレンズ装用:PFHOは点眼前にコンタクトレンズを外し、30分以上経過後に再装用する必要がある

日本のドライアイ研究会による診断基準では、自覚症状がある点とBUTが5秒以下である点の2つを満たせば確定診断となる。TFOS DEWS IIによる定義では、涙液層の恒常性の喪失に加え、涙液浸透圧の上昇・眼表面の炎症・神経感覚異常なども病因的役割を果たすとされる。

検査評価対象臨床試験での使用
tCFS角膜上皮障害GOBI・MOJAVEの主要評価項目
VAS乾燥感スコア自覚症状同上
OSDI質問票QOL・症状重症度副次的評価項目
  • 涙液層破壊時間(BUT):フルオレセインで染色後、涙液層が最初に破壊されるまでの時間を測定する
  • Schirmer試験:涙液分泌量を定量的に評価する。無麻酔下で5mm以下が涙液減少型を示唆する
  • マイボーム腺評価:腺の形態・分泌物の圧出性・マイバムの質を評価する
  • 涙液層指向型診断(TFOD):開瞼直後の涙液層破壊パターンにより原因層を同定する
Q どのような患者にPFHOは適していますか?
A

PFHOはMGDに伴う蒸発亢進型ドライアイの患者に特に適している。臨床試験では、BUT 5秒以下、Schirmer試験5mm以上、MGDスコア3以上、tCFS 4〜11の患者が対象とされた。涙液分泌量が著しく低下した涙液減少型ドライアイには、免疫調節薬であるシクロスポリン点眼が適する場合がある。

PFHOは100%ペルフルオロヘキシルオクタンからなる防腐剤・添加物フリーの眼科用溶液である。推奨用量は各患眼に1日4回、1回1滴の点眼である。

2つの第3相ランダム化二重盲検試験(GOBI試験・MOJAVE試験)で、PFHO 1日4回点眼は8週時点で生理食塩水対照と比較し、tCFSおよびVAS乾燥感スコアの両主要評価項目を有意に改善した4)

4件のRCTを含むメタ解析(1,814例)では、以下の結果が報告されている1)

PFHO群は対照群と比較してtCFSを有意に改善した(MD -1.09; 95% CI -1.37〜-0.82; P < 0.001; I² = 0%)。eye distress VAS(MD -9.69; P < 0.01)、OSDI(MD -5.79; P < 0.01)、灼熱感/刺痛感スコア(MD -7.16; P < 0.01)もすべて有意に改善し、異質性は認めなかった1)

GOBI試験の延長試験であるKALAHARI試験(208例、52週間)では、tCFSのベースラインからの平均変化量は-2.1、VAS乾燥感スコアの平均変化量は-33.7であり、60週間にわたる持続的な有効性が確認された4)

試験対象tCFS改善(LSMD)VAS改善(LSMD)
GOBI597例-0.97(P < 0.001)-7.6(P < 0.001)
MOJAVE620例-1.2(P < 0.001)-10.2(P < 0.001)

2週目(day 15)の時点ですでにtCFSとVAS乾燥感スコアの有意な改善が認められ、単回点眼後5分の時点でも症状改善効果が観察されている4)

PFHO点眼の安全性は良好である1)

  • 最多有害事象:霧視(1.3〜3.0%)。軽度かつ一過性である4)
  • 眼有害事象の発生率:PFHO群と対照群で有意差を認めない(RR 1.00; 95% CI 0.77〜1.29; P = 0.999)1)
  • 重篤な眼有害事象:GOBI・MOJAVE・KALAHARI試験を通じて報告なし3)
  • 中止率:低い3)
  • 非臨床試験で非毒性・非生体蓄積性が確認されている4)

PFHOは現在のところ絶対的禁忌はないが、妊婦・授乳婦・18歳未満における安全性と有効性は確立されていない。

日本におけるドライアイ治療との位置づけ

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日本ではドライアイ研究会が提唱する「眼表面の層別治療(TFOT)」の概念に基づき、原因層に対する治療が行われる。油層に対しては温罨法・眼瞼清拭、液層にはヒアルロン酸ナトリウム・涙点プラグ、分泌型ムチンにはジクアホソルナトリウム、上皮にはレバミピドが用いられる。PFHOは油層機能の補完として涙液蒸発を直接的に抑制する新たな選択肢となりうる。

Q 副作用はありますか?
A

臨床試験で最も多く報告された副作用は霧視(1.3〜3.0%)であり、軽度かつ一過性である。その他には眼瞼炎、結膜充血、結膜乳頭、点眼部位の痛みが報告されているが、いずれも低頻度である。メタ解析では、眼の有害事象の発生率がPFHO群と対照群で同等であることが示されている。

Q 効果はどのくらいで現れますか?
A

臨床試験では、単回点眼後5分の時点で症状改善効果が観察されている。2週目(day 15)には角膜フルオレセイン染色スコアと乾燥感スコアの両方で有意な改善が確認されている。KALAHARI延長試験では52週間にわたり効果が持続した。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ドライアイの病態の中心は涙液の高浸透圧である2)。涙液分泌の低下または蒸発の亢進により涙液浸透圧が上昇すると、MAPキナーゼの活性化と炎症性サイトカイン・ケモカイン・マトリックスメタロプロテアーゼの分泌が惹起される2)。これらの炎症メディエーターは角膜上皮・結膜・杯細胞のアポトーシスを誘導し、グリコカリックスの障害・眼表面の潤滑能低下・涙液層の不安定化を引き起こす。その結果、さらなる高浸透圧が生じるという「悪循環(vicious circle)」が形成される2)

PFHOの作用機序にはいくつかのメカニズムが提唱されている4)

涙液蒸発の抑制が第一の機序である。PFHOは両親媒性の分子であり、フルオロカーボンセグメント(疎油性・親空気性)と炭化水素セグメント(親油性)の自己集合により、涙液表面と外気の界面に秩序だった単分子膜を形成する3)。この単分子膜が涙液水層の蒸発を物理的に抑制する。in vitroでは、PFHOを生理食塩水上に適用すると蒸発が約80%減少する2)

PFHOとPFBP(ペルフルオロブチルペンタン)の蒸発速度を比較したin vitro重量分析では、1時間後にPFHOの蒸発量は1.5%未満であったのに対し、PFBPは93%が蒸発した。ex vivoモデルでは、1時間後のPFHOの角膜残留率は54.5%であり、PFBPの18.6%の約3倍であった3)

角膜表面温度の低下とTRPM8活性化が第二の機序である4)。PFHOの局所適用は角膜表面温度を低下させ、角膜のTRPM8冷感受容体の活性を増加させる。この反応は反射性流涙と瞬目の促進、不快感・疼痛の軽減につながると考えられている。

涙液脂質層の改善も報告されている。前臨床データでは、PFHOの7日間投与により脂質層グレードが単回点眼後5分から改善し、反復投与により5〜7日間にわたり改善が維持された4)。臨床試験でも脂質層厚と涙液層厚の改善が4週時点で観察されている4)

2025年に発表されたTFOS DEWS III Management and Therapy Reportでは、PFHOは蒸発亢進型DEDに対するエビデンスに基づく治療選択肢として位置づけられている4)。系統的レビュー(6件のRCT)ではPFHO群でOSDI・脂質層厚・角膜染色・有害事象のほとんどの変数において対照群を上回る改善が報告されている4)

PFHOと水フリーシクロスポリン0.1%の比較

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PFHOとwater-free CsA 0.1%(Vevye®)は共にSFA含有の水フリー・防腐剤フリー製剤であるが、PFHOは蒸発抑制を、CsA 0.1%は免疫調節による涙液産生増加をそれぞれ標的としている3)。PFHOの臨床試験では蒸発亢進型DED(MGD合併)が対象であったのに対し、CsA 0.1%の試験ではMGDは除外基準であり、涙液減少型の重症例が対象であった4)

臨床試験の追跡期間は主に8週間であり、長期(1年を超える)の有効性と副作用の評価が必要である1)。重症DED(tCFS > 11)やコンタクトレンズ装用者など、試験から除外された患者群での評価も今後の課題である1)。日本における承認に向けた検討も期待される。

  1. Guedes J, Hespanhol LC, Freitas MAA, et al. Efficacy and Safety of Perfluorohexyloctane in Evaporative Dry Eye Disease Associated With Meibomian Gland Dysfunction: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Cureus. 2024;16(8):e67920.
  2. Azhar A, Taimuri MA, Oduoye MO, et al. MEIBO (perfluorohexyloctane): a novel approach to treating dry eye disease. Ann Med Surg. 2024;86:5292-5298.
  3. Periman LM, White DE, Katsev D. Differentiating Between Perfluorohexyloctane Ophthalmic Solution and Water-Free Cyclosporine Ophthalmic Solution 0.1% for Dry Eye Disease: A Review of Preclinical and Clinical Characteristics. Ophthalmol Ther. 2025;14(2):283-293.
  4. TFOS DEWS III Management and Therapy Report. Am J Ophthalmol. 2025;279:289-386.

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