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角膜・外眼部疾患

抗体薬物複合体(ADC)による眼表面有害事象

1. ADCによる眼表面有害事象とは

Section titled “1. ADCによる眼表面有害事象とは”

抗体薬物複合体(ADC: Antibody-Drug Conjugate)は、腫瘍特異的モノクローナル抗体と細胞毒性薬(ペイロード)をリンカーで結合した構造の抗がん剤である。抗体が癌細胞表面の標的抗原に結合してADC全体がエンドサイトーシスで取り込まれ、リソソーム酵素によりペイロードが切り離されて細胞死を誘導する。

眼表面毒性はADCの最も一般的な有害事象の一つである。損傷メカニズムとして2つの経路が提唱されている:

  • オンターゲット毒性:標的抗原を発現する眼表面細胞において、受容体を介したエンドサイトーシスで毒性が発生する
  • オフターゲット毒性:Fc受容体介在性の取り込み、マクロピノサイトーシス、リンカーの早期解離による遊離ペイロードの拡散(バイスタンダー毒性)によって生じる

角膜上皮にはEGFR(上皮成長因子受容体)およびHER2が発現しており、これらを標的とする抗体・ADCは角膜上皮障害を起こしやすい。代表的な薬剤にはセツキシマブ(抗EGFR抗体)、トラスツズマブ(抗HER2抗体)、トラスツズマブ エムタンシンなどがある。

主なFDA承認ADCと眼表面への影響が報告されている代表的薬剤を以下に示す。

薬剤標的主な適応症
ベランタマブ マフォドチンBCMA多発性骨髄腫
ミルベツキシマブ ソルヴタンシンFRα卵巣癌
チソツマブ ベドチンTF子宮頸癌

その他、エンホルツマブ ベドチン(Nectin4標的、尿路上皮癌)、トラスツズマブ デルクステカン(HER2標的、乳癌)なども眼表面有害事象が報告されている。

ADC関連の眼表面変化は多くの場合無症状であり、眼科検査で初めて発見されることが多い。自覚症状がある場合:

  • 刺激感:軽度のものが多い
  • 霧視:偽微小嚢胞(MECs)が角膜中央部に及ぶと生じる
  • 流涙・羞明:結膜炎や輪部病変に伴う
  • 屈折変化:MECsの位置に応じて遠視化または近視化が生じうる

偽微小嚢胞

微小嚢胞様上皮変化(MECs):角膜上皮内の封入体様変化。輪部付近から始まり、投与量・治療期間に応じて中央へ拡大する。両眼性。

IVCM所見:基底層〜翼細胞層に円形の高反射構造。表層上皮は比較的保存される。

徹照法:細隙灯顕微鏡の徹照法で最もよく観察される。

結膜炎

両眼性充血:眼球結膜・眼瞼結膜の発赤。灼熱感、痒み、流涙を伴う。

上皮下線維化:チソツマブ ベドチンで報告。眼瞼結膜に線維化を生じる。

眼瞼炎:併発することがある。

輪部病変

輪部幹細胞機能不全ドライアイ症状の悪化。フルオレセイン染色で渦状パターンを認める。

上輪部角結膜炎(SLK):ミルベツキシマブ ソルヴタンシンで報告。

Q 偽微小嚢胞(MECs)とは何か
A

MECsはADCの角膜上皮細胞への取り込みにより形成される封入体様の変化である。真の微小嚢胞とは異なり、上皮細胞内にADCが内部移行した結果と考えられている。輪部から中央へ拡大し、多くは休薬により消失する。詳細は病態生理学の項を参照。

ADCによる眼表面有害事象は、ペイロードの種類、標的抗原の角膜・結膜上皮での発現、リンカーの安定性に依存する。

  • ペイロードの種類:モノメチルアウリスタチンF(MMAF)を含むADC(ベランタマブ マフォドチン等)はMECsの頻度が高い
  • 標的抗原の眼表面発現:EGFR・HER2は角膜上皮に発現しており、オンターゲット毒性のリスクがある
  • ドライアイの既往:治療開始前にドライアイがある患者はMECsを発症しやすい
  • 投与量と治療期間:高用量・長期投与でリスクが増大する

抗EGFR抗体(セツキシマブ)は角膜上皮障害に加え、睫毛伸長・睫毛乱生・眼瞼炎を生じることがある。EGFR阻害薬(エルロチニブ、ゲフィチニブ、オシメルチニブ等)も同様の機序で角膜上皮障害を起こす。

Q どのADCが眼の副作用を起こしやすいか
A

ベランタマブ マフォドチン(BCMA標的)、ミルベツキシマブ ソルヴタンシン(FRα標的)、チソツマブ ベドチン(TF標的)は特に眼表面有害事象の頻度が高い。これらはいずれもペイロードや標的の特性から角膜上皮への影響が生じやすい。

ベースライン検査と定期モニタリング

Section titled “ベースライン検査と定期モニタリング”

ADC治療開始前に視力・屈折検査、細隙灯検査、涙液評価を含むベースライン検査を実施する。以後、各サイクルごとにモニタリングを行い、症状増悪時にはより頻回に検査する。

角膜症の程度をKeratopathy Visual Acuity(KVA)スケールで評価する。角膜所見と最高矯正視力(BCVA)の変化に基づいて重症度を分類し、投与量調整の判断に用いる。

MECsの詳細な評価に有用である。翼細胞層・基底細胞層に円形の高反射構造として描出され、表層上皮は比較的保存される。実質・内皮には異常を認めない。

輪部幹細胞機能不全の評価に重要。渦状の染色パターン(whorl pattern)は輪部幹細胞障害に特徴的な所見である。

ADC関連眼表面有害事象の管理は、定期的なモニタリング、支持療法、投与量調整の3本柱で行う。

  • 防腐剤無添加人工涙液:基本的な治療。エンホルツマブ・チソツマブ開始時は予防的に両眼1日4回から開始する。涙液中に排泄された薬剤を洗い流す効果も期待される
  • 予防的ステロイド点眼:MMAFペイロード含有ADCやミルベツキシマブにおいて有効性が報告されている。ミルベツキシマブでは治療サイクルの最初10日間、1%プレドニゾロン1日4〜6回の予防投与で角膜症の発症率が低下したとされる
  • その他:重度の眼表面障害にはビタミンA軟膏、経口ドキシサイクリン(20 mg 1日2回)が有益な場合がある

眼表面有害事象の重症度に応じて投与の延期・減量・中止を判断する。

  • ベランタマブ マフォドチン:DREAMM-2試験ではKVAスケールに基づく投与延期・減量によりMECsが減少した。角膜変化は休薬により数週間〜数ヶ月で消失する可逆的変化である
  • チソツマブ ベドチン:グレード1を超える角膜炎・結膜炎で投与調整。潰瘍・瘢痕化・瞼球癒着がある場合は中止する
  • 涙点プラグ:ADCの眼表面濃度・曝露時間を増加させる可能性があるため使用に注意が必要である
  • コンタクトレンズ:装用回避が推奨される
  • 長期ステロイド点眼:二次感染・眼圧上昇・緑内障白内障のリスクを考慮する
Q ADCで眼に副作用が出た場合、抗がん剤を中止すべきか
A

多くの場合、中止ではなく投与量の調整(延期・減量)で対応可能である。眼表面の変化は休薬により数週間〜数ヶ月で可逆的に消失することが多い。ただし、潰瘍や瘢痕化など重度の所見がある場合は中止が検討される。腫瘍内科と眼科の連携による判断が重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ADCが角膜上皮細胞に取り込まれると、細胞毒性ペイロードが細胞内で遊離し、アポトーシスを誘導する。組織学的検査では、アポトーシスの様々な段階にある空胞状・顆粒状の外観を持つ上皮細胞が認められる。免疫組織化学染色では基底上皮細胞がIgG陽性を示し、ADCの細胞内取り込みを裏付ける。

MECsは輪部付近から始まり、投与量の増加や治療の継続に伴い角膜中央部へ拡大する。この「末梢→中央」の移動パターンは、ADCが血管豊富な輪部を介して角膜に侵入することを示唆している。角膜上皮細胞がADC誘発性の細胞死を起こし、新しい上皮細胞が輪部から中央に向かって再生される過程で、障害された細胞が中央へ押し出されると考えられている。

オンターゲットとオフターゲットの区別

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ベランタマブ マフォドチン(BCMA標的)やミルベツキシマブ(FRα標的)の場合、標的抗原は角膜・結膜上皮には発現していない。そのためオフターゲット経路(Fc受容体介在性取り込み、マクロピノサイトーシス、ペイロードの受動拡散)が主要な毒性機序と推定される。

一方、HER2やEGFRを標的とするADC(トラスツズマブ エムタンシン等)では、角膜上皮にこれらの受容体が発現しているため、オンターゲット毒性が関与する可能性がある。


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