中毒性角膜症
無菌性角膜潰瘍:実質深層の刺針周囲に発生。
角膜浮腫:デスメ膜しわを伴い、局所〜びまん性に広がる。
刺針残存所見:上皮に「微細な隆起ネットワーク」を呈する特異的所見。
内皮障害:細胞密度減少と細胞不同視が長期的に生じうる。

眼蜂刺傷は、ミツバチ(bee)やスズメバチ(wasp)による眼部への刺傷である。両者はいずれも膜翅目(Hymenoptera)に属するが、毒液の成分が異なるため臨床像も異なる。角膜・結膜・強膜・眼瞼への刺傷は、眼の健康と視機能に壊滅的な打撃を与えうる。
眼蜂刺傷に関する発表データは限られており、そのほとんどが症例報告や少数の症例シリーズである。標準化された治療プロトコールは現時点で存在しない。
蜂1匹の毒量では人の生死に直結しないが、眼球にとっては致命的な損傷となりうる。特にスズメバチは毒量が多く、刺針も約7.0mmと長い。眼角部刺傷ではテノン嚢に達し、眼球刺傷では前房・水晶体・硝子体に到達する。蜂刺傷の既往がある場合は、蜂の種類にかかわらずアナフィラキシーショックのリスクがある。
ミツバチは刺針の逆刺が組織に固定されるため、刺針が体内に残りミツバチ自身は死に至る。スズメバチは刺針が固定されないため、複数回刺すことが可能で毒量も多い。スズメバチ刺傷はミツバチよりも重篤な転帰をとる傾向がある。眼瞼の局所反応もミツバチ・アシナガバチ・スズメバチの順に強くなる。

眼蜂刺傷は多様な臨床像を呈する。
中毒性角膜症
無菌性角膜潰瘍:実質深層の刺針周囲に発生。
角膜浮腫:デスメ膜しわを伴い、局所〜びまん性に広がる。
刺針残存所見:上皮に「微細な隆起ネットワーク」を呈する特異的所見。
内皮障害:細胞密度減少と細胞不同視が長期的に生じうる。
眼内炎症・合併症
反応性ぶどう膜炎:角膜後白斑、毛様充血、無菌性前房蓄膿。
視神経炎:受傷後数時間〜数日で発症。光覚弁まで視力低下することがある。
分節状虹彩萎縮:毒素の直接障害による。
緑内障:短期的・長期的な眼圧上昇。
スズメバチ毒液噴射のみでも化学傷として角膜に重篤な障害を生じうる。眼内に浸潤した毒は眼内組織を持続的に破壊する。
ミツバチ毒液はアミノ酸・酵素・ペプチドからなり、主な成分は以下の通り。
蜂毒は痛みや腫れの原因となるアミン、強烈な痛みを起こす発痛ペプチド、細胞膜に作用する細胞膜作動性ペプチド、組織破壊を起こす加水分解酵素、抗原となる高分子蛋白を含む。
眼蜂刺傷による予後悪化に関する確立されたリスク因子はない。刺傷の解剖学的部位、残存刺針の深さ、蜂の種類、治療介入のタイミングが予後に影響すると考えられる。
眼球だけでなく眼瞼を刺された場合にも、細隙灯顕微鏡で眼球損傷の有無を確認する。蜂が眼前を飛翔しただけでも確認が必要である。
角膜混濁、角膜腫脹、結膜充血、眼内炎症を引き起こすあらゆる疾患が鑑別となる。曝露歴の確認が最も重要である。感染性角膜炎、ヘルペス性実質型角膜炎、フックス角膜内皮変性症、自己免疫疾患による角膜潰瘍などが鑑別に挙がる。
受傷直後であれば毒の注入を制限するため、直ちに刺針を除去する。ミツバチは毒嚢が付着したまま刺針を残すため、毒嚢を潰さないよう針の根部を摂子ではさんで抜去する。ミツバチ毒液の約90%は刺傷後30秒以内に注入される。
刺傷から時間が経過している場合は毒液がすでに放出されているため、刺針を異物として扱い、可能な限り完全に除去する。細隙灯顕微鏡下でのすべての破片の確認が推奨される。
スズメバチ毒液噴射は化学傷として処置する。毒の中和薬は存在しないため、物理的に希釈する以外に方法はない。一刻も早く眼内灌流液を用いて前房洗浄を行う。刺傷後の処置までの時間が予後を決定する。
ステロイド眼軟膏と抗菌眼軟膏を1日数回塗布する。冷罨法と局所安静を保つ。炎症が強い場合は抗ヒスタミン薬やステロイドの内服を追加する。眼瞼の局所反応はミツバチ・アシナガバチ・スズメバチの順に強い。スズメバチでは潰瘍となり治癒に1ヶ月以上を要することがある。
| 合併症 | 外科的選択肢 |
|---|---|
| 角膜混濁 | 全層角膜移植術(PKP) |
| 角膜浮腫 | 角膜内皮移植術(DSEK) |
| 白内障 | 白内障手術 |
| 緑内障 | 緑内障手術 |
受傷直後(30秒以内)であれば、さらなる毒液注入を防ぐために直ちに刺針を除去すべきである。時間が経過した場合は毒液がすでに放出されているため、刺針は異物として取り扱う。眼内に長期残存しても合併症なく経過した症例もあるが、可能であれば完全除去が推奨される。
蜂毒の細胞膜作動性ペプチド(メリチンなど)は角膜上皮・実質・内皮の細胞膜を直接破壊する。ホスホリパーゼA2はリン脂質を分解し、細胞死を誘導する。ヒアルロニダーゼは組織の拡散因子として毒素の浸透を促進する。
角膜内皮は特に毒素に脆弱であり、細胞密度の減少と細胞不同視が長期的に持続する。内皮細胞の不可逆的な損傷は、遅発性の角膜浮腫の原因となりうる。
刺傷後の視神経炎は2つの機序が推測されている。
蜂毒は高分子蛋白を含み、蜂刺傷の既往がある場合はIgE介在性のアナフィラキシーショックのリスクがある。眼症状の管理と同時に全身状態の監視が不可欠である。
予後は刺傷部位、残存刺針の深さ、蜂の種類、治療介入の迅速さに依存する。視力転帰は1.0(20/20)から光覚弁まで幅広い。
適切な治療を迅速に開始した場合は良好な転帰が得られることが多い。一方、スズメバチ刺傷、視神経炎の合併、治療の遅延は予後不良因子となる。角膜混濁・白内障・緑内障が残存する場合は、外科的介入による視力回復が検討される。