典型的所見
花冠状(wreath-like)浸潤:黄白色の針頭大の表層浸潤が環状に配列。病原性を示す特徴的なパターン1)。
衛星状病変:主病巣周囲に散在する小浸潤。
前房蓄膿:前房反応を伴い、通常は前房蓄膿を認める。
上皮欠損:浸潤上の角膜上皮が障害され、フルオレセイン陽性となる。

ノカルジア(Nocardia)は放線菌目(Actinomycetales)に属する好気性・グラム陽性・非運動性の分岐状糸状細菌である。もともと真菌に分類されていたが、現在は真正細菌として認識されている。直径は1.5μm未満であり、少なくとも12の承認された種が存在する。角膜感染の原因として最も多いのはN. asteroidesである3)。
ノカルジアは土壌、泥、埃、腐敗した植物などに常在し、世界中に分布する。眼や呼吸器の正常菌叢には存在しない。N. asteroidesは温帯地域、N. brasiliensisは熱帯・亜熱帯地域に多い。
ノカルジア眼感染症には、角膜炎・強膜炎・結膜炎・涙小管炎・涙嚢炎・眼窩蜂窩織炎・眼内炎が含まれるが、角膜感染が最も多い。全微生物性角膜炎における有病率は2%未満である1)。大規模多施設前向き治療研究(SCUT)では、南インドを中心とした患者群でNocardia属が11.5%を占めたとされる6)。
フルオロキノロン系など細菌性角膜炎に対する一般的な第一選択薬には反応しない点が臨床上重要である。
ノカルジアはもともと真菌に分類されていた分岐状糸状細菌であり、角膜炎の臨床像も斑状浸潤、衛星状病変、緩徐な経過など真菌性角膜炎と類似する。しかしグラム染色で陽性の分岐状フィラメントを示し、弱抗酸性を呈する点で真菌と鑑別できる。KOH染色では真菌要素は検出されない1)2)。
ノカルジア眼感染症は通常、遷延した経過をたどる。
典型的所見
花冠状(wreath-like)浸潤:黄白色の針頭大の表層浸潤が環状に配列。病原性を示す特徴的なパターン1)。
衛星状病変:主病巣周囲に散在する小浸潤。
前房蓄膿:前房反応を伴い、通常は前房蓄膿を認める。
上皮欠損:浸潤上の角膜上皮が障害され、フルオレセイン陽性となる。
非典型的所見
浸潤は主に前部実質にあり、上皮および上皮下組織に関与する。周囲の実質は通常透明である。角膜知覚が低下することがある。
典型的には黄白色の針頭大の表層浸潤が花冠状(wreath-like)に配列し、衛星状病変を伴う。しかし、偽樹枝状欠損やSLK様の上方限局型など非典型的な臨床像を呈することもあり、真菌性角膜炎やヘルペス角膜炎との鑑別が困難な場合がある3)。
ノカルジアは土壌中に生息する放線菌であり、CL装用や外傷に関連して角膜炎を発症する5)。境界不明瞭な淡い浸潤巣を生じる点がガイドラインでも記載されている5)。
診断のゴールドスタンダードは角膜病変からの擦過(scraping)である。
ノカルジアは発育阻止因子に敏感ではなく、血液寒天培地・チョコレート寒天培地・サブローブドウ糖寒天培地上で小さな白色で乾燥したコロニーとして好気的に増殖する。通常48〜72時間で増殖するが、7日間の培養期間が必要な場合もある1)。培地上の石灰化を伴う白色コロニーの外観から汚染菌と見誤られることがあるが、ノカルジアは一般的な汚染菌ではないため、その分離は常に有意とみなされる。
MALDI-TOF質量分析やPCRベースのアッセイ、16S rRNA遺伝子シーケンシングにより、種レベルの同定と耐性株の特定が迅速に可能となっている。
ノカルジア角膜炎の主な鑑別疾患:
ノカルジアは成長と増殖の速度が遅い細菌であり、通常48〜72時間で培養可能であるが、臨床検体からの分離には7日間以上を要することがある1)。この遅い増殖速度が診断の遅延につながる一因である。MALDI-TOFやPCRなどの現代的な診断技術により、迅速な同定が可能になりつつある。
Claudiaら(2025)は41歳男性のノカルジア角膜炎症例において、花冠状浸潤と前房蓄膿を認め、結膜下アミカシンと局所トブラマイシンで治療した。1ヶ月後に前房蓄膿は完全消失したが、角膜白斑と新生血管が残存し、角膜移植の検討が必要となった1)。
Changら(2021)は41歳男性CL使用者のノカルジア角膜炎を報告した。SLKや単純ヘルペスウイルス角膜炎と誤診され3ヶ月間にわたり複数の誤った治療が行われた。培養でN. asteroidesを同定したところアミカシン耐性であったため、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(SEPTRA)80 mg/mLの局所投与で治療し、3日で臨床的改善を得た。最終視力は20/30であった3)。
Bellalaら(2023)は40代男性のノカルジア角膜炎で、局所アミカシンに反応せず前房内に滲出物球(AC ball)を形成した症例を報告した。経口スルファメトキサゾール・トリメトプリム(800/160 mg bid)の追加で劇的に改善し、1ヶ月で完全治癒した。経口ST合剤は非炎症眼でも房水・硝子体に治療濃度に達するため、前房内病変を伴う症例に有用である4)。
起炎菌同定前の初期治療としては、重症例ではフルオロキノロン系・セフェム系・アミノグリコシド系から2剤を組み合わせる5)。ノカルジアが疑われる場合はアミカシンを含む組み合わせとする。
細菌性角膜炎においてアカントアメーバ・ノカルジア・真菌が疑われる場合、副腎皮質ステロイドの使用は避けるべきである6)。
SCUTのサブグループ解析では、ノカルジア角膜炎に対するステロイド使用は視力予後の悪化と関連しており、12ヶ月のフォローアップでも同様の結果であった6)。一方、非ノカルジア細菌性角膜炎では、抗菌薬開始後2〜3日以内のステロイド追加が3ヶ月時点で1ライン良好な視力につながった6)。
ノカルジア角膜炎は通常、内科的治療で十分に管理される。以下の場合に外科的治療を検討する。
外科的選択肢: 治療的層状角膜切除術、全層角膜移植術、結膜被覆術。
アミカシン耐性のノカルジア角膜炎には、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST合剤)が有効な代替薬となる。注射剤(80 mg/mLスルファメトキサゾール+16 mg/mLトリメトプリム)をそのまま点眼薬として使用できる3)。両薬の相乗効果により、単剤よりもMICが低下する。経口投与も房水・硝子体に治療濃度に達する4)。
ノカルジアの成長と増殖は緩徐であり、侵入直後に劇症的な感染を引き起こすことはない。この菌は健常者にも感染できるため、菌体自体の毒性因子が関与していると考えられる。
ノカルジア角膜炎のウサギモデルでは、局所ステロイド治療群で前房内に進展する大きな肉芽腫性病変が観察された。ステロイド非投与群ではこの進展は認められなかった。ステロイドは宿主免疫応答を抑制し、ノカルジアの前房内への進展を促進すると考えられる4)。
MALDI-TOF質量分析やPCRベースのアッセイ、次世代シーケンシング(NGS)などの分子生物学的手法は、ノカルジアの種レベルでの迅速同定を可能にしている。従来の培養法では数日〜1週間を要した同定が、これらの技術により大幅に短縮されうる。
アミカシン耐性ノカルジアの報告が増加しており、薬剤感受性試験の重要性が高まっている3)。
Rahmanら(2025)は農業外傷後のノカルジア角膜炎症例で、初期の抗真菌薬による1ヶ月の誤った治療後も、アミカシン2%を中心とした標的治療への切り替えにより5日以内に劇的改善を得た。3週間で潰瘍は治癒し、最終視力は6/18であった2)。
今後、ノカルジア眼感染症に対するエビデンスに基づく標準化された治療プロトコールの確立が求められる1)。