軽度〜中等度
眼瞼浮腫:充血を伴う。
角膜上皮欠損:点状角膜びらんから広範な上皮欠損まで。
角膜実質浸潤:白色混濁を呈する。フルオレセイン染色で評価する。
角膜知覚消失:Cochet-Bonnet角膜知覚計で確認する。神経栄養性角膜症の特徴である。
前房蓄膿:前房内炎症の波及を示す。

メタンフェタミン誘発角膜炎(methamphetamine-induced keratitis: MIK)は、メタンフェタミンの乱用に起因する角膜の炎症性疾患である。1996年にPoulsenらによって初めて報告された。
メタンフェタミンは強力な中枢神経刺激薬であり、経口摂取・静脈注射・喫煙・吸入の各経路で使用される。角膜に対する直接的な薬理作用と、混入物の化学毒性、行動的要因が複合的に角膜障害を引き起こす。
MIKは通常の感染性角膜炎と比較して、より顕著な神経栄養性の特徴を示す。角膜潰瘍は進行性であることが多く、大きな浸潤・実質壊死・重度の菲薄化を特徴とする。感染性角膜炎を高率に合併し、強化抗菌薬による積極的な治療にもかかわらず、急速な角膜融解や穿孔をきたすことがある1)。
MIKは通常の感染性角膜炎と比較して神経栄養性の特徴が強い。角膜知覚が消失しているため自覚症状が乏しく、受診が遅れやすい。また角膜融解が急速に進行し、治療抵抗性を示すことが多い1)。感染性角膜炎を合併している場合が多く、両者の所見が重複する。

視力低下が主訴となることが多い。異物感・充血・流涙・羞明を呈する。ただし角膜知覚が低下しているため、眼痛が軽度にとどまることがある。
軽度〜中等度の所見と重症例の所見は以下のように分けられる。
軽度〜中等度
眼瞼浮腫:充血を伴う。
角膜上皮欠損:点状角膜びらんから広範な上皮欠損まで。
角膜実質浸潤:白色混濁を呈する。フルオレセイン染色で評価する。
角膜知覚消失:Cochet-Bonnet角膜知覚計で確認する。神経栄養性角膜症の特徴である。
前房蓄膿:前房内炎症の波及を示す。
重症
Huangら(2022)は、メタンフェタミン使用障害を有する2症例を報告した1)。症例1は26歳男性で、1型糖尿病と慢性メタンフェタミン使用歴があり、黄色ブドウ球菌と緑色連鎖球菌による角膜潰瘍を呈した。治療アドヒアランス不良と持続的な眼擦過により、最終視力は右眼手動弁・左眼光覚弁まで低下した。症例2は44歳女性で、GVHDに伴うドライアイとメタンフェタミン使用歴があり、びまん性角膜浸潤と前房蓄膿を呈した。緊急角膜移植と硝子体手術を施行したが、化膿性レンサ球菌による感染が進行し、最終的に眼球摘出に至った1)。
MIKの病態は複数の機序が複合する。
喫煙(「アイス」と呼ばれる結晶メタンフェタミンの喫煙)が角膜潰瘍のリスクを最も高めることが報告されている。煙に含まれるメタンフェタミン塩酸塩が角膜に直接接触し、化学熱傷や熱傷を引き起こす。ただし、静脈注射や吸入など他の経路でも角膜障害は生じうる。
MIKは臨床診断に基づく。メタンフェタミン使用歴と特徴的な眼所見の組み合わせで診断する。
詳細な薬物使用歴(使用頻度・投与経路・最終使用日時)が最も重要な要素である。コンタクトレンズ使用歴、過去の角膜炎の既往、全身疾患の有無も確認する。
感染性角膜炎の合併が疑われる場合は角膜擦過物を採取する。塗抹検鏡(ギムザ染色・グラム染色)と培養検査を行い、細菌・真菌・HSV/水痘帯状疱疹ウイルス・アカントアメーバについて評価する。培養結果に基づき抗菌薬を調整する。
抗菌薬の選択は角膜損傷の重症度に基づく。
| 重症度 | 抗菌薬 | 投与頻度 |
|---|---|---|
| 重症 | 強化バンコマイシン+強化トブラマイシン | 1時間毎 |
| 中等症 | モキシフロキサシン等フルオロキノロン | 1時間毎 |
| 軽症 | フルオロキノロン | 2〜4時間毎 |
培養・感受性試験の結果に基づき抗菌薬を調整する。感染制御後、非定型病原体が除外された場合にはステロイド点眼の慎重な使用を検討する。
角膜炎の重症度と、行動的・心理的な併存疾患の存在により、予後は慎重である。治療アドヒアランスの不良と継続的な薬物使用が転帰を悪化させる1)。重症例では角膜瘢痕による視力障害が残存するほか、眼内炎に至り眼球摘出を要した症例も報告されている1)。
MIKの病態は多因子性であり、以下の機序が相互に関連する。
血管収縮と眼血流障害:メタンフェタミンはカテコラミンの遊離を促進し、強い交感神経刺激作用を有する。血管収縮による眼血流の低下が角膜組織の虚血を引き起こす1)。輪部幹細胞領域の虚血は、びまん性角膜混濁として現れる可能性がある1)。
神経栄養性角膜症:メタンフェタミン使用によるドパミン・セロトニンの調節不全が角膜神経を障害する。角膜知覚の消失は瞬目反射を低下させ、涙液層の不安定化・上皮のターンオーバー障害・角膜創傷治癒の遅延を引き起こす1)。角膜知覚低下は易感染性を高め、感染性角膜炎の合併につながる。
角膜上皮バリアの破綻:痛覚閾値の上昇による瞬目反射の抑制、希釈剤や製造副産物の直接接触、繰り返しの機械的眼擦過が角膜上皮を損傷する。上皮バリアの破綻は微生物の侵入を容易にし、二次感染の温床となる。
感染の重複:多くの症例でグラム陽性球菌をはじめとする細菌感染が合併する1)。衛生状態の悪化・免疫機能の低下・角膜の脆弱性が感染リスクを高める。感染性角膜炎とMIK固有の角膜障害が重複するため、角膜損傷がどちらに起因するかの判断が困難な場合がある。
MIKに関するエビデンスは症例報告や小規模症例集積が中心であり、大規模臨床試験は存在しない。
Huangら(2022)は、メタンフェタミン使用障害に伴う眼合併症として角膜炎と眼内炎の2症例を報告し、メタンフェタミン使用と急性角膜所見との時間的関連および薬理学的作用機序から、両者の間に深刻な関連があることを強調した1)。
MIKの病態生理のさらなる解明と、予防・治療戦略の開発が今後の課題である。コミュニティレベルでの教育・啓発活動やハームリダクション戦略(手洗い指導・眼擦過の回避)が予防介入として提唱されている。薬物依存症治療と眼科診療の多職種連携モデルの構築も求められている。
- Huang Y, Chundury RV, Timperley BD, Terp PA, Krueger RR, Yeh S. Ophthalmic complications associated with methamphetamine use disorder. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;26:101464.