疫学
有病率:米国では25万人あたり0.3人と稀である
高有病率地域:南インド・サウジアラビア・アイスランドで頻度が高い
アイスランド:25万人あたり19人と報告されている
日本:比較的まれな角膜ジストロフィである

斑状角膜ジストロフィ(macular corneal dystrophy: MCD)は、角膜実質にグリコサミノグリカンが蓄積する遺伝性の角膜ジストロフィである。常染色体劣性遺伝形式をとり、第16染色体長腕(16q22)に位置するCHST6遺伝子の変異が原因である。フェール角膜ジストロフィ、グレノウ角膜ジストロフィII型とも呼ばれる。
他の多くの角膜実質ジストロフィが常染色体優性遺伝であるのに対し、本疾患は常染色体劣性遺伝をとる点が特徴的である。日本では顆粒状角膜ジストロフィ(I型・II型)、格子状角膜ジストロフィ(I型・III型)、膠様滴状角膜ジストロフィとともに四大角膜ジストロフィに数えられ、これらで角膜ジストロフィ全体の約96%を占める。前二者は常染色体優性遺伝、後二者(膠様滴状・斑状)は常染色体劣性遺伝である。
疫学
有病率:米国では25万人あたり0.3人と稀である
高有病率地域:南インド・サウジアラビア・アイスランドで頻度が高い
アイスランド:25万人あたり19人と報告されている
日本:比較的まれな角膜ジストロフィである
免疫表現型
I型:角膜・血清ともにケラタン硫酸陰性
IA型:角膜ケラトサイト陽性、血清陰性
II型:角膜・血清ともにケラタン硫酸陽性
臨床的区別:3型とも表現型は同一で鑑別不能
MCDの免疫表現型は、角膜および血清中の硫酸ケラタン量で分類される。
| 表現型 | 角膜ケラタン硫酸 | 血清ケラタン硫酸 |
|---|---|---|
| I型 | 陰性 | 陰性 |
| IA型 | 陽性(細胞内) | 陰性 |
| II型 | 陽性 | 陽性 |
ほとんどの患者はI型またはIA型に分類される。しかし臨床的にはこれらの区別は重要でなく、診察では鑑別できない。
常染色体劣性遺伝をとる点が最大の違いである。顆粒状や格子状ジストロフィは常染色体優性遺伝であるのに対し、本疾患はCHST6遺伝子の両アレルに変異が必要である。また、びまん性の混濁を呈し、角膜全体がスリガラス様に混濁する点も特徴的である。詳細は「病態生理学」の項を参照。
初期
斑点状混濁:角膜中央部の実質浅層に白く小さな斑点状混濁が出現する
スリガラス様混濁:角膜実質にびまん性の淡い混濁を認める
境界不明瞭:混濁の辺縁は不鮮明で、正常実質との境界が不明瞭である
進行期
全層への進展:混濁は実質全層に及ぶ
周辺部への拡大:中央から周辺部へ混濁が広がる
角膜菲薄化:中央角膜の厚みが減少する
内皮・デスメ膜沈着:深部構造にも異常物質が蓄積する
細隙灯顕微鏡では、角膜全体がびまん性に混濁しており、その中に灰白色の不規則な斑状沈着を認める。スリットで切ると、中央部では混濁が浅層に、周辺部では深層に位置する特徴がある。斑状の病変は同心円状に出現するパターンが多い。輪部にも混濁が及ぶことがあり、この点は他の多くの角膜ジストロフィとの鑑別点となる。
不正乱視の出現は前部実質の沈着に関連する。角膜感受性の低下がみられることもある。
原因遺伝子はCHST6(carbohydrate sulfotransferase 6)である。16q22に位置し、ケラタン分子の硫酸基転移を担う酵素をコードする。本遺伝子の変異の種類は非常に多い。遺伝子のdeletion of 5’ regionなどが報告されている。
常染色体劣性遺伝であるため、通常は発端者の両親が血族結婚であることが多い。しかし異なる家系同士の結婚による複合ヘテロ接合体でも発症しうる。
確定診断には遺伝子検査が有用である。2020年4月より角膜ジストロフィの遺伝子検査は保険収載されており、施設認定を受けた医療機関で実施可能である。ただし多くの施設では未だに細隙灯顕微鏡での臨床診断が主体となっている。
診断の基本となる検査である。充血や角膜浮腫のない両眼性の角膜混濁をみたら角膜ジストロフィを疑う。MCDでは以下の所見が特徴的である:
スリットレベルでの不連続病変(沈着間に透明部分がある)が多くの角膜ジストロフィの特徴であるが、MCDでは例外的にびまん性の混濁パターンを呈する。
確定診断にはCHST6遺伝子の検査が有用である。2020年4月より保険収載されているが、施設認定が必要である。
組織学的には周辺虹彩前癒着染色・アルシアンブルー・コロイド鉄染色で陽性に染色される。低硫酸化ヘパラン硫酸が実質の細胞内外にびまん性に認められる。Bowman膜の断裂がみられ、内皮細胞も同様に染色される。デスメ膜上に滴状角膜(guttae)を認めることがある。
| 疾患 | 遺伝形式 | 特徴 |
|---|---|---|
| Schnyder角膜ジストロフィ | 常染色体優性 | コレステロール結晶・老人環様混濁 |
| 先天性角膜実質ジストロフィ | 常染色体優性 | 出生時から存在・実質肥厚 |
| 斑点状角膜ジストロフィ | 常染色体優性 | フケ状混濁・視力良好 |
その他、後部不定形角膜ジストロフィ(PACD)、デスメ膜前角膜ジストロフィ(PDCD)も鑑別に挙がる。全身性ムコ多糖症も類似所見を呈しうるため考慮が必要である。
細隙灯顕微鏡でびまん性の角膜混濁と斑状沈着を確認し、両眼性・進行性であること、家族歴を評価して臨床診断を行う。確定診断にはCHST6遺伝子の検査が有用であり、保険適用で実施可能である。
進行を直接抑える薬物療法は確立されていない。症状緩和のために以下を行う:
混濁の程度に応じて深層前層角膜移植(DALK)または全層角膜移植(PKP)を選択する。
MCDでは内皮細胞にも異常物質が沈着しうるため、深部まで病変が及んでいる場合は深層前層角膜移植術より全層角膜移植術が選択される傾向がある。
内皮やデスメ膜に病変が及んでいない場合は深層前層角膜移植術が第一選択となりうる。深層前層角膜移植術は自身の内皮を温存するため拒絶反応のリスクが低い。ただしMCDでは深部構造にも沈着が及ぶことがあるため、内皮にも異常がある場合は全層角膜移植術が適応となる。術前の詳細な角膜評価に基づいて術式が決定される。
CHST6遺伝子は糖転移酵素6をコードする。この酵素はケラタン分子への硫酸基転移を担う。遺伝子変異によって酵素活性が不活化されると、ケラタン硫酸の硫酸化が障害され、不完全な低硫酸化ケラタン硫酸が合成される。
硫酸ケラタンの不足は以下の連鎖的異常をもたらす:
グリコサミノグリカンの蓄積は実質細胞(ケラトサイト)の細胞内外に認められる。上皮を除き、Bowman膜・デスメ膜・内皮にも浸潤する。I型では耳介軟骨でも酵素活性の消失が認められ、全身性の硫酸ケラタン代謝異常に続発する可能性が示唆されている。
また、CHST6変異によるオートファジー(自食作用)の阻害がパイロトーシス(炎症性細胞死)を誘導し、疾患発症に寄与する可能性も指摘されている。
恒久的な治療戦略として遺伝子標的療法が提案されている。ミースマン角膜上皮ジストロフィにおいて遺伝子編集の可能性が示されており、MCDにおいても将来的な治療選択肢となる可能性がある。ただし開発と臨床応用には多くの課題が残されている。
角膜内に蓄積した硫酸ケラタンを酵素により除去する治療法が研究されている。現時点では臨床応用に至っていない。