原発性LKの所見
両側性の角膜混濁:周辺部・中央部・びまん性に認められる
コレステロール結晶:角膜中央部にみられることがあり、視力を著しく低下させうる
新生血管の欠如:原発性では角膜新生血管を伴わない点が特徴的である

脂質角膜症(lipid keratopathy: LK)は、コレステロール・リン脂質・中性脂肪などの脂質が角膜実質に沈着し、角膜混濁をきたす変性疾患である。1958年にCoganとKuwabaraにより初めて報告された。
LKは原発性と続発性の2型に大別される。
原発性脂質角膜症は極めてまれである。角膜新生血管や炎症、外傷の既往なく自然発生的に脂質が沈着する。通常両側性であり、血清脂質値の上昇とは直接関連しない。脂質の過剰産生あるいは代謝障害が原因として推測されているが、詳細な機序は不明である。
続発性脂質角膜症はより一般的な病型である。角膜新生血管の存在が特徴であり、過去の眼外傷や感染・炎症に伴って発生する1)。新生血管からの脂質漏出が沈着の主因となる2)。
角膜実質への脂質沈着としては、加齢に伴う老人環がよく知られている。老人環はコレステロールやリン脂質が角膜周辺部に沈着したものであるが、視力障害をきたすことはなく、脂質角膜症とは区別される。
原発性は新生血管を伴わず自然に脂質が沈着するもので、極めてまれです。通常両側性で、基礎疾患が見つからないことが特徴です。続発性は角膜新生血管に伴って脂質が沈着するもので、ヘルペス性角膜炎や外傷などの既往があります。臨床的には続発性が大多数を占めます。
進行性の視力低下が主訴となる。角膜混濁が瞳孔領にかかると視力障害が顕著となる。混濁が周辺部にとどまる場合は無症状のこともある。
原発性LKの所見
両側性の角膜混濁:周辺部・中央部・びまん性に認められる
コレステロール結晶:角膜中央部にみられることがあり、視力を著しく低下させうる
新生血管の欠如:原発性では角膜新生血管を伴わない点が特徴的である
続発性LKの所見
黄白色の高密度浸潤:角膜新生血管に隣接して認められる特徴的所見である1)
扇状の脂質沈着:活動期のLKでは新生血管に沿って扇状のパターンを呈する1)
角膜新生血管:新生血管茎(neovascular pedicle)が脂質沈着の供給源となる2)
前眼部光干渉断層計(AS-OCT)所見:脂質沈着部は高反射像として描出される。角膜実質の菲薄化を伴うこともある2)
続発性LKの背景には角膜新生血管をきたす疾患・病態がある。
全身性の脂質代謝異常症が背景にあることがある。
若年者に老人環様の角膜周辺部脂質沈着を認めた場合は、家族性高コレステロール血症などの全身的な脂質代謝異常を考慮する必要がある。
まれですが報告されています。ブリモニジン酒石酸塩(BT)の長期使用後に両側性の脂質角膜症が発症した症例が複数報告されています。BTに含まれる成分に対するアレルギー反応や防腐剤への反応が関与すると考えられています。BT中止とステロイド点眼で新生血管や結膜炎は改善しますが、一度沈着した角膜混濁は残存することが多いとされています。
LKの診断は臨床所見に基づく。
原発性LKの診断基準:角膜新生血管・炎症・外傷の既往がない状態で、角膜に脂質沈着を認めること。外傷既往・家族歴・新生血管・脂質代謝異常をすべて否定する必要がある。
続発性LKの診断:角膜新生血管に隣接した特徴的な黄白色沈着と基礎疾患の存在から診断する。
確認に有用な検査:
鑑別診断:
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 老人環 | 周辺部限局、視力正常 |
| Schnyder角膜ジストロフィ | 遺伝性、結晶状混濁 |
| 感染性結晶状角膜症 | 感染に伴う結晶状沈着 |
薬剤性の角膜沈着(金・クロルプロマジン・クロロキン等)、全身性脂質蓄積疾患(シスチン症・多発性骨髄腫等)も鑑別に挙げる。薬剤関連LKでは他の病因を除外した上で使用薬剤との関連を検討する1)。
老人環は加齢に伴い角膜周辺部にコレステロールやリン脂質が沈着したもので、80歳以上ではほぼ全例に認められます。角膜中央部は侵されず、視力障害は生じません。一方、脂質角膜症は角膜中央部にも沈着が及び、視力低下を引き起こします。続発性LKでは新生血管の存在が特徴的です。40歳以下で老人環様所見を認めた場合は若年環として脂質代謝異常の全身検索が推奨されます。
LKの治療は原因の除去と角膜新生血管の閉塞が柱となる。
原因への対処
基礎疾患の治療:ヘルペス性角膜炎など原因疾患に対する適切な治療を行う
原因薬剤の中止:ブリモニジン等の関与が疑われる場合は中止を検討する1)。代替薬への変更が必要となる
ステロイド点眼:消炎目的で使用する。炎症性の新生血管には有効であるが、脂質沈着自体の吸収効果は限定的である2)
新生血管の閉塞治療
アルゴンレーザー光凝固:供給血管を凝固する。浅層の血管に有効であるが、深部の新生血管には限界がある2)
高周波ジアテルミー:小型双極ジアテルミーを用いて新生血管茎を熱凝固する。安全で効果的な方法として報告されている2)
ファインニードルジアテルミー(FND):縫合針を血管腔内に挿入して電流を通す方法である1)
抗VEGF療法:ベバシズマブの結膜下注射・角膜実質内注射が角膜新生血管の退縮に有効である1)
光線力学療法(PDT):ベルテポルフィンを用いた光線力学的療法が新生血管の閉塞に報告されている
手術療法:
新生血管を閉塞することで脂質沈着の一部は吸収され、角膜透明性の改善が得られる場合がある2)。高周波ジアテルミーにより放射状角膜切開術の切開創内に生じた脂質角膜症がほぼ完全に退縮した報告がある2)。
新生血管を閉塞する治療により、脂質沈着の部分的な吸収と角膜透明性の改善が得られることがあります。しかし、一度沈着した脂質が完全に消失しないこともあります。早期の治療介入が重要であり、未治療の場合は緩徐に進行します。重症例では角膜移植が必要となることがあります。
続発性LKの本態は、角膜新生血管からの脂質漏出と沈着である2)。
新生血管茎を閉塞すると脂質の持続的供給が遮断され、脂質の吸収が促進される2)。また白血球の循環が減少し、炎症反応の持続が抑制される2)。
原発性LKの機序は不明である。脂質の過剰産生あるいは脂質代謝の障害が推測されている。全身的な脂質代謝異常症(Tangier病、LCAT欠損症等)では角膜実質への脂質沈着が生じうる。
ブリモニジン酒石酸塩(BT)による脂質角膜症の機序は完全には解明されていない1)。BT中の何らかの抗原に対するアレルギー反応、あるいはベンザルコニウムなどの防腐剤への反応が推測されている1)。BTに伴う濾胞性結膜炎・結膜充血が新生血管形成を誘導し、二次的に脂質沈着が生じると考えられている1)。
高周波ジアテルミーによる治療:Klötiデバイスを用いた小型双極高周波ジアテルミーが角膜新生血管の閉塞と脂質角膜症の退縮に有効であると報告されている2)。放射状角膜切開術の切開創内に生じた脂質角膜症に対して本法を適用し、術後11か月でほぼ完全な退縮が得られた2)。局所麻酔下で施行可能であり、安全性と有効性が評価されている2)。
Substance P標的治療:タキキニンファミリーに属するSubstance Pが角膜新生血管形成に関与することが動物モデルで示されている。Tac-1遺伝子ノックアウトマウスでは角膜新生血管が減少することが報告されており、新たな治療標的として注目されている。
ミトマイシンC血管内化学塞栓術(MICE):ミトマイシンCを新生血管内に投与して化学的に塞栓する方法が報告されている1)。血管閉塞と新生血管形成の抑制により脂質沈着の部分的吸収が得られるとされる。
薬剤性LKの認識拡大:ブリモニジン酒石酸塩だけでなく、多種の緑内障点眼薬による脂質角膜症が報告されつつある1)。長期使用患者における角膜の定期的評価の重要性が認識されている。
- Moshirfar M, Ziari M, Payne CJ, et al. Bilateral Lipid Keratopathy in the Setting of Brimonidine Tartrate Use. Case Rep Ophthalmol Med. 2023;2023:8115622.
- Batis V, Häller C, Hashemi KK. Radiofrequency diathermy as a treatment of lipid keratopathy in a radial keratotomy incision. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;27:101629.