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角膜・外眼部疾患

遺伝性一過性角膜内皮炎

1. 遺伝性一過性角膜内皮炎とは

Section titled “1. 遺伝性一過性角膜内皮炎とは”

遺伝性一過性角膜内皮炎(keratoendotheliitis fugax hereditaria)は、NLRP3遺伝子のミスセンス変異(c.61G>C)に起因する常染色体優性遺伝の自己炎症性疾患である。片眼性の疼痛・角膜浮腫・結膜充血・視力低下を伴う炎症発作を周期的に繰り返す。

発作は通常2〜5日間持続し、年1〜8回の頻度で起こる。初発年齢は通常10〜11歳で、3〜28歳の範囲が報告されている。古典的にはフィンランド系集団に多い疾患とされてきたが、近年ではフィンランド系以外の欧州系集団でも報告されている。関連する遺伝子変異の頻度はフィンランド人で約0.02%、他の欧州人で約0.01%である。

Q この疾患は遺伝しますか?
A

遺伝性一過性角膜内皮炎は常染色体優性遺伝の形式をとる。片親がこの遺伝子変異を有する場合、子どもが変異を受け継ぐ確率は50%である。家族歴が陽性の場合、典型的な症状があれば臨床的に診断できることが多い。家族歴がない孤発例では遺伝子検査が診断に有用である。

発作は首のこわばりや異物感で始まることがある。急速に視力障害を伴う激しい眼痛と充血に進行する。流涙や同側の鼻閉も認められることがある。疼痛は消失後、角膜浮腫と混濁に伴う視力低下が徐々に回復する。

急性発作中の所見

結膜充血:発作時に顕著な充血を認める。

角膜浮腫:角膜厚が5〜14%増加する。角膜実質の浮腫性混濁が中心部に認められることが多い。

偽性滴状角膜:浮腫状の内皮細胞による所見で、発作消退後に消失する点がFuchs内皮ジストロフィの真の滴状角膜とは異なる。

角膜後沈着物(KP):認められることがある。

発作間欠期の所見

通常無症状:発作間欠期には眼は静穏である。

角膜瘢痕:成人では複数回の発作による残存瘢痕を認めることがある。累積的な発作が永久的な角膜混濁や視力低下の原因となりうる。

鏡面顕微鏡変化:多形性や細胞内暗点が発作間欠期にも残存し、診断の手がかりとなることがある。

本疾患はNLRP3遺伝子(別名CIAS1)のグアニンからシトシンへのミスセンス変異(c.61G>C)に起因する。この変異によりNLRP3タンパク質(クリオピリン)のアミノ酸置換が生じ、タンパク質の電荷が変化してミスフォールディング(折り畳み異常)を引き起こす可能性がある。

炎症発作の誘因に関する確立されたリスク要因はない。患者の経験談としては、軽度のウイルス性疾患、寒冷暴露、精神的または身体的ストレスからの緩和が関連する可能性が報告されている。一部の家系ではコラーゲン関連の病態の合併も報告されている。

典型的な症状と陽性の家族歴がある場合は、臨床的に診断可能であり遺伝子検査は必須ではない。家族歴のない孤発例や診断が曖昧な場合には遺伝子検査が有用である。

検査法所見
鏡面顕微鏡偽性滴状角膜(黒い非反射領域)
共焦点顕微鏡内皮細胞間の異常
角膜厚測定5〜14%の増加(発作時)

鏡面顕微鏡検査や共焦点顕微鏡検査では、発作中に正常な六角形内皮細胞の間に黒い非反射領域として偽性滴状角膜が観察される。多形性や細胞内暗点は発作間欠期にも残存しうる。

鑑別診断として、前部ぶどう膜炎、感染性・自己免疫性・薬剤誘発性の角膜内皮炎、虹彩角膜内皮症候群(ICE症候群)、Chandler症候群、Brown-McLean症候群、後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)を考慮する。急性発作の消退期に診察した場合、前部ぶどう膜炎と誤診される可能性がある。

治療法の推奨は症例報告に基づいている。局所ステロイド点眼による支持療法が最も効果的とされるが、すべての患者に有効ではない。ステロイド点眼の頻度や用量に関する標準プロトコルは確立されていない。

経口抗ヒスタミン薬は鎮静効果を通じて症状に有益であったとの報告がある。疼痛に対しては局所または経口のNSAIDsが使用されることがある。

治療は発作の兆候を自覚した時点で直ちに開始すべきである。早期介入により発作の軽減や回復の促進が期待される。

Q 発作は予防できますか?
A

現時点で発作を確実に予防する方法は確立されていない。寒冷暴露やストレスが誘因となる可能性が報告されており、これらを避けることが有用かもしれない。発作の兆候を感じたらすぐにステロイド点眼などの治療を開始することで、発作の重症化を防ぐことが期待される。将来的にはNLRP3インフラマソーム経路を標的とした薬剤が発作予防に有効となる可能性がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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NLRP3タンパク質はNLRP3インフラマソームの主要構成要素である。インフラマソームは構築・活性化されることで炎症性変化を誘導する多タンパク質複合体である。本疾患の変異はタンパク質のフォールディング機構の異常を引き起こし、インフラマソームの不適切な活性化をもたらすと考えられている。

NLRP3遺伝子の変異はクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)と総称される一群の自己炎症性疾患を引き起こしうる。CAPSには本疾患と重複する眼症状を示す症候群が含まれる。全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患もインフラマソームの活性化と関連する。

遺伝性一過性角膜内皮炎における特定のNLRP3変異は、インフラマソームの不必要な活性化を引き起こし、臨床的に重大な炎症発作をもたらす。

角膜浮腫はおそらく血管原性のプロセスに続発する。角膜実質に浮腫が生じ、内皮細胞が浮腫状となって偽性滴状角膜として観察される。真の滴状角膜(Fuchs内皮ジストロフィ等)とは異なり、偽性滴状角膜はエピソードの消退後に消失する。

NLRP3インフラマソーム経路を標的とした薬剤の研究が進行している。これらの薬剤の多くは眼の細胞株において炎症抑制効果が示されており、本疾患の発作頻度や重症度の軽減、角膜瘢痕の抑制に有用となる可能性がある。ただし、本疾患に対するインフラマソーム標的薬の臨床使用例はまだ報告されていない。

本疾患はフィンランド系集団を中心に報告されてきたが、近年フィンランド系以外の欧州系集団での報告が増加しており、遺伝子検査の普及に伴い、さらに幅広い集団での症例発見が期待される。

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