全層角膜移植術(PKP)
最初に報告された原因:Mackmanらが初めて記載した。
術後ステロイドの関与:術後に使用するステロイド点眼が上皮治癒に影響する。
有病率:全層角膜移植後15〜30%に認める。

ハリケーン角膜症(hurricane keratopathy)は、角膜上皮に渦巻き状のパターンが出現する病態である。Mackmanらが全層角膜移植術(PKP)後に初めて報告した。フルオレセイン染色で強調される渦巻き状の上皮変化が特徴で、角膜上皮のターンオーバー亢進を反映する。
「渦状角膜症(vortex keratopathy)」の語は渦状角膜(cornea verticillata)の別名でもある。混乱を避けるため、フルオレセイン染色陽性のものをハリケーン角膜症、染色陰性のものを渦状角膜と区別する立場がある。パターンがより不規則(ランダム)だが同じ病因をもつ場合は、**ブリザード角膜症(blizzard keratopathy)**と呼ぶ。
薬剤起因性の角膜上皮障害でも同様の渦巻き状パターンが生じることがあり、渦巻き角膜症の段階で気づいて原因薬剤を中止することが重要である。放置するとepithelial crack lineを経て遷延性上皮欠損に進行しうる。
典型例では症状は軽微である。軽度の異物感・眼刺激感を訴える。流涙の増加を認めることがある。羞明や軽度の霧視を伴うこともある。
一方、薬剤関連の重症例では症状が顕著となりうる。アプレミラスト(PDE4阻害薬)関連の報告例では、5か月の内服後に両眼の重度疼痛・羞明・充血が出現し、矯正視力は右眼20/70・左眼20/60まで低下した1)。
最大の特徴は角膜上の渦巻き状パターンである。白色または灰褐色の線として認められ、大多数の症例で時計回りの方向を示す。フルオレセイン染色で点状上皮びらんの集簇として明瞭に描出される。
上皮層に限局し、実質浸潤や浸潤影は伴わない1)。前房内炎症(cell・flare)も通常みられない1)。
角膜は眼の後極に対して正の電位を有し、眼球は双極子として機能する。この電流により生じる電磁場が角膜上で同心円状・時計回りに分布し、上皮細胞の移動方向に影響を与えていると考えられている。
全層角膜移植術(PKP)
最初に報告された原因:Mackmanらが初めて記載した。
術後ステロイドの関与:術後に使用するステロイド点眼が上皮治癒に影響する。
有病率:全層角膜移植後15〜30%に認める。
ハードコンタクトレンズ
機械的刺激:レンズ頂点の接触が微小擦過傷を生じる。
上皮ターンオーバー亢進:機械的刺激に対する修復反応として出現する。
持続期間が長い:CL後は平均42.8週で、全層角膜移植後(29.9週)より長期化する傾向がある。
慢性ステロイド点眼
単独でも発症:手術歴がなくても長期ステロイド使用で発症する。
中止で改善:ステロイド点眼の中止によりパターンが消失する。
薬剤毒性の一型:上皮基底細胞の分裂阻害が関与する。
そのほかの原因として、白内障手術後(ステロイド使用+術後乾燥)の報告がある。薬剤関連ではアプレミラスト(乾癬治療のPDE4阻害薬)によるハリケーン角膜症が報告されている1)。経口抗がん薬TS-1(テガフール配合剤)では角膜全面のハリケーン角膜症を生じることがあり、輪部幹細胞障害を伴いやすい点に特徴がある。
全層角膜移植後のリスク要因としては、術前の眼瞼疾患、角膜知覚低下、ドナー組織の保存時間延長、ヒアルロン酸製剤(Healon)の使用が挙げられる。
多くの症例でステロイド点眼の中止後3週間〜6か月以内に改善・消失する。渦巻きパターンは周辺部から消え始め、中央部へ向かって消退する。
診断はフルオレセイン染色による細隙灯顕微鏡検査が基本である。角膜上皮に渦巻き状の点状染色パターンを認めればハリケーン角膜症を疑う。
全層角膜移植後の出現時期は術後1週間〜18か月と幅広い。最も多いのは術後6〜12か月である。有病率は報告により15〜30%と差がある。
| 鑑別疾患 | 特徴 |
|---|---|
| 渦状角膜(cornea verticillata) | フルオレセイン染色陰性。薬剤沈着やFabry病で生じる |
| 輪部幹細胞疲弊症(LSCD)軽症 | 渦巻き状の上皮菲薄化を呈しうる2)。血管侵入や結膜上皮の侵入を伴う |
| 点状表層角膜症(SPK) | 渦巻きパターンを欠く。びまん性の点状染色 |
LSCD軽症例ではフルオレセイン染色でvortex patternやwhorl-like epitheliopathyを示すことがあり2)、表層血管新生や角膜パンヌスの有無で鑑別する。
ハリケーン角膜症は原因除去が治療の原則である。上皮ターンオーバー亢進を招いた刺激を取り除けば自然消失する。渦巻きパターンは周辺部から消え始め、中央部へ向かって消退する。
ステロイド関連の場合はステロイド点眼を中止する。中止後3週間〜6か月で改善を認める。コンタクトレンズ関連の場合はレンズ装用を中止する。
薬剤関連の場合は原因薬剤の中止が必要である。アプレミラスト関連の症例では、薬剤中止に加えてプレドニゾロン点眼1日1回と防腐剤フリー人工涙液を使用し、10週間で完全回復した1)。低用量での再投与で再発がみられ(positive rechallenge)、因果関係が強く示唆されている1)。
防腐剤フリー人工涙液は異物感や眼刺激症状の緩和に有用であり、上皮の治癒促進にも寄与する。
典型的な全層角膜移植後やCL関連のハリケーン角膜症では視力への影響は軽微で、原因除去により回復する。ただし薬剤関連の重症例では矯正視力20/70程度まで低下した報告もあり、早期の対応が重要である。
角膜輪部に存在する幹細胞は、上皮の再生と維持を担う。正常な上皮ターンオーバーでは、上皮細胞は輪部から角膜中央部へ求心的に移動する。
当初、全層角膜移植後の角膜縫合糸が細胞移動を妨げて渦巻きパターンを形成すると考えられた。しかしDuaは手術歴のない角膜にも同パターンを観察し、上皮再生が加速する時期に細胞間接着が減少してフルオレセイン透過性が亢進するという説を提唱した。
渦巻き状パターンの方向性には電磁場仮説がある。眼球は双極子として機能し、角膜は後極に対して正の電位をもつ。この電流によって生じる電磁場は角膜上で同心円状の時計回りパターンを形成する。培養角膜上皮細胞が磁場に反応して移動方向を変えることが示されており、電磁場が渦巻きパターンの形成を助長している可能性がある。
薬剤関連のハリケーン角膜症では、上皮基底細胞の分裂阻害が関与する。表層細胞の脱落速度に基底細胞の増殖が追いつかなくなった状態が渦巻き角膜症の本態と解釈されている。アプレミラストについてはPDE4阻害によるcAMP増加が上皮細胞の接着や移動に影響する可能性が指摘されている1)。マウスモデルではアプレミラストの遺伝毒性(染色体異常・小核形成)が輪部前駆細胞に作用しうることが示唆されている1)。
渦状角膜は薬剤(アミオダロン等)やFabry病による角膜上皮内沈着物で、フルオレセイン染色は陰性である。ハリケーン角膜症はフルオレセイン染色で陽性となる点状上皮びらんの集簇であり、上皮のターンオーバー亢進が本態である。
2023年、Wolfelらはアプレミラスト(PDE4阻害薬)によるハリケーン角膜症の初の症例報告を発表した1)。
49歳女性が乾癬に対するアプレミラスト内服開始5か月後に両眼性の重度点状角膜上皮びらんを発症した。薬剤中止とプレドニゾロン点眼で10週間後に完全回復し、低用量での再投与で再発を確認した(positive rechallenge)。1)
この報告はPDE4阻害薬クラス全体への注意喚起を促している1)。同薬剤の角膜上皮への影響機序は未解明であるが、ラットモデルではアプレミラストのナノエマルジョンゲルが創傷治癒を促進したとの報告もあり1)、角膜上皮の増殖・リモデリングへの関与が示唆される。
今後は、新規薬剤によるハリケーン角膜症の報告蓄積と、上皮細胞の移動・接着に対する薬理学的影響の解明が求められる。