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角膜・外眼部疾患

眼帯状疱疹

眼帯状疱疹(Herpes Zoster Ophthalmicus: HZO)は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が三叉神経第1枝(眼神経)の支配領域で再活性化して生じるウイルス性疾患である。片側性の痛みを伴う水疱性皮疹を特徴とし、眼と眼付属器に多彩な合併症を引き起こす。

水痘帯状疱疹ウイルスは初感染時に水痘を引き起こした後、脊髄後根神経節や三叉神経節の外套細胞に潜伏感染する。免疫機能の低下に伴いウイルスが再活性化し、神経軸索を通じて皮膚や眼組織に到達する。

帯状疱疹の世界的な発症率は50〜54歳で5.15/1,000人、85歳以上で11.27/1,000人と加齢に伴い上昇する1)。帯状疱疹患者のうちHZOは**4〜20%**に認められる1)。米国のデータでは50歳以上の成人におけるHZO発症率は54.6〜131.6/10万人・年であり、年間3.6%ずつ増加傾向にある1)。女性は男性よりHZO発症率が高い(44.5 vs 33.1/10万人・年)1)

小児のHZO発症率は0〜10歳で4.8/10万人、11〜20歳で7.8/10万人と低い2)。主なリスク要因は子宮内での水痘帯状疱疹ウイルス曝露と乳児期の水痘感染である2)。報告例の大部分は免疫正常児であった2)

Herpes Zoster Ophthalmicus image
Herpes Zoster Ophthalmicus image
Tsai-Wei Lin, Wen-Chien Huang Initial diagnosis of herpes zoster ophthalmicus complicated by central retinal artery occlusion and subsequent varicella-zoster virus encephalitis: a case report 2026 Jan 14 Front Neurol.; 16:1751103 Figure 1. PMCID: PMC12847045. License: CC BY.
フルオレセイン染色で染色された角膜偽円錐形病変が、左眼のVZV角膜炎を示唆している。

皮疹出現の数日前に前駆症状として三叉神経領域の感覚異常・疼痛・倦怠感・発熱・頭痛が先行する。その後、三叉神経第1枝のデルマトームに沿った片側性の水疱性皮疹が出現する。眼症状として眼痛・充血・流涙・羞明霧視を訴える。

HZO患者の約**50%に眼合併症が生じ、そのうち最大25%**が慢性化または再発する1)

Hutchinson徴候:鼻尖部・鼻翼・鼻背の皮疹は鼻毛様体神経の関与を示す。鼻毛様体神経は角膜・虹彩にも分布するため、この徴候陽性例では眼合併症のリスクが有意に高い。ただし皮疹の重症度と眼合併症の出現率は必ずしも相関しない。

角膜合併症

偽樹枝状角膜炎:細く小さく、terminal bulbを欠く点がHSVと異なる

前部実質角膜炎:nummular(銭型)浸潤。1〜2週で出現

深部実質角膜炎:実質混濁・菲薄化・瘢痕。数ヶ月〜年単位

神経栄養性角膜症角膜知覚低下による遷延性角膜潰瘍

ぶどう膜・眼圧

前部ぶどう膜炎:豚脂様KP、前房炎症、虹彩萎縮

隅角線維柱帯眼圧上昇の主因

虹彩萎縮・麻痺性散瞳:慢性期の後遺症

神経系合併症

帯状疱疹後神経痛(PHN):60歳以上の36.6%に発症

脳神経麻痺:動眼神経が最多。回復に最大6ヶ月

急性網膜壊死(ARN):免疫不全者で特にリスクが高い

合併症頻度
結膜炎8〜76%
角膜炎5〜76%
ぶどう膜炎11〜48%

上記の頻度データは複数の研究をまとめたものである1)

HSVの樹枝状角膜炎と帯状ヘルペスの偽樹枝状角膜炎は鑑別が重要である。偽樹枝状角膜炎は角膜上皮表層の隆起性病変で、中央の溝状陥凹がなく、フルオレセイン染色が弱く、terminal bulbが認められない。HSVの樹枝状角膜炎はterminal bulbがあり、ある程度の幅と辺縁の浸潤を伴う。

皮疹消退後も数ヶ月を経て遅延型偽樹枝状角膜炎(delayed herpes zoster pseudodendrite / mucous plaque keratitis)が出現することがあり、現在はウイルス増殖による病態と考えられている。

水痘帯状疱疹ウイルス血管障害では脳動脈の炎症により脳梗塞を引き起こすことがある。HZO患者では脳卒中のハザード比が1.31と上昇する3)。水痘帯状疱疹ウイルス血管障害の97%でCT/MRIに異常を認め、CSF中の抗水痘帯状疱疹ウイルス IgG抗体検出が診断感度93%と最も有用である3)

Q Hutchinson徴候とは何ですか?
A

Hutchinson徴候は、鼻の先端・側面・付け根に帯状疱疹の皮疹が認められる所見です。鼻毛様体神経が角膜や虹彩にも分布しているため、この徴候は眼合併症の強力な予測因子となります。ただし、Hutchinson徴候が陰性でも眼合併症が生じることがあるため、帯状疱疹が三叉神経第1枝領域に出現した場合は必ず眼科受診が必要です。

水痘帯状疱疹ウイルス(2本鎖DNAウイルス、αヘルペスウイルス亜科)が三叉神経節に潜伏感染し、加齢や免疫抑制に伴い再活性化する。水痘帯状疱疹ウイルスはHSVと異なり外套細胞に潜伏するため、再活性化時に隣接の神経細胞にも感染が広がり、病変範囲がHSVより広い。水痘帯状疱疹ウイルスは細胞外では速やかに不活化されるため、皮疹は神経支配領域に限局する。

帯状疱疹の約90%は免疫正常者に生じる1)。メタアナリシスで最も強い関連が示されたのは免疫抑制(HIV/AIDS、血液悪性腫瘍、臓器移植)、家族歴、外傷、加齢であった1)。JAK阻害薬などの疾患修飾薬の使用もリスクを高める1)。HIV陽性者では帯状疱疹リスクが15倍に上昇し、HZOの頻度は22.1%に達する1)

COVID-19罹患後に帯状疱疹リスクが14〜15%上昇するとの報告がある1)。一方、COVID-19ワクチン接種後のHZOリスク増加については、大規模データベース研究では有意な上昇は認められていない1)

HZOは臨床診断が基本であり、通常は確認検査を必要としない。三叉神経第1枝のデルマトームに沿った片側性の水疱性皮疹と神経痛、およびそれに関連する眼所見がHZOを強く示唆する。

角膜上皮欠損・角膜知覚低下・いずれかの眼内構造における炎症が診断を支持する。HZOに伴うぶどう膜炎はしばしば高眼圧を合併する。

角膜知覚検査:麻酔薬点眼前に実施する。Cochet-Bonnet角膜知覚計が有用である。

PCR検査:診断が不確実な場合(zoster sine herpete、再発性前部ぶどう膜炎など)に皮膚・眼病変の擦過物や前房水で水痘帯状疱疹ウイルス-DNAを検出する5)。水痘帯状疱疹ウイルスではHSVと異なりspontaneous sheddingがないため、DNA検出は病因の可能性がきわめて高い。

血清抗体価補体結合抗体価の4倍以上の上昇は最近の感染を示唆する5)。水痘帯状疱疹ウイルスではHSVと異なり血清抗体価も診断に有用である。

Zoster sine herpete:皮疹を伴わず神経痛のみで経過する帯状疱疹。前房水PCRが診断に有用である。

Zosteriform simplex:HSVが帯状疱疹様の皮疹をとる病態。神経痛を伴わず、皮疹が瘢痕を残さず治癒する点が帯状疱疹と異なる。

発症72時間以内の抗ウイルス薬投与が眼合併症の予防に重要である1)。抗ウイルス薬投与群では慢性眼合併症が30%にとどまり、非投与群の50%と比較して有意に低い1)。また、抗ウイルス薬投与は6ヶ月以内の神経栄養性角膜症の発症率を有意に低下させる1)

薬剤用量投与回数
アシクロビル800mg1日5回
バラシクロビル1,000mg1日3回
ファムシクロビル500mg1日3回

治療期間は7〜10日間である1)。バラシクロビルとファムシクロビルは服薬回数が少なくアドヒアランスに優れ、いずれもアシクロビルと同等の効果を示す1)。日本ではアメナメビル400mgの選択肢もある。免疫不全者にはアシクロビル5〜10mg/kgの8時間ごと静注を行う。

偽樹枝状角膜炎:ACV眼軟膏を使用する。HSVと異なり、ステロイド点眼を併用しても安全である5)

実質角膜炎:ステロイド点眼とACV眼軟膏を併用する5)。HSVの実質型角膜炎より高濃度のステロイドが必要な場合が多い5)。短期間でのステロイド中止は再燃の原因となるため、漸減しながら比較的長期に使用する。

前部ぶどう膜炎には1%プレドニゾロン酢酸エステル点眼と散瞳薬を使用する。線維柱帯炎による眼圧上昇にはβ遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬などの房水産生抑制薬を投与する。

アミトリプチリン25mg就寝前投与がPHN発症率を低下させる1)。プレガバリン150mg/日の分割投与も急性期の疼痛緩和に有効とされる1)

角膜瘢痕による視力障害にはハードコンタクトレンズまたは角膜移植を検討する。急性網膜壊死(ARN)には硝子体手術を行う場合がある。眼圧コントロール不良例には緑内障濾過手術を考慮する。

Q ステロイド点眼はいつ使用してよいですか?
A

帯状ヘルペスの角膜炎では、HSVの上皮型角膜炎と異なり、偽樹枝状角膜炎の段階からステロイド点眼の併用が可能です。ただし必ず抗ウイルス薬を併用してください。実質炎・ぶどう膜炎では積極的なステロイド投与が必要ですが、長期間をかけて漸減することが重要です。短期間での中止は再燃を招きます。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

水痘帯状疱疹ウイルスの潜伏と再活性化

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水痘帯状疱疹ウイルスは初感染(水痘)後、脊髄後根神経節や三叉神経節の**外套細胞(satellite cell)**に潜伏感染する。HSVが神経細胞そのものに潜伏するのとは異なり、水痘帯状疱疹ウイルスは外套細胞に潜伏するため、再活性化時に隣接の神経細胞にも感染が拡大し、より広範な病変を形成する。

細胞性免疫(特にVZV特異的T細胞応答)がウイルスの抑制に中心的な役割を果たす。加齢・免疫抑制薬・HIV感染・悪性腫瘍・心理的ストレスなどにより水痘帯状疱疹ウイルス特異的細胞性免疫が低下すると、ウイルスが再活性化する。

再活性化した水痘帯状疱疹ウイルスは三叉神経第1枝の軸索を通って皮膚・角膜・結膜に到達する。侵された組織では局所の免疫反応が水疱形成や眼内炎症を引き起こす。神経周囲炎が神経支配領域に沿った激しい疼痛の原因となる。

水痘帯状疱疹ウイルス血管障害

Section titled “水痘帯状疱疹ウイルス血管障害”

水痘帯状疱疹ウイルスは軸索から周囲の血管に経軸索的に伝播し、動脈壁に感染する3)。これにより血管リモデリング・血栓形成・動脈解離・動脈瘤が生じる3)。水痘帯状疱疹ウイルス血管障害は脳梗塞・脳出血・大細胞性動脈炎などの多彩な臨床像を呈する。免疫正常者では皮疹と抗水痘帯状疱疹ウイルス抗体が多く、免疫不全者では水痘帯状疱疹ウイルス-DNAとCSF細胞増多が多いとの特徴がある3)

球後視神経炎はHZOの稀な合併症であり、特に免疫不全者で報告されている4)。皮疹出現から平均14.1日後に発症し、視力予後は不良であることが多い4)

水痘帯状疱疹ウイルスはHSVと異なり、細胞外に出ると速やかに不活化されるため皮膚面上の拡大は少ない。再発は生涯に通常1回であるが(HSVは頻回再発)、病変範囲は広く合併症も多彩で重症となりやすい。

帯状疱疹ワクチンは2種類が承認されている。組換えアジュバントワクチン(RZV: Shingrix)は50歳以上で帯状疱疹を97.2%、70歳以上で**91.3%予防する1)。HZOに対する有効性はメタアナリシスで88%**と報告されている1)。実世界研究ではHZO発症率がワクチン接種群11.9/10万人・年、非接種群72.1/10万人・年であった1)

生ワクチン(ZVL: Zostavax)は10年間のHZO予防効果が37%にとどまり、免疫不全者には使用できない1)。現在はRZVが推奨されている。

HZOの既往がある患者へのワクチン接種は、接種後56日間に再燃・増悪リスクがわずかに上昇する可能性が報告されている1)。AAOはHZO既往者がワクチン接種する場合、接種前後数週間に眼科診察を受けることを推奨している1)

バラシクロビル1,000mg/日を1年間投与することでHZO患者の眼合併症を減少させるかを検証する大規模ランダム化試験(NCT03134196)が進行中である1)

小児HZOに関する体系的な疫学データは不足しており、診断・治療プロトコールの確立が今後の課題である2)。長期予後やCOVID-19との関連についても更なる研究が必要である2)

Q 帯状疱疹ワクチンでHZOは予防できますか?
A

はい、組換えワクチン(Shingrix)はHZOの発症を約88%予防する効果が報告されています1)。50歳以上の成人、および免疫不全のある18歳以上の成人への接種が推奨されています。過去にHZOを経験した方でもワクチン接種は推奨されますが、眼疾患が十分にコントロールされた後に接種し、接種前後に眼科受診することが勧められています1)

  1. Litt J, Cunningham AL, Arnalich-Montiel F, Parikh R. Herpes Zoster Ophthalmicus: Presentation, Complications, Treatment, and Prevention. Infect Dis Ther. 2024;13:1439-1459.
  1. Hakim FE, Riaz K, Farooq A. Pediatric herpes zoster ophthalmicus: a systematic review. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2023. doi:10.1007/s00417-023-06033-0.
  1. Philip AM, George LJ, Anas N, Nayar J. Varicella Zoster Virus Vasculopathy: An Under-Recognized Entity. Cureus. 2024;16(5):e61419.
  1. Phang DSK, Ettikan JV, Abd Aziz H, Vendargon FM, Teo KSS. A Rare Complication of Herpes Zoster Ophthalmicus (HZO). Cureus. 2023;15(3):e35693.
  1. 日本眼感染症学会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 日眼会誌. 2013;117(6):467-509.

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