非壊死性実質型(円板状角膜炎)
病態:遅延型過敏反応による角膜実質の浮腫・混濁
臨床像:円形の淡い実質混濁と浮腫、免疫輪
予後:適切な治療で改善が期待できる

単純ヘルペスウイルス(HSV)による角膜炎は上皮型・実質型・内皮型の3病型に分類される。本項では実質型角膜炎と**内皮炎(内皮型)**を扱う。
実質型角膜炎は角膜実質細胞に感染したHSVに対する宿主の免疫・炎症反応が主体である。上皮型がウイルス増殖による病変であるのに対し、実質型では免疫反応による組織破壊が中心となる。
内皮炎は角膜内皮を標的とした炎症で、HSVの直接感染と免疫反応の両者が関与すると考えられている。純粋な内皮炎ではサイトメガロウイルス(CMV)によるものが多く、HSVによる内皮炎は実質型や上皮型を経過中に伴うことが多い。
全世界でHSV実質型角膜炎の発症率は4.9/10万人と推定される2)。実質型は上皮型より頻度は低いが、視力障害リスクが高く、24〜42%で矯正視力6/12未満となる2)。重症視力障害(6/60未満)に至る割合はHSV角膜炎全体の1.5〜3.0%である2)。
非壊死性実質型(円板状角膜炎)
病態:遅延型過敏反応による角膜実質の浮腫・混濁
臨床像:円形の淡い実質混濁と浮腫、免疫輪
予後:適切な治療で改善が期待できる
壊死性実質型角膜炎
病態:抗原抗体複合物に対する好中球浸潤
臨床像:血管侵入を伴う濃厚な実質混濁、潰瘍
予後:穿孔リスクあり、瘢痕が残りやすい
内皮炎(内皮型)
病態:内皮細胞への直接感染 or 免疫反応
臨床像:角膜浮腫、後面沈着物、眼圧上昇
予後:内皮細胞減少により不可逆的浮腫の可能性
実質型角膜炎の自覚症状は上皮型とは異なる。視力低下・霧視が最も多い主訴である。充血の訴えも高頻度に認める。上皮病変を合併している場合は異物感・流涙を伴う。一方、上皮型にみられるような強い痛みは比較的少ない。
内皮炎では角膜浮腫による霧視が主症状となる。眼圧上昇に伴い眼痛・頭痛を訴える場合がある。
円板状角膜炎(非壊死性実質型)
きれいな円形の淡い実質混濁と角膜浅層の浮腫を認める。病変中央の角膜後面沈着物(KP)とDescemet膜皺襞を伴い、毛様充血がみられる。混濁は中央よりも周辺に強く、しばしば免疫輪(immune ring)を形成する。前房炎症を伴うことがある。再発を繰り返すと混濁は不整形となり、深層にも及ぶ。
壊死性角膜炎
再発を繰り返し角膜実質に血管侵入・瘢痕形成・脂肪変性がある眼で再燃すると、強い炎症細胞の浸潤と濃厚な実質混濁を生じる。上皮欠損を伴う例では実質の菲薄化が進み、穿孔に至ることもある。
角膜内皮炎
角膜周辺もしくは中央に実質浮腫を生じ、病巣部に一致したKPを認める。角膜上皮に樹枝状病変はなく、実質内に高度な細胞浸潤も認めない。前房炎症は軽度である。角膜内皮細胞数の大幅な減少を伴い、角膜輪部の炎症を伴う眼圧上昇を認めることがある。
HSV内皮炎の典型型は傍中心部浮腫型で、角膜浮腫が輪部を底辺として扇形に生じ、その中央にKPを認め、輪部炎と高眼圧を伴う。角膜ぶどう膜炎型では著明な充血・浮腫・Descemet膜皺襞・KP・前房内細胞を認め、重症例では前房蓄膿を生じる。
円板状角膜炎は角膜実質の免疫反応で円形の実質混濁・浮腫が主体です。内皮炎は角膜内皮を標的とし、角膜後面沈着物(KP)と浮腫が主体で、実質の混濁や前房炎症は軽微です。ただし両者の境界は明確でなく、円板状角膜炎でも浮腫が主体のタイプは内皮炎を一部伴っていると考えられます。
HSV(多くはHSV-1型)が三叉神経節に潜伏感染し、何らかの誘因で再活性化して角膜に到達する。実質型では、角膜実質に到達したウイルス抗原に対する宿主の免疫反応が組織破壊の主因となる。
非壊死性(円板状角膜炎)は遅延型過敏反応が主体で、ウイルスの活発な増殖は伴わない。壊死性角膜炎では実質内に蓄積した抗原抗体複合物に対して好中球浸潤が生じ、より高度な破壊が起こる。
内皮炎の病態はまだ十分に解明されていない。ウイルスによる内皮細胞の直接障害と、ウイルス抗原に対する免疫学的攻撃の両者が混在していると推定される。
発熱・感冒・ストレス・紫外線曝露・外傷・免疫抑制などがHSV再活性化の契機となる。
角膜移植後のHSV角膜炎(HSK)は411例の検討で発症率9.73%と報告されている1)。発症の65%は術後1〜3ヶ月に集中し、術後のステロイド使用がウイルス再活性化を促進する1)。移植後HSKの病型別頻度は上皮型27.5%、壊死性実質型20%、混合型42.5%、内皮型10%であった1)。HSV角膜炎の既往がある眼への角膜移植は、円錐角膜やFuchs角膜ジストロフィへの移植と比較して拒絶反応と移植片不全のリスクが高い1)。
実質型角膜炎は細隙灯顕微鏡で以下の所見から診断する。
円板状角膜炎は、円形の淡い実質混濁・実質浮腫・病変中央のKP・Descemet膜皺襞・毛様充血の組み合わせで診断可能である。
壊死性角膜炎は、血管侵入を伴う不整形の濃厚な実質混濁と、より強い炎症所見で判断する。
内皮炎は、角膜上皮・実質浮腫とKPを認めるが、角膜実質混濁や前房内細胞がきわめて軽微である場合に臨床的に診断する。
病歴:過去の樹枝状角膜炎の既往は重要な診断根拠となる。再発性であること自体が診断の支持材料である。
角膜知覚検査:再発を繰り返した症例では著明な角膜知覚低下を認める。Cochet-Bonnet角膜知覚計が簡便かつ程度を段階づけできるため有用である。実質型は上皮型よりウイルス学的診断が困難なため、知覚検査の重要性がより高い。
PCR検査:前房水のPCRによるHSV-DNA検出は内皮炎の診断に特に重要である3)。涙液PCRは実質型でも有用だが、検出感度は上皮型より低い。
免疫クロマトグラフィ法:特異度100%だが感度は約60%であり、陰性でもHSV感染は否定できない。
| 鑑別疾患 | HSV実質型・内皮炎との違い |
|---|---|
| 角膜移植拒絶反応 | ステロイドに著効。KPはグラフト後面に限局 |
| サイトメガロウイルス内皮炎 | 線状KPが特徴。ACV/VACVに反応しない |
| 帯状ヘルペス角膜炎 | VZV由来。皮疹を伴うことが多い |
角膜移植後の内皮炎と拒絶反応の鑑別は特に重要である。移植後HSV内皮炎ではKPがドナー・レシピエント接合部を越えて分布し、ドナーとレシピエント双方の角膜に浮腫を生じる1)。ステロイド単独投与では改善せず、抗ウイルス薬の追加で改善がみられる1)。一方、内皮拒絶反応ではKPは主にグラフト後面に限局し、Khodadoust lineが辺縁から中心に向かって進行し、ステロイドに良好に反応する1)。
上皮型の樹枝状角膜炎は典型的な臨床所見で診断可能であり、PCRは必須ではありません。しかし実質型では臨床所見のみでは診断困難な場合があり、涙液や前房水のPCRが有用です。特に内皮炎ではウイルス分離・培養がきわめて困難なため、前房水PCRによるHSV-DNAの検出が重要な診断手段となります3)。
実質型角膜炎と内皮炎の治療はいずれもステロイドによる免疫反応の抑制と抗ウイルス薬によるウイルス増殖抑制の併用が基本となる。HEDS-1(Herpetic Eye Disease Study)のSKN試験では、HSV実質型角膜炎に対するステロイド点眼(リン酸プレドニゾロン漸減投与)がプラセボと比較して炎症の持続・進行リスクを68%減少させ、治癒時間を短縮することが実証された5)。
ステロイド点眼:重症例はベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(サンベタゾン)などの強いステロイドから開始する3)。軽症例は0.1%フルオロメトロンから開始する。月単位で漸減し、3〜4ヶ月を目処に中止する3)。
抗ウイルス薬:アシクロビル(ACV)眼軟膏3%を1日5回点入する3)。ACV眼軟膏を使用せずステロイド単独で治療すると、当初は軽快するが再発・再燃を生じやすく、上皮型角膜ヘルペスを誘発する危険がある3)。
ステロイド内服:角膜ぶどう膜炎や壊死性角膜炎など重症例、上皮欠損を伴う場合はステロイド内服を併用する3)。
ステロイド結膜下注射:効果は強いが再発・再燃しやすいため極力避ける3)。
内皮炎は実質型に準じて治療する3)。実質型に併存している場合は実質型の治療に則る。純粋な内皮炎に対するACV投与が局所か全身かについて一定の見解は得られていない。
薬物療法に反応しない瘢痕性角膜混濁が残った場合は角膜移植の適応となる。HSV角膜炎後の角膜瘢痕には**深層層状角膜移植(DALK)**が推奨される。内皮が温存されるため拒絶反応のリスクが低く、全層角膜移植(PKP)より長期成績が良好とされる。
HSV角膜炎の既往がある患者への角膜移植では、術前から経口抗ウイルス薬を開始し、術後最低1年間は継続することが推奨される1)4)。術後1〜3ヶ月が再発のピークであり、この期間は特に注意が必要である1)。
移植後にHSV角膜炎が再燃した場合は、全身抗ウイルス療法を積極的に行い、ステロイドの投与量を上皮の状態・感染の重症度・拒絶反応の活動性に応じて慎重に調整する1)。上皮型HSKを合併した場合はステロイドの頻度・強度を減じる1)。
| 病型 | 主な治療 |
|---|---|
| 非壊死性(円板状) | ステロイド点眼+ACV眼軟膏 |
| 壊死性 | ステロイド内服+全身抗ウイルス薬 |
| 内皮炎 | 実質型に準じた治療 |
実質型角膜炎と診断されたら速やかに開始します。重症度に応じて強さを選び、月単位でゆっくり漸減していきます。0.1%フルオロメトロンに切り替えた後、回数を漸減して3〜4ヶ月を目処に中止するのが一般的です3)。急な中止は再燃の原因となるため、必ず眼科医の指示に従って漸減してください。
少なくとも術後1年間は経口抗ウイルス薬(アシクロビルまたはバラシクロビル)を継続することが推奨されます1)4)。術後1〜3ヶ月が再発のピークであり、この期間は特に重要です1)。HSV角膜炎の既往がない患者への移植でも、ドナー由来の感染リスクがあるため予防投与を検討すべきとする意見もあります1)。
HSV実質型角膜炎はCD4陽性T細胞が主導する免疫反応である。HSV抗原を取り込んだLangerhans細胞(角膜の抗原提示細胞)がCD4陽性T細胞に抗原を提示し、活性化T細胞がサイトカインを放出する。これにより好中球が角膜実質に浸潤し、組織破壊を引き起こす。
マウスモデルでは角膜実質からCD4陽性T細胞を除去すると実質炎が発症しないことが示されており、免疫反応が実質型角膜炎の中心的病態であることを裏づける。
HSV UL6タンパクとヒト角膜抗原の間に分子擬態が存在することが示されている。これにより自己免疫的な機序が実質炎の慢性化・再発に関与する可能性がある。
非壊死性(円板状)角膜炎は純粋な免疫反応でウイルスの活発な増殖は伴わない。壊死性角膜炎は再発を繰り返した角膜で、実質内に蓄積した抗原抗体複合物に対して新生血管を通じた好中球浸潤が生じ、より高度な組織破壊をきたす。
内皮炎がウイルスの直接感染による細胞障害か、免疫学的攻撃が主体かの結論は得られていない。おそらく両者の病態が混在していると考えられる。HSV内皮炎は実質型や上皮型を経過中に伴うことが多く、純粋な内皮炎のみの病態はサイトメガロウイルスによるものが多い。
ドナー角膜へのルーチンHSV検査が提唱されている。低ウイルスDNA量では偽陰性のリスクがあるものの、検出・治療・予防によるグラフト生存率の向上が期待される1)。しかし費用や法的環境の制約から、現時点では一般化していない1)。
HSV角膜炎の再発予防を目的とした治療的ワクチンの研究が進行中である。動物実験では角膜症状の軽減が確認されているが、ヒトでの臨床応用にはさらなる検討が必要である。
重度の炎症反応・大きく深い潰瘍・遷延性上皮欠損を伴うHSV角膜炎に対し、薬物療法と羊膜移植の併用が報告されている1)。羊膜組織は上皮治癒の促進・炎症反応の軽減・線維芽細胞増殖の抑制・血管新生の抑制に寄与する1)。
- Wu D, Huang H, Zheng M, et al. Clinical manifestations and outcomes of herpes simplex keratitis following corneal transplantation: a retrospective study. Front Med. 2025;12:1654643.
- Farooq AV, Shukla D. Herpes simplex epithelial and stromal keratitis: an epidemiologic update. Surv Ophthalmol. 2012;57(5):448-462. (INCIDENCE OF HERPES SIMPLEX VIRUS KERATITIS AND OTHER OCULAR DISEASE: GLOBAL REVIEW AND ESTIMATES)
- 日本眼感染症学会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 日眼会誌. 2013;117(6):467-509.
- American Academy of Ophthalmology. Corneal Edema and Opacification Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2019;126(1):P216-P285.
- Wilhelmus KR, Gee L, Hauck WW, et al. Herpetic Eye Disease Study. A controlled trial of topical corticosteroids for herpes simplex stromal keratitis. Ophthalmology. 1994;101(12):1883-1896.