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糸状角膜炎

Filamentary Keratitis

糸状角膜炎は、角膜表面に糸状の構造物(角膜糸状物)が形成・付着する慢性・再発性の疾患である。糸状物は変性した角膜上皮細胞を核としてムチンが付着し、さらに炎症細胞や結膜上皮細胞も構成成分となる。

さまざまな眼表面異常や眼瞼状態を背景に発症する。代表的な基礎疾患として、涙液減少型ドライアイ、上輪部角結膜炎、兎眼、眼疾患術後、結膜弛緩、固定斜視、糖尿病などがある。

従来は角膜創傷治癒機転の障害が発生メカニズムと考えられてきたが、近年は眼表面での摩擦亢進の関連が注目されている。

Q 糸状角膜炎はどのような人に起きやすいですか?
A

ドライアイが最も多い原因です。涙の分泌が少ない方、まばたきが不完全な方(眼瞼下垂や顔面神経麻痺)、眼の手術後の方、シェーグレン症候群などの全身疾患をお持ちの方に発症しやすい傾向があります。防腐剤を含む点眼薬の長期使用も原因となることがあります。

瞬目のたびに糸状物が摩擦により移動し、強い異物感と眼痛を生じる。刺激による流涙、羞明眼瞼痙攣を伴うこともある。

糸状物は通常2mm以下であるが、10mmに及ぶ長い糸状物を形成することもある。フルオレセイン、ローズベンガル、リサミングリーンで染色される。糸状物基部には灰色の上皮混濁を伴うことがある。角膜は糸状物を除けば透明性が保たれることが多い。

糸状物の部位推定される原因
角膜全面ドライアイ
瞼縁に沿う眼瞼異常
角膜の段差部術後・外傷後

診察時に観察すべき6項目がある。

眼表面の評価

糸状物の部位:原因疾患の推定に直結する

マイボーム腺の状態:梗塞の有無を確認する

閉瞼・開瞼状態:瞬目不全の有無を評価する

涙液・神経の評価

涙液量BUT・涙液メニスカスを測定する

角膜知覚三叉神経麻痺の有無を確認する

眼球運動:安息時固定位置を評価する

Q 糸状角膜炎の痛みはどのようなものですか?
A

まばたきをするたびに糸状物が引っ張られるため、ゴロゴロする異物感や刺すような痛みが生じます。目をつぶっているときは比較的楽ですが、まばたきや目を開けたときに痛みが強くなるのが特徴です。痛みのために涙が出たり、まぶしく感じたりすることもあります。

糸状角膜炎は単独で発症することはまれであり、ほぼ必ず背景疾患が存在する。

背景疾患機序
ドライアイ涙液水層の減少
上輪部角結膜炎上方結膜の摩擦
兎眼角膜の乾燥・露出
術後上皮障害・知覚低下
糖尿病上皮治癒遅延

涙液層や角膜表面に変化を及ぼすあらゆる要因がリスクとなる。シェーグレン症候群や眼移植片対宿主病(oGVHD)などの全身性疾患、抗コリン薬の長期使用、防腐剤(ベンザルコニウム塩化物)含有点眼薬の長期使用なども危険因子である。

診断は細隙灯顕微鏡検査で容易である。角膜表面に付着した糸状物を確認すれば診断が確定する。

追加検査として涙液と眼表面の評価を行う。

シルマー試験で涙液分泌量を測定する。5mm以下は涙液減少を示唆する。**涙液層破壊時間(BUT)**で涙液安定性を評価する。マイボグラフィマイボーム腺機能不全の有無を確認する。

背景疾患が不明な場合は全身疾患の検索も考慮する。シェーグレン症候群が疑われる場合は、血液検査(抗SS-A/SS-B抗体)や唾液腺生検などの精査を行う。

糸状角膜炎の治療は、糸状物の除去背景疾患の管理の2本柱である。

点眼麻酔後に無鉤鑷子で根元から機械的に除去する。小さいものは綿棒やMQA®で削ぎ落とすことも可能である。ただし除去のみではすぐに再発するため、背景疾患への対処が不可欠である。

**レバミピド点眼(ムコスタ®)**が有効である。分泌型および膜結合型ムチンの増加による涙液安定性の向上と、抗炎症作用を含む角膜上皮創傷治癒促進作用による効果が報告されている。

涙液分泌量が不十分な場合は、防腐剤無添加の人工涙液涙点プラグを考慮する。マイボーム腺梗塞がある場合は眼瞼清拭を指導し、重症例ではテトラサイクリン内服を行う。

消炎目的にステロイド点眼やシクロスポリン点眼を処方する場合もある。治療用ソフトコンタクトレンズの1週間連続装用(週1回交換)も刺激軽減と再発予防に有効である。

**N-アセチルシステイン(10%)**は涙液のムチン粘稠度を低下させる粘液溶解薬として使用される。

中央部に限局する難治性の糸状角膜炎には、**治療的表層角膜切除術(PTK)**が適応となる。エキシマレーザーによる角膜上皮および浅層実質の切除により、上皮接着を改善させる。ただし遠視化の可能性があり、施行できる施設は限られる。

眼瞼異常が原因の場合は眼瞼形成手術を行う。固定斜視が原因の場合は、斜視手術による眼球安息時固定位置の移動を考慮する。

糸状物除去→涙液量確保→ソフトコンタクトレンズ→眼瞼・眼位異常の是正という段階的アプローチが基本である。基礎疾患が適切に管理されれば予後は概ね良好であるが、再発は珍しくない。脳病変に起因する糸状角膜炎は最も治療抵抗性が高い。

Q 糸状角膜炎は治りますか?
A

背景にある原因(ドライアイや眼瞼の異常など)を適切に治療すれば、多くの場合改善します。ただし再発しやすい疾患であり、長期的な眼表面の管理が必要です。糸状物の除去だけでは再発を繰り返すため、原因に対する治療を並行して行うことが大切です。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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糸状角膜炎の発生機序は、角膜上皮障害を起点とする多段階のプロセスである。

まず基底上皮細胞、上皮基底膜、またはBowman層の損傷により、上皮基底膜の局所的な剥離が生じる。涙液のターンオーバー異常や涙液層成分の異常が背景にある場合、この損傷部位が修復されにくい。

瞬目による剪断力がこの剥離部位を持ち上げ、刺激と炎症を誘発する。上皮細胞成分を核としてムチンが付着し、さらに炎症細胞や結膜上皮細胞が巻き込まれて糸状物が形成される。

涙液層ではムチンと水層の比率が増加している。これは通常、涙液水層の産生減少によるが、ムチン産生の増加や蓄積が原因となることもある。この涙液層組成の変化が糸状物形成の素地となる。

近年の知見として、眼表面の摩擦亢進が発症に深く関与していることが示唆されている。摩擦は眼瞼と角膜の接触面で生じ、涙液層の潤滑機能低下により増大する。この機序はレバミピド点眼がムチンを増加させ摩擦を軽減することで奏効する臨床的事実と一致する。

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