表層外胚葉
角膜上皮:水晶体胞分離後に分化
水晶体:表層外胚葉の陥凹から形成
眼瞼上皮・結膜上皮:表層外胚葉由来
涙腺・マイボーム腺:結膜上皮から発生

眼球は発生の過程で脳の一部が突出してできた器官である。脳の原基である原始脳胞の前方から左右2つの突起が生じ、原始眼胞(一次眼胞)となる。神経網膜と脳は同じ神経外胚葉から発生し、まさに「脳の一部」といえる。
眼の発生は原腸形成(gastrulation)から始まる。胞胚が原腸胚へと変化し、内胚葉・中胚葉・外胚葉の三胚葉が形成される。発生第3週までに三胚葉は三層胚盤を構成する。
原腸形成直後に神経管形成(neurulation)が起こる。神経板が内側に折りたたまれ神経管を形成し、胎生22日頃に神経襞上に眼溝(optic groove)が出現する。胎生25日までに眼溝は眼胞(optic vesicle)へと進展する。
眼胞の遠位端が表層外胚葉に接近すると、表層外胚葉が肥厚して水晶体板(lens plate)が形成される。眼胞の前壁が陥凹して後壁に近づき、二重壁からなる杯状の構造すなわち眼杯(optic cup)が形成される。
眼杯と脳室をつなぐ管状部分を眼茎(optic stalk)と呼ぶ。眼茎は最終的に視神経となる。
眼球および付属器は以下の4系統の組織から構成される。
表層外胚葉
角膜上皮:水晶体胞分離後に分化
水晶体:表層外胚葉の陥凹から形成
眼瞼上皮・結膜上皮:表層外胚葉由来
涙腺・マイボーム腺:結膜上皮から発生
神経外胚葉
網膜・網膜色素上皮:眼杯の内板・外板から分化
虹彩上皮・毛様体上皮:眼杯前縁部由来
視神経:網膜神経節細胞の軸索から成立
硝子体:体積比で最大の寄与
中胚葉
神経堤細胞(第四の胚葉)
角膜実質・内皮:神経堤細胞の遊走で形成
虹彩実質:メラノサイト濃度が虹彩色を決定
強膜・隅角線維柱帯:神経堤由来
眼窩骨:主に神経堤系統から骨化
神経堤は脊椎動物の神経管形成時期に表皮外胚葉と神経板の間に一時的に形成される構造であり、その重要性から「第四の胚葉」と呼ばれる。神経堤細胞は脱上皮化と上皮間葉転換を経て胚体内各所に遊走し、眼発生において重要な役割を果たす。
眼の発生は胎生3週(妊娠22日頃)に神経板上に眼溝が出現することから始まります。25日までに眼胞へと進展し、その後眼杯の形成を経て各組織への分化が進みます。眼球の基本構造は胎生期を通じて形成され、黄斑の完成は生後16週まで継続します。
眼の正常な発生は複数の遺伝子と分子シグナルによって精密に制御されている。これらの異常は先天眼疾患を引き起こす。
| 遺伝子 | 機能と関連疾患 |
|---|---|
| PAX6 | 眼形成のマスター遺伝子。変異で無虹彩症・コロボーマ・小眼球症・Peters異常を発症 |
| SHH | 単一眼野を左右2眼に分割。変異で単眼症(cyclopia)を発症 |
| PAX2 | 眼茎形成と胎生裂閉鎖に不可欠 |
PAX6遺伝子は眼形成に必須のマスターコントロール遺伝子であり、ショウジョウバエの発生研究から発見された。ヒトでは無虹彩症(aniridia)の原因遺伝子として同定されている。PAX6遺伝子はがん抑制遺伝子WT1と11p13染色体上で隣接しており、両者が欠損するとWAGR症候群(Wilms腫瘍・無虹彩・泌尿生殖器異常・精神遅滞)を呈する。
レチノイン酸(RA)は眼発生に不可欠なシグナル分子である1)。レチノール(ビタミンA)はRDH10によりレチナールに、さらにALDH1A1・ALDH1A2・ALDH1A3によりRAに変換される1)。
ヒトではRBP4、STRA6、ALDH1A3、RARBの4つのRAシグナリング経路遺伝子と、RAにより制御されるPITX2、FOXC1の変異が無眼球症・小眼球症と関連している1)。
PITX2変異はAxenfeld-Rieger症候群を、FOXC1変異は前眼部形成異常を引き起こす1)。
コロボーマ(ぶどう膜欠損) は胎生裂の閉鎖不全によって生じる先天異常である。胎生裂は胎生6週頃に中央部から閉鎖が始まり7週で完了する。閉鎖が妨げられると瞳孔から下方に伸びる裂け目が残存し、虹彩コロボーマ・脈絡膜コロボーマ・巨大コロボーマなどを生じる。多くは小眼球を伴う。
PAX6遺伝子は眼形成のマスターコントロール遺伝子です。変異により無虹彩症・コロボーマ・小眼球症・Peters異常・黄斑低形成などが生じます。また、隣接するWT1遺伝子との同時欠損ではWAGR症候群(Wilms腫瘍・無虹彩・泌尿生殖器異常・精神遅滞)を発症します。
本セクションでは眼の各組織の発生過程を時系列に沿って詳述する。
胎生3週初めに神経板中央部に視溝が生じる。これが視覚器発生の始まりである。胎生3週終わりに眼小窩の両側方が胞状に拡大し眼胞が形成される。
胎生4週に眼胞遠位端の前壁が表層外胚葉に接近し、水晶体板が形成される。その後眼胞前壁が陥凹して眼杯となり、水晶体板が肥厚陥凹して胎生5週までに水晶体胞が眼杯中に分離形成される。
眼杯下部に裂隙(眼杯裂)が生じ、眼茎下壁にも裂隙(眼茎裂)が出現する。両者を合わせて胎生裂(embryonic fissure)と呼ぶ。背側眼動脈から分岐した硝子体動脈が胎生裂を通じて眼杯内に進入する。胎生6週頃に中央部から閉鎖が始まり、胎生7週に閉鎖が完了する。
眼杯の内板と外板は当初ともに多列円柱上皮であるが、その後異なる運命をたどる。
内板は盛んな細胞分裂により肥厚し、感覚網膜(神経網膜)に分化する。ただし瞳孔縁に近い範囲では肥厚せず単層立方上皮となり、毛様体および虹彩の上皮性部を形成する。
外板は眼杯の拡大につれて薄くなり、胎生5週後半にメラニン顆粒が出現して網膜色素上皮(RPE)に分化する。特筆すべきは、網膜色素上皮が神経堤細胞に由来しない体内唯一の色素組織である点である。
内板が外板に反転する部分は前方に向かって正円形の孔を形成し、将来の瞳孔となる。
水晶体胞が表面外胚葉から分離して眼杯前部に包み込まれると、単層上皮細胞の基底膜が水晶体嚢となる。前壁の細胞は1層の水晶体上皮としてとどまるが、後壁の細胞は第1次水晶体線維として前方に伸展する。
胎生6〜7週に水晶体胞の内腔が消失し内胎生核が形成される。赤道部の細胞が分裂・増殖して外胎生核、さらにその外側に第2次水晶体線維が次々と付加される。二次水晶体線維は生涯を通じて発達し続ける。
水晶体は外胚葉上皮に由来し、間葉組織は形成に関与しない。胎生期間中は水晶体血管膜(硝子体動脈由来)から栄養が供給される。
眼杯内板からは神経網膜・虹彩上皮・毛様体無色素上皮が、外板からは網膜色素上皮・毛様体色素上皮・虹彩瞳孔筋が形成される。
神経網膜の分化は2段階で進行する。
第1段階(垂直勾配の分化):神経芽細胞層が内・外神経芽細胞層に分化する。内神経芽細胞層からは神経節細胞が最初に分化し、次いでMüller細胞・双極細胞・アマクリン細胞・水平細胞が分化する。外神経芽細胞層からは視細胞が分化する。胎生3か月に錐体、4か月に杆体が出現する。
第2段階(水平勾配の分化):後極部から周辺部へ分化が進行する。黄斑を除き、網膜の発生は胎生9か月でほぼ完了する。黄斑の分化は胎生6か月で始まり、中心窩は胎生7か月に形成開始、生後16週まで組織発生が継続する。
硝子体は3段階を経て形成される。
| 段階 | 時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 第1次硝子体 | 胎生6週〜 | 硝子体動脈を含む。退行後Cloquet管が残存 |
| 第2次硝子体 | 胎生9週〜 | 無細胞性の網工。成熟硝子体の大部分を構成 |
| 第3次硝子体 | 胎生後期 | 毛様小帯(チン小帯)を形成 |
胎生後期に硝子体動脈が退化・消失すると、第1次硝子体も消失する。眼杯内板の表面に沿って走る分枝は網膜中心動静脈として残存する。
胎生6週に網膜神経節細胞が出現する。その軸索が網膜最内層を通り、乳頭部で眼杯内板を貫通して眼茎内に伸びる。胎生7週には視神経交叉部に達し、外側膝状体を経て後頭葉へ伸長する。
胎生3か月に眼茎周囲の神経堤細胞から軟膜が形成される。胎生5か月までに硬膜が出現し、6か月にはくも膜が分化する。髄鞘化は胎生5か月に外側膝状体で始まり、網膜に向かって進行する。
胎生4週に水晶体胞の分離後、表層外胚葉が角膜上皮へ分化する。胎生6週に神経堤細胞が角膜上皮と水晶体の間に進入しBowman層と角膜内皮が形成される。次いで再び神経堤細胞が進入して角膜実質が形成される。
胎生7週には角膜内皮と水晶体の間に神経堤細胞が進入し、瞳孔膜と虹彩実質が形成される。胎生3〜4か月にSchlemm管が形成され、前房が出現し隅角線維柱帯も神経堤細胞から形成される。
虹彩:胎生3か月に眼杯前縁部から前後2層の虹彩上皮が形成される。瞳孔括約筋は胎生4か月から分化し8か月で完了する。瞳孔散大筋は胎生6か月に分化を開始し、生後に完成する。虹彩の固有筋は神経外胚葉由来である。
毛様体:胎生3か月に眼杯内・外板に皺ができ毛様体突起が形成される。毛様体実質と毛様体筋は神経堤細胞から形成される。
脈絡膜:胎生5週に網膜色素上皮にメラニン顆粒が出現し、眼杯周囲の中胚葉組織から毛細血管網が誘導される。胎生4か月に脈絡膜血管網が形成される。
強膜:胎生7週に眼杯前縁部の神経堤細胞から形成が始まり、後方に伸びて胎生5か月には後極部に達する。
眼瞼:胎生6週に眼球上下に2本の皺が形成される。胎生3か月にいったん癒着し、6か月に再分離が始まり7か月で開離する。結膜上皮・睫毛・各種腺(Moll腺・Zeis腺・マイボーム腺)は表層外胚葉から、眼輪筋・瞼板は中胚葉から発生する。
涙腺:胎生10週に上円蓋部耳側の結膜上皮基底細胞が中胚葉組織中に嵌入し形成される。反射性涙液分泌は生後1〜3週まで開始しない場合がある。
外眼筋:胎生4週に眼杯周囲の中胚葉組織が密集して原基を形成する。胎生8週に4直筋と2斜筋が分化し、上眼瞼挙筋は上直筋から分離する。
眼窩:眼窩骨は主に神経堤由来で胎生6週に膜性骨化が始まる。蝶形骨と篩骨は軟骨内骨化を経て発達する。
レチノイン酸(RA)は眼発生において2つの重要な段階を制御する1)。
第1段階:眼杯形成(マウスE8.5〜E10.5相当) RAは眼胞の陥入(折りたたみ)による眼杯形成に必須である1)。特に腹側眼胞の陥入がRA欠損で阻害される1)。Aldh1a2がE8.5〜E9.5に視周囲間充織でRAを産生し、この時期のRA合成の喪失は眼杯形成不全につながる1)。
第2段階:前眼部形態形成(マウスE10.5以降) RAは網膜の背側(Aldh1a1)と腹側(Aldh1a3)で産生され、眼杯外部の神経堤由来視周囲間充織に拡散する1)。RAの喪失は間充織の過剰増殖を引き起こし、小眼球症・角膜形成異常・眼瞼形成異常をきたす1)。
RAは視周囲間充織でPitx2を活性化し、Pitx2がDkk2(WNTアンタゴニスト)を誘導することでWNTシグナリングを抑制し、間充織の過剰増殖を制限する1)。
レチノイン酸(RA)はビタミンAの活性代謝物であり、眼発生において眼杯形成と前眼部形態形成の2段階を制御します。RAは網膜で産生され、周囲の神経堤由来間充織に拡散してPitx2-Dkk2経路を介しWNTシグナリングを抑制します。RAシグナリング経路の遺伝子変異は無眼球症・小眼球症などの先天眼疾患を引き起こします。
RAシグナリングは核内RA受容体(RAR)がRA応答配列(RARE)に結合して転写を制御する機構で機能する1)。しかし、眼発生におけるRAの直接標的遺伝子はいまだ同定されていない1)。マウスおよびヒトゲノム中には数千のRAREが存在し、RA消失時に数千の遺伝子発現が変動するため、直接標的の特定は容易ではない1)。
近年の研究では、H3K27ac(遺伝子活性化マーク)やH3K27me3(遺伝子抑制マーク)のRA依存的沈着をChIP-seqで検出し、RNA-seqデータと統合することで直接標的遺伝子を絞り込む手法が開発された1)。体幹組織で実証されたこの手法を眼発生に応用すれば、RA標的遺伝子の網羅的同定が期待される1)。
RDH10はRA合成の第一段階(レチノール→レチナール変換)を担う唯一の酵素であり、Rdh10ノックアウトマウスはE10.5まで生存可能で視野にRA活性がなく眼杯形成不全を示す1)。Aldh1a1/Aldh1a2/Aldh1a3の三重ノックアウトよりも実験操作が容易であり、今後の眼杯形成機序解明に有用なモデルとなる1)。