角膜上皮病変
樹枝状角膜炎:分枝状の上皮欠損でターミナルバルブを有する。フルオレセインで中央が染色され、辺縁の腫脹上皮はローズベンガルで染まる。
地図状潰瘍:樹枝状病変が拡大・融合した広範な上皮欠損である。
粗大点状角膜炎:散在する点状の上皮浸潤として現れる。

カポジ水痘様発疹症(eczema herpeticum:EH)は、既存の炎症性皮膚疾患の部位に単純ヘルペスウイルス(HSV)が播種性に感染する疾患である。1887年にオーストリアの皮膚科医 Moritz Kaposi が初めて報告した4)。別名 Kaposi varicelliform eruption とも呼ばれる。
単純ヘルペスウイルス-1が原因の90%以上を占める1)。基礎疾患として最も多いのはアトピー性皮膚炎(AD)であり、AD患者の約3%が生涯にEHを経験する4)。あらゆる年齢で発症しうるが、典型的には小児期に多い。米国の入院小児4,655人の解析では、若年層・非白人(特にアフリカ系アメリカ人・アジア系)との関連が認められている。
全身感染へ進展すると脳炎や敗血症性ショックを引き起こしうる。未治療例の致死率は6〜10%と報告される1)。乳児例では脂漏性皮膚炎を基礎としたEHにレンサ球菌敗血症を合併した重症例も報告されている6)。
成人でも発症します。小児に多いものの、アトピー性皮膚炎やその他のバリア障害を有する成人も罹患します。19歳男性がEHをヘルペス角膜炎に合併した症例2)や、32歳男性がEH発症中に薬剤性膿疱症を併発した症例3)が報告されています。JAK阻害薬(バリシチニブ)使用中の22歳男性での劇症型EHの報告もあります5)。
全身症状として発熱・倦怠感・リンパ節腫脹がみられる。皮膚病変部の疼痛を訴えることが多い。眼波及があれば充血・羞明・流涙・異物感・視力低下が加わる。
皮膚所見
単形性のドーム状丘疹水疱が集簇して出現する4)。水疱はその後「打ち抜き状(punched-out)」のびらんへ進行し、血性または黄色の痂皮を形成する。好発部位は頭部・顔面・頸部・体幹である。正常皮膚へ1〜2週間で拡大し、2〜6週間で瘢痕を残さず治癒する1)。
4か月男児がADを基礎として頭皮の黄色鱗屑から始まり、顔面・四肢・会陰へ水疱が拡大した。高度好酸球増多と総IgE上昇を認め、アシクロビル静注で改善した1)。
蜂窩織炎と誤診される例がある。19歳アフリカ系アメリカ人男性では、顔面蜂窩織炎として広域抗菌薬を投与されたが改善せず、24時間後に羞明と霧視が出現し、皮膚科コンサルトでEHと診断された2)。
眼所見
眼波及ではヘルペス角膜炎の各病型がみられる。
角膜上皮病変
樹枝状角膜炎:分枝状の上皮欠損でターミナルバルブを有する。フルオレセインで中央が染色され、辺縁の腫脹上皮はローズベンガルで染まる。
地図状潰瘍:樹枝状病変が拡大・融合した広範な上皮欠損である。
粗大点状角膜炎:散在する点状の上皮浸潤として現れる。
角膜実質・その他の病変
円板状角膜炎:免疫反応による円形の実質混濁と角膜浮腫を呈する。角膜後面沈着物を伴うことが多い。
壊死性実質角膜炎:再発例で血管侵入・濃厚混濁を生じる。穿孔リスクがある。
ゴースト樹枝状病変:上皮治癒後に残存する上皮下混濁である。
7か月乳児では脂漏性皮膚炎に合併したEHにより、左眼瞼に著明な浮腫と水疱を認めたが、眼科診察で角膜病変は否定された6)。一方、蜂窩織炎誤診例では入院後にフルオレセイン染色で早期の樹枝状病変が左角膜に確認された2)。
小児はヘルペス性眼疾患がより重症化しやすく、両側性や複数の角膜樹枝状病変を呈する傾向がある。角膜知覚の低下は点眼麻酔投与前に評価すべきである。
EHの原因の大部分は単純ヘルペスウイルス-1である1)4)。単純ヘルペスウイルス-2もまれに原因となる。Coxsackie A16、ワクチニアウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスによる類似病態も報告されている4)。
最大のリスク因子は表皮バリアの破壊である。
AD関連の危険因子
重症・早期発症のAD:バリア障害が高度なほどリスクが上昇する。
血清総IgE高値:初回EH時に高度好酸球増多とIgE上昇を認めた乳児例が報告されている1)。
末梢血好酸球増多:Th2偏向の指標であり、EHリスクと相関する。
アトピー性併存疾患:喘息・食物アレルギーの合併はリスクを高める。
黄色ブドウ球菌感染歴:皮膚のS. aureus定着はEHの重要なリスク因子である。
その他の危険因子
AD以外の皮膚疾患:ダリエー病、天疱瘡、魚鱗癬、乾癬、酒さ、脂漏性皮膚炎6)、接触皮膚炎など多くの疾患で報告されている。
免疫抑制状態:JAK阻害薬バリシチニブ使用中にEH 0.2〜2.8%、単純ヘルペスウイルス-1感染3%と報告されている5)。
遺伝的因子:SIDT2・RBBP8NL遺伝子のサイレンシングが単純ヘルペスウイルス-1複製を増加させることが示されている。
JAK阻害薬のバリシチニブはI型インターフェロンシグナルを阻害し、単純ヘルペスウイルス-1感染リスクを約3%に高めると報告されています5)。22歳男性がバリシチニブ4mg/日使用中に劇症型EHを発症した症例では、薬剤中止とアシクロビル静注により8日間で治癒しました5)。ステロイド外用薬は適切に使用すればEHリスクを直接高めるとは限りませんが、感染兆候を見逃す可能性があります。
EHの診断は臨床所見が基本である。ADの既往を有する患者に単形性の丘疹水疱が急性発症した場合、速やかにEHを疑う必要がある。蜂窩織炎との誤診は治療開始の遅延を招く2)。
「EHインコグニート」と呼ばれる非典型例にも注意が必要である。重症AD患者やEH再発例では膿痂疹と誤認されやすい。
| 検査法 | 感度の特徴 | 備考 |
|---|---|---|
| PCR | 水疱で高い | 3日以降・痂皮では低下4) |
| ツァンク試験 | 水疱81.6% | 痂皮62.5%に低下4) |
| ウイルス培養 | 確定的 | 日常臨床では困難 |
PCRの陽性率は水疱100%だが、痂皮では43.7%に低下する4)。ツァンク試験も病変の経時的変化により感度が変動する。IgM anti-単純ヘルペスウイルス-1陽性は初感染7日以内で33%と低いが、IgG陰性と組み合わせることで診断の補助となる4)。
眼科的精査はEHの標準的な評価の一部として推奨される。角膜のフルオレセイン染色で樹枝状病変を確認する。免疫クロマトグラフィー法(チェックメイト®ヘルペスアイ)は特異度100%だが感度50%程度であり、陰性でも単純ヘルペスウイルス感染を否定できない7)。PCRは感度が高いが、単純ヘルペスウイルスのspontaneous sheddingを検出する可能性があり、陽性でも確定診断とはならない7)。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 膿痂疹 | 蜂蜜色の痂皮が特徴 |
| 水痘 | 汎発性で多形性の水疱 |
| 蜂窩織炎 | 発赤・腫脹が主体2) |
膿痂疹が疑われる場合でも、細菌培養陽性はEHを除外しない。EH症例ではS. aureus等の二次感染がしばしば共存する1)3)。
アシクロビル静注(5〜10 mg/kg/回、1日3回、7日間)がゴールドスタンダードである1)4)。軽症例では経口バラシクロビル(1回1,000 mg、1日2回)による外来管理も選択肢となる2)。アシクロビル開始の遅延は入院率の上昇と関連する1)。
入院を要する因子として、男性(OR=3.09)、発熱(OR=5.75)、全身症状(OR=2.84)、1歳未満(OR=7.17)が報告されている4)。
細菌の二次感染(S. aureus、レンサ球菌が多い)に対しては適切な抗菌薬を併用する6)。MRSA陽性例ではバンコマイシンやリネゾリドが選択される2)3)。
上皮型角膜ヘルペス
アシクロビル眼軟膏(3%)1日5回の点入が第一選択である7)。上皮病変消失後は1日3回に減量し、1〜2週間で中止する。海外では0.15%ガンシクロビル眼科用ゲル(1日5回)や1%トリフルリジン点眼(1日9回)も使用される。
実質型角膜ヘルペス
アシクロビル眼軟膏とステロイド点眼の併用が原則である7)。炎症の程度に応じてベタメタゾン0.1%点眼から開始し、漸減する。上皮欠損を伴う場合はステロイド内服への切り替えも考慮する。
壊死性実質角膜炎
重症の円板状角膜炎に準じた治療を行う。穿孔の監視のため毎日の経過観察または入院管理が必要となる。穿孔した場合は組織接着剤や構造的角膜移植が適応となる。
活動性のヘルペス上皮病変がある間はステロイド点眼が禁忌です。ウイルス増殖が促進され、角膜への障害が悪化するためです2)。一方、上皮病変が消失した後の実質型角膜炎に対しては、抗ウイルス薬を併用しながらステロイド点眼を使用することがあります7)。使用の判断は眼科医の評価が不可欠です。
AD患者の皮膚では、フィラグリンやクローディンなどの構造蛋白の変異・機能不全により表皮バリアが破綻している4)。これにより経表皮水分喪失、皮膚pH変化、皮膚常在菌叢の不均衡が生じる。
Th2細胞の優位がIL-4産生を刺激し、IgE産生を亢進させる一方、Th1細胞の分化を抑制しIFN-γ産生を低下させる1)。IFN-γの低下がウイルス増殖に好都合な環境を形成する。
タイトジャンクションやアドヘレンスジャンクションの接着蛋白に変異があると、細胞間接着が「緩い」状態となる4)。ネクチン-1はアドヘレンスジャンクション蛋白であると同時に単純ヘルペスウイルスの受容体でもある。バリア破壊によりネクチン-1の露出が増加し、ウイルスの細胞内侵入が促進される4)。
ADでは活性化受容体が低発現のNK細胞が蓄積し、細胞溶解活性は低下するがTNF-α産生は増加する。バソラテラル接着蛋白(Necl-5、E-カドヘリンなど)はNK細胞受容体のリガンドでもあるため、バリア破壊による慢性刺激がNK細胞の疲弊表現型を誘導し、抗ウイルス免疫応答を低下させる可能性がある4)。
この仮説は基礎研究による検証が待たれる段階である。
AD患者ではS. aureusの皮膚定着が高率に認められ、バリア機能のさらなる破壊に寄与する。EH症例ではしばしばMRSAを含む細菌の二次感染を合併する2)3)。7か月乳児の症例ではS. pyogenesによる敗血症に至った6)。
バリシチニブはJanus kinase(JAK)を阻害しI型インターフェロンシグナル伝達経路を遮断する5)。これにより抗ウイルス免疫が低下し、単純ヘルペスウイルス-1感染およびEH発症リスクが上昇する。
バソラテラル接着蛋白とNK細胞受容体の相互作用に基づく疲弊仮説4)は、EHの発症機序に新たな視点を提供する。今後、ネクチンファミリーとNK細胞活性化受容体CD226との関係を明らかにする基礎研究が期待される。
AD治療におけるバリシチニブの普及に伴い、EHの発症リスク管理が重要性を増している5)。単純ヘルペスウイルス-1感染3%、EH 0.2〜2.8%というデータは、JAK阻害薬処方時のスクリーニングと患者教育の必要性を示唆する。
SIDT2およびRBBP8NL遺伝子のサイレンシングが単純ヘルペスウイルス-1複製を促進することが全ゲノム解析で示されている。将来的には遺伝的スクリーニングによるEH高リスク患者の同定が可能になるかもしれない。
EHに対する統一的な診断ガイドラインは現時点で存在しない4)。蜂窩織炎との誤診例2)は、プライマリケアや救急領域での鑑別能力向上の必要性を示す。診断アルゴリズムの確立が今後の課題である。
単純ヘルペスウイルス角膜炎の診断においては、免疫クロマトグラフィー法とPCRの有用性が示されている7)。単純ヘルペスウイルス角膜炎の世界的発症率は年間約150万例と推定され8)、EHに伴う眼合併症の管理は公衆衛生上も重要である。