免疫学的要因
リンパ球浸潤:涙腺・唾液腺の導管周囲にT細胞が浸潤し上皮細胞との間で炎症が生じる。B細胞が加わりリンパ濾胞を形成する
自己抗体:抗SS-A/Ro抗体・抗SS-B/La抗体が特徴的である。M3ムスカリン受容体に対する機能阻害抗体も涙腺分泌障害に関与する2)
共刺激分子:Ox40/Ox40Lが末梢血単核細胞上で上昇し、臨床転帰・治療反応と相関する

シェーグレン症候群(Sjögren syndrome: SS)は、涙腺・唾液腺の分泌障害による乾燥症状を主とする外分泌腺の慢性炎症性自己免疫疾患である。1933年にスウェーデンの眼科医Henrik Sjögrenが、眼と口の乾燥感を伴う患者群を「乾燥複合体(sicca complex)」として初めて報告した。
SSは以下のように分類される。
原発性SS(約70%):膠原病を伴わない。さらに乾燥症状のみの腺性SS(病期I)と、全身性臓器病変を伴う腺外性SS(病期II)に分けられる。腺外性SSのうち悪性リンパ腫を発症したものは病期IIIとされる。
二次性SS(約30%):関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・強皮症・混合性結合組織病などの膠原病に合併する。
わが国の推定患者数は50万〜100万人で、50歳代が最も多い。男女比は1:14と女性に多い。患者は小児から80歳代まで分布する。
SSに伴うドライアイは古典的には涙液減少型(aqueous tear deficiency)として説明される。しかし近年、病理学的変化がマイボーム腺機能の変化を含む包括的な涙液機能不全を誘発することが示唆されている1)。SS患者と非SS涙液減少患者の比較では、SS群の方が蒸発量が多く、マイボーム腺の圧出性が低下し、油層が不足していた1)。
通常のドライアイは涙液層の安定性低下が主因であり、多くの場合は蒸発亢進型です。一方、SSでは涙腺が免疫学的に破壊されるため涙液分泌そのものが著減します。また結膜上皮障害が顕著であること、涙点閉鎖で水分量を増加させても結膜障害が改善されにくいことが特徴です。さらにマイボーム腺機能不全も合併し、蒸発亢進型の要素も加わります1)。
眼乾燥感が主訴となる。異物感・灼熱感・眼精疲労・羞明を伴う。口腔乾燥症(xerostomia)も併存することが多い。結膜の知覚が鈍いため、病変が結膜のみの場合は自覚症状が乏しいこともある。
重症例では角膜瘢痕・潰瘍形成・感染・穿孔のリスクがある。糸状角膜炎では瞬目により悪化する強い異物感・眼瞼痙攣・流涙を呈する。
眼表面所見:角結膜上皮障害(フルオレセイン染色陽性)が認められる。SSに特徴的な結膜上皮障害はローズベンガルまたはリサミングリーン染色で顕著となる。涙液メニスカスの減少、結膜充血を伴う。
杯細胞の変化:発症初期では杯細胞が増加することがある。重症・慢性例では杯細胞の消失と扁平上皮化生が認められる。
糸状角膜炎:変性上皮細胞と粘液からなる糸状物(フィラメント)が角膜表面に付着する。
| 所見 | 特徴 |
|---|---|
| Schirmer試験 | ≤5mm/5分 |
| BUT | 短縮 |
| 角膜染色 | FL陽性 |
| 結膜染色 | RB/LG陽性(特徴的) |
SSは眼・口腔以外にも多臓器に障害を及ぼす。全身病変は10〜20%に認められる5)。
神経障害:末梢神経障害は2〜25%に認められ、SSの代表的腺外症状である4)。感覚運動性多発神経障害・小径線維神経障害・自律神経障害・三叉神経障害など多彩な表現型を示す4)。自律神経障害ではコリン作動性機能不全が特徴とされ、起立性低血圧・消化管症状・排尿障害を呈する4)。
肺病変:気管支拡張症・リンパ球性間質性肺炎(LIP)・胸水などが報告されている5)。胸水は稀であり過去30年間で約10例の報告にとどまるが、重症腺外病変を示唆する5)。
悪性リンパ腫:pSS患者の4〜9%に非ホジキンリンパ腫を発症する5)。紫斑・低補体血症・クリオグロブリン血症・持続的耳下腺腫脹がリスク因子である5)。
免疫学的要因
リンパ球浸潤:涙腺・唾液腺の導管周囲にT細胞が浸潤し上皮細胞との間で炎症が生じる。B細胞が加わりリンパ濾胞を形成する
自己抗体:抗SS-A/Ro抗体・抗SS-B/La抗体が特徴的である。M3ムスカリン受容体に対する機能阻害抗体も涙腺分泌障害に関与する2)
共刺激分子:Ox40/Ox40Lが末梢血単核細胞上で上昇し、臨床転帰・治療反応と相関する
環境・遺伝要因
ウイルス感染:EBVゲノムがSS患者涙腺からタイプI型として検出される。HTLV-1・HCVの関与も示唆されている
遺伝的素因:多遺伝子性パターン。一卵性双生児の一致率は20%にとどまり、エピジェネティクスと環境因子の影響が大きい5)
サイトカイン:涙液中IL-6・TNF-αが上昇する。IL-6は疾患重症度およびBUT・Schirmer値・杯細胞密度と相関する
以下の4項目中2項目以上を満たせばSSと診断する。
| 項目 | 検査内容 |
|---|---|
| 1. 病理組織 | 口唇腺/涙腺生検で4mm²あたり1 focus以上 |
| 2. 口腔検査 | 唾液腺造影異常 or 唾液分泌量低下+シンチ異常 |
| 3. 眼科検査 | Schirmer≤5mm+RBスコア≥3 or FL陽性 |
| 4. 血清検査 | 抗SS-A抗体 or 抗SS-B抗体陽性 |
5つの客観的項目にスコアを付与し、合計4点以上でpSSと分類する。臨床症状(眼or口腔乾燥)が前提条件である。
Schirmer試験I法:無麻酔下で試験紙を装着し、5分間で5mm以下を異常とする。感度42%・特異度76%と報告されている。
角結膜染色:フルオレセイン・ローズベンガル・リサミングリーンで角結膜上皮障害を評価する。SSでは結膜障害が顕著であることが特徴である。
涙液検査:BUT短縮・涙液浸透圧上昇・フルオレセインクリアランス低下が認められる。
血清学的検査:抗SS-A/Ro・抗SS-B/La・ANA・RFを測定する。血清陰性でもSSは否定できず、臨床的疑いが強い場合は口唇腺生検を検討する。
口唇腺生検:涙腺生検より侵襲が少なくアクセスが容易である。導管周囲に50個以上のリンパ球が集簇する「focus」を4mm²あたりで評価する。印象細胞診は口唇腺生検と97%の一致率を示す。
はい。SSの乾燥症状を有する患者の相当数が血清陰性です。日本の1999年改訂基準では、血清検査(項目4)が陰性でも、病理組織(項目1)・口腔検査(項目2)・眼科検査(項目3)のうち2項目を満たせばSSと診断できます。臨床的疑いが強ければ口唇腺生検を検討してください。
SSに伴うドライアイの治療は、涙液の補充・保存・分泌増強を3本柱とする。涙液分泌減少が主病態であるため水分補給が治療の基盤となる。
軽症〜中等症
人工涙液:防腐剤フリーの人工涙液(ソフトサンティアなど)を1日6〜7回点眼する。重症例では防腐剤による角膜毒性を避けるため防腐剤フリー製剤を使用する
ヒアルロン酸Na点眼:ヒアレインミニ0.1%または0.3%を1日6回。涙液保持効果がある
ジクアホソルNa点眼:ジクアス3%を1日6回。結膜からのムチン・水分分泌を促す。SS患者の涙液減少型ドライアイにも有効である
レバミピド点眼:ムコスタ点眼液UD 2%を1日4回。ムチン産生を促進する
低力価ステロイド:フルメトロン0.1%を1日1〜2回。炎症が症状悪化に関与する場合に併用する(使用期間は必要最小限)
重症
涙点閉鎖:涙点プラグ挿入術を行う。涙点ゲージでサイズを計測し適切なプラグを選択する。重症例では上下涙点に挿入する。脱落・涙点拡大には外科的涙点閉鎖術を行う
自己血清点眼:涙液安定性と眼表面染色スコアの改善が示されている。フィブロネクチンなど涙液に含まれる微量物質を補充する
汎網膜光凝固涙腺注射:月1回の自家汎網膜光凝固涙腺注射で角膜染色・Schirmer値・BUTが改善した(n=30のRCT)1)
強膜コンタクトレンズ:涙液リザーバーを形成し眼表面を持続的に湿潤させる。OSDI・角結膜染色・涙液浸透圧の改善が報告されている1)
バンデージシリコーンハイドロゲルレンズ:6週間の連続装用で自己血清より良好な結果が得られた(3か月間の比較)1)
ピロカルピン塩酸塩およびセビメリン塩酸塩水和物が経口薬として使用される。SSにおける口腔乾燥症に承認されており、涙液分泌・杯細胞数の増加・結膜上皮の改善も報告されている1)。副作用(発汗・消化器症状)に注意を要する。
難治性SSでは全身性免疫抑制薬が必要となる場合がある。メトトレキサート・シクロホスファミドなどが検討される。インフリキシマブは初期のパイロット試験で改善を示したが、後続のRCTでは有益性が証明されなかった。重症腺外病変にはプレドニゾロン(30〜60mg/日)が用いられ、漸減後にミコフェノール酸モフェチルへ切り替える場合がある5)。重症神経障害にはIVIG療法が有効である4)。
局所シクロスポリンAはT細胞活性化を阻害し、リンパ球誘導性アポトーシスから腺房細胞を保護する。6か月間の治療後、結膜上皮のアポトーシス関連マーカーが減少する。ただしSchirmer値・BUTの改善は限定的であり、主に眼表面炎症の制御に用いられる。
第一選択は潤滑点眼薬・軟膏である。反応不良例には低含水率バンデージCLを併用する(抗菌薬点眼の併用必須)。単一の糸状物は点眼麻酔下に鑷子で除去する。多数の糸状物には10%アセチルシステインを1日3回、2〜3週間点眼する。
眼科領域では、ジクアホソルナトリウム(ジクアス)・レバミピド(ムコスタ)・ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレイン)が保険適用のある点眼薬です。シクロスポリン点眼は日本では保険適用外です。全身薬としてはセビメリン塩酸塩(エボザック)とピロカルピン塩酸塩(サラジェン)がSSの口腔乾燥症に承認されており、眼症状にも有効とする報告があります。重症例では自己血清点眼や涙点プラグが選択されます。
SSの基本病変は涙腺・唾液腺へのリンパ球浸潤である。導管周囲にT細胞(主にCD4陽性ヘルパーT細胞)が浸潤し上皮細胞との間で炎症が惹起される。B細胞が加わりリンパ濾胞を形成し、線維化が進行する。
顕著な乾燥症状を呈するSS患者であっても、生検試料では50%の腺細胞が残存している。涙液分泌の低下は腺細胞の破壊だけでは説明できず、神経分泌回路の障害が重要な役割を果たす。
MRL/MpJ-Faslprマウスモデルにおいて、IL-1βなどの炎症性サイトカインが神経終末からの神経伝達物質放出を阻害し、涙腺分泌を低下させることが示された2)。遠心性神経刺激による蛋白分泌そのものは障害されていないが、脱神経様過感受性(細胞内Ca²⁺応答の亢進)が認められた2)。
SSではM3ムスカリン受容体に対する機能阻害抗体が存在し、アセチルコリンによる受容体活性化を阻害する2)。この発見がM3受容体作動薬(ピロカルピン・セビメリン)の開発につながった。
SS患者の角膜を走査スリット共焦点顕微鏡で観察すると、神経密度に差はないがnerve sprouts(神経新芽)と樹状抗原提示細胞の増加が認められる2)。角膜神経の機械的過感受性が示唆されており、炎症または再生過程の異常発火が原因と考えられている2)。角膜神経過感受性にもかかわらず涙液分泌は低下しており、分泌障害は角膜神経の活性化とは異なる段階で生じている2)。
SSに特徴的な結膜上皮障害は、涙点閉鎖による水分増加では改善されにくい。これは涙液減少以外に免疫学的炎症と瞬目による摩擦が関与していることを示唆する。
SSでは涙腺細胞の破壊だけでなく、残存する腺細胞の神経分泌障害が重要です。炎症性サイトカイン(IL-1βなど)が神経終末からの神経伝達物質放出を阻害し、腺細胞への分泌刺激が途絶えます2)。さらにM3ムスカリン受容体に対する自己抗体がアセチルコリンの受容体結合を妨げます2)。つまり「工場は残っているが、指令系統が遮断されている」状態です。
月1回の自家汎網膜光凝固涙腺注射とHA点眼の併用が、HA点眼単独と比較してSS患者の角膜染色・Schirmer値・TBUT・OSDIスコアを有意に改善した(90日間RCT、n=30)1)。サンプルサイズは小さいが、重症SSに対する新たな介入として期待される1)。
IRT5プロバイオティクス(L. casei、L. acidophilus、L. reuteri、B. bifidum、S. thermophilusの5菌種)の経口投与が自己免疫性ドライアイのマウスモデルで涙液産生と角膜染色を改善した3)。涙腺の組織病理スコアの改善も報告されているが、杯細胞密度への効果は認められなかった3)。プレ・ポストバイオティクスの経口投与でも4か月間の治療で有意な改善が示されている3)。ヒト臨床試験はまだ報告されていない3)。
SSの予後は一般的に良好であり、ほとんどの患者は長期間安定している。10年以上の経過で約30%の患者では症状・検査所見に変化がなく、40%では検査値のみが異常を示す。残りの30%には肺・腎疾患・リンパ腫などの新たな病変を認める。重症腺外病変の予後マーカーとして低補体血症・クリオグロブリン血症・M蛋白血症が挙げられる5)。
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- Markoulli M, Ahmad S, Engel L, et al. TFOS Lifestyle: Impact of nutrition on the ocular surface. Ocul Surf. 2023;29:226-271.
- Chaaban N, Shaver T, Kshatriya S. Sjogren Syndrome-Associated Autonomic Neuropathy. Cureus. 2022;14(6):e25563.
- Abou Ziki MD, Taoutel R, Hong JC, Podell DN. Severe extra-glandular involvement and pleural effusions complicating primary Sjogren’s syndrome: a case report. J Med Case Rep. 2022;16:374.