薬剤沈着
上皮沈着:脂溶性の高い薬剤が上皮内に蓄積し、渦巻き状や線状の混濁を形成する
実質沈着:輪部血管網から漏出した成分が実質に沈着する
内皮沈着:房水中に蓄積した薬剤が内皮面に付着する

薬剤誘発性角膜合併症(drug-induced corneal complications)は、局所投与(点眼薬)または全身投与された薬剤により角膜に生じる障害の総称である。障害は角膜の上皮・実質・内皮のいずれの層にも起こりうる。
病態は以下の3つに大別される。
薬剤沈着
上皮沈着:脂溶性の高い薬剤が上皮内に蓄積し、渦巻き状や線状の混濁を形成する
実質沈着:輪部血管網から漏出した成分が実質に沈着する
内皮沈着:房水中に蓄積した薬剤が内皮面に付着する
細胞毒性
点眼薬主剤:抗菌薬・抗真菌薬・NSAIDs・β遮断薬・点眼麻酔薬などの直接毒性
防腐剤:ベンザルコニウム塩化物(BAC)が代表的
全身投与薬:抗癌薬が涙液中に移行し角膜上皮を障害する
アレルギー
即時型:点眼後数時間以内に結膜充血・浮腫が出現し、2〜3日で自然軽快する
遅延型:接触性皮膚炎や薬剤起因性偽眼類天疱瘡として慢性に進行する
局所投与薬は角膜に直接作用する。全身投与薬は涙液膜・房水・隅角血管系を介して角膜に到達する。角膜の薬剤沈着が網膜疾患の前兆となる場合もあり、全身的な評価が重要である。

軽度の薬剤沈着では無症状のことが多い。細胞毒性やアレルギーによる障害では以下の症状が出現する。
薬剤毒性による角膜上皮障害は、重症度に応じて段階的に進行する。
軽症〜中等症
点状表層角膜症(SPK):初期は角膜中央やや下方、瞼裂に沿った分布を示す。角膜全面の点状表層角膜症はアミノグリコシド系など毒性の強い薬剤を示唆する
渦巻き角膜症(vortex keratopathy):上皮脱落の持続により基底細胞の増殖が追いつかず、表層細胞が遊走で角膜を覆おうとする形態。ハリケーン角膜症とも呼ばれる
重症
クラックライン(epithelial crack line):代償性変化の破綻により生じるひび割れ状の混濁。上皮欠損の直前段階である
遷延性上皮欠損:基底細胞・輪部幹細胞の増殖能が限界に達した状態
輪部機能不全:長期の細胞毒性により全周の輪部幹細胞が障害され、結膜上皮が角膜上を覆う最重症型
薬剤毒性角膜上皮症では結膜上皮障害より角膜上皮障害が優位に出現する。一方、ドライアイでは結膜上皮障害が先行する点が鑑別のポイントとなる。フルオレセイン染色では、上皮バリア低下によるレイトステイニング(バスクリン角膜症)が特徴的である。
まず服薬歴の聴取が最も重要です。アミオダロン、ヒドロキシクロロキン、インドメタシンなどの全身投与薬や、多剤点眼の有無を確認してください。Fabry病でも類似の角膜所見を呈するため、鑑別として家族歴や皮膚・腎症状の評価も行います。
脂溶性の高い薬剤が上皮内に沈着し、渦巻き状(cornea verticillata)の混濁を形成する。Fabry病と類似した所見を呈するため、薬剤使用歴の聴取が診断に不可欠である。
| 薬剤分類 | 代表的薬剤 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 抗不整脈薬 | アミオダロン | 高用量でほぼ100% |
| 抗マラリア薬 | HCQ・クロロキン | 網膜症にも注意 |
| NSAIDs | インドメタシン | 渦巻き状〜線状 |
その他、タモキシフェン、ナプロキセン、アトバコン、スラミン、クロファジミン、金製剤なども渦巻き角膜症の原因となる。
点眼薬による毒性:防腐剤(BAC)が最も一般的な原因である。β遮断薬、プロスタグランジン製剤、NSAIDs点眼、アミノグリコシド系抗菌薬の主成分も上皮毒性を有する。点眼の回数・種類が多いほど、長期使用ほど障害が生じやすい。
抗癌薬による毒性:涙液中に移行した抗癌薬が角膜上皮を障害する。角膜上皮にはEGFRとHER2が発現しているため、これらを標的とした薬剤は上皮障害のリスクが高い。
ROCK阻害薬:ネタルスジルは角膜上皮に水疱を形成し、網状パターンを呈することがある。薬剤中止後2〜4週間で消失する。
輪部血管網から漏出した成分が実質に沈着する。炎症所見は通常伴わない。
アミオダロン角膜症は通常視力に影響しません。角膜上皮深層に褐色の渦状沈着を認めますが、多くは無症状です。まれに羞明や光輪視を訴えることがあります。薬剤中止後3〜20ヶ月で角膜は透明化します。ただし、アミオダロンは虚血性視神経症も報告されているため、視力低下がある場合は視神経評価も行います。
最も重要な診断手順は詳細な服薬歴の聴取である。点眼薬(種類・回数・使用期間・防腐剤の有無)と全身投与薬の両方を確認する。
薬剤沈着の部位と性状を評価する。上皮内か上皮下か、実質のどの深さかを鑑別する。
角膜上皮障害の評価に必須である。薬剤毒性では以下の特徴がある。
薬剤性の渦巻き角膜症はFabry病と鑑別が必要である。Fabry病では家族歴・皮膚被角血管腫・腎障害・四肢疼痛などの全身症状を伴う。
治療の原則は原因と思われる薬剤の中止または減量である。ただし、抗癌薬や緑内障治療薬など原疾患の治療上中止困難な場合は、主治医との連携が必要となる。
毒性に伴う炎症で充血や濾胞性結膜炎が顕著な場合は、ステロイド点眼を考慮する。ただし、防腐剤の影響とステロイドによる創傷治癒遅延に留意する。
局所投与:点眼薬は涙液膜を介して角膜上皮に直接接触する。主剤の細胞毒性に加え、防腐剤(BAC等)が上皮細胞膜を障害する。
全身投与:薬剤は3つの経路で角膜に到達する。
脂溶性の高い薬剤(アミオダロン・クロロキン・インドメタシン等)は角膜上皮内に蓄積しやすい。上皮深層に渦巻き状の沈着を形成し、Fabry病のcornea verticillataと臨床的に類似する。アミオダロン角膜症はOrlandoによりgrade I〜IVに分類されており、投与量・投薬期間と相関する。
角膜上皮にはEGFRとHER2が発現している。これらの受容体を標的とした抗癌薬(セツキシマブ、エルロチニブ、トラスツズマブ等)は角膜上皮の増殖・分化を直接阻害し、上皮障害リスクが高い。
防腐剤が主因であれば改善が期待できます。ただし、主剤自体の毒性が原因の場合は防腐剤フリー製剤に変更しても十分な改善は得られません。改善には数週間〜数ヶ月かかることが多く、焦って治療を追加・変更しないことが重要です。