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角膜・外眼部疾患

角膜内皮移植を伴わないデスメ膜剥離術(DWEK)

DWEK(Descemetorhexis Without Endothelial Keratoplasty)は、フックス角膜内皮ジストロフィ(FECD)に対し、中心部のデスメ膜(Descemet membrane: DM)を外科的に剥離するのみで、ドナー角膜内皮の移植を行わない術式である。Descemet stripping only(DSO)とも呼ばれる1)

FECDは世界的に角膜移植の最多適応疾患であり、全角膜移植の約39%を占める2)。近年、全層角膜移植術PKP)に代わり選択的内皮移植(DSAEKDMEK)が主流となったが、移植片拒絶反応やドナー組織の確保といった課題は依然として存在する。

DWEKの概念は、角膜内皮移植後のグラフト脱落例やデスメ膜除去後に角膜浮腫が自然消退した症例報告に端を発する1)。こうした自然消退はFECDに特有であり、内皮細胞の枯渇性疾患である水疱性角膜症では認められない1)。この観察をもとに、Arbelaezら(2014)やBleyenら(2013)が意図的にデスメ膜剥離のみを行う手技を検討し始めた1)。その後の研究で有望な結果が報告されたが、一方で予測困難な成績のばらつきも明らかとなった2)

Q DWEKとDSOは同じ手術ですか?
A

同一の術式を指す異なる名称である。DWEK(Descemetorhexis Without Endothelial Keratoplasty)のほか、DSO(Descemet stripping only)、Descemet stripping without endothelial keratoplastyなど複数の呼称がある。いずれも中心部デスメ膜を剥離し、ドナー角膜を移植しない点で共通する。

DWEKは慎重な患者選択が求められる術式である。最適な候補者は、中心部に限局した病変を持ち、周辺部角膜が透明で内皮細胞が豊富なFECD患者である。

適応

FECD確定例:臨床検査および共焦点顕微鏡でFECDと確認された症例

中心部guttae:視覚症状(視力低下・コントラスト感度低下・グレア)の主因と判断されること

周辺部ECD:スペキュラーマイクロスコピーまたは共焦点顕微鏡で1000 cells/mm²以上

水晶体状態:有水晶体眼・偽水晶体眼いずれも可

禁忌

高度角膜実質浮腫:混濁・水疱・デスメ膜皺を伴う進行例

周辺部ECD低値:1000 cells/mm²未満

二次角膜病変:他の角膜疾患が併存する場合

ウイルス角膜炎既往:単純ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルス角膜炎の既往

周辺部内皮細胞密度が1000 cells/mm²以上であることが候補者の重要な基準とされる。中心部角膜厚(パキメトリー)は術後の反応率および最終視力と弱い相関が報告されている2)。年齢・性別・喫煙歴・遺伝的因子がCEC移動に与える影響は十分に解明されていない2)

DWEKは局所麻酔または全身麻酔下に行われる。標準的な手術時間は約6分である。

  • 散瞳:術前に十分に散瞳し、徹照(red reflex)を利用してデスメ膜の視認性を確保する
  • 粘弾性物質注入前房内に粘弾性物質を注入し、操作空間を確保する
  • デスメ膜剥離:逆シンスキーフックまたはFogla式デスメ膜剥離フックで切開を開始し、Utrata鑷子またはMST鑷子で中心4mmの円形デスメ膜剥離を行う
  • ストロマ保護:デスメ膜を削り取るのではなく剥がすように操作し、角膜実質表面を傷つけないことが極めて重要である2)
  • 前房処理:空気やガスの前房内注入は不要

手術手技が成績に大きく影響することが報告されている2)

Daviesら(2018)の後方視的検討では、360度スコアリング法を用いた4眼中3眼で角膜透明化が得られなかった。一方、2時計時間のスコア後に完全デスメ膜剥離を行う「2フラップ法」では、全例で透明化が達成された2)

デスメ膜剥離のサイズも重要な因子である。初期の研究で用いられた6.0〜9.0mmの大径剥離では持続的な角膜浮腫が多く報告された2)。4.0mmの小径剥離が推奨され、剥離径を2.0mm拡大すると残存CECが再生すべき面積は2倍以上となるため、4.0mmを超える剥離は過大と考えられる2)

また、ストロマ表面の不規則性がCEC移動を妨げ、局所的な浮腫が遷延する原因となる2)

白内障手術(水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)との同時施行が可能であり、“triple-DWEK”と呼ばれる。同時施行はDWEKの転帰に悪影響を与えないとされる。

  • 抗菌薬点眼:術後感染予防
  • ステロイド点眼:炎症抑制
  • 高張食塩水点眼:角膜浮腫の軽減
  • Rhoキナーゼ阻害薬:リパスジル(ripasudil)の点眼が内皮細胞の移動・増殖を促進する可能性が示唆されている1)。市販のネタルスジル(netarsudil)を使用した報告もある
Q 白内障手術と同時に行えますか?
A

可能である。水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術との同時施行は”triple-DWEK”と呼ばれ、DWEKの転帰に悪影響を与えないとされる。FECDでは白内障を合併することが多いため、同時手術の選択肢は臨床的に有用である。

主要な報告におけるDWEKの成績を以下に示す。

報告透明化率平均回復期間
Daviesら2)14/17眼(82%)約3ヶ月
Moloneyら1)9/12眼(75%)記載なし
Borkarら1)10/13眼(77%)記載なし

4mmの小径デスメ膜剥離を用いた研究では約75〜82%の透明化率が報告されている。Moloneyらの報告では、透明化が得られなかった症例のうち2眼にリパスジル局所投与を追加したところ、最終的に透明化が達成された1)

回復時間は標準的な内皮移植(DSAEK・DMEK)と比較して長い1)。個人差が大きく、術後1ヶ月以内に急速に透明化する症例から6〜8ヶ月を要する症例まで幅がある2)

急速反応群

時期:術後1ヶ月以内

所見:中心部に内皮細胞モザイク像が出現し、角膜浮腫が消退

反応群

時期:術後3ヶ月以内

所見:段階的に角膜浮腫が軽減し透明化が完了

緩徐反応群

時期:術後3ヶ月以降

所見:6〜8ヶ月かけて徐々に透明化が進行

無反応群

時期:透明化なし

所見:角膜浮腫が持続し、内皮移植(DMEKまたはDSAEK)による救済が必要

両眼にDWEKを施行した4例では、左右眼で同様の透明化時間が観察されており、遺伝的因子や前房内の増殖因子環境が回復速度に関与する可能性が示唆されている2)。術前パキメトリーの高値は反応率の低下および最終視力との弱い相関が報告されているが2)、年齢・基準時ECD・パキメトリーには反応群と無反応群の間で有意差は認められなかった2)

Q 角膜が透明にならなかった場合はどうなりますか?
A

DWEKで角膜透明化が得られなかった症例には、後日DMEKやDSAEKなどの角膜内皮移植術を施行して救済することが可能である。DWEKの既往は通常、その後の内皮移植の成功を妨げない。

  • デスメ膜剥離の偏位:意図した位置からずれた剥離。瞳孔領外への偏位は視覚に影響を与えにくい
  • デスメ膜剥離:術中に生じた場合、空気再注入(rebubble)処置が行われることがある
  • 後方ストロマ混濁:術中の医原性ストロマ圧痕が内皮細胞移動を阻害し、剥離縁に不正乱視を生じる可能性がある。ハードコンタクトレンズで矯正できる場合がある
  • ストロマ表面の不規則性:CECの移動を妨げ、局所的な浮腫が遷延する原因となる2)
  • 持続的角膜浮腫:無反応例ではDMEKまたはDSAEKによる救済手術が可能である

6. 病態生理学・角膜透明化のメカニズム

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DWEK後の角膜透明化は、周辺部の健常な角膜内皮細胞(CEC)が中心部の剥離領域へ移動することで生じると考えられている2)。DWEK後に比較的低い中心部CEC密度が観察されることは、CECの増殖よりも移動が主たる機序であることを示唆する1)

FECDでは中心部CECが優先的に障害される一方、周辺部は比較的正常に保たれる2)。ロゼット(変性CECがguttae周囲に配列した構造)も中心部に多く周辺部では少ない2)

通常、周辺部CECが自発的に中心部へ移動しないのは、接触阻害(contact inhibition)が維持されているためと考えられる2)。末梢に存在する神経堤(NCC)由来の内皮前駆細胞は接触阻害により不活性化されている2)。デスメ膜剥離により接触阻害が解除されると、前駆細胞と成熟CECの増殖・移動が刺激される2)

サイトカインTGFβもCEモノレイヤーの接触阻害維持に関与している可能性がある2)。ex vivoヒト角膜培養モデルでは、無傷のデスメ膜の存在、若年ドナー年齢、およびRhoキナーゼ阻害薬Y-27632の補充がCEC移動を促進することが示されている2)

guttaeのサイズがCECの挙動に影響することが報告されている2)。FECD患者のデスメ膜上に播種した培養CEC(HCEnC-21T)は、正常デスメ膜と比較して細胞接着に遅延を示した2)。CECは正常なデスメ膜を必要とし、健常なCECは正常なECM産生に不可欠である。このCECとECMの双方向的相互作用は”dynamic reciprocity”と呼ばれる2)

4.0mmを超えるデスメ膜剥離は、残存CECにとって再生すべき面積が過大となる2)。2.0mmの径の拡大で表面積は2倍以上に増加し、CECの移動・再生能力を超える可能性がある2)。これが、初期の6.0〜9.0mmの大径剥離で不良成績が多かった理由と考えられる2)

Moloneyら(2017)は、DWEKのみでは透明化が得られなかった2眼に対しリパスジル局所投与を追加し、最終的に透明化を達成した。これによりDWEKの適応が拡大する可能性が示唆されている1)

Rhoキナーゼ阻害薬はCEC移動を促進するメカニズムが基礎研究で確認されており2)、DWEK後の補助療法としての役割が期待される。ネタルスジル(netarsudil)の使用も試みられている。

DWEKが主流治療となっていない最大の理由は、患者が手術の恩恵を受けるかどうかの予測が困難な点にある1)。術前・術中・術後の因子と角膜透明化の関連を明らかにする研究が進行中である2)。遺伝的因子、前房内環境、手術手技の標準化が今後の課題である。

DWEKはドナー角膜を必要としないため、ドナー不足が深刻な地域での応用が期待される。患者選択基準と手技の最適化が進めば、FECDの早期段階における治療選択肢として定着する可能性がある。


  1. Matthaei M, Hurst J, Villarreal G Jr, et al. Fuchs Endothelial Corneal Dystrophy: Clinical, Genetic, Pathophysiologic, and Therapeutic Aspects. Annu Rev Vis Sci. 2019;5:151-175.
  2. Tone SO, Kocaba V, Böhm M, Wylegala A, White TL, Jurkunas UV. Fuchs Endothelial Corneal Dystrophy: A Comprehensive Review. Prog Retin Eye Res. 2021;80:100898.

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