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角膜・外眼部疾患

角膜神経再建術(神経栄養性角膜症に対する治療)

角膜神経再建術(corneal neurotization; CN)は、神経栄養性角膜症(neurotrophic keratopathy; NK)に対し、健全な感覚神経を角膜に移行して再神経支配を図る手術である1)。NKは三叉神経の障害により角膜知覚が低下・消失し、上皮の恒常性が破綻する難治性疾患で、有病率は10,000人あたり約5人とされる。

従来のNK治療は人工涙液・瞼板縫合など対症的であり、根本的な神経障害に対処できなかった。CNは角膜感覚の回復を通じて眼表面を安定化させ、長期予後を改善しうる唯一の術式である1)

  • 1972年:Samiiが最初の概念を提唱。大後頭神経と近位眼神経を腓腹神経で架橋したが、大開頭が必要で実用性は低かった3)
  • 2009年:Terzisが直接的角膜神経再建術の最初の症例を報告。対側滑車上・眼窩上神経を角膜強膜輪部に直接移行した1)4)
  • 2014年:Elbazらが間接的低侵襲法(MICN)を開発。腓腹神経移植片を用い、小切開で実施可能とした4)

以後、内視鏡下アプローチ・無細胞同種移植の導入など、術式は急速に多様化している1)

Corneal Neurotization for Neurotrophic Keratitis image
Corneal Neurotization for Neurotrophic Keratitis image
Diana Carmen Dragnea, Iva Krolo, Carina Koppen, Callum Faris, et al. Corneal Neurotization—Indications, Surgical Techniques and Outcomes 2023 Mar 13 J Clin Med. 2023 Mar 13; 12(6):2214 Figure 2. PMCID: PMC10059768. License: CC BY.
Aは点状角膜症、Bは持続性上皮欠損、Cは実質融解を伴うより進行した病変を示す。蛍光染色で神経栄養性角膜炎の進行度の違いが分かる。

CNの対象となる神経栄養性角膜症の症状と所見を以下に示す。

NK患者は角膜知覚低下のため症状を自覚しにくい。

  • 異物感の欠如:角膜に異物が入っても痛みを感じにくい
  • 視力低下:上皮障害・角膜混濁の進行に伴い緩徐に悪化する
  • ドライアイ症状:反射性涙液分泌の低下により乾燥感を生じる
  • 充血:二次的な炎症による結膜充血を呈する

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

NKの重症度はMackie分類で評価する。

ステージ1(軽症)

点状表層角膜症角膜上皮の不整・過形成

涙液破壊時間短縮:涙液の安定性低下

表層新生血管:輪部からの血管侵入

ステージ2(中等症)

遷延性上皮欠損:辺縁が丸く巻き上がった(rolled edge)上皮欠損

実質浮腫:Descemet膜皺襞を伴う

前房内炎症:軽度のフレアを認める

ステージ3(重症)

角膜融解:実質の菲薄化と潰瘍形成

角膜穿孔:融解が進行した最重症

感染合併:二次感染のリスクが高まる

角膜知覚はCochet-Bonnet角膜知覚計(CB)で定量評価する。0mm(無感覚)〜60mm(正常)のスケールで、20mm未満は低感受性と判定する1)

NKは三叉神経の経路上のあらゆる部位の障害で生じる1)3)

  • ウイルス感染:ヘルペス性角膜炎(HSV・VZV)が最多で全体の27〜32%を占める1)
  • 脳神経外科手術後:聴神経腫瘍・髄膜腫切除後が手術原因の最多。三叉神経近位部の損傷による3)
  • 外傷:化学外傷(アルカリ・酸)、角膜手術後(LASIK角膜移植など)の医原性を含む
  • 先天性:先天性三叉神経低形成・無形成、Goldenhar-Gorlin症候群
  • 全身性疾患:糖尿病(糖尿病角膜症)、多発性硬化症ハンセン病
  • 薬剤性:局所麻酔薬の慢用、βブロッカー点眼、塩化ベンザルコニウム含有製剤
  • Cochet-Bonnet角膜知覚計(CBA):0.12mm径ナイロンフィラメントを使用。60mmから開始し、反応が得られるまで10mm刻みで短縮する。中心角膜と4象限で測定する1)
  • 定性評価:綿糸の先端を角膜に軽く接触させ、瞬目反射の有無を確認する1)

角膜上皮下神経叢の密度・形態を非侵襲的に観察する2)。術前のベースラインと術後の神経再生モニタリングに有用である。術後3ヶ月から神経パラメータの改善が確認される2)4)

  • 滑車上・眼窩上・眼窩下神経の知覚を綿糸やSemmes-Weinstein monofilamentで評価する1)
  • 同側神経の機能が低下している場合は大耳介神経(耳垂の知覚)もテストする1)
  • 間接法で自家移植を計画する場合、腓腹神経採取部位(下腿後面・足外側縁)の知覚も確認する1)
  • 前眼部OCT:角膜上皮厚と輪部幹細胞の状態(Vogtの柵状構造)を評価する2)
  • Schirmer試験:涙液基礎分泌量を測定する。NK合併ドライアイの評価に用いる
Q 角膜知覚はどのように正確に測定するのか?
A

Cochet-Bonnet角膜知覚計(CBA)が標準的な定量検査である。0.12mm径のナイロンフィラメントを60mm(最大長、最小圧力)から角膜に垂直に当て、知覚があるまで10mm刻みで短くする。フィラメント長が短いほど圧力が増し、知覚低下が重度であることを示す。20mm未満で低感受性、50mm以上で高感受性と判定する。

NKの治療はMackieステージに応じた段階的アプローチが基本となる。

  • 人工涙液・眼軟膏:防腐剤フリー製剤を頻回使用。油性眼軟膏の点入と強制閉瞼の併用
  • 涙点プラグ:重症涙液分泌減少症に対し挿入
  • バンデージコンタクトレンズ(BCL):遷延性上皮欠損の保護
  • 瞼板縫合:ステージ2〜3で上皮欠損の治癒促進に有用
  • 羊膜移植:難治性上皮欠損に対する保護的カバー
  • cenegermin(セネゲルミン、Oxervate™):遺伝子組み換えヒト神経成長因子(rhNGF)点眼。NKステージ2〜3に適応がある。REPARO試験で上皮欠損消失率72%を達成4)。ただし角膜知覚の有意な改善は示されていない
  • サブスタンスP+IGF-1(FGLM-NH₂+SSSR):角膜上皮創傷治癒促進作用をもつ最小必須ペプチド合剤。初期NKで有望
  • 自己血清点眼:成長因子を含み上皮治癒を促進。角膜知覚の軽度改善も報告されている

保存的治療に反応しない症例、1年以上の持続的角膜無感覚を有する症例がCNの候補となる1)

ドナー神経を直接角膜輪部に移行する方法。

  • 対側または同側の滑車上・眼窩上神経を可動化し、その遠位端を角膜強膜接合部に固定する1)
  • 移植片が不要なためドナー部位の合併症がない
  • 神経が連続しているため知覚回復が早い傾向がある1)

介在神経移植片を用いてドナー神経と角膜を架橋する方法。全症例の63%で採用される2)

  • 腓腹神経が最も一般的な移植片で、最大30cmの採取が可能1)
  • 無細胞同種神経移植片(Avance Nerve Graft等)も自家移植と同等の成績で、採取部位の合併症がない1)2)
  • 小切開で実施でき、両側性NKにも適用可能4)
項目直接法間接法
知覚回復速度早いやや遅い
12ヶ月時の成績同等同等
二次手術部位なしあり

12ヶ月時点では直接法と間接法に有意な知覚回復の差はない1)2)

ドナー神経の選択は神経の生存能力・軸索数・角膜への近接性に基づく5)

神経有髄軸索数特徴
眼窩上神経約6,000角膜に近く第一選択
滑車上神経約2,500解剖学的変異あり
大耳介神経約6,530両側性NKで有用

Terzisらは有効な神経再建に必要な有髄軸索数のカットオフを900本と提唱している4)。眼窩上・滑車上神経の遠位部はいずれも2,000本以上の有髄軸索を含み、この基準を十分に満たす4)5)

  • 端々吻合(end-to-end):ドナー神経を完全に切断し全軸索を移植片に供給。軸索負荷は最大だが、ドナー領域のしびれを生じる1)
  • 端側吻合(end-to-side):ドナー神経鞘に窓を開け部分的に軸索を分岐。ドナー知覚を温存できる1)
  • 束状(通常3〜4束)に分割し、角膜の各象限に配置する1)
  • 角膜強膜トンネルへの固定が推奨される。輪部下結膜下留置と比較し、術後3ヶ月時点で良好な知覚回復を示す1)2)
  • BCL装着と一時的瞼板縫合で角膜を保護する1)
  • 防腐剤フリー人工涙液と潤滑眼軟膏で積極的な潤滑を行う1)
  • 術後1週間は抗菌薬点眼を使用。上皮欠損が遷延する場合は延長する1)
  • cenegerminを術後1ヶ月から補助的に開始する試みがある1)
Q 直接法と間接法ではどちらの神経再建が優れるか?
A

比較研究では、12ヶ月時点の角膜知覚回復に有意差はない。直接法は移植片が不要で知覚回復がやや早い(3〜6ヶ月でCB値が統計学的に有意に改善)が、間接法は小切開で施行でき両側性NKにも適用可能である。術式の選択はドナー神経の利用可能性、角膜までの距離、術者の経験に基づいて判断する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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角膜は体内で最も神経密度が高い組織の一つで、1mm²あたり約7,000個の侵害受容器が存在する。感度は歯髄の40倍、皮膚の400〜600倍である。

神経支配は三叉神経第1枝(眼神経)→鼻毛様体神経→長毛様体神経を経て角膜に至る。神経はBowman膜を貫通し上皮下神経叢を形成する。受容器の70%はポリモーダル(化学・熱・機械刺激に応答)、20%は機械受容器、10%は冷受容器である。

角膜神経はサブスタンスP・CGRP・ニューロペプチドY・VIPなどの神経伝達物質を含有・放出する。これらは上皮細胞の増殖・移動・再生を制御し、角膜の恒常性維持に不可欠である。

NGF・BDNF・GDNF・NT-3・NT-4/5などの栄養因子も角膜神経から供給される。これらの因子の喪失が、NKにおける上皮治癒遅延と恒常性破綻の根本原因となる。

CNでは健全なドナー神経が角膜強膜接合部に再配置される1)

直接法ではドナー神経の遠位端を直接角膜に埋入する。間接法では介在移植片を介してドナー神経と角膜を架橋する。いずれの場合も、ドナー神経から軸索線維が角膜実質と上皮下層に伸展し、角膜の再神経支配が生じる1)

軸索再生はWallerian変性の典型的パターンに従う1)。初期の軸索崩壊後、マクロファージが変性ミエリンを除去し、Schwann細胞がドナー神経の健全な近位部から分化・遊走して軸索再生を促進する。NGFやIL-1の上方調節が軸索発芽を促す重要な役割を果たす1)

ラットモデルにおいて、CNは角膜神経密度を増加させたが、移植片を通って再生した軸索のうち角膜に到達したのはごく一部であった。角膜は特定の表現型をもつ無髄神経線維のみの成長を選択的に許容する可能性が示唆されている1)

  • 術後2〜4週:軸索再生が移植片に向かって開始4)
  • 3〜6ヶ月:輪部近傍で再神経支配が観察される。主観的知覚回復の始まり1)2)
  • 6〜12ヶ月:中心角膜の基底層にまで再神経支配が進展。知覚はピークに達する1)2)
  • 12〜18ヶ月:IVCMで対側健常眼に匹敵する所見が得られる例もある1)

角膜神経の栄養機能は知覚機能よりも先に回復する傾向がある。このため、12ヶ月時点でCB値の改善が乏しくとも、IVCMで角膜神経が確認され上皮欠損が治癒している症例が存在する1)

2025年のスコーピングレビュー(12研究・164眼)では、CNの成功率は60.7〜100%(平均90%)であった。術前CCS平均2.7mm(CBA)は術後36.0mmへ有意に改善した(範囲:21.1〜49.7mm)。角膜知覚は平均4.1ヶ月で出現し、12ヶ月でピークに達した2)

間接法(腓腹神経移植)が全症例の63%を占め最多であった。無細胞同種移植は自家移植と同等の成績で、手術時間の短縮とドナー部位合併症の回避が利点である2)

Catapanoらの19眼(平均年齢12.5歳)の報告では、87%の患者がCB 40mmに達し、64%が完全知覚を回復した。角膜強膜トンネルに束状を挿入した群はより早期の知覚回復を示した2)

11歳男児のMackieステージ1症例では、MICN後6ヶ月で客観的知覚改善が出現し、21ヶ月で中心角膜知覚は20mmに達した。Schirmer試験は15mm→30mmへ改善し、視力は6/18→6/5に回復した6)

高齢(62歳・70歳)かつ長期除神経(23年)の2症例では、MICN後に持続的な知覚改善が得られなかった。三叉神経近位部の損傷(聴神経腫瘍術後など)では「機能的予備能」が低く、末梢性原因(ヘルペス角膜炎など)と比較して予後不良となる可能性がある7)

これらの知見から、高齢・長期除神経・三叉神経近位部障害はCNの予後不良因子と考えられ、患者選択とカウンセリングにおいて考慮すべきである7)

  • 大規模ランダム化比較試験(RCT)による直接法・間接法の最適化2)
  • 患者報告アウトカム(PRO)の標準化2)
  • 無細胞同種移植のさらなるエビデンス蓄積1)
  • cenegerminの術後補助療法としての有効性検証1)
  • 前部OCTによる角膜神経線維の非侵襲的モニタリング2)
Q 角膜神経再建術の成功率はどの程度か?
A

2025年のスコーピングレビュー(164眼)では、成功率は60.7〜100%(平均90%)と報告されている。術前の角膜知覚(CBA)は平均2.7mmから術後36.0mmへ有意に改善し、12ヶ月時点で小児では60%以上が正常知覚に到達した。ただし、高齢・長期除神経症例では成績が劣る可能性がある。

  1. Hubschman S, Rosenblatt MI, Cortina MS. Corneal neurotization for the treatment of neurotrophic keratopathy. Curr Opin Ophthalmol 2025;36:294-301.
  2. Samoilă O, Samoilă L, Petrescu L. Corneal Neurotization, Recent Progress, and Future Perspectives. Biomedicines 2025;13:961.
  3. Dragnea DC, Krolo I, Koppen C, et al. Corneal Neurotization-Indications, Surgical Techniques and Outcomes. J Clin Med 2023;12:2214.
  4. Saini M, Jain A, Vanathi M, et al. Current perspectives and concerns in corneal neurotization. Indian J Ophthalmol 2024;72:1404-11.
  5. Serra PL, Giannaccare G, Cuccu A, et al. Insights on the Choice and Preparation of the Donor Nerve in Corneal Neurotization for Neurotrophic Keratopathy: A Narrative Review. J Clin Med 2024;13:2268.
  6. Lee BWH, Khan MA, Ngo QD, et al. Minimally invasive, indirect corneal neurotization using an ipsilateral sural nerve graft for early neurotrophic keratopathy. Am J Ophthalmol Case Rep 2022;27:101585.
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