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角膜・外眼部疾患

角膜知覚計検査

角膜知覚計検査(corneal esthesiometry)とは、角膜の知覚(主に触覚)を測定する検査法である。第 V 脳神経(三叉神経)の第 1 枝である眼神経の機能を評価する。角膜は体内で最も感覚神経密度の高い組織であり、その密度は皮膚の 300〜400 倍、口腔粘膜の 40 倍とされている。

角膜知覚は涙液分泌の誘発、角膜上皮細胞の恒常性維持、さらに角膜の病的状態を知らせるシグナルとして重要な役割を果たしている。角膜知覚が低下すると保護反射が失われ、角膜上皮障害が進行しやすくなる。

最初の知覚計は 1894 年に von Frey が報告した。長さの異なる馬の毛を用いた装置である。1932 年に Francheschetti がこのモデルを改良した。1956 年に Boberg-Ans が直径一定で長さが可変の単一のナイロン糸を用いた装置を報告した。

Cochet と Bonnet はこのモデルをさらに改良し、直径 0.12 mm のナイロン糸を用いた知覚計を開発した。現在最も汎用されている定量的知覚計である。

3. 角膜知覚低下の原因と鑑別診断

Section titled “3. 角膜知覚低下の原因と鑑別診断”

角膜知覚低下(corneal hypoesthesia)は、角膜の神経または三叉神経に損傷を与えるあらゆる原因で生じうる。

分類代表的な原因
感染症角膜ヘルペス(HSV/VZV)
全身疾患糖尿病・多発性硬化症
術後角膜移植・LASIK白内障手術
コンタクトレンズ長期装用による知覚低下
薬剤性β 遮断薬・NSAID・ジクロフェナク
頭蓋内病変聴神経腫瘍・動脈瘤
先天性先天性角膜無知覚症

角膜ヘルペスは角膜知覚低下の最も一般的な原因の一つである。糖尿病では網膜症の重症度と呼応して角膜知覚が低下し、腎機能との相関で角膜知覚神経の形態が変化することが知られている。

NSAID 点眼による角膜知覚低下も見落とせない。

Raj ら(2022)は、角膜移植後の患者がブロムフェナク点眼を誤って使用し続けた結果、神経栄養性角膜炎を発症した症例を報告した2)。NSAID の鎮痛作用による神経栄養性効果や、マトリックスメタロプロテアーゼの活性化が機序として推測されている2)

先天性角膜無知覚症はきわめてまれな病態である。

Gelzinis ら(2022)は、両側三叉神経低形成による先天性角膜無知覚症を伴う小児症例を報告した5)。Cochet-Bonnet 型知覚計による知覚機能評価と MRI による三叉神経の形態評価が診断に有用であった5)

Q 角膜知覚が低下するとどうなりますか?
A

角膜知覚が低下すると、眼の保護反射(瞬き・涙液分泌)が減弱し、角膜上皮障害が進行しやすくなります。これを神経栄養性角膜炎(neurotrophic keratitis)と呼びます。初期は点状表層角膜症、進行すると遷延性上皮欠損、さらに重症化すると角膜潰瘍・穿孔に至ることがあります。疼痛を自覚しにくいため発見が遅れやすく、定期的な角膜知覚検査が重要です。

角膜知覚検査には定性的手法定量的手法がある。検査前に点眼麻酔薬を使用してはならない。事前に他の検査で点眼麻酔を行っていないか必ず確認する。

定性的手法(綿棒法)

用具:綿棒の先端を細く引き出したもの(wisp)

方法:両眼の 4 象限で知覚を比較

記録:正常・低下・消失の 3 段階

利点:入手容易で簡便

定量的手法(Cochet-Bonnet 型)

用具:格納式ナイロンモノフィラメント

方法:60 mm から 5 mm ずつ短縮して閾値を測定

記録:触知可能な最小長さ(mm)

利点:再現性が高く定量評価が可能

臨床で最も一般的に用いられる手法である。綿棒の先端を細く引き出したもの(wisp)を使用し、両眼の角膜知覚を比較する。患者の側方から近づき、角膜の 4 象限すべてを検査する。各部位の知覚を「正常」「低下」「消失」として記録する。デンタルフロスを用いる方法もある。

Epitropoulos ら(2022)は、ステージ 1 神経栄養性角膜炎 4 例の後方視的症例シリーズにおいて、デンタルテープを用いた定性的評価で角膜中央部と周辺部の知覚を記録した3)

Cochet-Bonnet 型知覚計が入手できない場合は、ふき綿を濡らしてよく絞った後に先端をこより状に細くし、その先端を角膜に触れさせることでも知覚低下の情報を得ることができる。

Raj ら(2022)は、COVID-19 パンデミック期に Cochet-Bonnet 型知覚計が使用できず、綿棒法(cotton-tipped applicator)で角膜知覚を評価した2)

定量的手法として最も汎用されている機器である。直径 0.12 mm のナイロン糸がダイヤルで伸縮する構造で、糸の長さにより角膜への圧迫力が変化する。長さが短いほど圧力は高くなる。Cochet-Bonnet 型のスコアは 5 mm から 60 mm の範囲であり、値が低いほど知覚低下が重度であることを示す6)

手順:

  1. ナイロン糸を最長(60 mm)にセットする
  2. 先端が折れ曲がっていないか確認し、アルコール綿で拭いて消毒する
  3. 被検者に遠方の一点を固視させる。細隙灯顕微鏡にあごを乗せて行うと検査がしやすい
  4. ナイロン糸の先端を角膜表面に対してできるだけ垂直に中央部に触れさせる
  5. 接触を感じなければ 5 mm ずつ短くし、感じるまで同じ動作を繰り返す
  6. 通常 3 回測定した平均値を角膜知覚の値とする
  7. 検査後にナイロン糸の先端をアルコール綿で消毒する
  • 正常値:50〜60 mm
  • 知覚低下:45 mm 以下

角膜知覚は中央部で最も鋭敏であり、周辺部に向かって低下するため、同部位で比較評価する必要がある。

Kymionis ら(2025)は、単純ヘルペスウイルス 神経栄養性角膜炎の診断において Cochet-Bonnet 型知覚計による角膜知覚の著明な低下を確認し、臨床診断の確定に用いた1)

研究目的や複雑な症例では以下の手法が用いられることがある。

  • 非接触式エアパフ法:エアジェットにより非侵襲的に角膜知覚を評価する。Cochet-Bonnet 型と異なり接触による測定誤差が生じない
  • 化学刺激法(カプサイシン):化学的刺激に対する角膜知覚を評価する
  • 熱刺激法(二酸化炭素レーザー):熱刺激に対する角膜知覚を評価する

共焦点顕微鏡による角膜神経評価

Section titled “共焦点顕微鏡による角膜神経評価”

In vivo 共焦点顕微鏡は角膜の角膜上皮下神経叢を非侵襲的に観察できる手法である。角膜知覚の定量的評価を補完する形態学的評価として有用である。

Gouvea ら(2021)は、格子状角膜ジストロフィに伴う神経栄養性角膜炎の症例で共焦点顕微鏡により角膜上皮下神経叢の密度低下を確認し、cenegermin 治療後に神経叢密度の改善を観察した4)

Q 角膜知覚検査は痛いですか?
A

Cochet-Bonnet 型知覚計による検査では、ナイロン糸の先端が角膜に軽く触れるだけですので、強い痛みはありません。ただし、検査は麻酔なしで行う必要があるため、接触の瞬間に軽い違和感を感じることがあります。検査自体は数分で終わります。

角膜の知覚神経は三叉神経第 1 枝(眼神経)から分枝する鼻毛様体神経が担っている。鼻毛様体神経から長毛様体神経が分かれ、強膜を貫通して角膜に到達する。

角膜神経は実質内でまず有髄線維として走行し、Bowman 膜を貫通する際に髄鞘を失い無髄線維となる。角膜上皮下に豊富な神経叢(角膜上皮下神経叢)を形成する。

角膜知覚には以下の特徴がある。

  • 中央部で最も鋭敏であり、周辺部に向かって低下する。ただし高齢者では周辺部の方が敏感な場合がある
  • 加齢とともに低下する
  • 1 型および 2 型糖尿病で低下が報告されている
  • 妊娠中に低下する
  • 虹彩の色には影響されない
  • 下方輪部よりも耳側輪部の方が敏感である

角膜神経には知覚機能栄養機能の 2 つの機能がある。知覚機能は疼痛・異物感を伝達し、瞬目反射や涙液分泌を誘発する。栄養機能は神経成長因子(NGF)・サブスタンス P・カルシトニン遺伝子関連ペプチドなどの神経伝達物質を放出し、角膜上皮の増殖・遊走・接着・分化を維持する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Cenegermin(セネゲルミン)と角膜知覚回復

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組換えヒト神経成長因子(rhNGF)点眼液である cenegermin は、神経栄養性角膜炎に対して FDA 承認を取得している。角膜上皮の治癒促進に加えて、角膜知覚の回復も報告されている。

Epitropoulos ら(2022)は、ステージ 1 神経栄養性角膜炎 4 症例に cenegermin(20 µg/mL、1 日 6 回、8 週間)を投与し、全例で角膜知覚の改善と点状上皮びらんの減少を認めた3)

Gelzinis ら(2022)は、先天性角膜無知覚症による小児の角膜潰瘍に cenegermin を使用し、角膜上皮の治癒を得た5)。ただし先天性の高度知覚障害では角膜知覚の回復は限定的であった5)

角膜神経再生術(Corneal Neurotization)

Section titled “角膜神経再生術(Corneal Neurotization)”

角膜神経再生術は、健常な知覚神経(眼窩上神経・滑車上神経・眼窩下神経など)を角膜に移行させ、角膜知覚を回復させる外科的アプローチである6)。直接法(ドナー神経の直接移行)と間接法(自家神経移植片を介した移行)の 2 つの術式がある6)。術後数か月で角膜知覚の回復が得られ、角膜上皮の安定化と長期的な予後の改善が報告されている6)

前嚢移植(Anterior Lens Capsule Transplantation)

Section titled “前嚢移植(Anterior Lens Capsule Transplantation)”

Kymionis ら(2025)は、単純ヘルペスウイルス 神経栄養性角膜炎による遷延性上皮欠損に対して同種前嚢移植(ALCT)を施行し、2 週間で完全な上皮化を得た症例を報告した1)。前嚢は白内障手術時に入手可能であり、羊膜と比較して透明性に優れる利点がある1)


  1. Kymionis GD, Vakalopoulos DG, Chatzea MS, Togka KA, Tsagkogiannis VA, Petrou PC. Allogeneic anterior lens capsule transplantation (ALCT) for the management of 単純ヘルペスウイルス neurotrophic keratitis. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;38:102292.
  1. Raj N, Panigrahi A, Alam M, Gupta N. Bromfenac-induced neurotrophic keratitis in a corneal graft. BMJ Case Rep. 2022;15:e249400.
  1. Epitropoulos AT, Weiss JL. Topical human recombinant nerve growth factor for stage 1 Neurotrophic Keratitis: Retrospective case series of cenegermin treatment. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;27:101649.
  1. Gouvea L, Penatti R, Rocha KM. Neurotrophic keratitis after penetrating keratoplasty for lattice dystrophy. Am J Ophthalmol Case Rep. 2021;22:101058.
  1. Gelzinis A, Simonaviciute D, Krucaite A, Buzzonetti L, Dollfus H, Zemaitiene R. Neurotrophic Keratitis Due to Congenital Corneal Anesthesia with Deafness, Hypotonia, Intellectual Disability, Face Abnormality and Metabolic Disorder: A New Syndrome? Medicina. 2022;58:657.
  1. Rosenblatt MI, et al. Corneal neurotization for the treatment of neurotrophic keratopathy. Curr Opin Ophthalmol. 2025;36:294-301.

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