全層角膜移植術(PKP)
拒絶反応率:約 4.9〜28.9%7)
不全の主因:拒絶反応(早期)+内皮不全(晩期)3)
特徴:全層のドナー組織を含むため抗原性が最も高い

角膜移植は最も成功率の高い臓器移植の一つである。低リスク眼の初回全層角膜移植術(PKP)では 5 年生存率が 95% に達する。この高い成功率は角膜の免疫特権に支えられている。
角膜の免疫特権を構成する要因は以下の通りである。
しかし角膜血管新生を伴う高リスク眼では 3 年時点の不全率が 35% を超えることがある。免疫特権下でも移植不全の最も一般的な原因は不可逆的な免疫学的拒絶反応である1)。
「移植拒絶反応」はドナー角膜に対するホストの特異的免疫応答を指す。原発性ドナー不全(primary graft failure)はドナー組織自体の欠陥や手術外傷、不適切な保存により術後 8 週以内に透明化しない状態であり、免疫介在性ではない3)。PKP の約 0.1% に発症する。
拒絶反応の診断は術後少なくとも 2 週間透明性を維持した移植片に対してのみなされる。術後 1 年半以内に最も多いが、20 年以上経過後に発症することもある。拒絶反応から不全への進行率は約 49% と報告されている。
全層角膜移植術(PKP)
拒絶反応率:約 4.9〜28.9%7)
不全の主因:拒絶反応(早期)+内皮不全(晩期)3)
特徴:全層のドナー組織を含むため抗原性が最も高い
深層層状角膜移植術(DALK)
拒絶反応率:1〜24%4)
利点:内皮拒絶反応のリスクを排除
課題:実質拒絶反応は生じうる4)
角膜内皮移植術(DSAEK)
拒絶反応率:平均 10%(範囲 0〜45%)
原発性不全率:平均 5%(範囲 0〜29%)
特徴:PKP と比較し有意差なしとの報告あり3)
デスメ膜内皮角膜移植術(DMEK)
拒絶反応率:平均 1.9%(範囲 0〜5.9%)7)
原発性不全率:1.7%
特徴:最も低い抗原性で拒絶率が低い3)
DMEK は PKP・DSAEK と比較し拒絶反応リスクが有意に低いことが大規模コホートで示されている3)。UT-DSAEK と DMEK の比較メタアナリシスでは、術後 12 か月の拒絶反応リスクに有意差はなかった2)。
PKP の拒絶反応率は約 4.9〜28.9% であるのに対し、DMEK は平均 1.9%(範囲 0〜5.9%)と大幅に低いです。この差は主に移植されるドナー組織量の違いに起因します。PKP では樹状細胞を含む上皮・実質も移植されるため抗原性が高くなります。一方 DMEK ではデスメ膜と内皮のみの移植であり、抗原性が低く縫合糸も不要なためリスクが軽減されます。ただしステロイド中止後には DMEK でも約 6% に拒絶反応が生じるとの報告があり、長期的なステロイド継続が重要です。
霧視・充血・眼痛・異物感・視力低下を呈する。術後 3 か月と 1 年に発症ピークがある。自覚症状が現れたら早急に受診する必要がある。
拒絶反応の判定基準には充血・羞明・視力低下・前房内細胞・角膜後面沈着物(KP)・内皮もしくは上皮の拒絶反応線・上皮下浸潤・限局性移植片浮腫のいずれかが含まれる1)。
移植片限局性の KP が特徴的であり、レシピエント角膜の KP は認めない。Khodadoust line は線状の角膜後面沈着物であり、内皮拒絶反応の進行前線を示す。
| 拒絶反応型 | 頻度 | 主な所見 |
|---|---|---|
| 上皮型 | 約 2% | 輪部から移動する線状隆起 |
| 上皮下型 | 約 1% | 中央角膜の深い浸潤 |
| 内皮型 | 約 50% | KP・Khodadoust line・浮腫 |
内皮型拒絶反応が最も重要であり、早期診断と積極的治療により移植不全を回避できることが多い。混合型は約 30% に認められる。
DALK では実質免疫拒絶反応として実質浸潤や界面血管新生を認めることがある4)。
| 所見 | 拒絶反応 | HSV/VZV | CMV |
|---|---|---|---|
| 分布 | 移植片内に限局 | 移植片外にも付着 | 移植片外にも付着 |
| 色調 | 白色 | 褐色 | 褐色・白色 |
| 特徴的所見 | Khodadoust line | Arlt’s triangle | coin lesion |
拒絶反応は移植片内に限局した KP が最大の特徴であり、ウイルス性内皮炎は移植片外にも KP を認める点で鑑別される。
DMEK においてはステロイド減量時に拒絶反応が誘発されうる。ある症例では DMEK 後 15 か月でベタメタゾンからフルオロメトロンへの変更時に拒絶反応が発症した7)。周辺虹彩前癒着(PAS)も DMEK 拒絶のリスク因子として報告されている7)。
臓器移植では HLA マッチングの有益性が明らかであるが、角膜移植では結果が一致していない1)。CFTS II 試験ではハイリスク PKP 症例を対象に HLA-DR マッチングの効果を前方視的に検討したが、HLA-DR ミスマッチ数と拒絶反応の発生率に有意差は認められなかった1)。タイピング誤差や免疫応答の冗長性がこの不一致を説明しうる1)。
COVID-19 ワクチン接種後の角膜移植拒絶反応が複数報告されている。mRNA ワクチン(BNT162b2)・ウイルスベクターワクチン(ChAdOx1)・不活化ワクチン(Sinopharm)のいずれでも発症がみられる。
BNT162b2 ワクチン初回接種 2 週間後に PKP の急性拒絶反応を呈した 2 例が報告された6)。いずれも以前の拒絶反応歴はなく、局所・全身ステロイドに良好に反応した6)。
ChAdOx1 ワクチン接種 2 週間後にフェムト秒レーザー角膜移植の内皮拒絶反応が生じた症例もある8)。Khodadoust line と前房内炎症を認め、ステロイド治療で 5 週間後に回復した8)。
Sinopharm 不活化ワクチン後の拒絶反応も 2 例報告された9)。文献レビューでは少なくとも 20 例以上のワクチン関連拒絶反応が集積されており、大多数がステロイド治療で回復している9)。
術後 20 年以上経過した PKP でも BNT162b2 接種 10 日後に拒絶反応を生じた症例がある10)。
因果関係は未確定であるが、ワクチン接種が MHC class II 抗原提示細胞の誘導を介して拒絶反応を惹起しうるという仮説が示されている9)。
COVID-19 ワクチン接種後の角膜移植拒絶反応は mRNA・ベクター・不活化ワクチンのいずれでも報告されています。接種後 1〜3 週間で発症することが多く、大多数はステロイド治療に反応します。メタアナリシスでは固形臓器移植のワクチン接種による拒絶反応は否定されていますが、角膜移植については症例集積が進んでいます。因果関係は未確定のため、角膜移植患者はワクチン接種前のステロイド増量と接種後の早期受診が推奨されます。
移植片限局性の KP・Khodadoust line・角膜浮腫・前房内細胞を確認する。上皮拒絶反応線は充血した輪部血管付近から始まり移植片境界を越えて移動する。
角膜厚測定は内皮機能の評価に有用であり、特に術前のベースラインデータがあれば拒絶反応の早期検出に役立つ3)。
ヘルペス性角膜内皮炎との鑑別が最も重要である。拒絶反応では KP が移植片内に限局し眼圧上昇は稀であるのに対し、CMV 内皮炎では慢性の持続的な眼圧上昇を伴うことが多い。確定困難な場合は前房水 PCR 検査で原因微生物を検索する7)。
拒絶反応では KP が移植片内に限局するのが最大の特徴で、眼圧上昇はみられにくいです。HSV/VZV 内皮炎では KP が移植片外にも付着し、急性の眼圧上昇を伴います。CMV 内皮炎では coin lesion 様の KP と慢性持続性の眼圧上昇が特徴です。確定困難な場合は前房水 PCR 検査、血清抗体検査、ステロイドへの治療反応性を総合的に判断します。
内皮型拒絶反応の治療はステロイドが第一選択である。
軽症〜中等症(上皮・上皮下型)では局所ステロイドを 1 日 6 回投与し、6〜8 週間で漸減する。
重症(内皮型)では以下の強力な治療を行う。
拒絶反応が一段落した後はベタメタゾン 0.1% を 1 日 4 回で 1 年以上継続する。その後低濃度ステロイドに変更し長期継続する。ステロイド継続は拒絶反応再発の抑制に寄与するとされている3)。
ローリスク眼の術後管理
ステロイド点眼:ベタメタゾン 0.1% × 4 回/日→半年で漸減
全身投与:プレドニン 20 mg を数日間、または投与なし
CsA:点眼を併用、数か月継続
ハイリスク眼の術後管理
ステロイド点眼:ベタメタゾン 0.1% × 4 回/日→1 年以上継続
全身投与:リンデロン 4〜8 mg→2 週間漸減+CsA 内服
CsA:2〜3 mg/kg/日、トラフレベル 100 ng/mL、半年継続
シクロスポリン A(CsA)はステロイド反応や移植後緑内障の管理を助けるためにステロイドの代替として使用されることがある。全身投与時はトラフレベルを 70〜100 ng/mL に維持し、腎機能を含む全身的副作用をモニタリングする。
両側同時拒絶反応を呈した 18 歳の PKP 症例では、IV メチルプレドニゾロンパルスによる寛解後、ステロイド反応があったため CsA 1% 点眼に切り替え維持に成功した5)。CsA 1% 点眼はステロイド反応者において potent ステロイドの早期漸減を可能にし、長期的な移植片維持に有用である5)。
タクロリムスも局所・全身投与が可能であり、0.03% タクロリムス点眼がハイリスク角膜移植の拒絶反応予防に有効との報告がある。
ステロイド反応による眼圧上昇がある場合は、プレドニゾロン酢酸塩から眼圧への影響が少ないロテプレドノールへの変更や、CsA 1% 点眼との併用を検討します。CsA 1% 点眼はステロイドの早期漸減を可能にし、眼圧管理と拒絶反応抑制の両立に有用です。緑内障点眼薬の併用も必要に応じて行います。
角膜は前房関連免疫偏位(ACAID)により免疫寛容が維持されている。拒絶反応は遅延型過敏反応であり、主な mediator は CD4+ Th1 細胞である。IFN-γ の産生により移植角膜全層に MHC class II 抗原提示細胞が誘導され、拒絶反応が進行する8)。
PKP は上皮・実質を含むため、浅層実質に多い樹状細胞やドナー上皮が多量の抗原として作用する3)。加えて縫合糸の緩みが拒絶反応のリスク因子となる3)。DMEK ではデスメ膜と内皮のみの移植であり、抗原性が低く縫合糸も不要なため拒絶率が最も低い3)。
マウス角膜移植モデルでは 周辺虹彩前癒着 を有する群で拒絶反応が有意に増加した7)。周辺虹彩前癒着 による虹彩とドナー内皮の接触が細胞傷害性 T リンパ球活性を誘導し、拒絶反応を促進すると考えられる7)。
角膜移植拒絶反応は主に細胞性免疫によるが、齧歯類の研究では拒絶に至る複数の異なる免疫経路が確認されている1)。この免疫応答の冗長性が HLA マッチング研究の結果不一致を説明する一つの要因と考えられている1)。
ワクチン接種は全身性の免疫応答を惹起し、SARS-CoV-2 中和抗体に加えて抗原特異的 CD8+ および Th1 型 CD4+ T 細胞応答を誘導する6)。この免疫亢進が移植角膜に対する cross-reactivity または非特異的免疫活性化を介して拒絶反応を誘発しうる6)。
不活化ワクチン(Sinopharm)ではアジュバントである水酸化アルミニウムの免疫原性が拒絶反応の主因である可能性が示唆されている9)。
COVID-19 ワクチン関連の角膜移植拒絶反応は世界的に症例報告が蓄積されている9)。文献レビューでは 20 例以上が集積され、大多数が再移植例であること、接種後 1〜2 週間で発症すること、ステロイド治療でほとんどが回復することが明らかになっている9)。接種前のステロイド予防投与の有用性が提案されている8)9)。
HLA マッチングの有効性については CFTS II 試験が前方視的に検討を行ったが、現時点では角膜移植における HLA-DR マッチングの明確な臨床的有益性は示されていない1)。ただし抗 HLA 抗体と抗体媒介性拒絶反応の役割が明らかになりつつあり、晩期内皮不全の機序解明に寄与する可能性がある1)。
UT-DSAEK と DMEK の比較メタアナリシスでは、拒絶反応率に有意差はないが移植片不全は DMEK 群でやや多い傾向が示された2)。
Rho キナーゼ阻害薬(リパスジル・ネタルスジル)の抗炎症作用と内皮再生能、抗 VEGF 薬による術前血管退縮、サイトカインプロファイリングによるハイリスク患者の層別化も今後の方向性として注目される。