薬剤性(最多)

渦状角膜
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 渦状角膜とは
Section titled “1. 渦状角膜とは”渦状角膜(cornea verticillata)は角膜基底上皮層に沈着物が渦巻き状のパターンで出現する所見である。vortex keratopathy・whorl keratopathy・Fleischer vortex とも呼ばれる。“verticillata” はラテン語で「渦巻き」を意味する。
通常は無症状であり、細隙灯顕微鏡検査で偶然発見されることが多い。薬剤・代謝基質・疾患の副産物が角膜基底上皮のリソソームに蓄積することで生じる。アミオダロンとファブリー病が最も一般的な原因である。
渦状角膜は通常視力に影響しません。まれに青緑色の輪やハローが見えることがありますが、多くの患者は自覚症状を訴えません。薬剤性の場合は原因薬剤の中止により消失するのが一般的です。渦状角膜の存在自体で薬剤の変更が必要になることはありませんが、原因疾患(特にファブリー病)の精査が重要です。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
渦状角膜の患者はほとんどの場合無症状である。まれに光の周囲にハローが見えたり、霧視を訴えたりすることがある。ネタルスジル誘発性の症例ではまぶしさと霧視が報告されている2)。
細隙灯顕微鏡検査で角膜基底上皮に微細な金褐色〜灰色の渦巻き状混濁を認める。混濁は通常角膜下方を中心に分岐するパターンで広がる。フルオレセインでは染色されず、ほぼ常に両眼性である。
薬剤性とファブリー病では混濁パターンにわずかな違いがみられることがある。薬剤性では末端が微細に分岐する水平線として現れやすい。ファブリー病では角膜周辺部で直線化する前に渦を形成する曲線パターンを呈する。
アミオダロン角膜症では角膜中央よりやや下方の上皮深層に褐色の渦状沈着を認め、Orlando 分類で grade I〜IV に分類される。高用量(400 mg/日)ではほぼ 100% に出現する。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”ファブリー病(非薬剤性の代表)
頻度:患者の約 90% に渦状角膜を認める
発症時期:比較的初期(6 歳頃)から出現する
遺伝形式:X 染色体劣性遺伝
機序:α-ガラクトシダーゼ A 欠損によるグリコスフィンゴ脂質の蓄積
診断的意義:女性保因者では渦状角膜が唯一の眼所見となりうる1)
| 薬剤分類 | 代表薬剤 |
|---|---|
| 抗不整脈薬 | アミオダロン |
| 抗マラリア薬・免疫調節薬 | HCQ・クロロキン |
| NSAID | インドメタシン |
| ROCK 阻害薬 | ネタルスジル |
| 抗精神病薬 | クロルプロマジン |
その他の非薬剤性の原因として多発性骨髄腫・全身性ガングリオシドーシス・多発性スルファターゼ欠損症・リッシュ角膜ジストロフィがある。
渦状角膜を引き起こす代表的な薬剤はアミオダロン(抗不整脈薬)、ヒドロキシクロロキン・クロロキン(抗マラリア薬)、インドメタシン(NSAID)です。近年では緑内障治療薬のネタルスジル(ROCK 阻害薬)による渦状角膜も報告されています。これらの薬剤はカチオン性かつ両親媒性の性質を共有しており、角膜基底上皮のリソソームに蓄積します。いずれも原因薬剤の中止により改善が期待できます。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”細隙灯顕微鏡検査
Section titled “細隙灯顕微鏡検査”スクレラルスキャター法で角膜上皮面の渦巻き状混濁を明瞭に観察できる。徹照法やコバルトブルーフィルターの併用も混濁パターンの描出に有用である。
共焦点レーザー走査顕微鏡(IVCM)
Section titled “共焦点レーザー走査顕微鏡(IVCM)”薬剤性とファブリー病の鑑別に共焦点レーザー走査顕微鏡が有用である。ファブリー病では角膜上皮・実質・輪部領域に特徴的な高反射性沈着物を認め、疾患の重症度や全身への影響と相関する。
ファブリー病の精査
Section titled “ファブリー病の精査”渦状角膜からファブリー病が疑われる場合は以下の精査を行う。男性では酵素活性が信頼性の高い指標となるが、女性ではライオニゼーション(X 染色体不活化)のため酵素活性は正常を示すことがあり、遺伝子検査が不可欠である1)。
- α-ガラクトシダーゼ A 活性の測定(DBS 法)
- 血中 Lyso-Gb3(グロボトリアオシルスフィンゴシン)の測定
- GLA 遺伝子のシークエンス解析
若年者の中心網膜動脈閉塞症(CRAO)や脳梗塞の精査で渦状角膜が発見され、ファブリー病の診断に至った症例が報告されている5)。若年の血管イベントでは眼科的評価で渦状角膜の有無を確認することが重要である5)。
薬剤歴がないにもかかわらず渦状角膜を認めた場合、ファブリー病を疑います。特に若年者の血管イベント(脳梗塞・CRAO)に渦状角膜を伴う場合は強く疑われます。男性では α-ガラクトシダーゼ A 活性の低下で診断できますが、女性保因者では酵素活性が正常なこともあるため GLA 遺伝子検査が必要です。ファブリー病の早期診断と治療開始が予後を左右するため、渦状角膜の発見は重要な契機となります。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”渦状角膜の管理
Section titled “渦状角膜の管理”渦状角膜自体に対する治療は通常不要である。沈着物は視覚に重大な影響を及ぼさない。渦状角膜のみの所見では薬剤レジメンの変更やさらなる精査は必要ない。
薬剤性の場合
Section titled “薬剤性の場合”原因薬剤の中止により沈着物は消失する。ネタルスジルによる渦状角膜と結膜色素沈着は休薬 14 ヶ月で完全に消失した2)。
硝子体内メトトレキサートによる渦状角膜では頻回の人工涙液・ロテプレドノール・局所葉酸(5 mg/mL)点眼・経口葉酸投与により 3 週間で完全消失した4)。硝子体内注射後の角膜表面の十分な洗浄が予防に有用である4)。
網膜毒性のモニタリング
Section titled “網膜毒性のモニタリング”ヒドロキシクロロキン・クロロキン・クロルプロマジン・タモキシフェンを使用中の場合は網膜毒性のリスクがある。渦状角膜の存在は網膜毒性と直接相関しないが、自動視野検査と SD-OCT による定期的モニタリングが推奨される。
ファブリー病の治療
Section titled “ファブリー病の治療”ファブリー病における渦状角膜は酵素補充療法(ERT)の直接的な適応ではないが、全身管理として ERT が施行される。ERT 開始後に血中 Lyso-Gb3 の低下が確認されている1)。ある家系では ERT 開始 6 ヶ月で母親の Lyso-Gb3 が 21.76 から 12.72 nmol/L へ、息子では 156.50 から 27.48 nmol/L へ低下した1)。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”渦巻き状パターンの形成機序
Section titled “渦巻き状パターンの形成機序”角膜上皮は輪部幹細胞から中心部に向かって向心性に移動する。薬剤や脂質を含んだ輪部幹細胞がこの向心性の移動経路に沿って遊走するため、渦巻き状のパターンが形成される。
薬剤性の機序
共通の性質:カチオン性かつ両親媒性の薬剤が角膜基底上皮のリソソームに浸透する
蓄積過程:薬剤-脂質複合体は酵素分解に抵抗性があり沈着物として蓄積する
アミオダロン:リソソームのホスホリパーゼ A2 を阻害する
ネタルスジル:角膜上皮細胞内のホスホリピドーシスが機序として推定されている2)
ファブリー病の機序
酵素欠損:α-ガラクトシダーゼ A の欠損による
蓄積物質:グリコスフィンゴ脂質(主に Gb3)がリソソームに蓄積する
沈着部位:角膜を含む全身組織のリソソームに進行性に蓄積する
遺伝子:GLA 遺伝子の変異。1000 以上の変異が報告されている1)
メトトレキサートによる機序
Section titled “メトトレキサートによる機序”硝子体内メトトレキサートでは輪部幹細胞への直接的な毒性が原因と考えられる4)。注射後に結膜下腔への薬剤漏出が輪部幹細胞を障害し、一過性の輪部機能不全と渦巻き状角膜症を引き起こす4)。可逆性であることから幹細胞ニッチではなく増殖中の幹細胞への障害と推定される4)。
薬剤起因性角膜上皮障害との関連
Section titled “薬剤起因性角膜上皮障害との関連”渦巻き角膜症(vortex keratopathy)は角膜上皮の脱落亢進が持続し基底細胞の増殖だけでは代償できなくなった際に表層細胞の遊走により角膜表面を覆おうとする形態として出現する。これが進行するとクラックライン(epithelial crack line)を経て遷延性上皮欠損に発展しうる。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”ファブリー病の GLA 遺伝子には 1000 以上の変異が同定されており、新規変異の報告が続いている。ある研究ではフレームシフト変異 c.484delT(p.W162Gfs*3)が古典型ファブリー病の原因として初めて報告された1)。別の報告ではマレーシアで初めてファブリー病が確認され、渦状角膜が診断の契機となった3)。
ROCK 阻害薬による渦状角膜に加えて結膜色素沈着の合併が新たに報告された2)。色素沈着は原発性後天性メラノーシスとの鑑別が必要であるが、薬剤中止で消失することが鑑別点となる2)。
若年者の CRAO において渦状角膜がファブリー病の発見につながった症例5)は、眼科医による早期発見の重要性を示している。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Giacalone I, Ruzzi L, Anania M, et al. The identification of a novel pathogenic variant of the GLA gene associated with a classic phenotype of Anderson-Fabry disease: a clinical and molecular study. Int J Mol Sci. 2025;26(2):470.
- Azargui S, Karanxha J, Oliver SCN, Kahook MY, Capitena Young CE. Netarsudil-associated conjunctival pigmentation. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;38:102311.
- Tang ASO, Wong QY, Ting IPL, et al. First 2 Fabry cases with novel mutation and their associated clusters in Malaysia. Am J Case Rep. 2021;22:e932923.
- Hasan N, Narde HK, Das アカントアメーバ角膜炎, Chawla R. Unusual presentation of cornea verticillata with intravitreal methotrexate in a case of primary intraocular lymphoma. BMJ Case Rep. 2022;15:e246911.
- Nakata D, Okada H, Shimada Y, Tanikawa A, Horiguchi M, Ito Y. A case of Fabry disease with central retinal artery occlusion. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:584-588.