手術関連

結膜封入嚢胞
1. 結膜封入嚢胞とは
Section titled “1. 結膜封入嚢胞とは”結膜封入嚢胞(conjunctival inclusion cyst)は結膜上皮が粘膜固有層に迷入し、嚢胞壁を形成する良性の嚢胞性病変である。嚢胞壁は杯細胞を含む非角化上皮で構成され、内腔にはケラチン・ムチン・上皮 debris を含む透明〜やや混濁した液体が貯留する。
結膜嚢胞は発生機序により以下の 3 型に分類される。
| 分類 | 特徴 |
|---|---|
| 封入嚢胞 | 上皮迷入による |
| リンパ嚢胞 | リンパ管拡張症 |
| 貯留嚢胞 | 副涙腺由来 |
眼窩嚢胞全体の 3% を結膜嚢胞が占める。原発性(先天性)と続発性(後天性)に大別され、先天性は胚発生時の涙丘上皮または円蓋部結膜の過剰な陥入に起因する。
平均発症年齢は 47 歳前後で性差は認められない。結膜嚢胞のうち封入嚢胞が最も頻度が高く、約 80% を占める。外直筋や下直筋に付着した先天性嚢胞の報告は文献上 6 例にとどまる5)。
結膜嚢胞は主に3種類に分類されます。①結膜封入嚢胞:結膜上皮の迷入により形成され最も多い。②リンパ嚢胞:リンパ管の拡張により生じる。③貯留嚢胞:副涙腺(Wolfring腺・Krause腺)の分泌管閉塞により円蓋部に形成される。いずれも良性ですが、悪性腫瘍との鑑別が必要な場合もあるため、眼科受診をお勧めします。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”小型の嚢胞は無症状のことが多い。嚢胞が増大すると瞬目時に眼瞼結膜と擦れ、異物感・流涙を生じる。巨大嚢胞では眼球運動制限・複視・眼球突出を呈することがある。整容的な問題で受診する症例もみられる。先天性巨大嚢胞では出生前超音波で発見された報告がある7)。
細隙灯顕微鏡検査では球結膜に半透明のドーム状隆起を認める。可動性は良好で透照性を有する。上皮細胞が嚢胞底部に沈着すると偽前房蓄膿(pseudohypopyon)様の外観を呈することがある。
斜視手術後の嚢胞は耳側結膜に好発し、術後 3〜6 か月で顕在化する4)。眼球摘出後の眼窩嚢胞は義眼保持困難として発見されることが多い1)3)。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”続発性(後天性)
Section titled “続発性(後天性)”最も多い原因は眼科手術である。術中に結膜上皮が結膜下組織に不慮に封入されることで嚢胞が形成される。
非手術関連
先天性(原発性)
Section titled “先天性(原発性)”胚発生時の涙丘上皮または円蓋部結膜の過剰な陥入が原因とされる5)。出生前超音波で検出された先天性結膜嚢胞は文献上 4 例の報告にとどまる7)。
眼球摘出後の嚢胞形成には McCarthy らの 3 つの機序が提唱されている3)。①摘出中に眼窩内へ置かれた結膜組織の増殖、②創閉鎖後の反転結膜の嵌入、③インプラント脱出後の上皮下方増殖である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”
細隙灯顕微鏡検査
Section titled “細隙灯顕微鏡検査”半透明のドーム状隆起、良好な可動性、透照性を確認する。フルオレセイン染色は通常陰性である。
前眼部 OCT
Section titled “前眼部 OCT”嚢胞内腔は低反射域として描出され、薄い高反射の嚢胞壁を認める。顆粒状の高反射像が内腔に散在する場合は封入嚢胞を示唆する。小型嚢胞の評価に優れる。
超音波生体顕微鏡検査(UBM)
Section titled “超音波生体顕微鏡検査(UBM)”嚢胞内腔は低エコー域として描出される。続発性嚢胞では浮遊粒子を認めることがある。腫瘍境界や後方壁の評価において前眼部 OCT よりも優れる。
病理組織学的検査
Section titled “病理組織学的検査”確定診断は病理所見による。嚢胞壁は杯細胞を含む非角化立方〜円柱上皮で内張りされ、結膜上皮封入嚢胞に特徴的である4)。炎症性・肉芽腫性変化は通常認めない4)。
| 鑑別疾患 | 主な鑑別点 |
|---|---|
| リンパ嚢胞 | 多房性・透照性高い |
| 結膜粘液腫 | 充実性・穿刺不適8) |
| 類皮腫嚢胞 | 角化上皮・骨びらん |
結膜粘液腫は半透明の嚢胞様外観を呈し結膜封入嚢胞と誤診されやすい8)。穿刺吸引のみでは見逃しの危険があり、切除生検による確定診断が重要である8)。Carney 複合体との関連にも注意を要する8)。
結膜の透明〜半透明な膨らみの多くは良性の結膜嚢胞ですが、結膜粘液腫や類皮腫嚢胞など他の疾患との鑑別が必要です。特に結膜粘液腫は嚢胞と非常によく似た外観を呈するため、穿刺のみでは見逃す危険があります。自然消退しない場合や増大傾向がある場合は眼科での精査をお勧めします。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”無症状の小型嚢胞は経過観察が可能である。自然消退することもあるが頻度は高くない。
症状を伴う嚢胞に対する標準治療は完全切除である。嚢胞壁を破らずに一塊として摘出することが重要であり、全摘出すれば再発はみられない。嚢胞壁が強膜に固着している場合は鋭的剥離を要する4)。
斜視手術後に発生した結膜封入嚢胞 10×8 mm に対し、局所ステロイド点眼 3 か月で効果がなく切除に至った症例が報告されている。術後 6 か月で再発は認められなかった。4)
TCA 注入療法
薬剤:トリクロロ酢酸 10〜20%
適応:再発例・巨大嚢胞
方法:嚢胞内容を吸引後に TCA を注入し上皮を化学的に焼灼する6)
成績:20% TCA で 8 か月後に完全消失・無再発6)
泡状硬化療法
薬剤:テトラデシル硫酸ナトリウム(STS)泡状溶液
適応:眼球摘出後の眼窩嚢胞
方法:嚢胞穿刺吸引後に STS 泡を注入し嚢胞壁を線維化させる1)
成績:6 週間で完全消失1)
Marsupialization
適応:スティーブンス・ジョンソン症候群合併の大型嚢胞(径 1 cm 以上)
方法:嚢胞壁を結膜円蓋の内張りとして再利用し眼表面を再建する2)
成績:4 例で 7 か月〜3 年の追跡で再発なし2)
症状のある嚢胞に対しては人工涙液と低力価ステロイド点眼を使用する。点眼のみで嚢胞が消退することは稀であり、効果不十分の場合は手術適応となる。
小さな結膜封入嚢胞が自然に消退することはありますが、頻度は高くありません。無症状であれば経過観察が可能です。症状を伴う場合や増大傾向がある場合は、完全切除やTCA注入などの治療が検討されます。単純な穿刺吸引は再発しやすいため推奨されません。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”上皮封入のメカニズム
Section titled “上皮封入のメカニズム”結膜上皮が外傷や手術に伴い粘膜固有層(substantia propria)に迷入すると、迷入上皮は増殖を続けて嚢胞腔を形成する。嚢胞壁は非角化の被覆上皮と結合組織からなり、杯細胞を含むことが多い。杯細胞によるムチン分泌が嚢胞の増大に寄与する。
スティーブンス・ジョンソン症候群における嚢胞形成
Section titled “スティーブンス・ジョンソン症候群における嚢胞形成”スティーブンス・ジョンソン症候群の急性期には広範な眼表面の炎症と上皮壊死が生じる2)。スティーブンス・ジョンソン症候群の急性眼病変は患者の 77% に認められる2)。炎症後の瘢痕化・癒着過程において残存結膜上皮が封入され、大型の嚢胞を形成する。嚢胞壁は結膜上皮と組織学的に類似し、液体を分泌して眼表面を湿潤させうる2)。
先天性嚢胞の形成
Section titled “先天性嚢胞の形成”先天性結膜嚢胞は胚発生時の結膜上皮の陥入異常に起因する。病理学的には非角化扁平上皮と局所的な立方上皮で内張りされた嚢胞として観察される7)。類皮腫の結膜型亜型(conjunctivoid variant)として分類される場合もある7)。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”先天性結膜嚢胞の出生前超音波による検出は文献上 4 例目が 2025 年に報告された7)。出生前画像診断技術の進歩に伴い、早期発見・計画的手術介入の可能性が広がりつつある。
治療面では泡状硬化療法(STS)の眼窩嚢胞への応用が報告され1)、低コスト・簡便・再施行可能な新たな選択肢として注目されている。TCA 20% 注入も切除後再発例に対する有効な代替治療として蓄積が進んでいる6)。
スティーブンス・ジョンソン症候群合併例に対する marsupialization は嚢胞壁を結膜円蓋再建に活用する革新的な術式であり2)、今後の症例蓄積と長期成績の検証が期待される。
鑑別診断においては結膜粘液腫の見逃しリスクが指摘されており8)、嚢胞様外観を呈する病変に対しては穿刺のみでなく切除生検による確定診断の重要性が再認識されている。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Thomas R, Grover A. Foam sclerotherapy for conjunctival inclusion cyst post evisceration. Cureus. 2023;15(7):e42505.
- Li J, Huang Y. Marsupialization of conjunctival inclusion cyst in Stevens-Johnson syndrome. Adv Ophthalmol Pract Res. 2023;3(4):194-199.
- Ponces Ramalho J, Ferreira A, Beirão JM. Giant conjunctival cyst of the orbit in a patient with previous enucleation. Case Rep Ophthalmol. 2024;15:197-203.
- Takahashi Y, Katori N, Asamura S. A case of conjunctival cyst required removal six months after strabismus surgery. Cureus. 2024;16(8):e67791.
- Teope JKC, Nida SN, Kaleem MA. Primary orbital conjunctival cyst associated with the inferior rectus muscle. Cureus. 2024;16(11):e73181.
- Lopez-Fontanet JJ, Rodríguez-González A, Oliver AL. Recurring giant conjunctival cyst effectively treated with 20% trichloroacetic acid. Cureus. 2024;16(12):e76099.
- Gabbard R, Caranfa JT, Bender JR, et al. Congenital conjunctival cyst detected by prenatal ultrasound. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;37:102176.
- Park ESY, Park KH, Kim T, Chung EJ. A rare case of conjunctival myxoma initially misdiagnosed as a conjunctival inclusion cyst. Korean J Ophthalmol. 2021;35(5):412-414.
- American Academy of Ophthalmology. Adult Strabismus Preferred Practice Pattern. San Francisco: AAO; 2024.