全層角膜移植(PK)
適応:従来のゴールドスタンダード
特徴:角膜全層を置換する
課題:高度乱視・拒絶反応・縫合管理が困難

先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenital hereditary endothelial dystrophy:CHED)は、出生時または乳児期に発症する両眼性の角膜内皮ジストロフィである1)2)。角膜内皮細胞の機能不全によりびまん性角膜浮腫をきたし、角膜が混濁する1)。
従来 CHED は常染色体優性遺伝の CHED1 と常染色体劣性遺伝の CHED2 に分類されていた。しかし 2015 年の IC3D(International Committee for Classification of Corneal Dystrophies)改訂により、CHED1 は後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)のスペクトラムと認識されて廃止された1)2)。現在 CHED2 が単に「CHED」と呼ばれ、常染色体劣性遺伝の一疾患として定義される2)。胎生後期の内皮の分化異常と考えられており、内皮機能が未熟なため生下時〜出生後数か月以内に全面の角膜浮腫を生じる。Descemet膜の後面のみに異常を認め、内皮細胞は欠損しているか変性した状態である。
先天性角膜混濁(CCO)の発生率は出生 10 万人あたり約 6 人である。CHED の正確な有病率は不明であるが、サウジアラビア・インド・パキスタン・ミャンマー・アイルランドなど近親婚の多い地域からの報告が多い2)。
CHEDはSLC4A11遺伝子の常染色体劣性変異が原因で、出生時から両眼性の高度な角膜浮腫を呈します。一方PPCDは常染色体優性遺伝で、角膜内皮細胞が上皮様細胞に変化する疾患です。かつてCHED1と呼ばれていた軽症型は、現在PPCDの一部として再分類されています。
出生時または生後早期からの視力低下が主症状である。角膜混濁による遮断弱視が生じやすく、眼振を伴うことも多い4)。羞明や流涙は通常軽度である。
両眼性かつ対称性のびまん性角膜浮腫が特徴的所見である。角膜は青灰色のすりガラス様外観(ground-glass appearance)を呈する。デスメ膜は肥厚し、徹照法で叩き出し銅細工様外観(beaten copper appearance)を示すことがある。
角膜厚は著明に増加する。Bellucci らの症例では 660〜680 μm1)、Salman らの検討では 742〜1310 μm2)と報告されている。眼圧は通常正常であるが、角膜厚増加により偽高値を示すことがある1)2)。
原因遺伝子は第 20 染色体短腕(20p13)に位置する SLC4A11 である2)。SLC4A11 は膜貫通タンパク質 NaBC1 をコードし、角膜内皮細胞表面でイオン輸送に関与する3)。この遺伝子は 2006 年にミャンマーの近親婚家系から CHED の原因遺伝子として同定された2)。
Salman らはインドの CHED 家族例・散発例を検討し、ミスセンス変異(p.Ser489Trp、p.Ser480Ile)、複合ヘテロ接合変異(p.Arg161Arg + p.Val805fs)、スプライス部位変異(c.620-2A>G)など多様な変異を報告した2)。約 75% は単一塩基ホモ接合変異である2)。一方 SLC4A11 変異が検出されない症例も存在し、MPDZ 遺伝子など他の遺伝的要因の関与が示唆されている2)。
常染色体劣性遺伝であるため、近親婚が最大のリスク要因である2)。
Harboyan症候群は、CHEDと同じSLC4A11遺伝子変異に関連する疾患で、角膜混濁に加えて進行性の感音難聴を合併します。SLC4A11は角膜内皮細胞だけでなく内耳の線維細胞や血管条にも発現しており、両組織は神経堤という共通の発生学的起源を持ちます。難聴は早くて2歳、遅い場合は33歳で発症する可能性があります。
出生時から両眼性にびまん性角膜浮腫とデスメ膜肥厚を認める。角膜混濁の程度はすりガラス様から完全混濁まで様々である。小児では麻酔下検査が必要となることもある。
前眼部光干渉断層計(AS-OCT)は角膜厚の測定や浮腫の評価に有用である1)2)。スペキュラマイクロスコピーは内皮細胞の評価に用いられるが、高度な角膜混濁では観察困難である。Bellucci らは術後 12 年の AS-OCT でドナーラメラの位置を明瞭に描出した1)2)。
SLC4A11 遺伝子の全 19 エクソンおよび隣接イントロン領域のシーケンシングにより確定診断が可能である2)。しかし一部の症例では SLC4A11 変異が検出されず、次世代シーケンシング(NGS)による網羅的解析が有用となる可能性がある2)。
| 鑑別疾患 | CHEDとの主な違い |
|---|---|
| 原発先天緑内障 | 眼圧上昇・角膜径増大 |
| PPCD | AD遺伝・軽症で進行緩徐 |
| Peters異常 | 中央部混濁・虹彩癒着 |
角膜浮腫が軽度かつ安定している場合、高張食塩水点眼による対症療法が行われることがある。近年、NSAID が SLC4A11 変異細胞の機能を回復させる可能性が報告されているが、臨床応用はまだ研究段階である2)。
CHED の主な治療は手術である。出生時から高度な角膜混濁がある場合、遮断弱視を防ぐため早期介入が必要となる1)。
全層角膜移植(PK)
適応:従来のゴールドスタンダード
特徴:角膜全層を置換する
課題:高度乱視・拒絶反応・縫合管理が困難
角膜内皮移植術(DSAEK)
適応:現在のEKの主流
特徴:内皮+後部実質ラメラを移植
利点:低侵襲・乱視少・回復が早い
デスメ膜内皮角膜移植術(DMEK)
適応:技術的に可能な症例
特徴:デスメ膜+内皮のみ移植
課題:小児では技術的に困難
現在、多くの施設で角膜内皮移植(EK)が第一選択とされている1)。Bellucci らは生後 3 か月の CHED 新生児に対してデスメ膜非剥離 EK を施行し、12 年間の経過を報告した1)。
術後 12 年で両眼の角膜は透明を維持し、矯正視力は 0.4 LogMAR であった。内皮細胞密度は右眼 2383 cells/mm²、左眼 2547 cells/mm² と予想外に良好であり、デスメ膜の病態への関与を示唆する所見であった。1)
Salman らの検討では全 10 例が DSAEK を受けており、DSAEK が CHED に対する標準術式となりつつある2)。EK は PK と比較して手術時間が短く、重篤な合併症リスクが低く、長期的な視力転帰も劣らない1)。
出生時から高度な角膜混濁がある場合、遮断弱視を防ぐためできるだけ早期の手術介入が望ましいとされています。Bellucciらは生後3か月で手術を施行し、12年後も良好な結果を報告しています。ただし、手術後も眼振や弱視が残る可能性があるため、長期的な視機能フォローアップが必要です。
角膜の脱水状態(deturgescence)は角膜内皮のポンプ機能により維持される。このポンプ系は Na⁺-K⁺ ATPase による能動輸送を中心に、SLC4A11・pNBCe1・NKCC1・AE2・NHE1・MCT 1/2/4 などの二次膜イオン輸送体で構成される2)。正常な角膜内皮細胞では SLC4A11 が最も豊富に発現するイオン輸送体である2)。
SLC4A11 変異は複数の経路で角膜浮腫を惹起する。
SLC4A11 ノックアウトマウスでは角膜実質にナトリウムおよび塩化物イオンが蓄積し、角膜浮腫が発生する2)。近年の研究では、SLC4A11 変異体はタンパク質のトラフィッキング障害よりも H⁺ フラックス特性の変化が表現型に関与することが示されている2)。
SLC4A11 欠損角膜内皮細胞では NH₃:H⁺ 共輸送体活性が消失する2)。これによりグルタミン分解(glutaminolysis)が著しく障害され、細胞のエネルギー産生に影響を及ぼす2)。
Salman らの in silico 解析では、同定された変異(p.Ser489Trp、p.Ser480Ile、p.Arg869Cys)がいずれもタンパク質の安定性低下と水素結合数の減少をもたらすことが示された2)。これらの構造変化がタンパク質の折りたたみや柔軟性に影響し、イオン輸送機能の喪失に至ると考えられる2)。
アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた Slc4a11 遺伝子補充療法がマウスモデルで成功しており、CHED の根本的治療への道を開く可能性がある2)。また CRISPR/Cas9 を用いた遺伝子編集アプローチも検討されている2)。
特定の NSAID が SLC4A11 変異タンパク質の機能を補正する可能性が in vitro で示されており、臨床試験が進行中である2)。
EK 手技の改良により、新生児・乳児に対してもデスメ膜非剥離での角膜内皮移植が安全に施行可能となりつつある1)。Bellucci らの 12 年フォローアップは、この術式の長期的有効性を示す最長の報告である1)。DMEK の小児への応用も試みられているが、技術的課題が残る1)。
SLC4A11 変異が検出されない CHED 症例の存在は、MPDZ 遺伝子など他の遺伝的メカニズムの関与を示唆する2)。NGS を用いた包括的解析が今後の解明に寄与すると期待される2)。