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角膜・外眼部疾患

サイトメガロウイルス角膜内皮炎

1. サイトメガロウイルス角膜内皮炎とは

Section titled “1. サイトメガロウイルス角膜内皮炎とは”

サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスである。サイトメガロウイルス角膜内皮炎は、このサイトメガロウイルスの再活性化により角膜内皮細胞に炎症を生じる疾患である4)。角膜後面沈着物(KPs)を伴う角膜浮腫と眼圧上昇を特徴とする。通常は片眼性で免疫正常者にも発症する。

サイトメガロウイルスの血清有病率は世界的に45〜100%と高い。初感染後、ウイルスは隅角線維柱帯毛様体に潜伏感染を確立する。免疫正常者における眼症状の多くは潜伏ウイルスの再活性化による。日本角膜内皮炎スタディでは109例が報告された。中高年(平均66.9歳)の男性に多く(80.2%)、アジア諸国からの報告が多い。

角膜内皮炎はKPsの分布パターンに基づき4型に分類される4)。線状、扇状、円板状、びまん性の4型であり、サイトメガロウイルスではコイン状または線状のKPsが特徴的である4)。日本角膜内皮炎スタディでは70.6%でコイン状KPsが認められた。

Q サイトメガロウイルス角膜内皮炎とサイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎はどう異なるか?
A

サイトメガロウイルス角膜内皮炎とサイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎は、いずれもサイトメガロウイルスの再活性化に起因する疾患スペクトラムである。角膜内皮炎はKPsと角膜浮腫が主体であり、前部ぶどう膜炎では前房内炎症が主体となる。両者は合併することが多く、眼圧上昇は共通の特徴である。ポスナー・シュロスマン症候群フックス異色性虹彩毛様体炎の一部がサイトメガロウイルスに起因することが明らかになっている。国際Delphiサーベイでも片眼性と眼圧上昇がサイトメガロウイルス前眼部感染の特異的所見として合意されている3)

CMV角膜内皮炎のcoin-shaped KPs
CMV角膜内皮炎のcoin-shaped KPs
Büyüktepe TÇ, Karaca EE, Özdek Ş. Cytomegalovirus Endotheliitis After Penetrating Keratoplasty. Turk J Ophthalmol. 2020 Oct 30;50(5):304-307. Figure 3. PMCID: PMC7610052. License: CC BY.
角膜中央付近に円形で白色の keratic precipitates が集簇し、周囲の実質浮腫を伴う。CMV 角膜内皮炎で特徴的な coin-shaped KPs と周囲浮腫を示している。

片眼の視力低下と羞明が主訴となる。角膜浮腫から水疱が形成された場合には眼痛や異物感を伴う。症状は非特異的であり他の眼内炎症との鑑別は困難である。再発を繰り返すエピソードが特徴的である。ステロイド点眼のみでは改善しないか一時的な改善にとどまる。

角膜所見

小〜中サイズの非肉芽腫性KPsがコイン状または線状に配列する4)。アールト三角に好発するが他部位にも出現しうる。典型例では角膜周辺部から始まり中央に向かって進行する角膜浮腫を認める4)。角膜浸潤や血管新生は伴わない4)。コイン・リージョンは時間経過とともに形態が崩れ、通常のKPと区別困難となる4)。そのため診断の必須条件ではない。

前房・眼圧所見

前房内炎症は角膜所見に比して軽度である4)。眼圧上昇は線維柱帯炎に続発し、続発緑内障に進行しうる4)虹彩後癒着の形成は稀である。角膜内皮細胞の減少を認める。進行すると不可逆的な角膜内皮機能不全に至る4)

生体共焦点顕微鏡(IVCM)では角膜内皮表面に特徴的所見が観察される。中心部の高反射域と周囲の低反射ハローからなる「フクロウの目(owl’s eye)」様の巨大内皮細胞である。この所見はサイトメガロウイルス感染に特異的であり、治療効果のモニタリングにも有用である。

サイトメガロウイルスの再活性化が主な原因である。病態にはウイルス感染と免疫反応の両方が関与する4)。培養細胞を用いた研究では、ヒトサイトメガロウイルスが角膜内皮細胞や線維柱帯細胞に感染し増殖することが確認されている4)

リスク因子として角膜移植歴やステロイド点眼による局所免疫抑制が報告されている。アジア諸国、特に日本と中国からの報告が多く、人種的素因が示唆される。

前房水のPCR検査によるサイトメガロウイルス DNAの検出が確定診断に必須である4)。同時にHSV DNAおよびVZV DNAが陰性であることを確認する4)。PCR検査は病勢後半にウイルス量が検出限界以下に低下しうる4)。そのため感染初期の検査が望ましい。リアルタイムPCRによるコピー数測定は治療効果の判定に有用である4)

角膜内皮炎スタディグループの診断基準では2型に分類される4)。サイトメガロウイルス DNA陽性かつコイン・リージョン/線状KPを伴う内皮炎が典型的サイトメガロウイルス角膜内皮炎である4)。KPを伴う局所角膜浮腫に加え、再発性前部ぶどう膜炎・高眼圧・続発緑内障・角膜内皮細胞減少のうち2所見を満たす場合を非典型的サイトメガロウイルス角膜内皮炎とする4)

鑑別疾患鑑別のポイント
HSV・VZV角膜内皮炎前房水PCRで鑑別4)
角膜移植後拒絶反応ステロイド不応時に疑う4)
PSS一部がサイトメガロウイルス関連1)
HLA-B27前部ぶどう膜炎角膜浮腫は非典型1)
Q サイトメガロウイルス角膜内皮炎はなぜ見逃されやすいのか?
A

眼内炎症の初期所見はステロイド点眼のみで治療されることが多い。ステロイドにより炎症が一時的に改善するためサイトメガロウイルスの診断に至りにくい。ステロイド単独投与は局所免疫を抑制しウイルス活動を悪化させうる。実際にHLA-B27陽性前部ぶどう膜炎として数年間メトトレキサートとステロイドで治療され、前房水PCRで初めてサイトメガロウイルスが検出された症例が報告されている1)。ステロイドに反応しない片眼性の高眼圧性前部ぶどう膜炎では、積極的にPCR検査を行うべきである1)

局所治療

第一選択:0.15%ガンシクロビルゲル 1日3〜5回3)

第二選択:自家調製0.5〜2%ガンシクロビル点眼液4)

ステロイド:0.1%フルオロメトロン点眼を併用する4)。77%の専門家が1%酢酸プレドニゾロン 1日4回を1〜2週間で開始し漸減している3)

全身治療

第一選択:バルガンシクロビル 900mg 1日2回(治療量)から900mg 1日1回へ漸減4)

維持療法:バルガンシクロビル 450mg 1日1〜2回を最長12ヶ月3)

年2回以上再発する場合:88%の専門家が長期局所抗ウイルス療法を推奨している3)

国際Delphiサーベイ(75名の専門家)の結果では、70%がガンシクロビルゲル0.15%を局所治療の第一選択とした3)。78%がバルガンシクロビル経口を全身投与の第一選択とした3)。全身投与の開始時期は33%がルーチン併用、48%が重症・遷延例のみとしており意見が分かれている3)

治療段階レジメン
急性期(局所)GCV 0.15%ゲル 1日3-5回3)
急性期(全身)VGCV 900mg 1日2回4)
維持期(局所)GCV 0.15%ゲル 1日2回3)
維持期(全身)VGCV 450mg 1日1-2回3)

眼圧上昇を伴う症例には緑内障点眼薬を併用する4)。79%の専門家がβ遮断薬を第一選択としている3)。ステロイド点眼は最長12ヶ月かけて漸減する方針が84%の専門家に支持されている3)

自家調製ガンシクロビル点眼液は点滴静注用ガンシクロビルを生理食塩水に溶解し、薬剤部のクリーンルーム等で作製する4)。分解されやすいため冷暗所保存で1〜2週以内の使用が推奨される4)

日本角膜内皮炎スタディでは全身と局所の併用が最も効果的であったが統計的有意差は認められなかった。治療後36%が再発を経験し、5.8%はいかなる治療にも反応しなかった。慢性・再発性の疾患であるため減薬中や中止後も定期的に経過観察を行う4)。KPの増加や眼圧上昇を認めた場合は治療を再開する4)。治療効果の判定は92%の専門家が臨床モニタリングで十分としている3)

不可逆的な角膜浮腫(水疱性角膜症)に至った症例ではDSAEKなどの角膜内皮移植を行う4)。移植後のサイトメガロウイルス再活性化が懸念されるため抗ウイルス薬の維持療法が重要である4)

続発緑内障に対して眼圧コントロールが不十分な場合は緑内障手術を検討する。HLA-B27前部ぶどう膜炎と誤診されていた61歳男性では白内障手術と線維柱帯切除術を同時施行した1)。術中の前房水PCRでサイトメガロウイルス DNAが3×106 copies/mLと高値で検出された1)。バルガンシクロビル投与開始後1ヶ月で視力20/20に回復し角膜浮腫は完全に消失した1)

Q 全身抗ウイルス療法の副作用モニタリングは?
A

バルガンシクロビルの全身投与中は腎機能障害と血液異常(骨髄抑制、汎血球減少)のリスクがある。Delphiサーベイでは87%の専門家が血清クレアチニンおよび血算を年2〜4回モニタリングすることを推奨している3)。腎機能障害の既往がある場合は投与量調整とより頻回なモニタリングを要する。骨髄抑制や腎毒性が発生した場合は全身投与を中止する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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サイトメガロウイルスの眼における病態生理はHSV角膜内皮炎と類似すると推定されている。潜伏サイトメガロウイルスは隅角線維柱帯や毛様体にリザーバーを形成する。定期的に再活性化し少量のウイルスが前房に放出される。前房関連免疫偏位(ACAID)がサイトメガロウイルス角膜内皮炎の病態に関与する可能性が提唱されている。

組織学的には角膜内皮細胞の消失を伴う軽度の実質浮腫が特徴である。角膜実質に顕著な炎症浸潤は認められない。前房水中のサイトメガロウイルスウイルス量と前眼部炎症の重症度との間には有意な相関がある。前房細胞のグレード、眼圧上昇、角膜内皮細胞減少、再発頻度がウイルス量と相関する。

Q LASIK術後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎を発症するとどうなるか?
A

LASIK術後のサイトメガロウイルス角膜内皮炎では角膜内皮機能不全と眼圧上昇によりフラップ層間に液体が貯留する。この病態は「interface fluid syndrome(IFS)」と呼ばれる2)。IFSではフラップ上からのGoldmann圧平眼圧計測定が偽低値を示すため、フラップ外の周辺角膜での測定が推奨される2)。35歳女性の報告例ではポスナー・シュロスマン症候群として16年間経過観察されていた2)。LASIK術後9年にIFSを発症し、前房水PCRでサイトメガロウイルス DNA(26×109 copies/mL)が検出された2)。バルガンシクロビル投与開始1週間でIFSは消失した2)。眼圧コントロール不良に対して線維柱帯切除術が施行された2)

サイトメガロウイルス前眼部感染症の管理に関する国際Delphiサーベイでは、診断から治療まで多くの項目でコンセンサスが得られていない3)。特に全身抗ウイルス薬の投与基準と治療期間は専門家間で意見が分かれている3)。内皮炎合併例に対しては0.5〜2%局所ガンシクロビルを1日6回以上4週間、またはバルガンシクロビル900〜1,800mg 1日2回4週間のレジメンがメタアナリシスで推奨されている3)

本疾患治療における最大の課題は保険適用された治療薬がないことである4)。適切な抗ウイルス療法が行われなければ水疱性角膜症や続発緑内障による重篤な視機能障害を来す4)。安全性の担保された治療薬の薬事承認・保険適用が望まれる4)


  1. Tendolkar S, Murthy SI, Bhatia P, Senthil S. Cytomegalovirus endotheliitis with recurrent anterior uveitis and secondary glaucoma misdiagnosed as HLA-B 27 uveitis. BMJ Case Rep. 2021;14:e240061.
  2. Tendolkar S, Murthy SI, Chandran K, Joseph J. Acute interface fluid syndrome after laser in situ keratomileusis in a case of cytomegalovirus (CMV) endotheliitis and secondary glaucoma. BMJ Case Rep. 2021;14:e236742.
  3. TITAN Working Group. Preferred management practices for cytomegalovirus anterior uveitis: modified Delphi survey. Eye (Lond). 2024;38:68-75.
  4. 日本眼感染症学会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版).

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