後部クロコダイル・シャグリン
疾患の特徴:高齢者の角膜変性疾患
共通点:中央角膜の両側性多角形混濁
鑑別点:混濁パッチの大きさが多様。非遺伝性

フランソワ中心性混濁角膜ジストロフィ(Central Cloudy Dystrophy of François:CCDF)は、中央部角膜の後部実質に両側性・対称性の多角形灰色混濁を生じる稀な角膜ジストロフィである。IC3D(International Committee for Classification of Corneal Dystrophies)分類に収載されている。
遺伝形式は不明とされる。常染色体優性遺伝を示す家族例も報告されているが、大多数は孤発性である。変性疾患としての側面も指摘されている。原因遺伝子や遺伝子座は特定されていない。
特徴的な所見は、比較的透明な線で隔てられた多角形の灰色実質混濁である。混濁は後部実質で顕著であり、前方に向かうにつれ薄くなる。非進行性で視機能に影響を及ぼさないため、治療の適応はない。
後部クロコダイル・シャグリン(PCS)は高齢者に生じる角膜変性疾患であり、CCDFときわめて類似した所見を呈する。鑑別点として、CCDFでは混濁パッチの大きさが均一であるのに対し、PCSでは大きさが多様である。またCCDFには遺伝性の症例があるが、PCSは変性疾患であり遺伝性ではない。発症年齢も異なり、CCDFは若年発症、PCSは加齢に伴って出現する。
CCDFは通常無症状である。まれに角膜知覚の変化や羞明を訴えることがある。全身症状の報告はない。
| 所見 | 特徴 |
|---|---|
| 混濁の形態 | 多角形の灰色混濁 |
| 分布 | 中央部角膜、後部実質 |
| 対称性 | 両側性・対称性 |
混濁は透明なひび割れ状の線で隔てられた小さな多角形パッチからなる。デスメ膜直前の後部実質で最も密度が高い。前方に向かうにつれ数・大きさともに減少する。周辺角膜は透明に保たれる。
通常は両側性であるが、片側性の症例もまれに報告されている。発症は生後10年以内が典型的であり、報告上の最年少は8歳である。
CCDFの病因は完全には解明されていない。
家族性症例では常染色体優性遺伝の形式をとる。しかし原因遺伝子・遺伝子座は未特定である。孤発性CCDFの発症機序も不明であり、加齢変性との関連が推測されている。
最大のリスク因子はCCDFの家族歴である。遺伝的背景が明らかでない孤発例が大多数を占めるため、確立されたリスク因子は少ない。
診断の基本となる検査である。中央部角膜の後部実質に、透明線で隔てられた両側性・対称性の多角形灰色混濁を確認する。強膜散乱法や反帰光法による観察が混濁の評価に有用である。
前部実質層に小さな高反射性顆粒を認める。後部実質の細胞外マトリックスには複数の暗い線条が観察される。
実質内に多数の細胞外顆粒を認める。基底膜の肥厚と変性した角膜細胞が観察される。
後部クロコダイル・シャグリン
疾患の特徴:高齢者の角膜変性疾患
共通点:中央角膜の両側性多角形混濁
鑑別点:混濁パッチの大きさが多様。非遺伝性
斑状角膜ジストロフィ(FCD)
疾患の特徴:AD遺伝の実質ジストロフィ
共通点:後部実質優位の非進行性混濁
鑑別点:周辺部にも混濁が及ぶ型がある
デスメ膜前角膜ジストロフィ
疾患の特徴:後部実質の多形性混濁
共通点:遺伝性型と孤発性型が存在
鑑別点:遺伝性型はX連鎖遺伝。皮膚症状を伴う
先天性角膜実質ジストロフィ(CSCD)も鑑別に挙がるが、実質全体のびまん性混濁を呈し、中等度以上の視力低下と角膜肥厚を伴う点でCCDFとは異なる。
CCDFの原因遺伝子は未特定であるため、現時点では遺伝子検査による確定診断は行えない。診断は細隙灯顕微鏡検査による特徴的な所見の確認が基本となる。共焦点顕微鏡や角膜透過型電子顕微鏡が補助的診断に有用である。
CCDFは非進行性かつ無症状であるため、治療の適応はない。経過観察のみで管理される。
角膜混濁が視機能を妨げる報告はなく、日常生活に支障をきたすことはない。CCDF患者の角膜は健常角膜と同様に扱うことが可能である。CCDFを有する眼に対しモノビジョンLASIKを施行し、術後5年でジストロフィの悪化なく良好な視力を維持した症例も報告されている。
CCDFは非進行性で角膜構造への影響が限定的であるため、屈折矯正手術の施行は理論的に可能である。実際にモノビジョンLASIK後5年でジストロフィの増悪なく良好な経過をたどった症例が報告されている。ただし、症例報告は限られているため、個々の症例ごとに慎重な評価が必要である。
CCDFの病態生理は十分に解明されていない。電子顕微鏡による形態学的検討から以下の機序が推測されている。
角膜実質においてムコ多糖や脂質様物質が細胞外に蓄積する。同時に角膜細胞(keratocyte)内にも空胞が形成される。これらの蓄積物が正常な角膜実質コラーゲンの緻密で平行な配列を乱すことで混濁を生じる。
病理組織学的には深部実質コラーゲンの鋸歯状のひだが認められる。ムコ多糖や脂質を含む細胞外空胞が混濁部位と一致して存在する。コラーゲン配列の不規則化と細胞外脂質空胞の沈着が混濁の主因と考えられている。
混濁が後部実質で顕著である理由は完全には説明されていないが、デスメ膜に近い深部実質での代謝異常がより顕著であることが推測されている。