設計の進化
バックプレートに16個の孔を設け房水拡散による角膜栄養供給を可能とした。2004年にチタン製Cリング導入でデバイス分解を防止し、2007年にスレッドレス設計へ変更され組み立てが簡素化された。最新のLuciaデザインではチタン製バックプレートの形状変更により角膜と房水の接触が増加している。

ボストン型人工角膜(Boston Keratoprosthesis: KPro)は、Claes Dohlman博士の長年の研究により開発され、1992年にFDA承認を受けた。現在、世界で最も広く使用されている人工角膜であり4)、これまでに4,500件以上の手術が行われている。人工角膜の概念は1789年にフランスのGuillaume Pellier de Quengsyが最初に記述した。
デバイスはフロントプレート(光学ステム一体型)、バックプレート、チタン製ロッキングCリングの3部品で構成される「カラーボタン型」設計である。医療グレードのPMMAから削り出しで製造され、フロントプレートとバックプレートの間にドナー角膜を挟み込み固定する。1型と2型があり、2型は重度末期眼表面疾患用で永久的な眼瞼縫合が必要である。1型がより広く使用される。
設計の進化
バックプレートに16個の孔を設け房水拡散による角膜栄養供給を可能とした。2004年にチタン製Cリング導入でデバイス分解を防止し、2007年にスレッドレス設計へ変更され組み立てが簡素化された。最新のLuciaデザインではチタン製バックプレートの形状変更により角膜と房水の接触が増加している。
デバイス仕様
偽水晶体眼用(plano power)と無水晶体眼用のカスタムパワーがある。バックプレートは成人用(直径8.5mm)と小児用(直径7.0mm)が存在する。デバイス費用は約5,000ドルであるが、貧困国にはスライディングスケールで提供される。
全層角膜移植(PKP)が適応とならないか、反復失敗する重度角膜疾患が対象となる。適応疾患には複数回の移植失敗、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡(OCP)、化学外傷、無虹彩症、ヘルペス性角膜炎、輪部幹細胞不全、神経栄養性角膜症、広範な角膜血管新生が含まれる4)。移植失敗の繰り返しや無虹彩症では第一選択となる場合もある。
スティーブンス・ジョンソン症候群に伴う末期眼表面疾患では、角膜手術の予後がきわめて不良である。PKPの1年および2年生存率はそれぞれ20%と0%であったとの報告がある1)。KPro術後も角膜実質壊死59%、角膜浸潤30%、遷延性上皮欠損59%、デバイス脱出52%と高率の合併症が報告されている1)。
KPro適応患者の典型所見は高度角膜混濁、角膜血管新生、結膜角化、輪部幹細胞不全、Schirmer試験値の著明低下である。化学外傷例では完全眼瞼欠損と高度暴露性角膜症を伴う場合がある3)。眼球癆(phthisis bulbi)では眼軸短縮、強膜肥厚、脈絡膜肥厚、網膜剥離を認めることがある2)。
| 予後分類 | 特徴 | 保持率の傾向 |
|---|---|---|
| 非瘢痕性疾患 | 移植失敗の繰り返し | 最良 |
| 化学外傷 | 酸・アルカリ外傷 | 中間 |
| 自己免疫疾患 | スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡 | 不良(37.5-55%) |
自己免疫疾患群では再手術頻度が高く最終視力も不良である4)。過去の炎症の程度と蓄積期間が予後に影響する。
KPro1の成否は術前の眼表面状態に大きく依存する。スティーブンス・ジョンソン症候群の末期患者では結膜角化が高度であるため、そのままではKPro1が失敗するリスクが高い1)。段階的なアプローチとして、まず全身免疫抑制(メトトレキサート)で眼表面炎症を制御し、次いで小唾液腺移植(MSGT)と眼瞼粘膜移植(MMG)で眼表面の潤滑化と角化軽減を行い、最後にKPro1を植え込む方法が報告されている1)。
このアプローチでは、MSGT後2週間でSchirmer値が0mmから3mmに改善し、11ヶ月後のKPro1植え込みで光覚弁から20/60への視力回復が24ヶ月以上維持された1)。
リスク要因として重度ドライアイ、結膜角化、角膜感染の既往、PKPの複数回失敗、自己免疫疾患の活動性がある。小児への使用は術後管理の困難さと合併症リスクから議論が分かれており、特に初回治療としては推奨されない4)。
スティーブンス・ジョンソン症候群や眼類天疱瘡など末期眼表面疾患では結膜角化と重度ドライアイが高度であり、そのままKProを植え込むと感染やデバイス脱出のリスクが極めて高い。小唾液腺移植で潤滑を改善し、粘膜移植で角化を軽減した上でKProを植え込むことで、デバイスの長期保持が可能となる。
人工角膜移植術(Prosthokeratoplasty)では、フロントプレートとバックプレートの間にドナー角膜を組み立て、PKPと同様の手法で縫合する。PKPに習熟した外科医であれば施行可能である。現在はKPro手術時に水晶体摘出が推奨され、多くの場合、緑内障手術(房水ドレナージデバイス植え込み)、虹彩形成術、硝子体切除術と同時に行われる。
眼球癆の症例ではKPro-Iと硝子体切除術・シリコーンオイル注入の同時手術が報告されている2)。眼軸短縮(18mm)に基づいたKPro光学度数の選定を行い、360°網膜切除とパーフルオロカーボン使用を組み合わせることで、光覚弁から20/250への改善が3年間維持された2)。
感染予防
生涯にわたる抗菌薬点眼が不可欠である4)。標準レジメンはポリミキシンB+トリメトプリムの毎日点眼、あるいは第4世代フルオロキノロン(モキシフロキサシン/ガチフロキサシン)±バンコマイシンである4)。感染性眼内炎の発生率は年間2.7%と眼科手術の中で非常に高い。
緑内障管理
術前から60〜76%に緑内障が存在し、術後も14〜39.3%で新規/進行性の眼圧上昇が生じる4)。デバイス装着下では従来の眼圧計が使用不能であるため、強膜の指触圧測定に頼る。チューブシャント手術を併施した場合、コントロール不良例の緑内障進行率は2%まで低下した報告がある4)。
バンデージCL・点眼
BCLの継続装用で眼表面の湿潤を維持し実質融解を予防する。ステロイド点眼(プレドニゾロン)も生涯継続が必要である。化学外傷例では強膜コンタクトレンズ(18mm)がKPro周囲の融解防止と視力改善に有効であった3)。
感染予防のための抗菌薬(フルオロキノロン±バンコマイシン)、炎症抑制のためのステロイド点眼(プレドニゾロン)、緑内障治療薬を生涯にわたって継続する必要である。症例によってはシクロスポリン点眼やPRGF(成長因子含有血漿)点眼も追加される。
視力改善率は20/200以上を達成した割合で50〜65%(3年)であり、デバイス保持率は80〜87.8%と報告されている4)。保持率は1年で90〜92%、2年で80〜88%、5年で74%である4)。角膜手術の既往がない症例では保持率100%との報告もあり、早期導入が良好な結果をもたらす可能性がある。スティーブンス・ジョンソン症候群や眼類天疱瘡などの自己免疫疾患では保持率が37.5〜55%に低下する4)。
末期スティーブンス・ジョンソン症候群患者への段階的アプローチ(MSGT+MMG→KPro1)では、24ヶ月以上にわたり20/60の視力維持が確認された1)。Grade IIIの眼球癆に対する併用手術(KPro-I+硝子体切除術+SO)でも、20/250の歩行可能な視力が3年間維持されている2)。重症酸外傷で完全眼瞼欠損の症例では、KPro1に強膜CLを併用し20/100まで改善した3)。
| 合併症 | 発生率 |
|---|---|
| 緑内障(既存) | 72.0-86.0% |
| RPM形成 | 25.0-55.0% |
| 硝子体網膜合併症 | 14-29.5% |
義体後膜(RPM)は25〜65%で発生し、炎症が主因と考えられる4)。多くはYAGレーザーによる膜切開術で対処可能である。
デバイスの設計上の制約として光学部分が生体統合しない点がある4)。生体組織と人工材料の恒常的な界面が遷延性上皮欠損、無菌性壊死、穿孔を惹起しうる4)。この構造的脆弱性が眼内炎への感受性を高めるため、生涯にわたる抗菌薬予防投与が推奨される4)。
感染性眼内炎では突然の眼痛、充血、視力低下が出現し、硝子体注射や硝子体切除術による緊急対応が必要となる。術後合併症の発生率はKPro植え込み後最初の10年間で有意に減少する傾向がある4)。
KPro移植眼における緑内障は視機能喪失の最大原因であり、包括的な管理戦略が不可欠である。KProを受ける患者の36〜76%に術前から緑内障が存在し、術後も14〜28%に眼圧上昇、2〜28%に新規緑内障が発症する。C/D比の進行速度は年間0.075であり、原発開放隅角緑内障の約7倍に相当するため、早期かつ積極的な介入が求められる。
PMMA製インプラント上では従来の圧平眼圧計が使用不能である。以下の代替法が用いられる。
| 測定法 | 特徴 |
|---|---|
| 指触圧 | 最も一般的。30 mmHg以上を5 mmHg誤差内で検出可能 |
| 強膜空気眼圧計 | 角膜測定値より約9 mmHg高値。補正式:IOPk = 11.9 + 0.32(IOPs)− 0.05(年齢) |
| Schiotz眼圧計 | 耳側強膜で最も精度が高い |
前眼部OCTは隅角構造の可視化においてUBMより優れるが、毛様体溝内の緑内障ドレナージデバイス位置評価ではUBMが優位である。視標Vを用いた10-2視野検査が緑内障進行の検出に有用であり、機能的評価は構造的評価よりも信頼性が高いとされる。
KPro移植後は眼表面面積の減少により局所点眼薬の吸収効率が低下する。また広範な隅角閉塞を伴うため、線維柱帯流出に作用する薬剤の効果は乏しい。
KPro術後約13〜42%の患者が緑内障ドレナージデバイスを必要とする。バルブ付きのAhmed緑内障バルブが最も広く使用されている。
緑内障ドレナージデバイスの設置タイミング
KPro前(3〜6ヶ月前):カプセル形成に十分な時間を確保できる
KPro同時設置:視力維持の向上、1年後の眼圧改善が報告されている
KPro後(遅延設置):C/D比の進行速度が前二者より速い
緑内障ドレナージデバイスの種類と成績
Ahmed(バルブ付き):低眼圧リスクが低い。12ヶ月時の治療成功率87%5)
Baerveldt(バルブなし):より大幅な眼圧降下が期待できるが術後合併症がやや多い5)
チューブ設置位置:毛様体溝が推奨。バックプレートとの接触やチューブ露出リスクが低減する
緑内障ドレナージデバイスの体系的レビューでは、12ヶ月時の平均眼圧は16.6 mmHg(95% CI 15.5–17.6)、24ヶ月時は17.6 mmHg(95% CI 16.4–18.7)であった5)。AhmedとBaerveldtの間に成功率の有意差は認められなかった5)。緑内障ドレナージデバイスチューブの閉塞は最も一般的な合併症で約11%に発生する。
ダイオードレーザーにより毛様体突起を焼灼し房水産生を減少させる治療法であり、経強膜的または内視鏡的に施行される。経強膜CPCにより眼圧が約60%低下するとの報告がある。永久的デバイスが残らないためインプラント露出や眼内炎のリスクが低い利点がある一方、複数回の処置を要する場合があり、過度の毛様体損傷は低眼圧・眼球癆のリスクがある。結膜瘢痕が高度なII型KProや結膜切除例では特に有用な選択肢である。
KPro移植眼では眼圧が適切にコントロールされていても視神経障害が進行する場合がある。炎症性サイトカインによる網膜神経節細胞への直接損傷・アポトーシス、およびインプラントによる強膜剛性変化が篩状板レベルで視神経に生体力学的損傷を与える可能性が指摘されている。視神経乳頭と視野の定期的なモニタリングが不可欠である。
ホーム眼圧計(iCare Home)ではGoldmann圧平眼圧計との一致率が91%(5 mmHg以内)と報告されているが、6人に1人は適切に使用できず患者選択と教育が重要である6)。コンタクトレンズ型IOPセンサー(Triggerfish CLS)は24時間のIOP変動パターンを外来環境で測定可能である6)。また、bimatoprost前房内インプラント(2020年FDA承認)などの持続的薬物送達システムも開発されている6)。
KPro移植眼の緑内障治療は薬物療法・緑内障ドレナージデバイス(GDD)・毛様体光凝固術(CPC)の3つが柱である。薬物療法では房水産生抑制薬が優先され、プロスタグランジン製剤は黄斑浮腫のリスクがあるため避けられる。緑内障ドレナージデバイスではAhmed緑内障バルブが最も広く使用され、KPro手術前または同時の設置が推奨される。結膜瘢痕が高度な場合はCPCが有用な代替手段となる。
ボストン型2型人工角膜(BK2)は、1型では対応困難な末期眼表面疾患に対する人工角膜である。涙液層の完全消失、眼表面の角化、瞼球癒着を伴う重症例が適応となる7)。1型は良好な湿潤眼表面と正常な眼瞼機能を前提とするのに対し、2型は永久的な眼瞼縫合を行い、延長されたPMMA製光学ステムが閉鎖した眼瞼の間から突出する構造をとる7)。
BK2の基本構造はPMMA製前面プレート・光学部、チタン製背面プレート(クリックオン機構)、およびドーナツ型に加工したドナー角膜から成る。光学ステムはBK1より長く、永久的眼瞼縫合を貫通するよう設計されている7)。レンズ度数は眼軸長に応じた偽水晶体眼用と無水晶体眼用がある。
| 時期 | 設計名 | 主な改良点 |
|---|---|---|
| 1992年 | スクリューイン | 初代FDA承認モデル |
| 2003年 | スナップオン | Cリング追加で損傷軽減 |
| 2005年 | チタン背面 | PMMA→チタン変更 |
| 2009年〜 | クリックオン | レーザーカットロック |
代表的な適応疾患は粘膜類天疱瘡(MMP)およびスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症である。化学外傷後の重度眼表面瘢痕、シェーグレン症候群、重度の神経麻痺性角膜症も対象となる。患者選択基準として、視力が20/400未満、他眼の視力が20/40以下、進行した緑内障や網膜疾患が除外されていること、光覚が保たれていることが求められる7)。一度に片眼のみに施行し、もう一方の眼は予備として温存する。
術後に20/200以上の視力を維持できない予後不良因子として、旧モデル(スクリューイン型)の使用、術中の緑内障ドレナージデバイス同時植え込みの欠如、術前の免疫抑制療法の未実施が報告されている。
全身麻酔下で施行される。経扁平部硝子体切除術(PPV)および緑内障ドレナージデバイス(GDD)の同時植え込みが推奨される。球結膜・円蓋部結膜・瞼結膜・輪部の全表面上皮を鋭的剥離で除去し、ドナー角膜をドーナツ型に加工する。受容側角膜のトレパン、虹彩全切除術・水晶体切除術を施行後、一時的人工角膜下でPPVを行い、BK2を12本の9-0ナイロン結節縫合で固定する。最後に眼瞼前縁を切除して睫毛毛包を除去し、永久的な眼瞼縫合術を行う。
生涯にわたる経過観察と予防的抗菌薬投与が必要である7)。自己免疫疾患や単眼の高リスク患者では抗菌薬の二重カバー(バンコマイシン+ポリミキシンB/トリメトプリム、または第4世代フルオロキノロン併用)が推奨される7)。緑内障ドレナージデバイスの同時植え込みにより緑内障進行率を2%まで低減できるとの報告がある7)。
| 合併症 | BK2報告値 |
|---|---|
| 創口漏出 | 34% |
| 脈絡膜剥離 | 30.3% |
| 義体後膜(RPM) | 10〜60% |
| 硝子体炎 | 23.2% |
| 角膜炎 | 19.6% |
| 硝子体出血 | 16.1% |
| 眼内炎 | 5〜17.9% |
| 緑内障発症/進行 | 8.3〜41.1% |
角膜融解およびステム周囲感染はBK2再手術の最も一般的な原因である。網膜剥離の発生率は10〜28%であり、緑内障とともに不可逆的視力障害の最大の原因となる。
2009年以降のクリックオン設計では89.3%の眼が術後に20/200以上の矯正視力を達成し、そのうち50%以上が48か月以上にわたり同水準を維持している。全モデルを含めた報告では37.5〜83.9%が20/200以上を達成しており、デバイス保持率は50〜90%である。
1型は眼瞼が正常に閉鎖できる患者に使用され、デバイスは角膜面に露出する。2型はスティーブンス・ジョンソン症候群や眼類天疱瘡などで眼表面が高度に障害された患者に使用され、永久的な眼瞼縫合を行いデバイスの先端が眼瞼間から突出する構造である。1型がより広く使用されているが、2型は眼表面が高度に乾燥した末期症例に対する代替選択肢となる。
最新のLuciaデザインではチタン製バックプレートの形状改良により生体適合性が向上し、RPMや実質融解の減少が期待される。眼球癆など従来治療困難とされた病態に対してもKPro-Iと硝子体網膜手術の併用で視力回復が達成されつつある2)。短期間の眼球癆では手術的介入の余地があり、Yanoff-Fine分類Grade IIIまでの症例では視力回復の可能性が示唆されている2)。
スティーブンス・ジョンソン症候群など末期眼表面疾患に対する段階的な眼表面再建(MSGT+MMG+免疫抑制→KPro1)は、従来適応外とされた症例への治療を可能にしている1)。顎下腺移植によるKPro1前の眼表面湿潤化も報告されている1)。
強膜CLはKPro装着眼においても安全に使用可能であり、暴露性角膜症の防止と視力改善の両方に寄与する3)。発展途上国での普及に向けて、患者自身の自己角膜を利用したKPro組み立て法や国際的な価格設定の工夫が進められている。