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角膜・外眼部疾患

小児の眼瞼角結膜炎(BKC)

小児眼瞼角結膜炎(pediatric blepharokeratoconjunctivitis: PBKC)は、眼瞼縁の慢性炎症に続発する結膜炎および角膜炎を特徴とする眼表面疾患である1)。未治療の場合、角膜混濁と不可逆的な視力障害につながりうるため、早期の認識と治療が極めて重要である1)

本疾患は以前、ブドウ球菌性眼瞼角膜炎、フリクテン性角結膜炎、小児酒皶など複数の名称で呼ばれていた1)。最近、専門家パネルにより統一的な定義と診断基準が提唱されている1)マイボーム腺炎が普遍的に認められることから、マイボーム腺炎関連角結膜炎という用語も使用される。

発症は通常生後6か月から思春期までの間であり、4〜5歳での初発ピークと思春期の第2ピークを有する二峰性の発症パターンを示す1)。角膜専門外来への紹介患者の約15%がPBKCと診断される1)。南アジア・中東系の小児で重症化しやすく、米国の研究ではアジア系・ラテン系の小児で発症オッズが白人の2倍であった1)

成人のBKCは通常、酒皶性ざ瘡に関連して記述されるが、小児では角膜病変を伴う頻度がより高く、重症化しやすい傾向がある。

充血、刺激感、掻痒感、流涙、霧視羞明が主症状である1)。これらの症状は非特異的であるため、小児では見逃されやすい1)。再発性の霰粒腫麦粒腫を主訴に受診することも多い。角膜病変を伴う症例では視力低下を呈する。

前部眼瞼炎

眼瞼縁所見: 眼瞼縁前方の鱗屑、痂皮、紅斑が特徴的である1)。睫毛根部にcollarettes(カラーレット)が形成される。

毛細血管拡張: 眼瞼縁の毛細血管拡張を伴う。長期化すると眼瞼縁の肥厚や波状変形を生じうる1)

後部眼瞼炎(MGD)

マイボーム腺変化: 腺開口部の閉塞・隆起が認められる1)。分泌物の圧出試験で混濁した粘稠な分泌物を確認する。

後部眼瞼縁: 毛細血管拡張と瘢痕がみられる。霰粒腫はMGDの原因にも結果にもなりうる。

角膜・結膜所見

結膜: 充血、結膜浮腫、フリクテン(結節性炎症反応)を認める1)

角膜: 点状表層角膜症、辺縁部浸潤、フリクテン、血管新生、パンヌス形成が生じうる1)。角膜瘢痕は通常下方・周辺部に好発するが、重症例では中心部に及ぶ1)。角膜穿孔は稀だが報告がある。

酒皶の皮膚症状(顔面紅斑、毛細血管拡張、丘疹、膿疱)はPBKC患者の20〜50%に認められる。

Q 小児BKCと成人BKCの違いは何ですか?
A

小児BKCは成人と比較して角膜病変を伴う頻度が高く、より重症化しやすい傾向がある。これは細菌抗原に対する小児の未熟な適応免疫応答が過剰反応を引き起こすためと考えられている。また小児では視覚発達の臨界期に角膜混濁が生じると弱視を招くリスクがあり、弱視の管理も必要となる1)。成人のBKCは通常、酒皶と関連して記述される。

PBKCの病因はマイボーム腺機能不全(MGD)、ブドウ球菌性眼瞼炎、異常な細菌定着、免疫調節障害、血管新生が複合的に関与する多因子性疾患である1)

MGDではマイボーム腺導管の過角化、腺萎縮、分泌物の質的変化が生じ、ドライアイと眼瞼縁の慢性炎症を惹起する1)。ブドウ球菌性眼瞼炎ではCutibacterium acnes、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、コリネバクテリウムなどがTNF-α、IL-1、IL-6、IL-8などの炎症性サイトカイン放出とTLR-2経路の活性化を刺激する1)。細菌のリパーゼは遊離脂肪酸を放出し、涙液層を不安定化させる1)

デモデックスも毛包への直接的損傷や細菌叢の変化を介してPBKCに関与する可能性がある1)。デモデックス陽性患者ではデモデックス陰性患者と比較して眼瞼縁炎症とMGDがより顕著であったとされる1)

リスク因子には衛生不良、食事・環境因子、デモデックス寄生、アトピー素因、脂漏性皮膚炎が含まれる1)。重症化の指標である角膜病変のリスク因子として、女性、左右非対称性、高年齢での診断、羞明の存在が報告されている。

Q デモデックスは小児BKCにも関与しますか?
A

関与が示唆されている1)。デモデックスは毛包や皮脂腺に寄生する外部寄生虫であり、直接的な組織損傷や細菌叢のバランス変化を介して眼表面の炎症を助長しうる1)。小児でもデモデックス陽性例では眼瞼縁炎症やMGDがより重症であったとの報告がある1)。ティーツリーオイル誘導体やイベルメクチンが治療に用いられる。

PBKCの診断は主に臨床所見に基づく1)。最近、専門家パネルにより統一的な診断基準が策定され、眼瞼・結膜・角膜の各解剖学的領域から少なくとも1つの症状または徴候が必要とされている1)

病歴聴取では持続期間、再発の有無、両眼性か片眼性かを確認する。既往歴(アトピー、酒皶、再発性霰粒腫)と家族歴も重要である。身体診察では酒皶徴候の確認のため皮膚診察を行う。

細隙灯顕微鏡検査で前部眼瞼縁(鱗屑、collarettes)、後部眼瞼縁(MGD所見)、マイボーム腺分泌物、結膜(フリクテン、充血)を評価する1)フルオレセイン染色による涙液層破壊時間(TBUT)測定と角膜上皮障害の評価を行う。

乳幼児を含む小児のマイボーム腺構造の評価には赤外線マイボグラフィが有用である。年長児では二次的ドライアイの評価にシルマー試験を用いることもできる。

鑑別診断として春季カタル(VKC)とアトピー性角結膜炎(AKC)が最も重要である。VKCは幼児期発症で自然軽快傾向があり上眼瞼結膜を侵す。AKCはより慢性的で下眼瞼結膜を侵す。単純ヘルペス角膜炎は片側性の角結膜炎、角膜知覚低下、樹枝状潰瘍で鑑別する。

調節麻痺下屈折検査は二次的な屈折変化や弱視の評価に必須であり、定期的に実施する。

PBKCの治療目標は、(1)眼瞼縁と眼表面の炎症制御、(2)異常な細菌定着の抑制、(3)角膜障害の予防と回復、(4)症状緩和である1)。集学的治療が不可欠である。

MGDの改善が治療の第一歩であり、温罨法・眼瞼マッサージ・眼瞼洗浄を含むリッドハイジーンが基本となる1)。温水タオルや電子レンジ対応ヒートパックを用いた温罨法の後、綿棒や指で垂直方向のマッサージを行いマイバムを圧出する1)。PBKCの慢性的な性質から、リッドハイジーンは無期限に継続すべきである1)

分類薬剤用法
局所抗菌薬エリスロマイシン軟膏1)1日1〜2回
局所抗菌薬アジスロマイシン点眼1)1日2回
局所ステロイドプレドニゾロン1)急性期1日4回
低力価ステロイドロテプレドノール1)2)長期管理向け
免疫調節薬シクロスポリンA1)1日2回以上

全身抗菌薬

マクロライド系: 全年齢の小児に使用可能であり8歳未満の第一選択である1)。エリスロマイシンは500〜660 mg/日を2〜3分割で7〜12か月投与する1)。アジスロマイシンは5〜10 mg/kg/日で4〜6週間投与し、組織移行性と半減期の面で優れる1)

テトラサイクリン系: 歯牙着色のリスクから9〜12歳以上の歯列完成後に限定して使用する1)ドキシサイクリン50〜100 mgを1日1〜2回投与する1)。カルシウム結合親和性が低くテトラサイクリン系の中では歯牙着色リスクが最も低いとされる1)

ステロイド配合剤と免疫調節薬

LE/T配合剤: ロテプレドノール0.5%/トブラマイシン0.3%配合剤はデキサメタゾン/トブラマイシン配合剤と同等の有効性を示しながら、眼圧上昇リスクが有意に低い2)。成人のBKC治療での有用性が確立されている2)

シクロスポリンA: 0.05〜2%の濃度で眼表面炎症の制御と角膜血管新生の退縮に有効である1)。ステロイド離脱時の再燃を防ぐ長期管理薬として使用される1)。タクロリムス0.03%も有効との報告がある1)

補助療法として防腐剤フリー人工涙液による涙液補充、亜麻仁油を中心としたオメガ3脂肪酸の摂取が推奨される1)。弱視のモニタリングと治療(調節麻痺下屈折検査、眼鏡・遮蔽療法)も管理の重要な柱である1)

Q 8歳未満の小児ではどの抗菌薬が推奨されますか?
A

8歳未満の小児ではマクロライド系抗菌薬が第一選択となる1)。エリスロマイシン(10〜40 mg/kg/日、または500〜660 mg/日を2〜3分割)やアジスロマイシン(5〜10 mg/kg/日)が使用される1)。アジスロマイシンはバイオアベイラビリティと半減期が優れ、現在ではエリスロマイシンよりも好まれる1)。テトラサイクリン系は歯牙着色のリスクがあるため、少なくとも9〜12歳で歯列完成後に限定して使用すべきである1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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PBKCの病態はMGD、細菌性眼瞼炎、免疫調節障害、血管新生の複合的な相互作用により成立する1)

MGDでは導管上皮の過角化とマイバムの粘稠度上昇により導管閉塞が生じ、腺萎縮と分泌低下を招く1)。涙液脂質層の欠乏は蒸発亢進型ドライアイと眼表面の上皮障害を引き起こす1)

細菌性眼瞼炎ではC. acnes、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、コリネバクテリウムなどが眼表面に定着する1)。これらの細菌はTNF-α、IL-1、IL-6、IL-8、粘膜類天疱瘡-9などの炎症性メディエーターの放出を促し、TLR-2経路を活性化する1)。細菌のリパーゼにより遊離脂肪酸が生じ、涙液層の不安定化を助長する1)

さらに細菌細胞壁抗原(プロテインA、テイコ酸)に対するIV型遅延型過敏反応や、ブドウ球菌外毒素(α・β・γヘモリシン)の直接毒性による組織障害も病態に関与する。小児では細菌抗原に対する適応免疫応答が未熟で過剰反応しやすく、成人より角膜病変を生じやすい原因の一つと考えられている。

デモデックスは毛包や皮脂腺に寄生する外部寄生虫であり、直接的な組織損傷に加え、細菌のディスバイオーシス(菌叢異常)を引き起こし眼表面炎症を増悪させる可能性がある1)。これらの炎症メカニズムの累積効果が適切に管理されなければ、視力を脅かす角膜瘢痕に至る1)

新診断基準の確立: 2024年にPBKCの統一的な定義と診断基準が専門家パネルにより策定された1)。眼瞼・結膜・角膜の各領域から症状または徴候が必要という基準であり、診断の標準化が期待される1)

Lotilaner点眼液: デモデックス眼瞼炎に対するFDA承認済みの初の治療薬として注目されるが、小児での臨床試験はまだ実施されていない1)。今後の小児試験の結果が待たれる。

IPL療法: 成人でのMGDおよびBKCに対するIPL療法の有効性が報告されている1)。小児においても霰粒腫治療や中等度〜重度の眼瞼炎治療への安全性と有効性を示唆する予備的報告がある1)

角膜瘢痕への新治療: アンジオテンシンII受容体拮抗薬であるロサルタンの点眼が角膜瘢痕治療の新たな候補として研究されている1)。ウサギモデルで筋線維芽細胞の活性を阻害し角膜瘢痕を抑制する効果が示されている1)。PBKC治療後に残存する中心部角膜瘢痕に対する長期治療への応用が期待される。

腸-眼マイクロバイオーム: 腸内細菌叢と眼科疾患の関連が注目されており、腸-眼マイクロバイオータ軸の存在が示唆されている1)。PBKCとの直接的な関連は未確立だが、今後の研究対象として有望な領域である1)

Wangらは「PBKCの管理は多次元的であり、リッドハイジーン、局所抗菌・抗炎症治療、重症例への全身治療、食事療法、弱視管理を包括的に行い、しばしば集学的ケアを必要とする」と述べている1)

Q IPL療法は小児BKCに使用できますか?
A

IPL療法は成人のMGDやBKCに対して有効性が確立されつつあるが、小児への適用はまだ限定的である1)。小児の霰粒腫治療でIPLが温罨法より優れていたとする報告や、中等度〜重度の小児眼瞼炎への安全性を示唆する報告がある1)。しかし十分な臨床データの蓄積はなく、今後の大規模研究の結果が必要とされている。

  1. Wang C, Zeng A, Saeed HN, Djalilian AR, Mocan MC. Advances in the Medical Management of Pediatric Blepharokeratoconjunctivitis. Adv Ther. 2026;43:109-126.
  2. Mah FS, Karpecki PM. Review of Loteprednol Etabonate 0.5%/Tobramycin 0.3% in the Treatment of Blepharokeratoconjunctivitis. Ophthalmol Ther. 2021;10(4):859-875.

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