前部眼瞼炎
ブドウ球菌性: 眼瞼縁の発赤・浮腫と毛細血管拡張が特徴的である。睫毛根部を取り囲む硬い鱗屑(collarettes)を形成する。睫毛脱落(睫毛禿)や睫毛乱生を生じうる。角膜にはフリクテンや浸潤を認めることがある。
脂漏性: 発赤や浮腫はブドウ球菌性より軽度だが、睫毛への油性の鱗屑付着が目立つ。複数の睫毛が束状になる「脂漏性睫毛」が特徴的な所見である。

眼瞼炎は眼瞼縁を中心とした炎症性疾患である。あらゆる年齢層・民族に発症し、眼科領域で最も頻度の高い疾患の一つとされる。通常は視力を直接脅かさないが、重症化すると角膜上皮障害や角膜新生血管を生じうる。
解剖学的位置により前部眼瞼炎と後部眼瞼炎に大別される。前部眼瞼炎は睫毛根部から皮膚側の炎症であり、ブドウ球菌性と脂漏性に分類される。後部眼瞼炎はマイボーム腺とその開口部の異常が主体で、主因はマイボーム腺機能不全(MGD)である3)。両者はしばしば重複して存在する。
さらにデモデックス(毛包虫)の寄生に関連した眼瞼炎も重要な病型である1)。慢性眼瞼炎患者の約30%にデモデックスの寄生が認められ、難治性症例では駆虫を目的とした治療が奏効する場合がある。
米国の調査では受診患者の37〜47%に眼瞼炎の徴候が認められた。慢性眼瞼炎患者の平均年齢は50歳前後であり、ブドウ球菌性は比較的若年(平均42歳)で女性に多い。デモデックス関連眼瞼炎は60歳以上の80%以上、70歳以上では100%近くに達するとされる1)。
慢性眼瞼炎の主症状は眼瞼の灼熱感、異物感、掻痒感である。充血、流涙、眼脂、霧視、羞明を伴うこともある。症状は朝方に悪化しやすく、増悪と寛解を繰り返す。デモデックス関連では夜間〜早朝の掻痒感が特徴的である1)。
デモデックス眼瞼炎は患者のQOLへの影響も大きい。80%の患者が日常生活に支障を感じ、夜間運転困難(47%)やコンタクトレンズ・化粧の制限(34%)を訴えるとされる1)。
前部眼瞼炎
ブドウ球菌性: 眼瞼縁の発赤・浮腫と毛細血管拡張が特徴的である。睫毛根部を取り囲む硬い鱗屑(collarettes)を形成する。睫毛脱落(睫毛禿)や睫毛乱生を生じうる。角膜にはフリクテンや浸潤を認めることがある。
脂漏性: 発赤や浮腫はブドウ球菌性より軽度だが、睫毛への油性の鱗屑付着が目立つ。複数の睫毛が束状になる「脂漏性睫毛」が特徴的な所見である。
後部眼瞼炎(MGD)
マイボーム腺の変化: 腺開口部の閉塞・拡張・配列の乱れを認める3)。瞼板圧迫により黄色の液状物や固化した内容物が圧出される。分泌物は正常より混濁し粘稠度が高い。
随伴所見: 後部眼瞼縁の毛細血管拡張と瘢痕がみられる。霰粒腫はMGDの原因にも結果にもなりうる。酒皶性皮膚炎の合併が多い。
デモデックス眼瞼炎
病的徴候: 睫毛根部の円柱状フケ(collarettes)が病的意義の高い所見である1)2)。結膜充血、眼瞼縁の発赤・腫脹・毛細血管拡張を伴う。過度の睫毛脱落もみられる。
角膜合併症: 小児例では角膜潰瘍・新生血管を伴う重症角膜炎を生じることがある2)。5歳・13歳・14歳の症例で角膜炎が報告されている2)。
collarettesは睫毛根部を取り囲むように形成される鱗屑(フケ状の付着物)である。ブドウ球菌性眼瞼炎では眼瞼縁の潰瘍部に形成されたフィブリンが睫毛の成長とともに持ち上げられて生じる。デモデックス眼瞼炎では円柱状フケ(cylindrical dandruff)とも呼ばれ、病的意義の高い所見として診断の手がかりとなる1)2)。
眼瞼炎の病因は多因子性であり、完全には解明されていない。病型ごとに異なる機序が関与する。
ブドウ球菌性眼瞼炎は眼表面のブドウ球菌増殖に関連する。患者の46〜51%で黄色ブドウ球菌の培養が陽性であり、健常者の8%と比較して著明に高い。Moraxellaは眼角眼瞼炎の原因として重要である。
脂漏性眼瞼炎は脂漏性皮膚炎との合併が高頻度であり、患者の95%に脂漏性皮膚炎が認められたとの報告がある。酒皶性皮膚炎は全タイプの眼瞼炎患者の20〜42%に報告されている。
MGDの発症にはマイボーム腺導管の過角化と分泌物の粘稠度上昇が関与する3)。加齢、性別、ホルモン変動、薬剤使用などの影響を受ける3)。
デモデックスは皮脂腺・毛包・マイボーム腺に寄生し、排泄物や分泌物が毛包の閉塞と炎症を惹起する1)。IL-1βやIL-17などの炎症性サイトカインと粘膜類天疱瘡-9が活性化される1)。さらにデモデックスは黄色ブドウ球菌やAcinetobacterなどの細菌のベクターとしても機能しうる1)。リスク因子には高齢、糖尿病、酒皶、飲酒、喫煙、日光曝露、ステロイド使用、免疫抑制状態が含まれる1)。
ドライアイとの関連も重要である。ブドウ球菌性眼瞼炎患者の50%にドライアイが認められる。MGD患者でもドライアイの併発率は25〜40%に達し、涙液油層の不足による蒸発亢進が主因と考えられている3)。
両疾患は密接に関連している。MGDによる涙液油層の質的・量的低下は蒸発亢進型ドライアイの主因である3)。一方、涙液減少に伴うリゾチームや免疫グロブリンの低下はブドウ球菌性眼瞼炎の発症を助長する。眼瞼炎治療とドライアイ治療は併行して行う必要がある。
眼瞼炎の診断は病歴聴取と細隙灯顕微鏡検査に基づく。まず発症の急性・慢性、片眼性・両眼性、有痛性・無痛性を確認する。全身疾患(アトピー、酒皶、糖尿病など)の合併も問診する。
細隙灯顕微鏡で眼瞼縁の状態を詳細に観察する。前部眼瞼の鱗屑・collarettes・毛細血管拡張、後部眼瞼のマイボーム腺開口部の閉塞や分泌物の性状を評価する。
涙液層破壊時間(TBUT)の測定は涙液安定性の評価に有用である。フルオレセイン染色後に10秒未満であれば涙液層の不安定性を示唆する。
デモデックスの検出には抜去睫毛の顕微鏡検査を行う2)。Leeらの報告では上下各4本の睫毛を抜去し光学顕微鏡下でDemodex folliculorumの成虫・幼虫を同定している2)。
重度の再発性前部眼瞼炎や治療抵抗例では眼瞼縁の細菌培養が適応となる。角結膜上皮障害の合併有無も確認する。顕著な左右非対称や治療抵抗性の霰粒腫では悪性腫瘍除外のため眼瞼生検を考慮する。
涙液浸透圧測定は併発するドライアイの診断に有用であり、316 mOsm/L以上で感度59%・特異度94%と報告されている。
眼瞼炎は慢性疾患であり、治療の基本は症状と炎症徴候のコントロールである。完治を示す強力なエビデンスはなく、長期管理が必要となる。
治療の第一歩は温罨法・眼瞼マッサージ・眼瞼洗浄(リッドハイジーン)である3)。温罨法を1日2〜4回数分間適用し、付着した鱗屑やマイボーム腺分泌物を軟化させる3)。その後、垂直方向の眼瞼マッサージで分泌物を圧出する。眼瞼縁の洗浄には専用の洗浄液の使用が望ましい。急性増悪が治まった後も継続が必要である。
薬物療法
局所抗菌薬: バシトラシンやエリスロマイシン眼軟膏を就寝前に眼瞼縁に塗布する。2〜8週間使用する。
経口抗菌薬: テトラサイクリン系やマクロライド系薬剤を用いる。テトラサイクリンは1,000 mg/日から250 mg/日に漸減し、ミノサイクリンは200 mg/日から100 mg/日に減量する。抗炎症・脂質調節作用を目的とする。
局所ステロイド: 0.1%フルオロメトロンを抗菌点眼薬と併用し短期間使用する。眼圧上昇や白内障のリスクを最小限とするため最短使用期間とする。
人工涙液: 蒸発亢進型・涙液減少型のドライアイ併発例で補助的に使用する。1日4回以上の場合は防腐剤フリー製剤を選択する。
デモデックスの治療
ティーツリーオイル(TTO): 主成分テルピネン-4-ol(T4O)がアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を示し殺ダニ効果を発揮する1)。5〜50%の濃度で使用される1)。50%TTOの週1回眼瞼清拭と0.4%PHMBの毎日清拭を6週間行い全例改善した報告がある2)。
抗寄生虫薬: イベルメクチンとメトロニダゾールの併用が最も効果的とされる1)。イベルメクチンは寄生虫のGABA受容体に作用し麻痺を誘導する1)。メトロニダゾールはニトロラジカルによりDNA損傷を引き起こす1)。
| 治療法 | 機序 | 特徴 |
|---|---|---|
| TTO | AChE阻害1) | 広く入手可能 |
| イベルメクチン | GABA受容体阻害1) | 併用が効果的1) |
| メトロニダゾール | DNA損傷1) | 経口・外用 |
MGDに対しては温罨法とリッドハイジーンに加え、マイボーム腺内の細菌除菌を目的としたクラリスロマイシンなどマクロライド系薬剤の内服が奏効する場合もある。これらの薬剤は細菌の産生する酵素活性の抑制やバイオフィルム形成の阻害により効果を発揮すると考えられている。ジクアホソル点眼薬はP2Y₂受容体を介してマイボーム腺分泌を促進し、初期のMGDに有用とされる。
基本は温罨法・眼瞼マッサージ・眼瞼洗浄の3つである3)。まず清潔なタオルやアイマスクを温めて眼瞼に5〜10分当て、分泌物を柔らかくする。次に上下の眼瞼を垂直方向にやさしくマッサージし、マイボーム腺の分泌を促す。最後に専用の洗浄液で睫毛根部を丁寧に清拭する。急性期が治まった後も毎日の継続が重要である。
ブドウ球菌性眼瞼炎の発症には細菌毒素による直接的な眼表面刺激と、黄色ブドウ球菌に対する細胞性免疫の亢進が関与すると考えられている。細菌の外毒素は隣接する角結膜上皮に点状上皮障害を引き起こしうる。
MGDの本質はマイボーム腺終末導管の閉塞である3)。導管上皮の過角化とマイバム(マイボーム腺分泌物)の粘稠度上昇により閉塞が進行する3)。閉塞は腺の脱落・萎縮・分泌低下につながる3)。涙液脂質層は外側の非極性層と内側の極性層から構成され、蒸発防止と光学的表面の平滑化に寄与する3)。脂質供給の低下は蒸発亢進型ドライアイと涙液浸透圧上昇を引き起こす3)。
さらに脂質層の構成変化も病態に関与する。セラミドやコレステロールの増加がマイボーム脂質膜の破壊・不安定化をもたらすことが示されている3)。細菌のリパーゼがマイボーム腺脂質に作用して遊離脂肪酸を産生し、これが炎症を惹起してさらなる腺閉塞を生じる悪循環が形成される。
デモデックスの寄生においては、ダニの排泄物と分泌物が毛包の物理的閉塞を引き起こすとともに、宿主の過敏反応を活性化する1)。IL-1β、IL-17などの炎症性サイトカインと粘膜類天疱瘡-9が誘導される1)。近年、D. folliculorumが黄色ブドウ球菌、Acinetobacter baumannii、Streptococcus pneumoniaeなどの細菌のベクターとして機能し、眼表面の重複感染を助長する可能性が報告されている1)。
デモデックス関連眼瞼炎に対する新規治療の開発が近年活発に進められている。
Lotilaner点眼液0.25%(XDEMVY) はイソキサゾリン化合物であり、デモデックスのGABA受容体とグルタミン酸活性化塩素チャネルを阻害し痙性麻痺を誘導する1)。第3相臨床試験(Saturn-2試験、412例)では、1日2回6週間点眼によりcollarettes消失率56%、ダニ駆除率51.8%、紅斑消失率31.1%が達成された1)。90.7%の参加者が良好な忍容性を報告し、副作用は灼熱感や軽度の視力低下など軽微であった1)。米国FDAにより承認済みであるが、欧州での承認は2027年頃が見込まれる1)。
IPL(Intense Pulsed Light)療法 は広帯域光を照射し光熱分解作用でダニを不動化・死滅させる1)。in vitro実験ではダニの温度が約49℃に上昇し死滅が確認されている1)。4回のIPL治療後にOSDI、涙液脂質層、TBUT、マイボーム腺分泌の有意な改善とダニ数の減少が報告された1)。TTO単独と比較して1か月後の改善がより迅速かつ顕著であったとする報告もある1)。
ブレファロエクスフォリエーション(BlephEx) は回転式マイクロスポンジで眼瞼縁のデブリ・ダニ・collarettesを機械的に除去する方法である1)。細菌バイオフィルムの破壊効果も期待される1)。TTOとの併用でOSDIパラメータとダニ数の有意な改善が報告されているが、長期有効性の検証にはさらなる研究が必要である1)。
天然精油の探索も進んでおり、セージオイルは7分以内、ペパーミントオイルは11分以内にダニを死滅させることが報告されている1)。ヒマシ油、ベルガモットオイル、ニゲラ種子オイルの相乗効果も検討されている1)。
Czepińska-Myszuraらは「新規治療のうち大規模臨床試験で高い有効性が実証されているのはLotilaner点眼液のみであり、IPLやブレファロエクスフォリエーションは限定的な患者群での検証にとどまる」と述べている1)。
Leeらは9例のデモデックス眼瞼炎を解析し、全例がD. folliculorumであったこと、小児例(5歳・13歳・14歳)でも角膜潰瘍や新生血管を伴う重症角膜炎を呈したことを報告している2)。小児のデモデックス感染は見逃されやすく、再発性の角膜炎ではデモデックスの鑑別が重要である2)。
2025年時点でLotilaner点眼液0.25%(XDEMVY)は米国FDAにより承認されているが、日本および欧州では未承認である1)。欧州では2027年頃の承認が見込まれている1)。日本での承認時期は未定であり、現時点ではTTOや抗寄生虫薬による治療が主体となる。