コンテンツにスキップ
角膜・外眼部疾患

老人環

老人環(arcus senilis)は老年環(gerontoxon)、脂質環(arcus lipoides)、角膜環(arcus cornae)とも呼ばれる。周辺部角膜実質への脂質沈着による環状混濁であり、周辺部角膜混濁の中で最も一般的な所見である。

加齢に伴う角膜の脂肪変性に分類される。60歳以上の70%以上にみられ、80歳以上ではほぼ全例に認められる。

40歳未満の若年者に同様の所見が出現する場合は若年環(arcus juvenilis)と呼ばれる。若年環は脂質異常症との関連がより強く、家族性高コレステロール血症の精査が推奨される。沈着物の主成分はコレステロールとリン脂質であり、輪部血管からの漏出に由来する。

Q 老人環があると視力に影響するか?
A

老人環は角膜周辺部に生じ視軸にかからないため、視力障害は生じない。治療も不要である。ただし、顕著な老人環は白内障手術などの際に術野の視認性を低下させることがある。

老人環の臨床写真
老人環の臨床写真
Zech LA Jr, Hoeg JM, Sprecher DL, et al. Correlating corneal arcus with atherosclerosis in familial hypercholesterolemia. Lipids Health Dis. 2008 Mar 10;7:7. Figure 1. PMCID: PMC2279133. License: CC BY.
角膜周辺に灰白色の輪状混濁が取り巻く老人環を示す。輪部との間に透明帯が保たれ、脂質沈着が周辺部から帯状に広がっている。

老人環は通常無症状であり、眼科検診時に偶然発見されることが多い。まれに家族や周囲の人が角膜周辺部の白い環に気づくことがある。

臨床所見(医師が確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が確認する所見)”

細隙灯顕微鏡検査で以下の所見を確認する。

  • 環状混濁:幅約1mmの艶消し白色〜黄白色の帯状混濁。角膜輪部付近に形成される。
  • 進行パターン:角膜下方から出現し始め上方にも及び、円周方向に進行して全周性となる。垂直方向の方が水平方向より幅が広い傾向がある。
  • 透明帯(lucid interval):角膜輪部と老人環の間に透明帯が残存する。周辺側の境界は明瞭であるが、中心側の境界はびまん性で不鮮明である。

老人環の主な原因は加齢に伴う角膜輪部血管の透過性亢進であり、低比重リポタンパク質(LDL)が角膜実質に漏出・沈着する。

主なリスク要因を以下に示す。

  • 加齢:最も重要な因子である。
  • 男性:女性より出現が早い傾向がある。
  • 高脂血症・脂質異常症:血清トリグリセリド、総コレステロール、LDLの上昇と関連する。
  • 家族性高コレステロール血症(FH):50歳未満のFH患者の約30%に角膜環が出現し、診断的価値が高い。眼瞼黄色腫を合併することがある。
  • 喫煙・収縮期高血圧:動脈硬化関連の危険因子。
  • 全身性脂質代謝異常:LCAT欠損症、Fish eye disease、Tangier病なども原因となりうる。

老人環と心血管疾患(CVD)の関連については研究結果が一致していない。

シンガポールの横断的研究(3,397人、40〜80歳)では、老人環は他のリスク要因とは独立してCVDと関連していた(OR 1.31; 95% CI 1.02–1.7)。

デンマークの前向きコホート研究(12,745人、平均22年追跡)では、老人環にCVDの予測因子としての臨床的価値はないと結論された。

Lipid Research Clinics死亡率追跡調査では、老人環がCVDと関連していたのは30〜49歳の高脂血症男性のみであった(CVD死亡RR 4.0; 95% CI 1.2–12.9)。

Q 若い人に老人環が見つかった場合どうすべきか?
A

40歳未満で老人環(若年環)が出現した場合は、家族性高コレステロール血症をはじめとする脂質異常症の精査が推奨される。空腹時の脂質プロファイル検査を行い、異常があれば内科的精査・治療につなげることが重要である。

老人環は臨床診断であり、細隙灯顕微鏡検査で確定する。画像検査や病理検査は不要である。

以下の場合は追加検査を考慮する。

  • 若年環(40歳未満):空腹時脂質プロファイル(コレステロール、LDL、トリグリセリド)、リポタンパク質(a)の測定。家族性高コレステロール血症のスクリーニング。
  • 片側性の老人環:頸動脈疾患の精査(頸動脈エコーなど)。
  • 偽老人環(pseudogerontoxon):再発性の角膜縁疾患に伴い、角膜縁隣接部に生じる表層瘢痕帯。上輪部角結膜炎の既往がある場合にみられることがある。
  • テリエン角膜周辺部変性:微細な黄白色の実質混濁を呈するが、進行性の角膜菲薄化を伴う点で異なる。
  • Schnyder角膜ジストロフィ:20歳頃から老人環様の輪部混濁を呈する。中央部にも結晶状混濁を伴うことがある。
Q 老人環と脂質角膜症の違いは何か?
A

老人環は輪部血管からの脂質漏出による加齢性変化であり、角膜新生血管を伴わない。一方、脂質角膜症は角膜新生血管に続発して生じ、新生血管からの脂質漏出が原因である。両者は脂質沈着という共通点があるが、発症機序と臨床的意義が異なる。

加齢に伴い角膜輪部血管の透過性が亢進し、LDLが周辺部角膜実質に漏出・蓄積する。沈着物は主にDescemet膜とBowman膜の2層に集中し、Descemet膜側により多い。

組織学的には以下の特徴がある。

  • 細胞数の増加、層板の断片化は認められない。
  • 食作用や異常な血管新生もみられない。
  • 組織壊死や萎縮は生じない。

脂質沈着は角膜に限定されず、毛様体、毛様体突起、虹彩にも認められることがある。

片側性の老人環は、反対側の頸動脈狭窄により患側への血流が低下し対側眼のみに老人環が出現する現象として知られる。眼低血圧や頭蓋自律神経調節障害との関連も報告されている。


老人環に対する特異的な眼科的治療は不要である。視力障害を生じないため、通常の眼科定期検診で経過観察する。

若年環の場合は原因となる脂質異常症の内科的治療が全身管理として重要であるが、角膜所見自体への治療は行わない。

予後は良好であり、視力および眼球の健康に影響を及ぼすことはない。

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます