この術式の要点
羊膜移植は、ヒト羊膜を用いた眼表面再建術である。
羊膜は抗炎症・抗線維化・抗血管新生・創傷治癒促進作用を有し、抗原性が低い優れた生体補助材料である。
術式はグラフト法(基質供給)、カバー法(上皮保護)、スタッフ法(組織充填)の3種に大別される。
再発翼状片 、化学熱傷、Stevens-Johnson症候群 、遷延性上皮欠損、角膜 穿孔などが適応となる。
日本では2014年に保険収載され、認定バンクからの羊膜供給と認定術者による実施が必須である。
重症ドライアイ に対する凍結保存羊膜や乾燥羊膜の外来治療も報告されている。
羊膜は妊婦の子宮内で胎児と胎盤を包む薄い生体膜である。絨毛膜・脱落膜とともに卵膜を構成する。羊膜の基底膜は生体内で最も厚く、適度な弾力性と伸展性を有し生体適合性に優れている。
羊膜移植(amniotic membrane transplantation; AMT)は、この羊膜を眼表面に移植し角膜・結膜 の再建を図る術式である。眼科領域では1940年にDe Rothが化学熱傷による眼瞼癒着に対して初めて報告した。1995年にTsengらが家兎眼 で眼表面再建における羊膜移植の有効性を示したことを契機に、国内外で広く普及した。
日本では臨床研究と高度医療制度を経て、2014年(平成26年)に保険収載された。羊膜移植は以下の3つの方法に大別される。
羊膜グラフト法 :基質の供給を目的とする。
羊膜カバー法(パッチ法) :上皮欠損の被覆を目的とする。
羊膜スタッフ法 :組織欠損部の充填を目的とする。
Q 羊膜は拒絶反応を起こさないのか?
A 羊膜は抗原性が極めて低く、拒絶反応を誘発しない優れた生体補助材料である。HLAマッチングなしに使用可能であり、角膜移植 とは異なる利点を有する。
羊膜移植の適応は多岐にわたる。原則として、他の治療法では十分な効果が期待できない眼表面疾患が対象となる。
再発翼状片 :瞼球癒着 を合併した再発例で特に有用。広範囲の結膜欠損部を羊膜グラフトで被覆する。マイトマイシンC(MMC)術中塗布との併用が多い。
角結膜化学熱傷・熱傷 :急性期の広範囲角結膜上皮欠損に対し、羊膜カバー法で上皮化を促進する。
Stevens-Johnson症候群・眼類天疱瘡 :重症の瞼球癒着や角膜輪部 疲弊症を伴う例に適用される。
結膜腫瘍 :広範切除後の結膜欠損部の再建に用いる。
遷延性角膜上皮欠損 :通常の治療に抵抗する上皮欠損に対し、羊膜カバー法で上皮化を促進する。
角膜穿孔・角膜潰瘍 :羊膜スタッフ法により穿孔部を充填し角膜実質 の代用とする。
角膜輪部疲弊症 :結膜移植片が得られない両眼性の症例で羊膜を代替として用いる。
重症の乾性角結膜炎に対し、凍結保存羊膜の短期装着(2〜7日間)が治療選択肢となりつつある1) 。角膜染色スコア、眼不快感、重症度の有意な改善が報告されている。
羊膜は以下の3層から構成される。
羊膜上皮 :1層の上皮細胞層。
基底膜 :IV型・V型コラーゲンを含む。角結膜上皮に対する良好な基質となる。
絨毛膜 :結合組織層。ぬめりのある組織であり、移植時には必要に応じて除去する。
羊膜が眼表面再建に有用な理由は、以下の多面的な生物学的作用による。
基質としての作用 :基底膜が角結膜上皮の伸展・増殖・分化を促進する。露出強膜 を被覆し、羊膜周辺部に結膜切除縁を乗せておけば良好な上皮化が得られる。
抗炎症作用 :炎症性サイトカインの産生を抑制する。
抗線維化作用 :線維芽細胞の増殖を抑制し、術後の瘢痕形成を軽減する。
抗血管新生作用 :新生血管 の形成を抑制する。
低抗原性 :HLA抗原の発現が極めて低く拒絶反応を誘発しない。
これらの特性により、増殖性結膜疾患の再発や術後瘢痕が懸念される症例で大きな効果を発揮する。マイトマイシンCも同様に線維芽細胞を抑制するが、羊膜はさらに上皮の基質としても作用する点で優れている。
Q 羊膜とマイトマイシンCはどう使い分けるのか?
A 両者とも線維芽細胞の増殖を抑制する作用を有する。翼状片手術では、初発例で若年・肉厚・血管豊富な場合や再発例に対し、マイトマイシンC術中塗布と羊膜移植を積極的に併用する。羊膜は上皮の基質として機能する利点もあり、両者は補完的に作用する。
羊膜移植前後の前眼部写真
Panigrahi S, Swain P, Nanda A, et al. Tenon’s patch graft to the rescue during COVID-19 pandemic. G
MS Ophthalmol Cases. 2023 Mar 1;13:Doc10. Figure 1. PMCID: PMC10073980. License: CC BY.
A は切迫穿孔を伴う Mooren 潰瘍の術前、B は術後1日、C は1か月後である。羊膜移植後に眼表面が再上皮化し、穿孔リスクの高い状態から安定化へ向かう経過を視覚的に示している。
グラフト法
目的 :新しい基質の供給。上皮の正常な伸展を促進。
向き :羊膜上皮側を表面(上)、絨毛膜側を基底(下)。
固定 :8-0バイクリルまたは10-0ナイロンで縫合。
特徴 :ホスト上皮は羊膜上に伸展。移植後の羊膜は除去せず存続させる。
カバー法
目的 :脆弱な角結膜上皮の一時的保護。消炎と上皮化の促進。
向き :羊膜上皮側を角膜面(下)。グラフト法と逆向き。
固定 :輪部周囲に10-0ナイロンで連続縫合。
特徴 :ホスト上皮は羊膜下に伸展。通常1〜2週間後に羊膜を除去。
スタッフ法
目的 :角膜実質欠損部の充填(「つめもの」)。
方法 :羊膜を複数枚重ねて欠損部に充填する(多層羊膜移植)。
特徴 :充填した羊膜は角膜実質線維芽細胞により置換される。
翼状片手術に併用する羊膜グラフト法の基本手順を以下に示す。
羊膜の準備 :保存容器から取り出し、抗菌薬(フロモキセフナトリウム50mg/mL生理食塩水)で洗浄後、生理食塩水に浸す。表裏を確認し余分な絨毛膜を除去する。
表裏の確認(スポンジテクニック) :生理食塩水を含んだスポンジを羊膜に付ける。絨毛膜側ではスポンジに羊膜が付着して持ち上がるが、羊膜上皮側では持ち上がらない。
羊膜の設置と縫合 :羊膜上皮側を表にして強膜上に置き、10-0ナイロンで縫合する。通針時に強膜を穿孔しないよう注意する(強膜の約1/3の深さ)。
トリミング :上下の羊膜をトリミングした後、輪部付近を切除する。縫合部から近い位置でトリミングしないと術後に羊膜が捲れる原因となる。
結膜縫合 :7-0吸収糸で結膜を羊膜および強膜に縫合する。
保護用ソフトコンタクトレンズの装着 :術後疼痛の緩和と上皮再生の促進に用いる。
マイトマイシンC(0.04%、3分間塗布)は羊膜移植に先立ち、増殖組織切除後の強膜上と結膜下に留置する。除去後は200mLの生理食塩水で十分に洗浄する。
抗菌薬およびステロイド 点眼を投与する。ステロイドは少なくとも1か月以上継続し、状態に応じて低力価製剤に変更する。
フルオレセイン染色 で上皮進展の程度を評価する。
角膜上皮欠損部が消失したら保護用コンタクトレンズを除去する。
結膜上皮は数週間で羊膜上に伸展する。
再発が懸念される場合はトラニラスト点眼を長期使用する。
手術における注意点
羊膜の表裏を間違えると上皮の伸展が阻害されます。術中に必ずスポンジテクニックで確認してください。
絨毛膜側が表になった場合、結膜上皮がなかなか伸展せず再手術が必要になることがあります。
強膜への通針時は穿孔に注意してください。針先がうっすら見える程度の深さが目安です。
術後の眼圧 上昇(ステロイド誘発)が最も多い合併症です。定期的な眼圧測定 が重要です。
日本では2014年に羊膜移植が保険収載された。角膜移植が「臓器の移植に関する法律」のもとに実施されるのに対し、羊膜の取扱いは法律の直接の規制下にはなく、日本組織移植学会のガイドラインに従って運用されている。
実施にあたっては以下を満たす必要がある。
術者基準 :日本角膜学会・日本角膜移植学会が定めた羊膜移植ガイドラインに基づき、術者認定を受けていること。
施設基準 :羊膜移植術実施施設として管轄の地方厚生局に届け出ていること。
羊膜供給 :日本組織移植学会の認定バンクから提供された羊膜を使用すること。
日本組織移植学会の認定を受けた施設が運営する。カテゴリーⅠ認定バンクは他施設への供給が可能であり、カテゴリーⅡは自施設のみへの供給となる。認定コーディネーターがドナーへの説明・同意取得・羊膜の処理と検査・保管等の業務を担う。
ドナー羊膜が満たすべき主な要件は以下の通りである。
ドナーは待機的に帝王切開を受ける妊婦
出産予定日前3か月以内の感染症チェック(HBV、HCV、HIV、HTLV-1、梅毒)で陰性
出産後60〜90日のウィンドウピリオドを考慮した再検査で陰性
採取時および冷凍保存1か月後の微生物検査で陰性
−80℃以下で冷凍保存。保存期限は採取から2年以内
Q どの施設でも羊膜移植を受けられるか?
A 羊膜移植は認定術者が在籍する認定施設でのみ実施される。術者は日本角膜学会が定める基準を満たし認定を受ける必要があり、施設も地方厚生局への届出が必要である。
凍結保存羊膜をプラスチックリングに装着したデバイス(PROKERA®)が開発されている1) 。強膜コンタクトレンズ のように眼表面に装着でき、縫合が不要なため外来で施行可能である。羊膜は通常3〜5日で溶解する。重症ドライアイに対する2つの多施設後方視的研究では、装着2〜7日間で角膜染色スコアおよび眼不快感の有意な改善が報告された1) 。
乾燥・ガンマ線滅菌羊膜をバンデージコンタクトレンズとともに使用する方法も報告されている1) 。56眼の後方視的検討では、1〜2週間で角膜上皮びらん の改善が示された。中心部に開口部を設けた大径(17mm)乾燥羊膜も開発されており、装着中の視力低下を軽減する工夫がなされている。
凍結乾燥羊膜 :従来の−80℃冷凍保存に代わり、室温保存が可能な凍結乾燥羊膜の臨床応用が進んでいる。保存・輸送の利便性が大幅に向上する。
薬剤含浸羊膜 :抗真菌薬などを羊膜に含浸させて移植する技術が症例報告レベルで報告されている。
3Dプリント技術の応用 :急性期Stevens-Johnson症候群に対し、3Dプリントリングを用いた迅速な羊膜固定法が開発され、手術時間の短縮が報告されている。
羊膜抽出物点眼 :羊膜から抽出した成長因子等を含む点眼液の研究が進められている。
Craig JP, et al. TFOS DEWS III Management and Therapy Report. Am J Ophthalmol. 2025;279:289-386.
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