妊婦
十分な研究:妊婦を対象とした研究はない
動物実験:催奇形性は認められていない
全身吸収:無視できるほど微量であり胎児への曝露は最小限と予想される

TRYPTYR®(アコルトレモン点眼液0.003%)は、アルコン(Alcon®)社が開発した処方点眼薬である。開発コードはAR-15512であり、2025年5月に米国食品医薬品局(FDA)によりドライアイの徴候および症状の治療薬として承認された1)。
本剤はクラス初のTRPM8受容体作動薬であり、従来のドライアイ治療薬とは異なる神経感覚的アプローチ(neurosensory approach)を採用している。シクロスポリンやリフィテグラストが眼表面の炎症を抑制するのに対し、アコルトレモンは角膜の冷感受容体を刺激して涙液分泌そのものを促進する。
アコルトレモンは一過性受容体電位メラスタチン8(TRPM8)イオンチャネルの強力かつ選択的な作動薬である1)。
TRPM8はC線維およびAδ線維を含む角膜感覚ニューロンに高度に発現する冷感感受性の非選択的陽イオンチャネルである1)。温度の低下、蒸発による冷却刺激、メントールやイシリンなどの化合物によって活性化される。角膜および上眼瞼を支配する温度感覚ニューロンに発現し、涙液分泌の調節に関与している。
アコルトレモンがTRPM8チャネルを活性化すると、ナトリウムおよびカルシウムイオンの流入によりニューロンが脱分極し活動電位が発生する。この信号は三叉神経の眼枝を介して涙腺活動を調節する中枢神経系経路へ伝達される。その結果、炎症カスケードとは無関係に反射的な基礎涙液分泌の増加がもたらされる1)。
涙液機能単位(LFU)の求心路を標的とするため迅速な効果が期待できる。臨床試験では投与1日目から測定可能な涙液量の増加が報告されている。ただし、FDA承認の添付文書では治療効果を発揮する正確なメカニズムの詳細は依然として不明とされている。
既存のシクロスポリンやリフィテグラストは眼表面の炎症を抑制することで間接的に涙液環境を改善する。アコルトレモンは涙液機能単位の求心路(TRPM8チャネル→三叉神経)を直接刺激し涙液分泌を促進する。この神経感覚的メカニズムにより、炎症に依存しない迅速な涙液量増加が可能となる。
アコルトレモン0.003%点眼液の有効性と安全性は2つの枢要試験で検証された。主要評価項目は14日目時点でシルマー試験スコアが10mm以上増加した患者の割合である。
| 評価項目 | COMET-2 | COMET-3 |
|---|---|---|
| 薬剤群 | 42.6% | 53.2% |
| 基剤群 | 8.2% | 14.4% |
いずれの試験でもp < 0.0001と統計学的に有意な差が認められた。効果は少なくとも90日目まで維持された。患者はシルマー試験スコアの客観的改善に加え、主観的症状の緩和も示した。
COMET-2およびCOMET-3試験では90日目まで効果の持続が確認されている。それ以上の長期データは現時点では限られており、長期使用における有効性の持続については今後のデータの蓄積が必要である。
1回1滴を両眼に1日2回、約12時間の間隔を空けて点眼する。無保存剤の滅菌済み単回使用LDPE製バイアル(0.4 mL)を使用し、開封後は残液を廃棄する。
5本入りアルミ袋に包装され、1箱は60本入り(12袋)である。
冷蔵保存(2〜8℃)が基本である。外箱開封後は室温(25℃まで)で最大30日間保管可能である。アルミ袋開封後は7日以内にバイアルを使用する。
最も一般的な副作用は点眼部位の灼熱感またはしみる感じである。患者の約50%で報告されているが、不快感により投与を中止した患者は1%未満であった。過量投与の症例は報告されておらず、全身吸収が無視できる程度であるため全身毒性のリスクは低い。
妊婦
十分な研究:妊婦を対象とした研究はない
動物実験:催奇形性は認められていない
全身吸収:無視できるほど微量であり胎児への曝露は最小限と予想される
授乳婦
母乳移行:ヒトの母乳中への排出の有無は不明である
判断基準:母親に対する利益と乳児に対するリスクを個別に評価する
小児
安全性・有効性:小児集団では確立されていない
使用:小児への使用は現時点では推奨されない
動物実験において、ヒトへの曝露量を大幅に上回る用量でも発がん性、変異原性、生殖能障害の証拠は認められていない。既知の薬物相互作用はない。
灼熱感は一過性であり、不快感による投与中止例は1%未満と極めて少ない。臨床試験において重篤な有害事象の報告はなく、治療コンプライアンスへの影響は限定的と考えられる。
ドライアイはさまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を伴う。治療法には涙液補充療法(人工涙液)、抗炎症療法(シクロスポリン、リフィテグラスト)、涙点プラグなど多様な選択肢が存在する。
アコルトレモンは涙液分泌の神経調節経路を標的とする新規治療薬である。TFOS DEWS IIIの治療ガイドラインにおいても、涙液の回復・刺激(tear restoration or stimulation)のカテゴリーに分類される新しい神経調節(neuromodulation)アプローチとして位置づけられている1)。涙液量の減少を主体とするドライアイに対し、既存の抗炎症療法とは異なるアプローチとして治療選択肢を広げる可能性がある。
2026年3月現在、日本で承認されたTRPM8受容体作動薬は存在しない。日本のドライアイ治療においてはジクアホソルナトリウム(ジクアス®)やレバミピド(ムコスタ®点眼液)など涙液成分の分泌を促進する異なる作用機序の薬剤が使用されている。