真のメラノーマ
Bモード所見:ドーム状またはキノコ状の塊。脈絡膜陥凹、網膜下液を伴う。
Aモード所見:低〜中程度の内部反射、規則的な内部構造、高い音響減衰、血管拍動の存在。
分布:単一象限の病変。特定の解剖学的部位に対応する。

過熟白内障(hypermature cataract)は、成熟白内障が進行し皮質が高浸透圧状態となって水分が流入した、極めて進行した水晶体混濁である。混濁が強度であるため眼底の直接観察が困難となり、眼内構造の評価に超音波検査が必要となる。
この超音波検査において稀に、過熟白内障がぶどう膜メラノーマ(uveal melanoma)を模倣するドーム状のアーチファクトを生じることがある。これが「白内障誘発性偽メラノーマ(cataract-induced pseudomelanoma)」であり、実際には腫瘍ではなく超音波プローブの走査角度による水晶体赤道部の偽描出である。
Shieldsらが2005年に発表した大規模研究では、ぶどう膜メラノーマ疑いで紹介された12,000症例のうち1,739例が偽メラノーマであったと報告している。そのうち白内障によるものはわずか10例にとどまった。同グループによる2013年の報告では、過熟白内障がぶどう膜メラノーマを模倣した20症例が詳述されている。
ぶどう膜メラノーマは成人において最も頻度の高い原発性眼内悪性腫瘍であり、新規発生率は100万人あたり約5.1人(米国では年間約1,500人)とされる。約85%は後部脈絡膜に発生し、転移リスクが高いため迅速かつ正確な診断が求められる。このことが、偽メラノーマの適切な鑑別をより重要なものとしている。
成熟白内障がさらに進行し、皮質が高浸透圧状態となって水分が流入した状態である。水晶体嚢が緊張し、混濁が極めて高度となるため眼底の透見が著しく困難となる。白内障の唯一の治療は手術であり、過熟白内障は手術難度が高い症例の一つである。
過熟白内障に起因する視力障害が主訴となる。
本疾患(偽メラノーマ)自体には固有の自覚症状はない。超音波検査で偶発的に発見されることが本質的な問題である。
真のメラノーマ
Bモード所見:ドーム状またはキノコ状の塊。脈絡膜陥凹、網膜下液を伴う。
Aモード所見:低〜中程度の内部反射、規則的な内部構造、高い音響減衰、血管拍動の存在。
分布:単一象限の病変。特定の解剖学的部位に対応する。
偽メラノーマ
Bモード所見:均一な楕円形またはドーム状の形態。高エコーの皮質縁と低エコーの核。血管拍動の欠如。
プローブ位置変換で変化:プローブの角度を変えると病変の形態が変化する。
4象限性:超音波プローブを斜めに走査すると、4象限すべてで同様のアーチファクトが確認される。
Shieldsらの2013年の研究における20症例のうち2例は水晶体脱臼(luxated lens)を伴っており、網膜表面で楕円形またはドーム状の塊として観察された。体位変換により水晶体が移動することが確認された。解剖学的に正常な位置にある水晶体の18症例では、超音波プローブの斜め走査(oblique positioning)が、毛様体に隣接した水晶体赤道部をメラノーマ様に描出させることが判明した。
超音波プローブを斜めに走査した際に4象限すべてで類似したドーム状構造が確認される場合は偽メラノーマを強く疑う。また、血管拍動の欠如、均一な楕円形形態、高エコーの皮質縁という所見の組み合わせが偽メラノーマに特徴的である。白内障手術後に病変が消失することで最終的な確定が得られる。
過熟白内障によるぶどう膜偽メラノーマは、以下の要因が組み合わさって生じる。
過熟白内障そのものの原因には、加齢、代謝性疾患(糖尿病など)、外傷、炎症、放射線照射などが含まれる。白内障手術を長期間受けていない場合に過熟状態に達することがある。
過熟白内障では光学的生体計測が困難なため、超音波Bモード検査が標準的に使用される。成熟・濃密な白内障では光学的計測が不可能な場合に超音波計測が推奨される(ESCRSガイドライン)。
Bモード検査では、プローブを眼瞼皮膚に当て、眼球内部を画像化する。解像度は300〜600マイクロメートルで、後眼部・眼窩の観察に適する。
| 所見 | 偽メラノーマ | 真のメラノーマ |
|---|---|---|
| 血管拍動 | 欠如 | あり |
| 4象限での確認 | 可能 | 不可 |
| プローブ変換 | 形態変化あり | 変化少ない |
プローブを垂直方向から斜め方向に変換して、同一病変が4象限すべてで確認されるかを検索することが鑑別の核心である。
眼軸長の計測(白内障手術前評価)に用いられる。病変の内部反射・音響減衰の特性評価にも利用される。真のぶどう膜メラノーマでは特徴的な音響減衰(音響充実像、acoustic solidity)を示す。
白内障手術(水晶体超音波乳化吸引術)後に病変が消失することで確定診断が得られる。
閉瞼状態でプローブにゼリーを塗布し眼瞼上から検査する。被検者に眼球を動かしてもらいながら、プローブが目的組織に垂直になるよう調整する。横断像と黄斑部縦断像など複数の走査を組み合わせて病変の形態・位置・可動性を評価する。
過熟白内障によるぶどう膜偽メラノーマに対する特異的な治療は存在しない。本態は超音波アーチファクトであり、白内障を治療することが根本的な対策となる。
過熟白内障に対して水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsification)を施行する。手術後に超音波上の「偽の塊状物」が消失することで、診断的治療としての意義も持つ。
過熟白内障は手術難度が高い。核が非常に硬く、水晶体嚢が脆弱となっていることが多いため、経験豊富な術者による施術が推奨される。
手術リスクが高い場合や全身状態が不良な場合は、慎重な経過観察が選択肢となることがある。その場合は定期的な超音波検査でアーチファクトの変化を確認する。
過熟白内障は、成熟白内障の皮質が高浸透圧状態になり水分が流入した状態である。水晶体嚢が緊張し、内部の水晶体物質は液状化する。核は依然として硬く残存することが多い。
水晶体は虹彩の後方に位置し、チン小帯(zonules)によって毛様体に固定されている。水晶体は前後の屈折力調節に関与する。水晶体線維は生涯を通じて産生され続け、古い線維が核を形成し新しい線維が皮質となる。細胞小器官を欠くことで透明性が保たれるが、酸化ストレスへの脆弱性も生じる。
超音波Bモードでは10〜20MHzの音波が組織との相互作用でエコーを生じさせ、エコー強度によって高エコー・低エコーの画像が構成される。
プローブを斜め方向(oblique positioning)に当てた場合、毛様体に隣接する水晶体赤道部(equatorial lens)が超音波プローブからの音波を受け、後方にドーム状のアーチファクトを形成する。これが眼底の腫瘤様病変として誤認される。この「偽の塊状物」は4象限すべてで同様に確認されることが特徴であり、水晶体が解剖学的に全周に存在することを反映している。
水晶体が脱臼している場合は、脱臼水晶体自体が網膜面上のドーム状塊として観察される。
過熟白内障によるぶどう膜偽メラノーマに関しては、画像診断技術の向上による鑑別精度の向上が期待されている。
超音波生体顕微鏡(UBM:ultrasound biomicroscopy)は周波数30〜60MHzにより深達度4〜5mm程度で50マイクロメートルの高解像度画像を得ることができ、前眼部・毛様体の詳細な評価に有用である。過熟白内障症例における水晶体赤道部と毛様体の関係をより精緻に描出することで、アーチファクトと真の病変の鑑別に貢献する可能性がある。
また、前眼部光干渉断層計(AS-OCT)と超音波検査の組み合わせによる多モーダル画像診断の活用も今後の課題である。